クローン病の治療方法

1.栄養療法
栄養療法の目的
 腸管内に存在する抗原とそれに対応する体の異常な免疫反応を起こさせないようにするため、抗原となりえる食物の代わりに抗原となりえず腸管を安静させる効果のある栄養剤を摂取する方法で行われる。
(1) 腸管をできるだけ安静に保つ。
 安静を保つことにより、腸の炎症をおさえ、組織を修復し、腹痛下痢などの症状を抑える。
(2) 食事中に含まれる食事性抗原(炎症の要因となる)を避ける。
 食事中に含まれている食事性抗原が炎症を招いたり、悪化させたりしている可能性があり、それを避ける。

食事、経腸栄養療法、中心静脈栄養法を状態を見ながらスライドさせていきます。

完全中心静脈栄養法 経腸栄養療法 食事(低残渣食) 食事(通常食)

完全中心静脈栄養法
頸の太い静脈(鎖骨下静脈)にカテーテル(治療用の管を挿入し、点滴で栄養液を注入する。
入院して絶食の上で行ない、症状がよくなれば徐々に食事を再開する。
※経腸栄養でも栄養状態の維持ができない場合は中心静脈栄養法を在宅でも行うことがある=在宅中心静脈栄養法(HPN)
完全中心静脈栄養法の利点
高度な狭窄(腸内の狭い部分)があったり、広範囲な小腸病変が存在したりして、成分栄養法を使えない場合、第一選択として用いられる。
※消化管への負担がほとんどない、
完全中心静脈栄養法の欠点
管理がわずらわしい。
カテーテルの感染などが原因の重篤な感染症の危険性がある。
バクテリアトランスロケーション
  腸管粘膜で免疫を担う細胞が減少し、腸管内の最近や毒素が腸管壁を貫通し、悪影響を及ぼす。
中心静脈栄養剤には含まれない、微量元素の欠乏(セレンなど)
完全中心静脈栄養法イメージ

経腸栄養療法
糖質、タンパク質(アミノ酸)、脂肪、電解質、ビタミンなどの栄養素をすべて含む栄養剤(=経腸栄養剤)を経腸的に投与することにより、栄養状態を正常に保つ栄養法のことである。
経腸栄養法 (1)経口栄養法
(2)経管栄養法 ・経鼻胃管法または経鼻腸管法
・ろう管法(胃ろう、腸ろうなど)
 

経口・経管の利点・欠点
経口栄養法 経管栄養法
利点 ・手軽に摂取できる。 ・夜間の自己挿入により経口摂取せずにEDの摂取が可能。
・大量摂取が可能。
・ポンプを使用し、投与速度を一定にすることで下痢を起こりにくくする。
欠点 ・摂取量に限界があり。
・飲みにくい(フレーバー使用)
・短時間である程度の量を摂取するため、下痢などの腹部症状が起こりやすい。
・鼻から管を挿入するという精神的苦痛がある。
・手間がかかる。

経腸栄養剤の利点
(1) 腸管内に食事性抗原が入るのを遮断できる。(アミノ酸効果)
(2) 消化管からの吸収が容易。(成分栄養剤はあらかじめ消化された形で配合されている。)
(3) 脂肪含量が少ないため、腸管の運動を高めず、消化液の分泌を急激に刺激しないため、腸管の安静を保つのに役立つ。(低脂肪効果)
(4) 腸管に必要なエネルギーとなる、グルタミンを大量に含む。
(5) 腸内細菌叢の状態改善。

経腸栄養剤の欠点
(1) 経口摂取した際の味のまずさ(特に成分栄養剤)
各種フレーバーで対処。
(2) 下痢
・経腸栄養剤の濃度が高すぎるとき⇒濃度を調整。
・腸管部分切除をしたことがある人。
・経口摂取を急いで行ったとき。⇒ゆっくり飲む。
・半消化態栄養剤の材料であるたんぱく質に対し、食物アレルギーがある場合。⇒治療開始前にあらかじめ食品アレルギー検査を受ける。
(3) 腹部膨満感(おなかの張った感じ)⇒注入速度を落とす。
(4) 必須脂肪酸の欠乏(特に成分栄養剤)⇒場合により時々点滴補充する。(脂肪乳剤)
※経腸栄養を中止し、普通の食事を行うと2年経過で約半数は再発します。

 

成分栄養剤(ED)、消化態栄養剤、半消化態栄養剤がある。

半消化態栄養剤
自然食品を一部低分子にしたものからなる。脂肪含有量がやや多い。緩解期に繁用される。各製剤とも比較的飲みやすくなっている。
※写真はエンシュア・リキッド ストロベリー味

エンシュアリキッド、ラコール、クリニミール、ハーモニック、ベスビオンなど

消化態栄養剤
半消化態栄養剤と成分栄養剤の中間
ペプチド栄養剤ともいわれる。多少消化を必要とし、独特の匂いと味がある。
※窒素源に低分子ペプチドを使用し、ある程度脂質も含む。
エンテルード、ツインラインなど

成分栄養剤 =(消化態栄養剤のうち、抗原性をもたないアミノ酸が原料で、消化が不要であり、脂肪分をほとんど含んでいないため、腸管の安静を保ちながら十分な高エネルギー、高タンパク源の栄養補給を可能としている。腸管内細菌を良好な状態に是正する効果大。)
国内ではエレンタール(ELENTAL)が代表的成分栄養剤
エレンタール通常タイプ

エレンタールボトルタイプと新フレーバー

成分栄養剤による経腸栄養療法
原則として、入院絶食のうえで実施。栄養状態が改善され、様々な症状が消失し、腸管病変も改善する。特にクローン病の活動期、炎症指標、X線所見での改善度がすぐれています。

経口で飲む場合は成分栄養剤は強いアミノ酸臭がして、そのままでは飲みにくいため、種々のフレーバー(ジュースのように味付けるもの)、を使用し飲みます。
または、鼻から細いチューブを胃または十二指腸まで挿入し、小腸から成分栄養剤を注入する形で開始します。(注入量には限界があり、日中に経口で服用するという工夫が必要)そして、1〜2週間ほどで、維持量まで増やしていきます。(当然、医師・看護婦の指導の元に行う。)病状が改善してきた後は(=緩解)薬物療法を併用しながら、低残渣食(=かすが、かなり少ない食事)と組み合わせて病勢にあわせて両者をスライドさせ、在宅で栄養療法を行い(在宅経腸栄養療法=HEEH)、病状がいい状態が続けば半消化態栄養剤、普通食へと移行していきます(=段階的食事療法(スライド方式。仮に状態が悪くなっても(=再燃、増悪)、成分栄養剤の割合を増やすなどのコントロールをうまく行えば入院回避、入院回数抑制、入院期間短縮ができ、結果的に家庭生活や社会生活への復帰を容易にします
※クローン病の病勢をもっとも確実で速くコントロールできる標準的な治療法で副作用がありません
小腸に病変の起こったクローン病の活動期特にに有用小腸クローン病85%〜95%は緩解状態に導入できます。※確実に緩解状態を維持するためには体重1kgあたり、1日30kcal以上の成分栄養剤を摂取したほうがよい。(1200kcal/日以上=エレンタール4袋分以上)
※一定のわずらわしさがあります。
段階的食事療法
医師と相談しながら、下記のようにスライドさせていく。
スライド方式
  再燃時   緩解時
成分栄養 100% ⇔ 70% ⇔ 50% ⇔ 30% ⇔ 0%
         
         
          
         
食   事          
         
         
         
0% 30% 50% 70% 100%
食事中止 在宅時(食事70%まで)増やせる 再発危険度大

在宅経腸栄養療法実行の際の注意点
経腸栄養剤の調整
(1) 十分手を洗い、容器は常に清潔なものを使用する。
(2) 1日必要量の約1/8(60〜80g)を低濃度(所定濃度の約1/2(0.5kcal/ml)程)から始め、状態をみながら濃度と投与量を増やしていきます。
(加えて、投与速度も腸管に負担のないように最初ゆっくり、慣れてから少しずつ速度を上げて投与します。)
そして、最終的に
1kcal/ml前後の濃度になるように調整します。
※一日摂取必要量は体重1kgあたり30〜40kcalが目安になります。
例えば60kgの体重がある方は1800〜2400kcalを必要とし、エレンタールの袋に換算すると6〜8パックが必要となります。
(3) 熱湯で溶かすと経腸栄養剤の効果が半減するため、微温湯(40〜50℃)で溶解すること(※成分が壊れてしまうため、決して熱湯では溶かさないこと)
(4) どんな溶かし方でもかまいませんが、数分間お湯に浸してからかきまぜたほうが簡単に溶けるようです。

経腸栄養剤の保存方法
(1) 調整後12時間以内に使用すること(夏場は8時間以内、室内服用開始後、できれば4時間以内に使用する)
※細菌の繁殖による下痢を防ぐため
(2) できるだけ使う分だけ、調整すること
少量ずつ服用(一日三回ほどに分けて、それぞれ2〜3時間かけて服用するのがベスト)
※すぐ使用しない場合は冷蔵庫に保存する。(使用直前は冷やしすぎない)
(3) 継ぎ足しはしないこと。

EDチューブの挿入方法
(1) 十分手洗いをします。
(2) EDチューブの先に水またはゼリーをつけます。(スムーズに入れるため)
(3) 左右どちらか挿入しやすい鼻孔を選び、上半身を起こした状態でチューブ挿入を行います。
(4) チューブが咽頭奥の壁にぶつかったとき、つばを飲むか、水を飲み込むのと同時にチューブを飲み込み、食道へチューブを入れていきます。
(5) チューブは約70cmほど挿入します。
(6) もし、むせたり咳がでたりして、うまく入れることができないときは無理をせず一度抜いてから。もう一度入れなおします。
(7) チューブをテープで固定します。
(8) チューブからワイヤーを抜き、確認用の注射器でチューブから空気を注入して空気音を聞くか、胃液を注射器で吸引してみてチューブの先がきちんと胃の中に入っているか確認します。
確認できれば、チューブの挿入は終了です。

(慣れてくるとワイヤーを使わなくても挿入できる人もいます。)

在宅経腸栄養療法実行時の合併症と対策
合併症 対策
消化器症状
(下痢、腹痛、悪心、嘔吐)
(1)注入速度を遅くする。
(2)溶解濃度を下げる。
(3)下痢止めの使用。
(4)ビフィズス菌製剤や食物繊維の追加
必須脂肪酸欠乏症 (1)脂肪乳剤の投与
(2)低脂肪低残渣食の摂取
チューブの閉塞 洗浄
咽頭部の違和感 チューブの選択
肺へ誤飲 直ちにチューブを抜き病院へ連絡
食道や胃のびらん チューブの選択
代謝・電解質異常
(高血糖・浮腫)
(1)注入速度を下げる。
(2)Na+の濃度を下げる。

実施中の注意事項
(1) 慣れるまでは焦らず、自分に合った計画に基づいて実施。
(2) 基本として、100ml/時間を越えないようにすること
※慣れでもっと早くても大丈夫な人もいます。
※注入速度は速すぎると腸管に負担となり、下痢や腹痛を起こします。
(3) 風邪をひいた場合、思い切って経管栄養を休んでもよい。(経口で摂取したり、調子がよくなり次第すぐ再開する。)
(4) 定期的に診察を受けて、血液検査、計測などを受け、栄養状態の把握に努める。

チューブ・ボトルの交換時期
ENポンプチューブ    1回/2週
EDチューブ 1回/1週
EDボトル 破損するまで使用可
薬物療法 手術療法