新南島通信は、奄美に関する様々な書籍・文献等から印象的文章をピックアップして紹介します。
●bP 不思議な魅力を持つ島の風土記 椋鳩十 奄美風土記の前文より
●bQ リュウキュウイノシシに出会いました
●bR 島口(奄美の方言)入門その1−あなたもシマンチュに−

bS 島口(奄美の方言)入門その2−トン普通語につてい−
 
●トン普通語の原因(トン普通語の定義については、入門その1を参照))
1.共通語を知らない場合
2.共通語を知っていても(1.うっかり使ってしまう   2.わざと使う)
 もちろん、トン普通語の母体は方言です。方言は長い間の使い慣れがあります。また、方言は実感的な言葉であり、共通語には、概念的又は抽象的な性格をもっていると言うことです。
 例:  「肌持ちがいい」→「ドムチヌヰッチャ」
 子どもを叱る親が「ハナゴレするな」と言います。共通語の「いたずら」「わるさ」「ふざけ」では、どうもピンときません。副詞、特に擬態語などは、大変感覚的で、共通語よりは、「ムールヤムラランヤー」と、ついつい口がすべってしまいそうです。
 トン普通語の基盤は、中学・高校の女子生徒です。また、20代の若い人が、学校でのトン普通語の影響を受けて、おかしな共通語を使う推進役となっています。

●音韻関係他
「カ」→「クヮ」 例示: 火事(クヮジ)、菓子(クヮシ)
「セ」→「シェ」 例示: 十銭
「の」→「ヌ」  例示: イャンヌボウシ(君の帽子)  シマウタヌレコード(島唄のレコード)

イャンヤ 言いキル?(可能表現の問題)
「ワンヤ 行きキランヤ」(何でも動詞に「きる」をひっっけて、表現をする。)

助詞「のに」を、「・・・カラニー」と言うことが、子供たちの間に流行したことがあります。
 「行ったカラニー、だめだったチョ」
子供たちというのは、妙ナカ(これも島ぐち)言葉をつくっていくものです。
 次に述べる「ヤ」も、子供たちがよく使う言葉です。
「イャンヌヤ、ヤー(家)チャ、行ったチョ。そしたらヤー・・・」
言葉の調子を整えるのに、この「ヤ」が大いに役立っています。共通語では「ね」というところです。
感嘆をあらわす時にも、「ヤ」を使っています。
 「イギ、トランジスターヤー」
誘いの言葉としても使われます。
 「早く行こヤ」 「中へはいろヤ」などです。

「西洋料理が出て、フォークが出ていたチョ、その使いミチがわからんデー」
「何デカイ、こんなにダルイのは。ムールダルイガ」
「○○を貸してくれんカーイチ、思ってヨー」

●人称代名詞他
第一人称「ワン」第二人称「イヤン」
「ワンガヤ、イヤンヌヤ、・・・」
会や行事などの段取りを、方言で「サバクリ」といいます。
「イャンヤ、先生に言ワレマイ」

●ムール、チャーシャ(形容動詞と副詞)
 「ムール ムジライガ」
 「ムール ヲカシンガ」
 「ムール ハイカラヤ」

●感動詞「アゲー」
 感動詞でよく取りあげられるのが「アゲ」です。この言葉の心理は複雑で、島尾敏雄さんが「離島の幸福 離島の不幸」の中で、「名瀬ことば」として、まっさきにとりあげています
 「このことばが表現しうる領域はたいへん幅が広く、喜び、怒り、悲しみ、笑い、嫌悪、驚きなどすべての感情をふくんでいるように思う」と述べ、さらに、この「ア」と「ゲ」は五十音図の音とは違っているもので、のどの奥の方で発声される、とさすがに鋭い観察をしておられます。

  高校の東側を流れている谷川にそって坂を下りて来ると、校庭で遊んでいた女学生達はアゲー可愛いい犬とか、アゲーきれいな犬とか、口々に叫んで近よってくるので、一寸驚いた。彼女達は何処でも所かまわず、アゲーを連発して自分達は標準語を使っていると思って微塵も疑わない。アゲー雨が降って来たがー、アゲー可哀想に、アゲー小犬は雨にぬれるがねー、アゲー病気しないかねー、私は、このアゲーに自分自身が全く、アゲーになってしまった。
 東京の女学生なら、おや雨が降って来たわ、あら可哀想に、まあ小犬は雨にぬれるわ、ああ病気しないか知ら、等言うだろうに、殊にものに感じ易い、彼女達はアゲーなしには一日もものが言えない。日に数百回もこれを使用することだろう。
 「奄美郷土史研究会報」第4号に長田須磨子さんがお書きになったとおり、「アゲー」を実によく使います。とくに女生徒です。女生徒専用語とも言うべき言葉です。 
 
●嫌悪の気持をあらわす語に、「イギー」があります。
 「イギー ムシワルイ」(気持が悪い)
 また、この言葉は、嫌悪と全く反対の気持、可愛くてたまらないといった気分の時も使います。
 「イギー、(この赤ん坊)ムジキリたい」
 この両者の言葉の心理は対象的です。
 きたないものを嫌悪する気持をあらわす言葉として、方言に「アジャレー」があります。そしてこの言葉は、「アッチェー」とか「アッチャー」とか、嫌悪の気持を露骨に、「トン普通語」に顔を出しています。

●「ヤ」
 共通語「ね」は、やさしい響きを持つ、感動詞と終助詞の働きをする語です。この語にあたるところに、いつも「トン普通語」の「ヤ」がちょこちょこと顔を出します。
 「トン普通語」の「ヤ」は、感動詞としてはほとんど使われず、終助詞としては、もうそれこそ、むちゃくちゃに出てまいります。どこか幼稚な語感を与えますので、おとなたちがお使いになるのは遠慮してもらいたいものです。

次回はトン普通語の超定番【・・・ち】・【だから、何ち?】について紹介します。
南海日日新聞社:奄美ゆむぐち辞典 参照
トン普通語処方箋−シマの標準語をすっきりさせる法−倉井 則雄著 参照

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