新南島通信は、奄美に関する様々な書籍・文献等から印象的文章をピックアップして紹介します。
●bP 不思議な魅力を持つ島の風土記 椋鳩十 奄美風土記の前文より

bQ リュウキュウイノシシに出会いました
 
 奄美 2月18日(日曜日)午前中、奄美野鳥の会の作業で、旧道の三太郎峠からスタルマタ農道を通りスーパー林道を宇検側に向かい、くい打ち作業をしていた途中、道で突然リュウキュウイノシシに出くわしました。奄美の狩猟期間も2月15日で終了し安心したのかどうか? は分かりませんが、とにかく突然だったのでお互いびっくり。向こうは道端から道の真ん中へ、こちらは車でカーブを曲がると突然。しばらくの間(3から4秒くらい)にらめっこ。やがてイノシシはゆっくり道端の草むらに去っていきました。動物園で見るのとは違い、野生のものは見たときの感動が違います。
奄美のイノシシに関する記述2点紹介
●奄美のイノシシ
 奄美のイノシシは、ヤマシシと言はれ、山のギヤングと言った方が正しいかもしれない。棲息地は、大和村、宇検村、瀬戸内町、住用村、龍郷町のオビ川を境にして、笠利町はただの一匹も棲息せず、学名をリュウキュウイノシシと呼び、平地および山岳の森林や草原沼地に10頭前後の群をつくって棲む。成長した雄は群に加わらない。日中は林やカヤ、ササの茂みなどで休息し夕方から採食に出る。食物は、稲、甘藷、さとうきび、落花生、ミミズ、昆虫、貝、魚、カエル、ハブ、蛇、鳥の卵など草食だけでなく肉食もする。普通は、徒歩で移動するが駆け足で走る。泳ぎは得意で泥浴びを好む。視力は乏しいが耳はよく、臭覚がとくにすぐれている。交尾は、年に1回ないし2回で11月から1月の間に行い、4ケ月位の妊娠期間の後、4頭から5頭多いもので8頭出産する。子は目が開いており、すぐに歩けるようになるが、数日から1週間、巣から出ない。子供の淡褐色の体には、黄白色の縞が水平方向に数本あり保護色となっている。この様子が「ウリ」に似ている所から瓜坊(うりぼう)と呼はれるが、この縞模様は、3ケ月位から消え始め、秋には、毛の質も親のような剛毛に変わる。母親は、体を横にして子に乳を与える。乳頭は、6対しかなく、子はそれぞれ自分の乳首を決めていつもそれを吸う。成長は早く、2週間位で餌を少しづつ食べ始める。寿命は20年位である。奄美の棲息匹数は未定であるが、大島支庁の林務課の調べでは、年間1500匹くらい捕獲している。奄美で二大害動物と言えはハブとイノシシであろう。人はハブの害を受けるが、農産物はイノシシの害が多く、金額に計算するとハブに匹敵するであろう。又、イノシシの胃袋からハブの牙が、よく出てくることがあるのでイノシシを料理する時は、必らず胃袋に注意を要する。又、イノシシに追いかけられた時、イノシシから逃げる方法は、直角に逃げれば良い。
   出典:ハブ捕り物語 中本英一 三交社
●大陸と地続き時代の生き残り
 リュウキュウイノシシはニホンイノシシよりだいぶ小型であり、アジアイノシシ系のイノシシのうち最も原始的な種と言われている。本種はアマミノクロウサギやケナガネズミなどの南西諸島特産の哺乳類同様、南西諸島の島々がまだ大陸とつながっていた鮮新世にアジア大陸に広く分布し、かつ繁栄していたイノシシの生き残り(遺存種)と推定され、系統分類学および進化学上での価値が高い動物である。リュウキュウイノシシの体はずんぐりしていて、首が短く太い。その代わり鼻(吻)が人変長く、前足を折り曲げなくとも平らな鼻の先を地面に着けることができる。
土の中のにおいをかいで食物を探すための巧みな適応である。鼻は丈夫にできていて、餌探しをするだけの役目でなく、土を掘り起こすシャベルの役も果たしている。
 リュウキュウイノシシは夜になると出て歩く。食べられる物なら何でも手当たり次第に食べる雑食性である。植物質はシイの実やクズなどの植物の根・落ちた果実など、動物質は昆虫・カエル・トカゲ・ヘビ・ネズミ・鳥の卵・腐った肉・サワガニなどを食べる。
 森林内でのリュウキュウイノシシの存在を知るのは、ほとんどが残されたフィールドサインからである。乱暴に掘り起こされた土・ぬた場の後・ぬかるみに残された足跡・泥まみれの体をこすりつけた木などを観察すると、数時間前のイノシシの行動が手に取るように分かる。このようなフィールドサインを見たかったら、奄美大島では龍郷町の長雲峠、徳之島なら三京の林道に行けばいつでも観察できる。
 昼間のイノシシに遭遇したことがある。1986年9月5日正午頃、住用村石原の林道をバイクで走っていた時、目の前にイノシシが飛び出してさた。あまり大きくはなかったが、荒々しい立派な猪武者であった。

□分類:リユウキュウイノシシ(イノシシ科)
□分布:奄美大島・徳之島・沖縄島・石垣島・西表島に生息する。
□形態:頭胴長85cm前後、尾は14cm前後でニホンイノシシ(同137cm23cm)よりずつと小さい。四肢は比較的短く、首と胴との境目は極めて不明瞭。吻(鼻・□)は著しく長く円筒形。目は小さく、耳は三角形。頭頂から肩、そして背にかけて長毛を生ずる。体色に茶色〜黒色と変異がある。
□生態:夜行性。生息域は原生林の中。雑食性で何でも食へる。奄美大島・徳之島では最大の動物といえる。徳之島のリユウキュウイノシシ個体群は地域個体群として環境庁編・レッドデータブックに記載されている。
  出典:東洋のガラパゴス 鮫島正道著 南日本新聞社

東洋のガラパゴス 鮫島 正道 著 南日本新聞社  定価1942円
まえがき より
 奄美諸島を含む南西諸島は「東洋のガラバゴス」ともいわれるように特異な生物たちを育んでいます。1896年アメリカ人フアーネスによって採集された奄美大島のアマミノクロウサギ(奄美大島・徳之島)、さらにイリオモテヤマネコ(西表島、1962年)、ヤンバルクイナ(沖縄島、1980年)などの世界でも第一級の新種発見が相次ぎ、南西諸島の特異な生物相は全世界の注目を浴びるようになりました。この本は自然保護について述べる以前の問題として、ここで一度、奄美諸島の豊かな自然や、そこに育まれた特異な動物たちに興味を持ち理解して頂くため、私が見てきた奄美諸島の動物たちの特異性と重要さについて紹介しました。特に陸生の脊椎動物で、一般的に野生動物といわれる両生類.爬虫類・鳥類そしてほ乳類について、できるだけ全種を掲載するよう努力しました。また、個々の種について興味あるエピソードを中心に、カラー写真と簡単なノートを加え、図鑑的な要素も発揮できるように工夫してあります。
  写真のほとんどが生態写真であり、奄美諸島の動物に興味を持つ方々のフィールドガイド的なものと して読んで頂けたら幸いです。
ISBN4−944075−04−9

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