痔ろうとの戦いの果てに

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 私がその異変に気付いたのはクローン病の手術が無事終了して一年ほどたった頃だったと思う。用をたした後、いつものようにウォシュレットでお尻を洗浄していたとき、おしりから血が出ていたのだ。その時はほんの軽い痔核ができていて、そっから単に出血したのだろうか?と思っていたのだが、実はそれが長い長い痔ろうとの戦いの始まりだったのだ。
クローン病の手術以降体調が回復して、普通に仕事ができるようになっていたのだが、それと同時に小腸と盲腸、大腸の一部を合わせて50cmほど切ってあり、どうしてもトイレに座る回数が一日で5回〜10回と異常に多い状態になってしまっていた。
私はその当事、某Hotelの駐車場で車を誘導する仕事も多くしていたのたが、お客さんの車のカギを預かることもあって、便意を我慢することも度々あり、知らず知らずのうちにお尻にかなりの負担をかけていたのかもしれない。
 ある日、その勤めていた某Hotelが新しいとこに店を出すという事がありその準備として草取りとかの整地の必要があり、私はその作業をしていた。そうしていたら突然いつもの便意が襲い、手を洗う暇もなく慌ててトイレに駆け込んだのだが、そういう状況から、汚れた手で慌ててお尻を触ってしまったらしかったのだ。その時が丁度、出血した後であり、ばい菌が入ってしまったらしかったのだ。
 その後しばらくしてから、出血した部位から、膿がでるようになった。その当事はちょっとした痔だから、いずれ治るだろうと思ったのである。それが後々苦しむことになるとはその時は思ってもいなかったのである。
 仕事に復帰してから、4年ほどたった頃、その痔が私に対して、本格的に牙をむきはじめたのである。肛門そのものではないのだが、その周囲が異常に腫れてきて、座ることもできなくなったのである。たまらず地元の某H医院に行って、診察してもらったところ肛門周囲膿瘍という痔ろうの前段階の病気であるという診断を受け、緊急的に人工的な孔をあけ、膿を出してしまうという、緊急手術を受けた。
 その後、しばらくはそれは時折膿が出てくるものの大体治まっていて、もうなんてことないだろう、自然に治るさ・・・という楽観的な気持ちをもって、数ヶ月が経ったのである。
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 それからしばらくして、私はかねてから思っていた性別の違和感の修正を実行に移し、ホルモン治療やK大学病院でのカウンセリングを開始し、その後親戚や会社にカミングアウトし、ついにはその会社を辞めざるを得なくなって、地元で住みつづけていては親や親戚の迷惑になるなー、福岡に行って仕事探して住むしかないだろうなーと思っていた頃、時代はミレニアムの初春を迎えていた。
 そうこうしているときに痔が再び襲い掛かりだしたのである。
 丁度それは関西のお友達のMさんが霧島まで会いに来てくれるって連絡があったあと、明日は霧島だぁと思い、お風呂に入っていたときにまたまたお尻がずきずきと痛みだしたのである。その霧島に行って会うという約束は果たしたのだが、帰ってからもまだ痛みは続いたいたので、 K大学病院にカウンセリングに行った時に大学病院内で紹介してもらって、再び診てもらったのである。すると再び肛門周囲膿瘍がひどくなっていて、膿が相当溜まっていたので、そこでも前してもらったように孔を開けて膿を出してもらったのである。そして、そこで地元近くのN町立病院に入院し、治療を受けることになったのである。N町立病院での治療はかなりうまくいき、お尻の状態はかなり回復していた。
 お尻が治った状態(今思えば、実際は確実に病状が進んでいたのだが)になったので私はいよいよ福岡居住を実行に移した。しかしながら、相変わらず、トイレに行く回数は多かったのではあるけれど・・・・・。
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 福岡に住み、しばらくしてから、久留米に移り住み、結局現在の厳しい時代なかなか自分ができる仕事にめぐり合えなかったのと経済的な理由から再び実家に舞い戻り、地元の方では現在の会社に縁があって、なんとか就職できたのである。
 しかし、再就職してから2ヶ月ほどたった頃から、三度痔ろうが牙をむいて今度は本当の怖さを見せ始めたのである。その頃になると、症状が肛門周囲膿瘍から完全に痔ろうへと変化していて、とてもまともには座ることができなくなっていた。しかも、肛門括約筋といって、お尻を閉める筋肉があるのだが、時には全く力が入らずに便漏れしてしまうことが度々起こるようになってきた。私にとってそれは大変な屈辱感と失望感に襲われてしまうことだった。それまで、お尻関係で何回か病院にかかっても尚、治らなかったので、病院に行ってもどうせ治らないなんとかいい方法はないだろうか?などと、試行錯誤して高い高い痔の薬を買って治療したりもしたが、やはり痔ろうは手術が必要だったのである。やはり、手術しないといけないかな〜と思っていたときに運良く、ようやくT病院にたどり着いたのである。
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 入院してから私は初めて、私の痔ろうはクローン病の症状の一つかもしれないという事を認識させられた。つまりクローン症候群というのがクローン病のもう一つの呼び方なのだが、その症候のなかの一つに痔ろうがあったのである。私は最初、小腸の痛みも少しあり、当然、クローン病検査としてまず注腸(大腸)X線検査を勧められ、準備をしたのだが、痔ろうの痛さのほうが思いのほか強く、、それは延期になり、痔ろうの手術が先になった。
 痔ろうの手術は思ったほど、痛くはなかったのだが、私の痔ろうは長年の苦しみのごとく非常に大きく複雑な痔ろうで、相当大きな切開がなされ、気が遠くなりそうだった。
 まだまだ、お腹が時々張って痛いので、点滴ははずれないのだが、お尻の大きな傷は日が経つごとに順調に回復していた。
 そしていよいよ、注腸(大腸)X線検査が行われたのだが、やはり私の小腸は狭いところがあり、先々の手術を勧められた。この時から、私はクローン病を再び意識せざるを得なくなったのである。