隣国通信 9カ所で傍受

防衛庁の情報収集 全容判明/周辺有事に米へ提供


 防衛庁が非公表としてきた「象のオリ」など通信施設の情報収集活動の実態が十一日、東京新聞が入手した極秘資料などから明らかになった。それによると、通信所・分遣班は全国に九カ所あり、近隣国の通信を傍受している。情報収集のための航空部隊は四個あり、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の核開発疑惑で緊迫した一九九三(平成五)年には、九州への派遣が検討された。収集した情報は「日米防衛協力のための指針(ガイドライン)」に基づき周辺有事の際、米軍に提供されるのは確実とみられる。【関連記事21面に】
 関係者によると、通信所は東千歳(北海道)、小舟渡(新潟)、大井(埼玉)、美保(島根)、太刀洗(福岡)、喜界島(鹿児島)の六カ所。分遣班は東千歳通信所の出先に当たり、いずれも北海道で稚内、根室、奥尻の三ヵ所にある。統合幕僚会議情報本部に所属し、約一千人の陸海空自衛官が勤務している。
 通信を傍受する相手国はロシア、中国、北朝鮮の三カ国。軍や一般で交わされる長波、中波、短波の通信を収集、分析している。東京・市谷の惰報本部電波部には米国防情報局(DIA)職員とみられる人物が出人りし、米国への情報提供は日常化しているという。
 稚内分遣班は、大韓航空機撃墜事件の通信傍受公表で話題になった。東干歳と美保には円形アンテナ群の「象のオリ」があり、より鮮明な音声の傍受が可能。防衛庁は喜界島にも「象のオリ」の建設計画を進めている。
 情報収集を目的にした航空隊は、海上自衛隊の第八一航空隊(EP3電子戦データ収集機)、航空自衛隊の偵察航空隊(RF4E偵察機)、電子飛行測定隊(YS11E電子測定機)、警戒航空隊(E2C早期警戒機)の四個部隊で、北朝鮮の核開発疑惑が浮上した九三年、九州の福岡・築城基地と宮崎・新田原基地への展開が検討された。
 海上自衛隊には、音響測定艦が収集した音紋と呼ばれる主にロシア潜水艦のスクリュー音を分析する対潜資料隊があり、米海軍にも情報提供されているもようだ。
 また、陸海空自衛隊のそれぞれに防衛庁長官直轄の調査隊が置かれ、警察と連携して冶安情報を収集している。防衛庁幹部は「自衛隊の情報収集能力は通信傍受など特定分野ではかなり高く、米国の期待は大きい」と話している。
1998年08月12日、東京新聞記事(1面)より