私が常々焼酎に関する知識を得ている貴重なウエッブサイト焼酎台帳リレーインタビューに、若潮大潮酒造専務理事下戸直一氏の言として、このような記載がある。
「鹿児島の焼酎業者の中で製造が動いているのは70%くらい。残りの蔵は他に製造を委託するなどしている。そういう中で大手10社で90%を製造・販売しているのが現状です。まさにここ2〜3年が業界の正念場で、ますます淘汰が進むものと思われます。」 (全文引用)

  鹿児島県には酒造所が120社程有るので、残り110社で10%のシェアーを分け合っていることになる。これは単純に考えても1事業所当たりのパイが小さ過ぎ、小規模酒造所の危機と捉えることが出来よう。
  出水の新屋酒造が宮崎県の大手雲海酒造に買収されたことは記憶に新しい。 業界の人に聞くと、「黒伊佐」「島美人」の躍進による主力製品「泉乃誉」の販売不振が主因とのことであった。 このようにこれから小規模の蔵の閉鎖、吸収合併及び買収が頻繁に行われ、昔ながらの地元の酒造所が次々と姿を消していく事が危惧されている。
  本来は地域に根ざした蔵の製品はその地域で消費されて然るべきなのに、地元に見向きもされなくなり、廃ってきているのである。
  私の住む加世田の例で恥ずかしい限りなのだが、加世田の酒屋で加世田の主要銘柄を全て扱っているお店は皆無に近い。 さらに飲み屋に至っては「黒伊佐」「島美人」しか置いていない店が殆どで、「さつま白波」「桜島」と言ったメジャーな銘柄を置いている店はまだ意欲的な方かもしれない。 「加世田の焼酎を置いてくれ。」と頼んでもなかなか応じて貰えない。 地焼酎を飲みたいという人間が極々少数派であると断じている様子で、変わり者か偏屈物と言った目で見られてしまう。
  我々は飲み屋で地元の焼酎を選べないばかりか、酒屋で購入すら出来ないのである。 このことに関し本年2月、加世田市商工観光課及び商工会議所に加世田地焼酎復権を要求するメールを送ったのであるが、一向に改善する動きが見えない。 薩摩酒造城下町の枕崎でさえ「黒伊佐」「島美人」が多いと聞く。
  何故このようにこの2銘柄の寡占状況が進み、焼酎業界の公正な競争が失われてきたのだろうか?
  第1に営業努力、販売力の差が当然考えられるだろう。
  第2に商品力の差? 確かにこの2銘柄は良く出来た焼酎であり、旨い。 しかし、製品の出来映えすなわち味わいという点で鹿児島県内市場を席巻する程の差が他銘柄との間に有るとは到底思えない。
  これは鹿児島県人の精神性に根ざす原因があると推測している。 「食品に対してこまごつ(文句)を言うな!」という土地柄で、取り立てて銘柄に執着はしない。 特に焼酎はネイティブ鹿児島人にとって生活酒であり、店の提供する銘柄で特に疑問に感じないようである。 さらに権威やブランドに極端に弱い県民性で、地元や零細企業を一段低く観る傾向が強いせいではないだろうか。
  様々な個性の焼酎が百花繚乱の如く競い合ってこそ健全な発展が望めるのであり、鹿児島の焼酎業界の現状はまさに憂うべき状況と言わざるを得ない。
  一方酒造所側も営業努力が足りないように感じる。 昔からの銘柄は過去のものとの錯覚すら与えているようである。 今こそ地元の消費者と直に向き合い、ニーズを探り、また製品に対する熱い胸の内を語りかける時ではないだろうか。
  また行政等は地場産業育成の観点からも啓蒙や地元産品愛用の様々な仕掛け造りをするべき時であろう。
  地元を見直し誇りを持ち地元産品を愛用することが地域興しの第一歩であり、ひいては全国的に認知されることになると考えている。
  地元から酒造所が消えて無くなる・・・そんなおぞましい光景に出会わない為にも、今地元意識を強く持ちたい!


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         平成13年6月22日