(虫歯や歯周病にならないで、頭も良くなる方法を教えます)
秘伝「かむ健康術」その7

    著者 市来英雄



@ 餌化した現代の食事体系
一家団欒の食事は幸運を呼ぶ


前項の中で、現代子どもたちは、まさに“餌(エサ)”化した社会の中で生きているのでは
なかろうかということを述べました。

しかし、このことは子どもばかりではありません。大人社会でも高齢社会でも充分に言えることです。

ドイツ語では、人間が食べることをエッセン(Essen)と言い、
動物が食べることをフレッセン(
Fressen)と言っています。

つまり、日本と同様、ドイツでも「餌」と「食事」とは使い分けられています。

餌=フレッセンということをもう少し考えてみますと、

それは「おなかをふくらませ、栄養学的には足りている」ということを連想させます。

これは、重い病気をしたときに受ける強制栄養補給としての点滴、長い管で胃の中に直接栄養を送り込む方法、

あるいは、いたって評判が悪かった宇宙食のチューブ食などと同じ発想です。

当時、NASAの長官は議会を借りて、餌=フレッセン化したまずい宇宙食のことを陳謝したのでした

これらの宇宙食も、カロリーや栄養学的見地からだけ考えられた、「食べさせる側の栄養学」であり、

決して、「食べる側から考えた栄養学」ではありませんでした。

このように噛んで食べることのできない流し込みの栄養補給では、なんら精神的な満足感など得られません。

食物を口の中に入れて噛むということは、ほかにさまざまなはかり知れない好ましい作用を
私たち人間に与えてくれるのです。

現在は、宇宙食のチューブ食は廃止されています。その代わり、限度はありますが、
乗組員の好物の食物も持ち込みもできます。

それは、スペースシャトルの乗組員の生活を紹介した報道映像でもそのようすは見られました。

店で売られているほとんどの食べ物も、買い手からの受けがよいように、

そして、さも栄養・カロリーが充分に考えられているよう、見せかけの細工をこらした
工場の中で大量生産された製品ばかりです。

これらも、まさに食べさせる側の発想であり、現代の忙しい世の中の大人たちも子どもたちも、

それらの製品を安易に買って、手早く胃の中に流し込んでいるきらいがあります。

ここでもう一度、餌と食事ということをおさらいしてみましょう。

餌とは、時間がくると、与えられた食べ物をモクモクと口の中に入れ、胃の中に流し込むだけの食物を言います。

食事とは、人間だけができる、エネルギーをとるための行為です。

それには、食べるときの大事なマナーが加わります。

家族や友人と楽しく語らいながら、食物をよく噛みしめ、味わいながら食べることです。

だんらんや社交という精神的な安らぎも加わります。エネルギーの補給と同時に、心をうるおす文化もあるのです。

餌化に加え、現代の食事は、ますます軟食化の傾向を強め、その弊害が続々と出現してきています。

企業やマスコミの宣伝に乗っかり、ジュースにした食物繊維や宇宙食のような栄養食品、

果ては、多量のカフエンやアルコールが混入している大人用の栄養ドリンク剤などを子どもに与える親もふえてきているといいます。

餌化した環境で、あるいは食物を噛まないことにもよるイライラもつのる一方です。

さらに私たちをとり巻く現代社会の多くのストレスも加わり、精神はいつも不安定です。

それらのしっぺ返しとして、人間の一生をジリジリとむしばみ続けることになります。

せめて1日に1回だけは、家族全員が食卓に集い、だんらんしながら、

ゆっくり、ゆったりとよく噛むことのできる時間をつくって、
積もり積もったストレスを解消して欲しいと思います。

ほとんどの人は、食物を摂取することは、肉体づくりのためにあると考えているかもしれません。

これは「飼育」の発想であり、まちがいです。

食物を正しくの摂取すれば、それは精神の糧にもなり、理性や情操、安らぎを養い、

子どもであれば、それはやがて子の将来や運命までも左右することになります。

さらに、噛むということは、精神面ばかりではなく、容貌にも、運動能力にも、脳の発達(読解力や記憶力)にも影響を及ぼします。

よく噛むということはボケの予防にも大いに関係するということもご理解いただきたいと思います。

そのためにも、まず丈夫で何でも噛める歯と、歯を支えている周囲の丈夫な組織をつくることが肝要です。

本コーナーの中で、それは健全な食事からはぐくまれることを述べました。

そして国際的な視野にのっとった丈夫な歯作りの方法も紹介してきました。

読者のみなさんは、それらの事柄を素直にとらえるとともに、まずは実行されることです。

さて、私事で非常に恐縮ですが、丈夫な歯づくりのために私の家族が実行してきたこと、そしてその結果を披露したいと思います。

私には妻と一男三女の4人の子供がいます。

私と妻は、好き嫌いは全くなく何でも食べています。かたいものでも、よく噛んで食べています。

とくに、魚類や旬の野菜・果物など欠かしたことがありません。

肉ももちろん食卓に並びますが、肉ばかり食べるということはありません。

毎日いろいろな料理(けっしてグルメ食ではなく、妻の手作り)が食卓に並びます。

朝食も晩餐(ばんさん)も家族全員でそろってとるようにしてきました。

子供たちも、このような親の食環境に順応してくれて、好き嫌いなくよく噛んで何でも食べてくれていました。

私の職業柄、甘いもの好きには育てなかったし、おやつも時間を決めて体によいものを選択して与えていました。

たとえば、子供たちが近所の家に遊びに行って、そこで甘いものをもらってきたとします。

自宅に持ち帰ると、少しだけかじるだけです。あとは冷蔵庫へ。

日にちが過ぎると、すっかり食べるのを忘れてしまっていました。

また、親にないしょで甘いものを食べて帰ってきても、洗面所で歯をみがく習慣がついていますから、
自然とバレてしまっていました。

子供たちがある程度大きくなってからは、おやつはストップし、夜食も与えませんでした。

厳しすぎるようですが、背に腹は変えられません。

ですから、子供たちは三度の食事を楽しみにし、食卓に並べてあるものは残さずおいしそうに食べていました。

歯みがきは毎食後必ず、寝る前にも実行させました。

歯みがきが終わると、フッ素洗口(歯科医院で販売している『ミラノ−ル』というフッ素洗口の製品で
口をすすぐこと)を
1分間義務づけ、終わってから、「お休みなさい」という習慣をつけました。

子供たちは、成人になった今日まで、おかげで4人ともむし歯はできませんでしたし、

あのむし歯の痛みを全く知らないで育つことができました。

余談になりますが、上の3人は、幼いときから、将来は父親のような歯科医師になりたいと思っていたらしく、

国立大学の歯学部に進学し、歯科医師になりました。

末っ子の三女は「栄養学を勉強して歯科と関連のある仕事をしたい」ということで、管理栄養士になっています。

親馬鹿をお許し願えれば、私の子どもたちは、みな歯が丈夫であったために、

いかなる困難にも、文字通り、「歯を食いしばって」がんばることもできましたし、

よく噛んで食べることができたため、頭脳の働きも行動も活性化された……と信じています。

以上、恥ずかしいながら、私の家族の一例を述べさせていただきました。

「実際の話」こそ、読者(とくに育児中のご両親や、お孫さんをお持ちのかたがた)のご理解を得るために
最善と考え、
あえて紹介させていただいた次第です。




A 栄養学の権威者も証明する
フレッチャー氏のかむ健康法

アメリカにフレッチャー(18401919)という人がいました。

彼は時計商人で、しかも金持ちでした。


医師でも歯科医師でもなかった彼が、のちに、長年の努力の結果、
噛むことの効用「フレッチャイズム」を提唱して
世界じゅうで有名になりました。
彼が噛むことの健康法を生みだしたきっかけは、40歳で体も100キロ近くあったにもかかわらず、運動せず、コックを5人も雇って世界のグルメを集めては食べ放題の暮らしをしたために身体に悪影響が
現れてきたからでした。
なぜか毎日だるくてしかたがない。ベッドでも世界のグルメはばっちりととりました。
しかし、健康が心配で、掛けようとした生命保険も断られました。
心配した彼は、医者を訪ねて精密検査を受けました。
そこで、医者はいろんな病気になりつつあると指摘しました。

ある日フレッチャーさんは、気分転換にしぶしぶ散歩にでかけました。
たまたま他人の家の貧しいが楽しそうな食事風景をのぞいてしまった彼に、突然、
何かがひらめいたのでした。

それは、「ぜいたくでない自然の食べ物を、楽しく、ゆったり良く噛んで食べること」でした。
それをまじめに実行するにつれてだんだんと体重が減り、5カ月で30キロも減量できました。

体が軽快になり健康も回復しました。外で運動することにも意欲がわき、

のちに自転車競技にも参加してよい成績もおさめるほどになりました。

この噛む健康法は、大学の栄養学の権威者にも証明され、“フレッチャイズム”と名付けられました。

学会でも発表され、後に著書も出版した彼は世界的に有名になりました。

この噛む健康法を広めるため、彼は世界じゅうを講演して回りました。

彼は日本にも来て講演し、横浜にしばらく滞在しています。

その間に、多くの日本人信奉者も誕生しました。

このフレッチャイズムの主な教えを要約すると次のようになります。

@ほんとうにおなかがすいたときに食事をすること。

Aほんとうに食欲が出るまで待つこと。

B見かけが豪華なものよりも、新鮮で体に有効な食物を選んで食べること。

C人と楽しく語らって、ゆっくり、ゆったりよく噛んで味わい、そして飲み込むこと。

Dいやな暗いことは考えずに、楽しみながら食べ物を味わうこと。

E固形食品はよく咀嚼して、液体は少しずつ飲むこと。

フレッチャイズムを実行すると、糞便の量が減り、いやなにおいいがなくなります。

それは、たくさん食べて噛まずに飲み下すと、細菌の働きが盛んで腐敗分解が行われ、

インドール、スカトールなどの悪臭源がたくさんできて便もくさくなるのです。

よく噛めばくさい糞便にはなりにくくなるからです。

食物の消化が、口、胃、腸の中で順調に進めば、消化の残遺物である便は、多少の違いがあっても、

だいたいエンドウ豆ぐらいの小さなかたまりとしてコロリと出ます。

それは水分が少なく、水でねった粘土くらいのかたさです。乾いてかたくなっても悪臭は発しません。

糞便の量は110グラムから50グラムぐらいまでで、植物性のものを多く食べれば少し多くなります。

繊維素の量に比例し、腐敗もほとんど無いので、おならも臭くありません。



B 唾液はホルモンや酵素類の宝庫
唾液がむし歯・歯周病を防ぐ


西洋料理のコースで、最初「アピタイト」という酢の物が出ます。

アピタイトとは、「食欲を増すもの」の意です。

食欲中枢は、酢を食前に食べることによって刺激されます。その結果、唾液や胃液が出やすくなります。

分泌を増した唾液や胃液は、食中、食後の消化吸収を助けてくれます。

したがって、酢を使ったアピタイトは非常に有効な食前食と言えます。

研究によれば、人間の唾液には動脈硬化症や老人性痴呆症の原因となる物質の
発生を防ぐ効果もあるということです。

この唾液の効用は、中国では紀元前から注目されていました。

広島県安芸津病院の、小松順子ほかの看護婦さんたちの研究発表(第25 ・日本看護学会記録 19949月)
で、
「産婦人科開腹手術後に、ガムを噛ませて唾液分泌中枢を刺激させると、唾液の生産が高められるとともに、

同支配下にある腸蠕動(せんどう)運動が促進されて1315時間の早期の排ガスが望めた」
ということを報告しています。

開腹腹手術の麻酔による胃腸運動の低下は、術後2448時間に回復して腹鳴(ふくめい)を聴き、
やがて排ガスがみられます。

排ガスは、経口による食事の摂取を開始するための目安として必要条件です。

彼女らは、その患者さんの第一発の排ガス(放屁、おなら)の訪れを早めるために、

腸雑音が確認できる手術後1日目からガムを与えてよく噛んでもらい、排ガス促進をしているといいます。

しかも、排ガスを促進することと唾液の分泌を促すということは、術後の回復を早めるうえで
重要な役割を持っているといいます。

昔から一般に、口の中の傷はなおり易いと言われています。

動物が傷を負えば、ペロペロとしきりに傷をなめて治そうとします。

 そのように唾液の中には傷を早期に治したり細菌を抑えたりするホルモンや酵素やミネラル、

その他のいろいろの物質が含まれているからです。

逆に、唾液の分泌を抑えれば、唾液に含まれている口腔内の細菌の増殖を抑える物質が少なくなりますから、

むし歯や歯周病も多発することになります。

さらに,フッ素の働きのもとで、唾液はごく初期のむし歯を修復します。

これを再石灰化と言いますが、実は、唾液に含まれるフッ素は、むし歯の治療(歯を削り人工の詰め物をする)をしないでも自然に元通りに直してくれるのです。

つまり、ごく初期のむし歯は、フッ素イオンの存在下で自然に元にもどるということです。

もちろん、唾液にはフッ素イオンが関係していなければなりません。

わが国でも最近、この「唾液とフッ素の関係」と、「再石灰化作用」が理解されるようになりました。

特に、先進国でのむし歯の減少はフッ素なくしてはありえないものだったのです。

このことは、もはや世界の常識になっています。

しかし、むし歯予防は、歯磨きと甘み制限しか言わない、
旧態依然のむし歯予防の理論と方法にとりつかれている

一部の専門家の間では、なかなか考え方の切り替えが難しいようです。

そのあおりを受けているのがわが国の国民なのです。気の毒でなりません。


さて、この再石灰化現象と唾液の関係をわかりやすく説明しますと以下のようになります。
唾液と歯の表面のエナメル質との関係は、血液と細胞の関係にたとえることができます。
つまり、細胞は血流により栄養物を供給され、老廃物をとり去ってもらって保護されています。
それと同じように、歯のエナメル質は血液と同じように機能する唾液によって保護されているのです。
これは、口腔乾燥症の人は唾液が少ないので、むし歯が多いということからも
お分かりいただけるでしょう。反対に、唾液の多い人ほどむし歯のできかたは少ないのです。

そのメカニズムの一番大きな力になっているのが、歯の表面に存在するフッ素イオンです。
このフッ素イオンが、歯の溶解(脱灰)を抑制して、再石灰化(修復)作用を促進しています。

ですから、フッ素は口の中で、重要な化学触媒としての役割を果たしています。

歯の表面のエナメル質を保護し,修復する(元の状態にもどす)唾液の働きを増強するのです。

常時,フッ素イオンが存在していると、どんな食物を食べてもむし歯にはなりにくいし、

歯が少しぐらい溶けてしまっても、ちゃんと元にもどるのです。図をご覧ください。

食事よりも重要な因子は,エナメル質と唾液の間にフッ素イオンが存在していることなのです。

また、とても面白い現象ですが、食物をとったり飲み物を飲んだりすることで、

口の中が酸性に傾いてしまう(ペーハーが下がる)と、歯の表面に蓄えられているフッ素や、

歯の表面の歯垢などに蓄えられているフッ素イオンが飛び出してくるのです。

そしてフッ素イオンは、再石灰化作用を促進して、新しくできたむし歯を元通りにてくれるのです。

このようにフッ素はとてもすばらしい活躍をしています。

もちろんフッ素は、歯垢中の、多くの数の細菌が悪さをしないように、抑えたり力を弱めたり、


殺菌したりしてむし歯を防いでいるのです。
最近、歯科医院では、小児のむし歯の予防法として、あらかじめ、むし歯に最もかかりやすい歯の溝を強固なプラスチックで埋める方法(シーラント法)がなされています。
そのプラスチックには適量のフッ素が加えられています。

このフッ素は、長時間、徐々に唾液の中に放出されます(フッ素徐放性シーラントという)。
この放出されたフッ素がむし歯予防に大きな役割をはたしているのです。

唾液は、口の中ではいつもわずかずつ分泌されていますが、
食物などが入ってくるとさかんに分泌されるようになります。

主に、3大唾液腺(耳下腺・顎下腺・舌下腺)から分泌されますが、口に入ったもの、
精神状態によっても、
その量や性質がちがってきます。

特に、歯ごたえのあるものをゆっくり、ゆったりくつろいで噛むことによって、唾液ホルモンなど、

唾液に含まれている有効な成分が多量に分泌されて、歯を丈夫にするだけではなく、

血のめぐりをよくし、体の隅々まで栄養を行き渡らせて筋力を高めたり、
増血作用などを盛んにしたりしてくれます。

そのように、唾液は多ければ多いほど健康が保たれ、そして人間の生命機能に十分な働きを起こさせる
原動力になります。

また、胎内においても、赤ちゃんは母体の唾液ホルモンに助けられて歯や骨をつくっていくので、

妊婦がよく物を噛んで食べるということは非常に重要な行為といえます。

唾液の中にあるムチンは粘りけ出し、こまかく砕かれた食物をなめらかに、

また、口の中の粘膜や舌の表面が傷つかないようにする働きをしてくれます。

唾液腺ホルモン(パロチン)は、骨や歯を硬くする働き、つまり石灰化機構に役立っています。

また、パロチンは、唾液腺から口の中に出る前に血管内にも分泌され、血液にまざって全身に行き渡り、

体の組織を丈夫にして老化を防ぐ働きがあります。

それは、顔色をよくし、肌に張りをもたせて若さを維持したり、毛髪などの発育障害や
血管壁の弾力繊維減退を予防したりするので、

別名、「長生きホルモン」とも呼ばれています。

唾液の中のアミラーゼという酵素は、デンプンを消化し麦芽糖に変えて、
血液中の血糖値を速やかに高める作用があります。

また、それは、肥満防止にも大切な役割を持っています。

唾液中のリゾチーム、ラクトフェリンなどは口腔内の細菌の繁殖を抑えてくれます。

口の中は唾液による自浄作用(自然の清掃作用)があるということになります。

さらに唾液には、食物中にある発ガン物質を抑えるペルオキシターゼという酵素が含まれています。

下方の表は、同志社大学の西岡一氏の有名な研究ですが、

発ガン物質を唾液でひたして処理しない場合の発ガン作用と、
30
分間唾液の中にひたした場合の発ガン物質の作用を比べています。

唾液にひたすことで、どの発ガン物質も作用は著しく抑えられました。


たとえば、発ガン物質であるアフラトキシン
B1は、唾液処理した場合5%、つまり201以下になったといいます。そのほか、タバコに含まれる発ガン物質のペンツピレンをはじめ、牛肉の焦げ、
魚の焦げなども唾液とまざることによっても発ガン作用が減少するとの研究結果を出しています。
ですから、良く噛むことは、唾液が多量にペルオキシターゼという酵素を分泌して発ガン物質を抑制することになります。

しかし、年をとると、若いときにくらべて唾液の分泌量、胃液の分泌量、膵臓から出るリパーゼの分泌量が低下してきます。50歳では若いときにくらべて4分の125%という分泌量になり、80歳になると5%しか出ないとの研究結果があります。
 また、総入れ歯になると、総入れ歯の粘膜に接する表面が、粘膜に無数にある小唾液腺の出口を
ふさぎ、唾液が出にくくなっている人もあります。

さらに、年齢が増せば、何らかの薬に頼ったり常用をよぎなくされたりしています。

それらのほとんどの薬は、唾液分泌の抑制に影響があると言われています。

参考として、唾液の分泌の抑制する副作用のある薬物の一例を紹介しておきましょう。

利尿薬では、マンニトール、クロロチアジド、トリアムテレン

降圧剤では、ベタニジン、レセルピン、ニフェジピン

抗ヒスタミン剤では、アレルギン、ネオレスタミン

抗うつ薬では、トフラニール

抗コリン薬では、アトロピン、ブスコパン

鎮痛剤では、モルヒネ

気管支拡張薬では、エフェドリン

骨粗しょう治療薬では、エルシトニン、エルカルシフェノール

(江里 1995年)

若いときは、物をあまり噛まなくても、また、それによって胃液の分泌が少量しかなくても、

体の消化・吸収能力のほうが旺盛です。

しかし、年齢と共に胃液の分泌量は減少してきますから、それを補うためには、
どうしても良く噛むことしかありません。

そういう時、噛める歯がそろっていて物をしっかり噛めるということは、
消化吸収力の代償行為として重要なことです。

もしも必要な歯がなかったり、むし歯や歯槽膿漏(歯周病)で噛む力が弱まったり、

また、入れ歯が合わなかったりすれば、ますます消化吸収能力が落ちてきます。

これらを考えれば、どうしても80歳で20本の歯が残っていることがぜひとも必要です。

よく噛むことが刺激になって、反射的に胃液などの消化液の分泌が高まり消化活動はよりいっそう活発化します。

また、脳内の脳消化管ホルモンの分泌も多くなります。

年とってからも、心がなごみ、自分らしさに満ちたゆっくり、ゆったり、よく噛むことの食生活があってこそ、

元気で免疫機能が強化された人間として長生きできます。




C よくかんで唾液を出すことの素晴らしさ
かむことは、食中毒やO-157までも防ぐ


前項では、唾液中のリゾチーム、ラクトフェリンなどは口腔内の細菌の繁殖を抑えてくれること、

口の中は唾液による自浄作用(自然の清掃作用)があるということを述べました。

よく噛んで唾液を豊富に出すことで、もっとよいことがあります。

それは、食中毒予防にもなるということです。これからこのことをお話しましょう。

日本中を震撼させているのが、特に学童が学校給食を介して巻き込んだ食中毒です。

それは、感染性が高く菌の毒性も強い大腸菌の一種のO157です。

大腸菌は、名前のとおり大腸に住んでいます。

大腸菌は他の菌と比べ周りの環境が変わっても適応能力の高い菌です。

ですから条件が整えばどこでも繁殖することができます。

大腸でも生きられるし、包丁でもまな板でも住み込んで増殖ができるのです。

しかし、大腸菌は口の中では住めません。というのは、

口の中には常に約300種類の非常に多くの菌が住んでいて(口腔内常在菌叢)、

菌どおしはお互いににらみ合った格好で均衡を保っています。

ですから他の菌(外来性の病原微生物)が入ってきて住もうとしても住めない状態にあります。

それに口腔内には、外来性の病原微生物に対して防御するいろいろな機構も備わっているからです。

健康な成人では、多少の病原菌、例えばサルモネラ、病原大腸菌、赤痢菌、コレラ菌が、

口の中に110万個程度(O-157は、専門家によると100個で感染とも言っている)入ってきても、

口腔や胃や腸の防御機構で排除されて、腸管感染にいたることはほとんど考えられません。

しかし、今回は、それが多くの子供たちの腸に入って感染を起こしたのでした。

第一の原因として考えられることは、子どもたちがよく食物を噛まずに唾液も
よく出していないのではないかということです。

口の中では、人間の味方であるリンパ球が産生した免疫グロブリンをはじめとし、

唾液中の抗菌物質、つまり、リゾチーム,ラクトフェリンが細菌の繁殖を抑えてくれるからです。

これらを考えると、食中毒予防で最も大事なことは唾液をたくさん出して食物をよく噛むことです。

よく噛むと、それにつられて唾液も多量に分泌され、しかも、まんべんなくこなされることによって
食物の接触面積が増加して、
唾液に含まれる免疫物質や抗菌物質にさらされます。
そうすることによって効果的に殺菌されます。

このように、外来病原菌はまず難関である口腔という第一の関門を通ります。

つぎに、胃では第2の関門が待ち構えています。

食べ物を良く噛んで食べている間に、噛む信号が胃に伝えられて、胃では強酸(塩酸)がさっそく分泌され、

pH12程度になって待ち構えています。

そのようになった胃に入ってきた外来性の病原菌は簡単に死滅してしまいます。

またたとえ生き残っても、胃でも小腸でも、口腔内で分泌された同じ殺菌力の強い

リゾチームという酵素や免疫グロブリンの働きによって溶かされてしまいます。

さらに小腸粘膜上皮細胞には細菌がなかなか侵入できないようなバリアーがあって守っていますし、

たとえ侵入したとしても上皮細胞の原形質内にあるリゾチームという
タンパク溶解酵素によって分解されてしまいます。

さて、ここで、外来性病原菌が起こす食中毒やO157の問題に、とても参考になる話があります。

ここで紹介することにしましょう。

昭和215月、終戦戦直後のことでした。

中国の上海には、故国へ帰る船に乗るために日本の兵隊が中国全土から続々と集ってきていました。

兵隊たちを収容する仮設のテント村には、食糧・医療・医薬品不足が深刻な中に、
復員する十万人の日本兵であふれていました。

土地がじめじめとしたテント村の衛生状態はとても悪く、
伝染病を媒介するネズミや蚊・ノミなどに悩まされていました。

飲料水はというと、近くの揚子江のクリークから引いたもので,
消毒が不完全なものであり黄色く濁っていました。

上海の不衛生な場所では、夏には、決まってコレラが流行すると恐れられていました。

このような仮設のテント村では、コレラがいつ発生しても不思議ではありませんでした。

夏が近づいたある日のことでした。

後続の二千名の兵隊がテント村に到着しました。

テント村にたどり着いてまもなく1人の兵士が死にました。

沼田 勇という一人の下級の軍医が、兵士の死に方がどうもおかしいということでよく調べてみました。

すぐに、死因はコレラ感染ということを見抜きました。不幸にも、他に保菌者の兵士が27名いたのです。

これを契機にして二次感染が発生したら、きっとパニックが発生すること、
そして多くの犠牲者が出ること、

しかも、日本への航路も数ヶ月間は取り止めになることが予想されました。

しかし、収容所の衛生状態が最悪で、薬や消毒薬が底をついている中では、

それ以上の感染者も出さずに,無事に危機を乗り越え、全員無事に日本へ復員することができました。

それは、沼田軍医が提唱したことが徹底的に実行され、収容所の全員がまじめに守りぬいたからでした。

その提唱とは、「食事中はよく噛んで食べること。
そうすることによって口や胃で外来性の病原微生物に対する防御機構が作られる。

そして、せっかく作られた外来の細菌に対する人体の大事な防護機構をくずさないために,

食後20分間は全く水分をとらないこと」だったのでした。

(出典:伊藤桂一著『かかる軍人ありき』光人社)


口から肛門までは、人間の生命誕生からいえば外胚葉からできています。

早く言えば、口は外の皮膚と連結していて食道、胃、腸、肛門という一つの管としてつながっている器官です。

いわば、消化管は、口から始まって肛門まで通じている人間の身体内に貫通しているトンネルです。


図のように、口から肛門まで全体が体の外側です。言い直せば、消化管は全体が体の外側です。
ですから口も、体の外側にも属しているといことになります。つまり、口は体の外側なのです
消化管の一皮むいた内側は、体の内側となります。消化器官の内側は、腹膜で釣り下げられ、
体をどのように動かしても動いてしまわないように、その部分の位置を保つようにできています。

口の中には、いろいろな種類(約300種類以上)の細菌が住んでいます。
ですから細菌は外から口の中に入り込み住みつくようになります。
中には強烈な毒素を持った細菌も入ってきます。

口から入り、胃や腸に運ばれてきた細菌が腹膜に感染した場合、腹膜炎を起こします。
虫垂に異物が引っかかり、
細菌がそれを中心にして繁殖して感染病巣を作れば虫垂炎(俗名:盲腸炎)を起こします。

そして悪化して、穿孔してしまえば腹膜へ、つまり、体の内部に細菌が進入してきて
生死にかかわる大病になってしまいます。

このように、消化管は体の中を貫いているトンネルということが分かります。

トンネルの中の壁面は外部で、そのために壁面には体の内側に細菌が入らないように防御のための
いろいろな仕掛けがしてあります。

外来性細菌の毒性を弱めたりするのは、まず唾液に含まれるαグロブリンという免疫酵素やリゾチーム,
ラクトフェリンという殺菌剤です。細菌が入ると壁面からは以上のような免疫酵素や殺菌剤が噴出してきます。

次に、よく噛むことの刺激で胃では急激に酸性が高まります。つまり胃の中の塩酸が強くなるということです。

胃液の塩酸はコレラ菌に対する唯一の殺菌剤です。

例えば実験で、コップ一杯のコレラ菌の生理的食塩水浮遊液に、塩酸を1滴たらし混和するだけで、

コレラ菌はほとんど瞬間に死滅するのです。

よく噛まなかったり食事中に水分をとったりしたら,

生き残った菌は食物といっしょに胃を通過し(胃液の塩酸に浴さなかったり、
水分で胃液をうすめたりするため殺菌力が少なくなる)

十二指腸へ送られ、腸で菌は繁殖して発病につながります。

以上のことなどをよく考えると,よく噛んで唾液をたくさん出すことも、

体液を薄めてしまう水やジュースなどの飲み物で、口に入った食物を流し飲みする食べ方(水洗式咀嚼)では

食中毒にかかりやすくなってしまいます。

また、じっくりと食物をよく噛まないことも、食中毒にかかりやすくしてしまいます。

万一,不幸にも食中毒にかかった場合,以下のようなことが歯科の立場から考えられます。

1.よく噛まないから唾液の分泌が少なかった。

2.よく噛まずに、水やジュースなどの飲み物で口に入れた食物を流し飲みする食い方
(水洗式咀嚼)をした。

そのため、水分で唾液や胃液が薄まったりして、
消化器官の防御機構が働かないうちに細菌は水物と共に直滑降で腸管に流されていった。

3.ハンバーグ等のひき肉でできた食べ物などに熱がよく通らず、生菌が残ったままの食物を、

よくこなされるようにじっくりと噛まなかった。

そのために、唾液に含まれている殺菌や免疫物質が、食物の中心部にいる菌まで浸透せずに殺菌できず、

生き残った生菌が腸管にまで流れていった。

4.ストレスがたまったり、疲労が大きかったり、また身体が虚弱な状態にあった。

そのため、腸管での体の味方である白血球やリンパ球の免疫機構が正常に働かなかった。

5.日常、食べる食物に問題があった。

人の腸内細菌叢では、健康人では生活環境や食事様式などが一定であるかぎり
かなり安定したバランスを保っている。

栄養のとりかたによってはその構成が変動を受け易い。偏った食事が続いた。

現在、青少年の食生活には軟性食物のファーストフードなどが定着している。

それを食べるには、じっくりと噛むことが少なくなるし、
しかも食物繊維も少ないから噛む機会も少なくなった

(伝統的な日本食には多くの食物繊維が大いに含まれていた。これを消化するには十分に噛むことが必要とされ、

噛むことは人間の身体にさまざまな刺激を与えている。これらの刺激が是非必要で、

その一つとしては腸管の運動を亢進する。

それが腸管の中のいる細菌に対して安定した良好な環境を保たせていたのであった)。

6.人間の健康に対しての有用菌である腸内細菌叢が優勢で理想的なバランスが保たれていなかった。

ビフィズス菌などの人間の健康に対しての有用菌である腸内細菌叢がバランス保つためには、

高タンパク・高脂肪(肉食)に偏らないことである。

そして便通を改善して、腸内に生成される有害物質のすみやかな排泄をはかる
食物繊維(野菜や海草)を十分に取ること。

栄養のバランスの良い食事を取るように心掛けることである。

しかし、青少年や幼小児の現在の食生活は、高タンパク・高脂肪食品の異常上昇が見られ、

食物繊維の入った食物は極端に少なくなっている。

そのために有害病原性細菌が住みつき易い環境が作られているためである。

7.ゆったりよく噛む、ゆとりのない学校給食の現場が、食中毒を育てる素地を作った。

学校給食の、わずか20分給食時間内で、本当にゆとりある、楽しい、
よく噛んで食べられる環境が生まれるだろうか。

その給食時間に食べ終わらない子供は、早く終わらせる子供達や時間を気にする教師から、

いわゆる“いじめ”の状態に合うということも聞く。

そういう子供はまた、食が進まず、いつも食べ残す子もいるし、
早く食べようとして水物で流し飲みする子もいるという。

給食指導でいまだに、「三角食べ(パン、牛乳、おかずなどの温食の順に胃に流し込む食べ方)」

ということを指導する教師もいるという。




D 歯周病は喫煙も原因で、やめなければ治癒不全へ
ヘビースモーカーはやがて総義歯へ


喫煙は、生活習慣病の大きな原因の一つになっています。

むし歯も歯周病も、生活習慣病の一つです。

さて、これから、国際的にも問題視されて大いに警告されている
喫煙と口腔疾患の関係を述べてみたいと思います。

タバコを吸うと『歯の寿命』が短くなるのを知っていますか?

歯がぐらついたり、むし歯でなくても歯が一人で抜けたりする歯周症
(歯槽膿漏という言葉は一般の間で言われている俗名で、
専門用語では、「歯周症」と言います。
また、歯肉炎も俗名で,専門用語では、「歯周炎」と呼んでいます。

以上の二つを合わせて、専門用語では「歯周病」と呼びます)は、むし歯よりも歯を失う率はがぜん多のです。

現在、児童・生徒にも歯肉炎(歯肉だけの炎症)が増加していますが、その中では、

たまに、歯をとり巻く骨(歯槽骨)までも進行した歯周症の生徒を見つけることがあります。

歯周病は、一般に、歯みがきが悪いために発生した歯垢が、歯肉の周囲にたまったときに発生する病気です。

その原因は、歯垢を形作っているさまざまで莫大な数の細菌が出す毒素や

免疫現象によって引き起こされたのです。

歯周病が進んでひどくなると、歯を支えている骨が溶けて無くなり歯はぐらぐらになって、

しまいには歯は抜け落ちてしまいます。

(タバコを長期間続けていた27歳の女性の歯肉の黒変)

現在は、歯周病にかかる割合はだんだん低年齢化していますが、成人の場合は、

大体30歳以上がかかりやすく、45歳では8090%が歯周病にかかっているといわれています。
それは中高年で歯を失う原因のトップを占めています。
さらに、喫煙(タバコを吸う)習慣が加わると、
『歯の寿命』は倍加して短くなってしまいます。
また、タバコを吸っていると難治性の歯周病(なかなか治りにくい歯周病)になりやすく
しかも治療をしてもなかなか治りにくくなること、
そして写真のように歯ぐきが黒くなることなども世界の研究機関で研究され
国際的にも問題視されるようになったのです。

最近、わが国の歯科界でも歯周病とタバコの関係が注目をあつめはじめました。

しかし、これはまだ始まったばかりであり、この方面からの予防の啓発と治療法の確立が
もっとなされなければならないのです。

世界で、タバコと歯肉炎の関係を最初に注目したのは、スウェーデンのカロリンスカ研究所のグループでした。

ですから、タバコによる歯周組織への影響の研究は1940年代に始まったといえます。

スウェーデン人女性の歯の数を12年間にわたって追跡した調査では、

この間にタバコを吸わない女性が失った歯は平均2.1本であったのに対して、喫煙者は平均3.5本でした。

喫煙者が歯を早期に失うほうががぜん多かったのでした。

この事実から、喫煙は歯の早期喪失の原因になるということが分かりました。

そのころ米国ミネソタ大学のグループを中心にした研究機関でもタバコと歯周炎の研究が続けられていました。

アメリカでの最初の報告は、急性壊死性潰瘍性歯肉炎

(急に歯ぐきが腫れて膿がたまり、その後、歯ぐきは腐ってくずれていくという重症の歯周炎のこと)

の患者さんに喫煙者が多いことから、タバコが歯周組織に悪影響を及ぼしている
可能性を指摘しているものでした。

それ以後、歯肉炎だけでなく歯周病との関連を示す研究が1983年に発表されました。

それは、全米を巡回して行われた大規模な健康に関する疫学調査の統計報告だったのです。

無作為に抽出された3,855名を調べた報告では、

「歯みがきなどで口腔の衛生状態をいくら保ってもタバコを吸うことによって歯周病は発生し病状は進行する。

であるから喫煙はまぎれもなく歯周病の原因因子の一つである」と結論付けられました。

さらに、1959年から1990年の間に、喫煙者の歯槽骨の破壊と歯の喪失に関しての27の疫学的な調査がなされ、

確かな結果が発表されました。

また最近の発表では、1000人以上の婦人の、12年間の長期にわたる追跡調査により、

歯を失う原因のうち67%が喫煙のためであったということが判明していますし、

喫煙者はタバコを吸わない人よりも約3倍も歯周病にかかりやすく、

2倍も多く歯が抜けているという説が主流となっています。

しかも、喫煙開始年齢が早いほど歯周病の発症や進行が早いということ、

また喫煙本数が増加するほど重症度が増すことも喫煙による全身の疾患と同じという結果も出されています。

一方、タバコを止めることによって歯周組織の改善は大いにみられることも分かりました。

さて、これまでに、タバコが口腔内に及ぼす害として言われてきたのは、

「歯がヤニで着色される」「口臭がひどくなる」「味覚が低下する」「口腔ガンが発生する」
ということが主流でした。

現在はそれに加えて「歯周病の発現と進行」、「歯周病の治癒阻害(治るのを妨害する)」、

「歯の早期喪失(歯を早い時期に失う)」、
「歯ぐきの中にメラニン色素やタールの沈着(歯ぐきが黒くなること)」もあげられていて、

このことは世界の歯科界ではもう常識となっています。



上の写真の症例は、著しく生活習慣が乱れている
18歳の男子学生でした。
彼は、一日に30数本のタバコを吸い、しかもスポーツ・ドリンクや清涼飲料水などの
常用などで、重症のむし歯、重症の歯周病にかかっていました。

ごらんのとおり、前歯は抜けているし、歯についているヤニも見え、
歯ぐきの変色(黒色化)も始まっていました。
診療中には、全身と口腔内から出てくるタバコ臭で目が痛くなりそうでした。 

なぜタバコは歯の周りをだめにするのでしょうか? また、タバコは歯周にとってなぜ悪いのでしょうか?

これから、その原因と作用機序を述べてみましょう。

1.それはタバコに含まれているニコチンの作用が第一の原因です。

ニコチンは、歯周の血管を収縮させて血流を悪くするので酸素や栄養が届きにくくなり、

かなりの時間、歯周組織に栄養失調の状態を起こします(ニコチンの血管収縮作用のため)。

2.さらにニコチンの血管収縮作用によって歯肉が硬くゴツゴツしてきます。

そのためにポケット(歯と歯ぐきとの境目にできた病気の溝)の中だけで病気が進行してしまい、

病状は外の表面には出にくくなり手遅れになりやすいからです(歯肉の線維化が進行するため)。

3.喫煙は、普通でも皮膚や粘膜にタール分やメラニン色素を呼び、それらを沈着しやすくします。

歯ぐきにはその沈着度は激しいのです。

また、自分の体や歯肉を清潔で健康に保とうとする浄化機能が失われてきたためです

(自浄機能の減退による歯肉への色素の沈着促進)。

4.歯周病を起こす細菌と戦ってくれる味方の白血球の機能が、タバコによって50%も弱められてしまいます。

そのために細菌に対する貪食機能、防御機構が弱まって炎症がひどくなるからです

(白血球の活動機能を抑制するため)。

5.歯周病の回復に必要な、組織再生細胞の働きや発生を妨げるからです(線維芽細胞の造成を妨害するため)。

6.タバコの煙に含まれているニコチンやタールなどの有害物質が歯周病のポケツトに
直接作用したり刺激したりして
炎症を一層強めるからです
(タバコの煙に含まれる有害毒物 質の直接的な薬理作用のため)。

7.タバコによって全身の免疫力が衰えているので、治療しても症状が改善しなくて
かえって悪化していくからです
(免疫力の減退のために)。

8.液の分泌も減少し、タバコに含まれる害毒を薄めたり中和したり、
また細菌の繁殖を抑えることができなくなるからです

(唾液による害毒の中和力阻害、細菌の繁殖抑 制力阻害)。

9. 喫煙はビタミンCを多量に破壊します。タバコ1本につきビタミンCが25r破壊されます。

そのため、血中のビタミンCの濃度が低くなるにしたがって歯垢の沈着度が増加してきます。

ビタミンCは内因的抵抗力を高める重要なもので、傷の回復には効果が大きいのですが、

それがタバコのために失われためです。

モルモットの実験で、ビタミンC投与により傷の治癒は3分の1に早まることが
分かっています。

欠乏は出血を促します。ビタミンCを与えたられてきた患者さんは、

そうでない患者さんの歯の清掃に比べて半分の時間で終わった事実があります。

それはカルフオルニアのハリウッドの衛生士さんが15人もいる大きな歯科診療所での
実験結果です。

その時、歯科衛生士には数週間にわたり患者さんにビタミンCを与えてきていたのは知らされていなかったそうです




E 日本の喫煙対策は30年も遅れている
非喫煙者も、年間4万6千円もタバコに支出させられる


皆さんもご存じの通り、わが国でも現在“タバコが健康に及ぼす害”が社会問題化し、

公共の場ではもちろん職場や多くの人が集まる場所での禁煙が増えたり、

喫煙場所が指定されたりしてどこでもタバコは吸えなくなってきています。

また、他人のタバコの煙を吸わされる「受動喫煙(間接喫煙、強制喫煙)」も、肺がんや心臓病、動脈硬化、

子供の気管支炎や気管支の刺激からくるぜんそく、ポックリ病死などを増すことも大きな問題になっています。

内臓などの諸器官が弱くなった、特に肺や気管、心臓にはタバコの煙に含まれる
有害物質が直接作用して老人の健康を悪化させます。

厚生省は19953月の「たばこ行動計画検討会報告書」を受けて、
同年
5月には「今後のたばこ対策について」を通知し、

防煙、分煙、禁煙を柱とするタバコ対策の指針を示し、
1996
3月には「公共場所における分煙のあり方」を示しました。

厚生省はまた、19998月にまとめた新健康政策で、
2010年までに喫煙率を半減する」数値目標を明示しました。

労働省も19962月に、「職場における喫煙対策のためのガイドライン」を策定して
経営者(学校経営者も含む)に対して

喫煙室や喫煙コーナーの設置などを求めています。

WHO(世界保健機関)は1990年代にはタバコが原因で、世界で毎年300万人が死亡すると予測しています。

現在、その予想はずばり的中してしまいました。1999年にはそれよりも増加して400万人にもなりました。

このことは、世界のどこかで8秒に1人の割合でタバコにより死亡している』ということになります。

さらにWHO30年後の予測、つまり2020年〜30年には、中国など発展途上国の喫煙者の増加により

年間約1千万人に増える恐れがあると発表して世界中に警告しました。
WHOは、2002年現在、世界中でタバコによって死亡した人は470万人になったと発表しました。

そのためにWHOは、以上のような世界の多くの人々の死亡原因となっているタバコを、
国際条約で規制することを決め、

199910月に本部のあるジュネーブで開く作業部会から、
「たばこ対策枠組み条約」の骨子作りに入り

2003年にはその条約を採択して、具体的規制を盛り込んだ議定書の作成するとしています。

そして、今も“予防可能な最大の疫病”と位置づけ、加盟各国がその対策に
さらに積極的に取り組むよう勧告し続けています。

しかし、我が国のタバコの消費は一向に衰えを見せていません。

1995年に発表したの日本たばこ産業株式会社の統計では、

成人の3,500万人が3,350億本を吸い、この10年間で10%近く伸びています。

WHO1996523日発表した統計によると、日本は15歳以上の喫煙者は男性59.0%で、
女性
14.8%である)。

一方、喫煙が原因と推定される死亡者の数(たばこによる超過死亡数)は

1995年の統計では95千人を数え、総死亡数の12%を占めるに至っています。

 また、人口動態統計によると、近年急増している肺ガン死亡数が1998年に初めて胃ガンを抜き、

ガン死亡の中で首位を占めるようになりました。

日本における喫煙が原因で死亡した男女の数

男性

女性

1965年

19,000

3,200

1975年

36,000

8,300

1985年

57,000

17,000

1995年

76,000

19,000

WHO推計



我が国の、タバコの売れ行きの内容を分析してみますと、成人男性は微増ということです。

しかし約70パーセントの人が喫煙を止めたいと常に思っているというデータもあります。

外国タバコを含めては、全体でますます増加してきています。

さらにその内情を突き詰めてみると、それは若い層の喫煙が増えていることです。



タバコを吸った経験を持つ割合は、高校生で7割、中学生5割、小学生3割で、喫煙を止められない、
つまりニコチン中毒になっている青少年(未成年や高・中学生)の割合は
さらに増加をたどっていると言われています。
さらに、女性に、特に若い女性の喫煙が増加しているというのも原因の一つであると言われます。
ちなみに、
20歳代前後の女性喫煙率は20年間で3倍に増えているという報告もあります。
それは青少年・少女に悪影響を与える我が国だけの野放し広告、
彼ら、彼女らが手っ取り早く買える自動販売機の横行、
生徒の模範になるべき学校教師の喫煙、喫煙防止教育の不徹底などが
その悪の根源を育てていると言っても過言ではありません。


タバコは社会的な迷惑と思いませんか?

タバコは健康ばかりではなくいろいろな社会的な迷惑と損失を作り出しています。

これから迷惑と損失を羅列してみましょう。

1.全火災原因のうち6件に1件がタバコの不始末。

2.健康障害による治療費、入院費などの膨大な損失、そして生命の危機。

3.吸い殻のポイ捨てなどによる清掃費。

4.空気浄化機器の設備費、フイルターの交換費用、電気代。

5.タバコのやになどによる、部屋の汚れの清掃費、髪や洋服についた臭いの除去や洗濯にかかる費用。

6.車や公共の交通機関へ及ぼす損害(喫煙者の車の査定には約10万円の低額査定)。

7.生命保険の浪費。であるから喫煙者の生命保険料は、非喫煙者よりも高額。

8.タバコの臭気の精神的な苦痛。

9.タバコは交通事故を起こしやすい。

10.「受動喫煙(間接喫煙、強制喫煙)」での周囲から受ける損失。

さて、最後の10番目に、「受動喫煙(間接喫煙、強制喫煙)と出ましたが、

受動喫煙は、自分では喫煙していなくても、周囲の人がタバコを吸っていると、
自然にその煙を吸わされる羽目になります。

これもタバコを吸わない人々に及ぼす損害です。

1984年にGreenbergは家族の者が子供の前で喫煙している児童は血液中鉛濃度が高いという結果と、

喫煙者の親と一緒に暮らしている乳児の尿中コチニン量(ニコチンの代謝産物)は、

全くタバコを吸わない親を持つ子の90倍近くという驚異的な数字であることも報告されています。

わが国でも、家族が喫煙している幼稚園の、園児の尿の中には
ニコチンが検出されたということも報告されています。

このような環境で育った幼児は、やがては気管支や肺は慢性の炎症を起こし肺炎や結核、

最終には肺癌になって死ぬ運命は免れないといいます。

北海道の歯科医師は、幼稚園・小学校で本格的な調査を行い、

過去1年間の病欠日数は、非喫煙両親家庭よりも約2倍も高く、

各種疾患の既往歴、つまり気管支喘息、アレルギー、肺炎・気管支炎なども2倍高いことを発表しています。

特に、最近では“喫煙をしていない小児が間接的に受ける煙の害”つまり、
受動煙の恐ろしさが世界でも注目されています。

それは、1年間で乳幼児が6千人も死ぬ乳幼児突然死症候群(SIDS)で、その最大原因は、親の喫煙です。

また、喫煙する母親から生まれた幼児の突然死亡率は非喫煙者の子供の3倍あり、

妊娠中だけ禁煙しても生まれてからまた吸い始めれば2倍の死亡率です。

厚生省は、1998年6月1日に両親の喫煙と乳幼児突然死症候群の調査結果を発表しました。

その結果によると、タバコを吸う両親に起こった乳幼児突然死症候群は、
非喫煙両親よりも4.7倍も高かったといいます。

また、同年8月24日には、米ミネソタ大学がんセンターの研究グループは、ドイツの研究者らと協力して、

喫煙する妊娠女性の体内を通じて胎児に発がん物質が伝えられることを確認したと世界に報じました。

妊婦自身がタバコを吸わなくても、夫や他の家族の誰かがタバコを吸っていると胎児にも有害となるのです。

女性の肺ガン死ですが、近年、わが国の女性の喫煙者が増加していますから、
それとともに肺ガン死は増加しています。

また、夫のタバコで妻の肺ガン死亡率は、夫婦ともタバコを吸わない場合と比べて
約2倍も高いデータも出されています。

厚生省の今回発表した、「健康日本21」によると、

「タバコによる死亡や有病のために、1993年には年間約1兆2千億円(国民医療費の約5%)
超過医療費としてかかっている

ことが試算されており、社会的、経済的損失全体では少なくとも4兆円以上の損失がある」ということです。

今後、さらに高齢社会の進展と、少子化により医療負担はますます増大することは確実です。

タバコは国民の健康を害するばかりでなく国民経済をも大きくむしばんでいるということも
よく理解できたと思います。

タバコの事業を行っている大蔵省は、タバコによる税収が国に大いに貢献していると言っているのですが、

一般会計の中で、タバコによる歳入は1兆円あまりに過ぎません。

. さて、1996(平成8)年101日現在の日本の総人口は、1億2,586万人といいます。

そこで、社会的、経済的損失の4兆円の赤字分を喫煙者も含めての総人口で割ってみると、

国民一人当たり、年間31596円の税金の出し分となります。

しかし、タバコを吸わない人までも、その赤字分を、私たちの大事な税金で一律に支払うことは
非常に不公平なことです。

そこで、タバコを吸わない私たちの負担分を計算してみました。

成人の喫煙者は3千5百万人、推定未成年者の喫煙者は約5百万人(たばこ問題情報センター)、

ですから未喫煙者は約8千660万人ということになります。

赤字分を、タバコを吸わない未喫煙者総数で割ってみると、一人当たり約46200円になります。

これは、タバコを吸わない人が間接喫煙やその他の多くの被害などをこうむりながらも、

喫煙者のために1年間に46千円以上のお金を、親切にも出してあげていることになります。
本当にこんな損なことはありません。

国と喫煙者はタバコを吸わない国民に、むしろ莫大な損害を与えていることを何とも思わないのでしょうか。

さて、なぜ国がこれまでに、専売公社としてタバコを売ってきたのか?

その理由は次のことからだったのです。そのことも私たちは良く知らなくてはなりません。

明治27年に日清戦争が起きました。

そのときに政府は、戦争費用をひねり出すためにもうけの多いタバコに目を付けました。

政府は、専売法で業者からタバコを独占して「葉タバコ専売法」作り、

これから得られるようになった莫大な収入で大砲や銃器、弾などの軍用費用に変えました。

以後の日露戦争の時にも、さらに法律を広げ、「たばこ専売法」を公布(1904年)して、

タバコの製造・販売までも大蔵省の管轄としました。それの収入は年間の国家予算の10%を占めたのでした。

そして、ほとんどが戦争の費用に使われました。

おまけに兵士や国民をタバコの中毒にして販路を広げるために、「恩賜の煙草」というものを作り

“ありがたいとこと”だと思わせるように配りました。

現在も大蔵省が約7割の株を持ち、大蔵省は“たばこ事業法(たばこ産業の健全な発展を図り、

もって財政収入の安定的確保に資することを目的とする)”という法律で守られて、

お金がたくさん入ってくるよう“金もうけのため”に努めています。

大蔵省はただ“お金”のそれだけが目的であり、人々の健康のことは全く考えてはいません。

タバコを売れば売るほど、喫煙による社会的・経済的な損失が年間4兆円以上におよび、
年毎に増えている現状であり、

日本国家は早急に何らかの方策を打たなければ今後も莫大な赤字をかかえ続け、

日本沈没にもつながっていくことは自明の理です。




F タバコは毒物のカンズメ
自殺やいじめの原因がここにもあった


タバコは「毒物のカンズメ」と言って、煙の中には
4,000種類以上の科学物質が含まれています。

その内の200種類が、人体に害のある有害物質です。

現在、その中には40種類の発ガン物質が検出されています。

さらに公害物質のダイオキシンも放射性物質も含まれています。

タバコに含まれている有害物質のニコチンとCO(一酸化炭素)ガスは社会生活を狂わす現況になっています。

この場を借りて、少しニコチンとCOガスについて解説してみましょう。

ニコチンは、実は恐ろしい習慣性を持つし、「青酸カリ」よりも強烈な猛毒です。

タバコ1本に含まれているニコチンは、タバコ誤飲による事故が最も多い生後8カ月の幼児の場合、
2人を死亡させるに十分な量です。

大人では、35本のタバコに含まれている量を直接飲み込むと人間1人が死んでしまいます。

(ニコチンの致死量は、大人で体重1キログラムに対して1ミリグラムですから、
大人の致死量は
5060ミリグラムです。

平均するとタバコ1本の葉の中には20ミリグラム、
その煙の中には約1ミリグラムのニコチンが含まれています。

1本の紙巻きタバコを深く吸い込むと3ミリグラムです)

ニコチンは、口腔粘膜、気道、肺から吸収されるほか、皮膚からも吸収されます。

ですからタバコ栽培者にみられる「葉タバコ病」と呼ばれる急性中毒症は、
ニコチンが皮膚から吸収されたためです。

気道から吸収され血中に移行したニコチンは、約4秒で脳に達します。

喫煙者で、血液に含まれているニコチンの量が減少すると、
それを常用のレベルまで引き上げたいためにタバコを吸い続けます。

というのは、ニコチンは麻薬と同じように耽溺性と中毒性が強いからです。

喫煙をすると、副腎の受容体はニコチンで刺激されてアドレナリン、ノルアドレナリンが多くなるので、

血圧は高くなり、脈拍も増え、血管は収縮して細くなり、皮膚の温度は48度も下がります。

それはちょうど、ストレス時と同様に、敵に対して体が臨戦態勢を取るように働きかけます。(この「戦地で臨戦態勢を取る」ということを大いに応用したのは、ドイツのヒットラーの率いるナチス軍が、
いざ、「突撃命令」を出す前に、指揮を高め死を恐れないようにするために喫煙をさせました。
ドイツとの同盟国であった日本軍も、兵隊に「恩賜のタバコ」という名目(迷目)で応用していたことが伺えます)

喫煙にさらにストレスが加われば、自律神経系の興奮はさらに高まります。

つまり、自制心がなくなり衝動的な行動をとるようになるのです。

現在増加している青少年のいじめや自殺、キレル子も、彼ら,彼女らがかくれた場所で吸ったタバコにより,

持続しているニコチンの薬理作用が大きく影響しているのではなかろうかと思われます。というのは、

体内に入ったニコチンが体内から完全に消滅するのは大人よりも長時間かかります。

(青少年,少女ほど薬効が早く高く顕著であり、それの持続の時間も長い)

青少年や少女の喫煙人口の増加と共に、今後ますますいじめや自殺の増加、キレル子の増加が危惧されます。

また、喫煙は青少年が麻薬に容易に手を出したり、のめりこんだりするきっかけを容易に作ります

(ニコチンはヘロイン,モルヒネの麻薬と同じ仲間であり、

モルヒネもモヘロインも用量を適当に加減して与えればニコチンと同じ作用を示す。

NICOTINECOCAINEMORPHINEHEROINE の、最後の3文字のINEは、習慣性があることの薬理作用を表わし、同じ仲間であることを示す)

ですからタバコを吸うことは麻薬や覚醒剤を取り入れ易い環境に、おのずと入っているといえます。

このことは、青少年にとって、緊急を要する社会的問題であり、
学校での早急な喫煙防止教育が行われることが切に求められます。

ここに未成年の刑法犯罪者は喫煙率が高いという、以上のことなどを裏付けるデータがあります。

総務庁青少年対策本部の「青少年の薬物認識と非行に関する研究調査 平成10年3月」の中に

「少年院在院者の入院前の喫煙調査」があります。それによれば、

毎日21本以上喫煙していた者;62.4%

毎日20本以下の喫煙していた者;31.2%ということです。

合計で93.6%です。と言うことは100%近くが喫煙をしていたことになります。

これでは、「未成年者の喫煙は、犯罪者への第一歩」といっても過言ではありません。

また、喫煙によってタバコの煙に含まれるCO(一酸化炭素)ガスが体内に入ってきます。

すると血管の中では、酸素を運ぶべき赤血球のヘモグロビンがたちまちCOにハイジャックされて
身体は酸素欠乏に陥ります。

そのために体内ではいろいろな障害が生じてきます。

皆さんは、練炭火鉢や車の排気ガスで人が死亡したというニュースを良く聞くと思います。

それはCOガスの中毒です。

赤血球にCO30%含まれると激しい頭痛、嘔吐、そして手足のマヒが起こります。

50%を超えるともう昏睡状態に陥ってしまいます。COガスは、そのように強烈な猛毒ガスです。

タバコの煙にはCOガス15%が含まれていて、吸い込む方の主流煙の濃度は2ppmです。

その量は自動車の排気ガス(3万〜8ppm)近くに匹敵します。

肺に入ると300400ppmなってしまいますが、ビル管理法で決められているCOガスの室内の衛生環境基準は

10PPM以下ですからそれの3040倍です。

しかも、COとヘモグロビンの親和性200240倍もありますから、

酸素よりも超スピードでヘモグロビンに取り入って(ハイジャクして)すぐに一酸化ヘモグロビンになってしまいます。

タバコを一本吸うと、ヘモグロビンの510%が一酸化ヘモグロビンになりますし、それは長時間居座ります。

その間ヘモグロビンが少なくなっていて全身は酸素不足と貧血状態が続きます。

つまり、血液の酸素機能が阻害され、組織や臓器の酸素不足を招くので全身は酸欠状態になります。

脳の機能低下も作られますし、運動機能も大いに阻害されます。

タバコを1日1箱吸うことで、動脈血酸素レベルは平地にいるときでさえ、

タバコを吸わない人が2千メートル級の高い山に上ったのと同じ状態です。

また、軽い向かい風で10分間自転車を走らせる仕事量を毎日心臓に負担をかけています。

喫煙は、皮膚にも酸素不足を起こすし、ビタミンCの不足(タバコ一本で25mg消失)を招きます。

そのために、喫煙者は老化現象が激しく5年早く年を取ることも分かっています。

最も早く現れ、目立ってくるのが、女性の顔のシワとシミです。

シワやシミは10年から20年も早まると言われています。

肌を見ただけで喫煙者と非喫煙者を見分けることのできる医者や、美容師もいるくらいです。

話は変わりますが、ここで、「なぜ未成年はタバコを吸ってはいけないのか」を述べてみましょう。

未成年の間は、体や心の基礎を作る大事な時期です。体の細胞はどんどん増えて、体も心も大きく成長します。

細胞は活性のある幼若細胞が多数であるのでたくさんの栄養や生命のシステムの成長源を摂取しなければなりません。

そこで、タバコのような有害物質に、体は敏感に反応して成長もストップしたり、
将来ガンにかかったりする割合も増加してきます。

というのは、細胞の中には、その人の生きざまを決める遺伝子のDNAがあります。

成長期の未成年の時期に、タバコに含まれている発ガン物質が、容易に遺伝子DNAに影響を及ぼし、

ガンに目覚めるきっかけ(イニシエーター)をDNAにインプリント(記憶)するからです。

そして成人して将来、ガンを発生し易い物質(プロモーター)に出会うと、
DNAにインプリント(記憶)された

ガン発生のシステムが目覚めてきて、普通の人よりも数倍ガンが発生してきます。

例えば、未成年のときに喫煙を始めた人は、吸わない人よりも6倍も肺がんや心臓病での死亡者が多いのです。

以上のことなどを考えると、未成年の時期にタバコを吸うということは、

将来の自分の健康、さらに仕事、生活を非常に大きな危険をさらすことになるのです。

199946日には、アメリカのカリフォルニア大学のジョン・ウィンスキー助教授は、

米国立がん研究所ジャーナルに、「10代で喫煙をはじめると、後に禁煙しても
肺がんの要因になる
DNAの損傷が消えず、そして残りやすく、
喫煙を経験しなかった小児に
45倍も損傷が多い」と発表し、未成年の喫煙を警告していました。

喫煙と自殺との関連 (新たに発表された重要な証拠となる医学文献)
12−17歳のメンタルヘルス疾患の患者を対象にした研究で、Yale大学の研究者は喫煙と自殺そして自傷の間に著しい関連があることを発見しました。 2004年4月7日「Yale Daily News」 の報告です。
この研究はフィンランドのOulu University Hospital Department of Psychiatryに精神疾患で入院した157人の少年と少女を調べました。
研究者は喫煙する子供たちは、喫煙しない子供と比べ、自殺や自殺願望が4倍多く、自傷も3倍多いことを発見しました。
「少なくともこの集団では男女の違いがありました。自殺念慮と自殺は女性に多かったです」とYale医科大学助教授の
Jaakko Lappalainenさんは語りました。
「これは、これまでの知見に合致します」。これまでの研究でも喫煙と自殺行動の関連は示されていましたが、Yaleの研究は喫煙と自傷の関連を発見した最初の報告です。Lappalainenさんは、この研究は自殺傾向のある回復期の患者に禁煙を勧奨する必要があることを示していると語りました。
この研究は「Journal of Adolescent Medicine」4月号に掲載されました。 (訳:切明医師より)




秘伝の目次へもどる

秘伝「かむ健康術」 その8へ進む


トップページへもどる