(虫歯や歯周病にならないで、頭も良くなる方法を教えます)
秘伝「かむ健康術」その8

   著者 市来英雄



@ 喫煙でやせるは、真っ赤なうそ
喫煙者は明らかな栄養失調


タバコを吸うことでやせるという流行(誰が流行に乗せたか分かりません。あるいは、タバコを販売するほうの会社の策謀でしょうか)を信じ込んでいる若い女性も多いと聞きますが、これは、「真っ赤なうそ」で何の根拠もありません。

むしろ、太るという方が妥当だと思います。

数年前に、厚生省も調査した結果、むしろ「太った人に喫煙者は多かった」という結論を出しています。

ということは、次の調査結果からも理解できると思いますが,喫煙者は明らかに生活習慣が乱れている、

生活習慣病者であるということがよく分かります。

喫煙習慣と食生活の関係を,明治生命厚生事業団体体力医学研究所が調査しました。

すると、喫煙者は,タバコを吸わない非喫煙者に比べて野菜や果物の取り方が少なく栄養不足であるという調査結果が出ました。

また、タバコの本数が多くなるほど乱れが激しいということの結果も出ました。

つまり、喫煙でやせるは真っ赤なうそであり、喫煙者の食生活は不健全で食生活の乱れから

太ったりやせたりしているということも明らかになったのです。

明治生命の研究所が調査した喫煙者と非喫煙者との食生活は、調査したのは、 

研究所の須山靖男医師(医学博士)で、31,305人(その内、女性が28,300人)が対象になりました。

調査は、喫煙者と非喫煙者とに分けてそれぞれ一週間の食品別摂取頻度を調べました。

喫煙するものは、吸わない非喫煙者に比べて、特に大豆製品、緑黄色野菜,果実類の摂取量が少ないという大きな差が出ました。

また、喫煙本数に比例して悪化している結果が出ました。

海藻類にも、大豆製品よりも差は低いのですが摂取が減少しているという、そのような差が出てきました。

もっと,詳しく分析してみますと、男性は、タバコを吸わない普通に生活していたら,

1週間に大豆製品は3.91回とるということですが、

130本以上タバコを吸う習慣の者は約1回(0.88)だけで、回数が少なかったということです。

緑黄色野菜については、1週間で平均6.72回とるのに対して、喫煙者はたったの1.21回と非常に少なかったといいます。

また、果実類は、非喫煙者平均5.05回に対して、喫煙者は1.68回で、1週間内にはあまりとっていないという結果が出てきました。

女性では、120本以上吸う女性で、普通大豆製品を1週間にとる回数は平均3.77回あるのが0.95回、

緑黄色野菜については、非喫煙者は7.51回に対して1.03回となり非常に少なくなり、

果実類については、非喫煙者が平均5.24回あるのに対して1.89回と、これも非常に少ないという大きな差がつきました。

以上のような結果は、日本人の健康食として注目されている大豆製品、緑黄色野菜の摂取が非常に少ないということは,

栄養素が豊富な食物を,タバコを吸うことが禍してとれていずに偏った食環境であるということが言えます。

またさらに緑黄色野菜や果実類の摂取はきわめて少ないことから、ビタミンCの不足も考えられます。

タバコ1本でビタミンC25mg消費されるということ、さらに喫煙者はビタミンCをほとんどとっていないということは、

喫煙者の体に大きなダメージが起こることは否めません。

一般に,ビタミン類は,身体の回復や健康の維持および発育に必要な反応を助長するためになくてはならない化合物です。

また、ビタミンは,身体の代謝に密接な関係があるので,いろいろな場面で働き,

体の健康と体の中のあらゆる機能亢進に大きな影響を与えたり、

病気への抵抗力を増進させたりする要因としての重要な役割を果たしているのです。

ビタミンの中でも、特に,ビタミンCは、その抵抗要因の中では最も重要な役割を果たしています。

ビタミンCの重要な役割を、例を上げてもつと分かりやすく説明しますと、

ある調査では、オレンジなど果物類の産地であるカリフォルニア州などの西海岸の、

ビタミンCをよくとっている地域では、他の地域と比べて病気にかかる率が低いということ,

肌が健康に保たれいつまでも若々しいという結果が出ました。

例えば、朝起きたときにあざができているとか,あざができやすい,出血しやすいという人がいます。

統計では,女性の50%がそのような悩みや症状を持っているといわれています。

このような症状もビタミンCを投与する治療を行えば,約1週間で半数の人が、出血が少なくなったり全くなくなったりします。

ですから,ビタミンCは身体や肌にとっても重要なビタミンです。

ベテランのある美容員は、「お肌に,張りやつやがないと思う方は,ほとんどがタバコを吸っておられますね。

そのような方には,高い化粧品を買うより,まずタバコをおやめになるようにご忠告してあげています」と

お客さんにアドバイスしているということでした。

また、喫煙している女性は、「肌の老化が早かったり、大きなシミやシワが約10年、

最も早い人で20年も早く出てこられたりする」と話しをしていました。




A タバコは栄養失調を招く
喫煙を止めても太らない方法


さて、タバコを吸っていると体重は増えないと言う人もいます。

それは,空腹のときにタバコを吸うと、血液の中にブドウ糖が増えるために空腹感が和らぎ(満腹中枢のお出まし)

食物を取らずにすむようになってきます。要するに食物を取らないので体は増えないのです。

これを続ければまさに「栄養失調」です。そこで,栄養失調で全身的な悪い症状が現れて、

老化現象が起きたり,肌はカサカサになったりいろいろな病気に対しての抵抗力も減退します。

かぜもインフルエンザも引きやすくなります。

また、タバコを吸う若者にも、むかし大流行したB1不足の「脚気」も出てきます。

タバコから引き起こされるいろいろな病気にもかかるし,喫煙は、悪いことばかりです。

つぎに、タバコを中止したときに体重が増えるといわれている問題です。

タバコを止めたら,まず,実行しなければならないことで一番大切なことは,

止めると同時に食事管理をしなければならないことです。

喫煙を止めて太るのは、食事管理ができていないからです。

しかし、実際には,タバコを止めて体重が増える人は、わずか、3人に1人くらいの割合で、

3人のうち2人は,体重はほとんど増えません。まんいち体重が

増えても1~2キロから若干の増加で,それ以上増える人はそれほど多くありません。

タバコを止めて体重が増えるのには、また次の理由が考えられます。

私たちが食物の味を感じるのは、舌の表面に無数に存在する味蕾というものの働きのためですが、

タバコを吸っている人は、この味蕾の働きがタバコのために鈍くなっていて味そのものが分かりません。

また、鼻から匂いを嗅ぐ働きもタバコで鈍くなっているために匂いもわかりません。

そこで,タバコを止めると,大体3日目あたりから鼻の働き(臭覚)が回復して,

同時に味蕾の働きも正常になり食物の味がわかるようになります。

それと同時に、胃腸の働きも正常に回復して食欲が旺盛になるので、つい食べ過ぎてしまいます。

タバコを止めた人が、野菜にも味があったのか、あるいはご飯がこんなにおいしかったのかとよく言っています。

さらに、また、自分をあわれむ気持ちや,不安、憂うつなど禁煙に対して消極的な態度があると,

タバコを吸う代わりに,いつもなにかを食べるという行動に移ってしまうこともあります。

そこで,最初に言った、タバコを止めると同時に食事管理が必要ということはここにあったのです。

タバコを止めてから体重が増えるようでしたら、以下のことも思い出してみてください。

@ 医学的,生理学的にも,タバコは太り過ぎよりも体のためにずっと悪い。

体重超過でかかる病気では、1日に20本吸う人が病気にかかる率は、

標準体重を30キロ越えている人が病気になる率と同じである。

体重超過以上に、タバコでかかる他の病気の種類は、はるかに多いし強烈である。

Aタバコを止めると口がさびしいので、つい食べるものに手が出て、

そのためにエネルギー(カロリー)の取り過ぎになっているのかもしれない。

Bエネルギー(カロリー)を取り過ぎないようにするには、腹いっぱい食べないようにする習慣をつけることと、

食べ物の種類に気をつけることです。

1週間も食事の量を減らしていると,満腹するほどとらなくても満足するようになってくる。

Cタバコを止めると同時に、低カロリーを考慮したダイエット食を考え実行すること。

Dよく噛むことで満腹中枢を目覚めさせること。

E体を動かして,余分なエネルギーを使ってしまうこと。つまり、運動をすること。



B 歯を治したら便秘が治った?
食物繊維を取り、きちんと排便


モンゴルで歯科医療活動に参加してきた、岡山大学歯学部の小児歯科の岡崎好秀講師は、

講演のときに聴衆に、「モンゴルの人は、みんな山のほうを向いてウンチをする」とおもしろいことを言ったあと、

「それはなぜだと思いますか?」と質問しました。

だれも答える者がいなかったので、彼は、「それは、モンゴルは大草原でトイレがないからである」と答えました。

「それだけならだれでも考えつきそうなことですね。山のほうへ向いて、というところが実はポイントなんですよ。

山のほうへ向かってかってウンチをしないと、次々に出てきて積もった便の山がお尻につかえてしまうからであります」と。

あちこちでクスクス笑いが起こりました。

モンゴルの現状は先にも話しましたが、モンゴル人は2000年来遊牧生活をして肉類と乳製品を主食にして、

野菜はほとんど食べずにきていました。民族的食物は食べ方もいろいろとあり、

大草原の中で大いに食生活を楽しみ、大いに食べることができました。

遊牧民が野菜を食べずに健康に生活できたという理由は、野性味あふれる羊料理にあります。

特に、羊の腸や血液、乳汁には300種類も及ぶ牧草の中のビタミンやミネラル、

繊維素などが豊富に含まれていて健康にとても良かったからです。

ただし、丈夫な歯がなければ、これらの食生活は可能になりませんが、食事にはときどき砂も混入していたとみえて、

彼らの歯はすりつぶれていてむし歯も少なく、非常に丈夫であったといいます。

しかし、現在は、ロシアの影響が大きく、急激な進んだ文明が入り込んできたために、都市で生活を送る人が72%で、

遊牧生活を送る人は28%になってしまいました。

しかも、都市生活者はパン食を中心とした西洋食がふえてきていて、ケーキ、お菓子類、清涼飲料水も急増しました。

その結果、都市部に住む若年者にむし歯が急増して深刻な状態であるといいます。

まさに、現在のモンゴルも、日本が直面した、急激な食生活の変化から口の中の環境が悪化したということを

経験しているのではないでしょうか。

さらに、岡崎講師は、便秘と歯について、「障害児の歯科治療の中で、障害児も、便秘のときは様子がいつもと少し違います。

たとえば、脳性マヒ児でいつもより緊張が強いとき、あるいはケイレン発作で薬のコントロールがうまくいかないとき、

自閉的傾向など情緒障害児で自傷癖や多動の激しいときは、便秘していることが多いようです。

それは『痴呆の方で徘徊するときには便秘が多い』という理学療法士である三好春樹氏の説のとおりです」と述べています。

「歯を抜いたらとたん便秘になった」「入れ歯を入れ食べ物が変わったら便秘になった」、

あるいは反対に「歯を治したら便秘が治った」と良く聞く話です。

それには、食物繊維が大いにかかわってきます。食物繊維は便通を促進する効用があるためです。

「入れ歯になってからは野菜が食べにくくなった」という話もよく聞きます。

この人は、丈夫な噛める自前の歯がいかにたいせつか身をもって知り、おそらく便秘も体験した人でしょう。

1971年にイギリスの学者が、「世界の人々の排泄量と食事との関連」を調べているので紹介しましょう。

その主なものをあげると、イギリス人の学生の寮生活者は1回の便量が110グラム、

イギリスの菜食者は225グラム、アフリカ、ウガンダの農民は平均470グラムでした。

多い人では1キロ近く、なんと洗面器一杯分もの便が出る人もいるそうです。



宮崎大学教育学部の島田彰夫教授は、以前、東北地方の農山村で、
「食べたものが何時間で便として出てくるか」を調べたそうです。

食事といっしょに硫酸バリウムのペレットを飲んで5日間排泄を待ちました。
その結果、平均34時間から44時間、すなわち1日半から2日かかり硫酸バリウムの80%が出てきたといいます。
また、インドやアフリカの人たちは10時間、アメリカでは70時間で約3日かかったということです。
イギリスでは
104時間、約4日半かかったという報告もあります。
このことから、繊維性の多い植物性の食品を多くとる地域の人々は、排泄までにかかる時間が短く、
動物性食品を多くとるところでは排泄までに時間がかかるということになります。
食物残渣が腸内に長くとどまる欧米型の食事をする国に大腸ガンが多いのもうなずけます。
便秘に悩む人は、植物性の食品から植物繊維を大いにとって、よく噛んで、

フレッチャーさんのように快い排便があるように心掛けて欲しいと思います。

毎日の快便で頭もすっきりしてくるし、体毒もたまらないので肌もきれいになります。

体にとってよいことずくめです。

噛むことのもう一つの効用が、胃腸の働きが活発になり、ガス(おなら)の出がよくなることです(その臭いは弱い)。

先の項でも述べましたが、医療の現場でうまくそれをじょうずに利用しています。

病気で胃や腸などの内臓を手術したあとに、その手術が成功に終わったかどうかをまず見きわめることが必要です。

その手っ取り早い方法が、第一発の「自然が我を呼ぶ」(ネイチュアー・コール・ミー)の放屁があったかどうかです。

手術後、普通それは1日以上かかるといわれています。

よく噛んでいくうちに、それが刺激となり唾液の分泌が促されるとともに胃腸の働きは活発になります。

 しかも、唾液の中に含まれているいろいろなホルモンや酵素が全身にめぐり、

回復力高めて、手術の傷に働き、傷は早期に癒すことの準備をととのえます。

そして待望の第一発の放屁も早期に誕生します。

人間の生命誕生からいえば、口から肛門までは外胚葉からできています。

早く言えば、口は外の皮膚と連結していて、食道、胃、腸、肛門という一つの管としてつながっている器官です。

いわば、消化管は、口から始まって肛門まで通じている人間の身体内に貫通しているトンネルです。

口から始まった話が、ここでようやく肛門にまでたどりつきました。

口は栄養を摂取する門であり、歯はそれを助け、体全体を守ってくれる衛兵であることが分かっていただけたでしょうか。

「口の健康なくして全身の健康はない」といっても過言ではありません。

このことをもう一度、 良く噛みしめ味わって、自分の健康を管理して欲しいと思います。

そして、長生きするなら80歳で20本の歯を残す、「8020」で人生を大いに楽しみたいものです。


あとがき


現在は、健康ブームの真っ最中です。本屋さんをのぞくと、健康や栄養に関する指導書や参考書が所狭しと並んでいます。

さまざまな立場から書かれた、それらの書籍にはとても役立つ内容も多いです。

しかし、考えてみたら、当然11人の生体の違いがあったり、個性のある生活習慣を営んでいますから、

一冊の本でカバーしきれるとは限りません。

そういった意味からも、まずは家庭や、病院、さらには施設にいる方は、

そこでできる身近なことから実行することが大事だと思います。

そして、狭義の説にとらわれず幅広い世界からの、信頼できる情報をキャッチしながら、

まずは力まずにフレッシュな精神で、個々人の生活の中でそれらを応用していくことです。

さて、毎日、お世話になっていて常時使わなくてはならない歯のこと、よく噛むことなどについて、

この本の中に紹介されている口腔の健康法は、やる気があればいつでもどこでも簡単にできる方法が中心です。

その、歯の健康に関しても、また、家族の健康な歯づくりのためも、この本に書かれている具体策を実行する場合に、

親身になって相談に乗ってくれたり、直接アドバイスしてくれたりする

ホームドクター的な歯科医師をぜひ探して気軽に相談してほしいと思います。

人間の口(口腔)の中にある全部で32本の歯(親知らずまで入れて)と全身とは、大きく深くかかわりあっているということが、

本コーナーを通してご理解していただけたと思います。

と同時に、消化器官の第一関門が口であり、歯がその衛兵であり、歯は命全体、健康な体そのものを育てているということも

十分にわかっていただけたものと思います。

考えれば、私たちは、むし歯に侵されないように、歯みがきをする、甘いものを制限する、

フッ素を応用するというように、ずっと以前からその予防方法を実行してきました。

このこと自体も非常に大事なことですが、さらに追加して欲しいことで大事なことは、

体のためになる栄養素をバランスよく摂取すること、そのためには歯を使ってよく噛むことだったのです。

そうすれば当然、むし歯も歯周病も防げることになりますし、丈夫な歯や周囲の組織がつくられます。

長い間、私たちはこの大事なことを忘れて、歯そのものだけにとらわれてしまっていたようです。

「はじめに」でも述べましたが、私は歯科医師になる直前に大病して以来、栄養や咀嚼ということに大いに興味を持ちました。

そしてそれは、追及すればするほど奥が深いものだということを知りました。

この本には私の知っている限りの口腔と栄養、咀嚼と脳と栄養の関連なども書かせていただきました。

しかし、これからが栄養学の勉強の始まりです。

今後、その深みのある栄養学を一生懸命学んでいかなければ……と、自分に言い聞かせています。

最後に、なぜ私が栄養に興味を抱いたかということを、以下の文を借りて紹介してみたいと思います。

これは、PTA会長として、私が数年前に行った鹿児島県立鶴丸高等学校の卒業生に送る祝辞の中から、一部を抜粋したものです。

……・・私は、本日の卒業式にあたり、卒業生の皆さんに私の体験を通して三つのことをお願いしたいと思います。

一番目は“自分の健康は自分で守る”ということです。それは、くれぐれも自分の体をいたわって欲しいということです。

健康を害してからでは遅いのです。健康は自分の心がけしだいで守れるのです。

私は、本校を卒業したあと、東京の歯科大学に入学しました。私を含めて兄弟三人が上京しての大学生活で、

いま親になってわかることですが、両親も仕送りがたいへんだったと思います。

ぎりぎりの仕送りでしたが、勉学に専念するためにアルバイトはしないと決めていましたので、

コッペパン2個で1日を過ごす日もありました。苦学という程ではなかったのでしたが、

とうとう栄養失調のために重病になり、1年休学という破目になってしまいました。

自分でも非常に残念な思いをしましたが、両親にもまた、大きな心配、負担をかけることになってしまいました。

これからというときに、健康に自信のない毎日を過ごすことはほんとうにつらいことです。

郷里の鹿児島に帰り、大学病院に入院しなくてはならなくなってしまったのです。

病院のベッドに大学の教科書を持ち込んで勉強していたとき、母に先導されて、

父がはじめて私の病室を訪ねてくれました。話べたな父は、来る途中、

父親としてどんなことを言おうかと、きっと考えてきたと思います。

しかし、ベッドのほうに歩いてきた父は、寝ている私の顔を見るなり、

「やっせんもんじゃ(だらしないやつが)、馬鹿! せっかくがんばってきたのに・・・」

と怒ったように大きな声で言いました。

私は申しわけなさと、いきなりのその強い言い回しに内臓がギュツと縮まる気がしました。

それだけを言った父は、すぐに母を引っ張って病室から出ていきました。

私はふとんを頭からかぶって泣きました。

しばらくして、両親がまた病室に戻ってきました。

父は何も言わずに財布を出すと、その中から千円札を1枚取り出し、私の手のひらの中に入れてくれました。

ただそれだけでした。

母は涙をいっぱいにためて父のあとからついていきました。

いま、親になって分かることですが、親は苦しいことやつらいことなどは何も口に出しません。

皆さんのご両親も、皆さんのすばらしい将来を祈りながら心配していらっしゃるのです。

“親思う心に勝る親心”

皆さんも健康にくれぐれも気をつけましょう。………・

祝辞をとおして、初めて親元を離れて生活する学生たちに、日常生活の正しい自己管理をお願いしたのでした。

私たちは、長い人生の道のりを健康で乗り越えるために、また、毎日を元気に活動していくためには、

どうしても体や心の栄養も必要です。

そのためにはどうしても、私たちが生涯お世話になる、“食”そして“噛むこと”

そのための“歯”というものを根本から見直してみる必要がありました。

そこで、私が、歯や食に関してこれまでに学んだり、

35年以上の診療で患者さんと接してきたりしての体験で分かったことや、

それに関連する学術的ないろんな文献から、確実で新しい論文などをチェックして、

一般の方々にも分かりやすくまとめて書いたのがこのコーナーです。

さらに、この、歯を残すこと、噛むことから身体に及ぼされる偉大な影響力を、

私なりに患者さんの立場にたって追求したり、そのための文献やデータを国際的な視野に立って検索繰り返し追求したりしながら、

一般の皆様がすぐに役立てることができるようにまとめたのがこのコーナーです。

年をとると、体力はもちろん消化器官や臓器の機能の減退もまぬがれることはできないということも、

そして、さらに、歯を早い時期に失うと、そのハンデイもますます増加するということも分かりました。

また、高齢者の方々の、何よりの楽しみは他でもない、「何でもおいしく食べられる」ことも分かりました。

これらは、多くの歯が残されていて初めて可能になるのです。

残念にも、身体の健康のために最もだいじである“歯を残す”ということは、

わが国では、これまでとてもおろそかにされていたきらいがあります。

その結果、他の国に比べて、不幸にも日本は、高齢者の方々がたくさんの歯を失っています。

言いかえれば、高齢者の歯の健康は国際的にみても非常に悪い位置に置かれているといっても過言ではありません。

この現実も、読者の皆さんは充分に理解できたと思います。

でも、ようやく最近、「噛む」ことの大切さ、それとともに歯を残すことのだいじさが、世間一般で認識されはじめました。

いま、歯科医師や行政によるそのための啓発活動、マスコミなどによる情報提供も盛り上がりをみせてきたところです。

そのため現在は、歯を残すための必要な知識がいろいろな場所でも得られるようになりました。

たくさん残った歯でよく噛むことは、体だけでなく精神のにもなり、

知力の発達を促す、ボケ予防にも寄与しているということも一般の方々にも知られるようになってきています。

今後、自分の歯をいつまでも残せるようにするために、このコーナーで紹介したことを十分に生かすように努力し、

「ゆっくり、ゆったり、よく噛んで」一生涯を健やかに楽しく過ごしてくださるように切に願っております。

また、この本が、中高年齢の方々、お孫さんをお持ちの主婦の方々、長い道程を経てこられたご高齢の方々、

さらに「歯」と「体」と「心」に関心を寄せる多くのかたがたの、

噛むことをとおしての口の健康はもちろん、身体の健康や、すこやかな食生活の一助になることを願ってやみません。

平成131月吉日

                                                      著者 市 来 英 雄

著者経歴

市来英雄(いちきひでお)

1939年4月16日 鹿児島市生まれ

診療所 〒892 鹿児島市山之口町56  医療法人市来歯科

TEL 099-226-6254   FAX 099-222-6411

現在役職その他

国際歯科医師連盟(FDl)禁煙推進歯科医業部会幹事、日本代表役員

国際歯学士会日本部会会員
WHO日本協会会員

日本口腔衛生学会認定医

鹿児島大学医学部非常動講師

鹿児島県小児保健学会会員

全国禁煙・分煙推進協議会会長

日本禁煙推進医師歯科医師連盟 運営委員

日本小児歯科学会認定医

タバコの害を考える会・鹿児島会長

鹿児島県禁煙支援研究会 代表世話人

著書

1.「Dental Terminology(歯学辞典)」(分担執筆)市来英雄他 482P 医歯薬出版1968

2.「砂糖とむし歯」(単行本)(建設時報社、自費)1976

3.「スーパー・オーラル号の大冒険」(SFむし歯予防劇画)(大阪DEI社)1977

4.「海底に咲く花(短編)・砂糖とむし歯」(SF小説と啓蒙書・単行本)
南日本新聞
聞開発センター 328P 1978

5.「小学校・むし歯予防指導の手引き、付録(スライド集、トラペン集)」(共著)

鹿児島県教育委員会  市来英雄他 108P  1978

6.「海底に咲く花」(長編SF小説)(単行本)渕上印刷 318P  1979

7.「中学校・むし歯予防指導の手引き、付録(スライド集、トラペン集)』(共著)

鹿児島県教育委員会 市来英雄他: 75P  1960

8.1983年「ミュータン旅へ行く」(絵本)財・口腔保健協会 40P  1986

9.「タバコの恐怖(臨床医は訴える)」(単行本)日本医療企画社 196P  1986

10.「ミュータン旅へ行く2」(絵本)財・口腔保健協会 40P  198911

12.「わらわないでね(なおみちゃんのハミガキものがたり)」
(絵本)
福音社 51p  1989

13.「歯の聖女アポローニア」(絵本)財・口腔保健協会 26p  1989

14.「歯の神さあ」(絵本)財・口腔保健協会 20P  1990

15.「フレッチャーさんの大発見」(絵本)医歯薬出版株式会社
(日本図書館協会推
薦図書)25P  1991

16.「歯周病経営」(分担執筆)市来英雄他 日本医療文化センター 128P   1991

17.「歯の妖精と小人たち」(絵本)財・口腔保健協会 32P  1992

18.「母の贈り物」(絵本)財・口腔保健協会 18P  1992

19.「成功する歯科医師(インフォームド・コンセントの実践)」(単行本)
医歯薬出版株
式会社 229P  1993

20.「ブレン神父の奇跡」(絵本)財・口腔保健協会 28P  1993

21.「ミュータン旅へ行く3」(絵木)財・口腔保健協会 53P  1995

22.「親の責任・子供の虫歯(頭のよくなる歯の話)」(単行本)主婦の友社192P 1995

23.「吸う人と吸わない人のたばこ病」(分担執筆 単行本)実践者 148P  1998

24.「ロバに入れ歯を贈った歯医者さん」(絵本)クインテッセンス社36P 1999

25.「虫歯をキック!なぞなぞ山のフッソマン」(絵本・共著)砂書房 30P 1999

26.「ニコチン中毒ところかまわず」(単行本・共著)葉文館出版 145P 2000

28.「歯の話(デンタル博士の歯のことが何でもわかる本)」南日本新聞社(単行本・共著)230P 2000年
28.「合わない入れ歯はボケるもと」(単行本)砂書房 213P 200012
29.「歯科医院からはじめる禁煙支援」(分担執筆 執筆者代表)クインテッセンス社 別冊「歯科衛生士」82P 200211


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