(虫歯や歯周病にならないで、頭も良くなる方法を教えます)
秘伝「かむ健康術」その5

著者 市来英雄



@ 歯は「おいしさ」を感じる器官
入れ歯では。おいしさはわからない

私たちのほとんどは、ものを食べて味がわかり、おいしいと感じるのは舌だと思っています。

学校でも、舌にある味蕾というものは味を判別すると習ってきました。

はたして舌の表面に散在する味蕾だけが、味を感知するのでしょうか。

ずっと以前から学校教育では、舌の先は甘みをよく感じ、塩味や酸味は舌の両脇で感じやすいという

90年前にドイツの生理学者キソーが唱えた理論を教えてきました。

しかし最近、舌の神経繊維をマヒさせた実験結果により、甘みを一番良く感じるのは上あごであることが証明されました。

さて、「おいしい」ということにはいろいろなファクターがかかわりあっています。

では、そのおいしいとは、どういうことをいうのでしょうか。

おいしいというのは、食べ物を口に入れたときから始まり、食道を通過していくまでに感じる総合感覚です。

またこれは、人間の主観的なものでもあります。

おいしいとは、基本の味(甘み、酸味、塩味、苦み、うま味)をもとに、身体の五感(視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚)や、

身体をとり巻く外部の環境、食環境及び身体の健康度、心理状態も関連していて、最終的には大脳で感じる感覚です。

まずは、食卓に並べられた食べ物を、思わず唾液が出るような「おいしい」という目で見る、

あるいは、おいしそうに調理工夫して演出されたものを見ます。

そうすることによって、脳の後頭葉の視覚野(見たものを感じる場所)が働き出します。

次に、鼻でおいしそうなにおいをかぎ、鼻の中のにおい感覚が感知すると、脳の中の嗅覚野(においを感じる場所)が働き出します。

さらに、食べ物を口の中に入れて歯で噛むと、味覚野(味を感じる場所)も働きだします。

箸を使うと、手の運動をつかさどる運動野も働くし、さらには一家だんらんの楽しい語らいがあれば、

聴覚野(聴覚を感じる場所)も働き出します。そして脳には、瞑想するときや快い気分のときに出てくるα波も生まれてきます。

これらのさまざまな働きが同時に開始されることによって、頭の血流量は飛躍的に増加してきます。

要するに「おいしい」ということは、人間の、口の中の感覚器官を総動員して

脳の各分野で得られたデータを総合して作り出された感覚であるといえます。

また、おいしさの程度は、食べ物が口の中に入ってきたときの温度の差によっても違うし、

食べ物の歯ざわり、かたさ、粘稠度、ほおや唇、歯ぐきなどの粘膜に対する感触によっても違います。

さらに、味覚器官である舌の味蕾が汚れた状態(舌苔でおおわれたり、タバコのヤニなどがまとわりついた)でなく、

研ぎ澄まされているかどうかによってもおいしさの程度が違ってきます。そういうことから、

タバコを吸う料理人がいる飲食店に行くのは避けたほうが良いでしょう。

それは、おいしいかどうかの味覚も、おいしい料理を作る環境も整っていないからです。

以上の総合的な感覚が快感をもたらしてくれるような食べ物が、あるいは食べ方がおいしいということです。

ところで、おいしくいただく行為の中で、歯は最も重要な存在です。

歯は、噛んでいる場所、温度、かたさ、粘稠度、歯ざわりなどの「おいしさ感覚」の重要な担い手といってもよいでしょう。

不幸にも、むし歯や歯周病で歯が抜けてしまったら、おいしさを感じる感覚のほとんどが失われることになってしまいます。

歯を支えている骨、つまり歯が植わっている歯槽骨と歯の根の表面には、歯根膜というものがあります。この歯根膜は、おいしさ感覚器官であるといえるほど非常に大事な機能を備えています。

歯を抜くということは、この歯根膜も同時にとり去るということになります。この歯根膜の「おいしさ」に貢献する威力は大きいのです。食べ物がかたいかやわらかいか、粘りがあるかサラッとしているか、冷たいか温かいか、歯ざわりがよいか悪いか、すべての感覚を確実に知らせてくれるからです。

入れ歯では食べ物の味が著しく減退するのはもちろんのことです。

歯を多く失って、上あごを広くふさぐような入れ歯を入れるようになった場合、

前にも述べたように、特に甘みは上あごでも感じますから、食べ物がおいしいと感じる感覚は非常に鈍くなります。

そのため甘みの感覚を高めようとして甘い物の摂取量が増加するようになります。

入れ歯を入れた高齢者が、急に甘い物好きになり、甘いものを喜ぶというのは、以上のような理由からきているとも考えられます。

タバコを吸う人は、タバコに含まれているニコチンや有害な多くの科学物質(タバコには約4,000種類の化学物質が含まれていて、

その中で約200種類が人体に有害物質であり、約40種類が発ガン物質である)によって、

味蕾の働きが鈍くなっているので、食物の微妙な味が分からなくなっています。

また同時に、においをかぐ鼻の働きも、タバコの強いにおいや有害物質の働きで鈍っているので、

かすかないいにおいなどもわからなくなっています。

タバコをやめれば鼻の働きは回復し、味蕾の働きも正常になります。

そうすると食べ物の味が良くわかるようになって、本物のおいしさを感じるようになります。

タバコを止めた人はよく、「野菜にはこんなにいろいろなおいしい味があったのか、いままで全く知らなかった」と言います。

また、味覚の感覚受容器といわれる肝心の味蕾に、細菌がまつわりついていたら、おいしさの感知能力は極端に減退してしまいます。

その無数に集まったり増殖したりした細菌は、白や褐色になっているので、鏡で見てみるとよくわかります。

これを専門語では舌苔といいます。

この舌苔をとり去ると食べ物の味が違ってきて、驚くほどおいしくなります。

また、口の中で口臭を発生する最大の場所は舌苔といわれていますので、舌を清掃することで口臭もなくなります。

この舌苔を掃除するために鎌倉時代から「舌みがき」という方法がありました。「ベロこき」とも言っていましたし、

その呼び名をそのままとって、舌を掃除するための「ベロこき」と呼ばれる専用の道具も昔は売られていました。

最近また、そのベロこきが復活してきました。


A パーリパリのポーリポリ
歯ざわりの味覚 音の味覚文化


「咬む」「噛む」ということは、カジルという意味です。それは骨などの硬い食べ物をカジルというところからきています。

味を噛みしめるということは、あごと歯にとっても非常に意味深い言葉でもあります。

さて、豚骨(とんこつ)料理は、元は薩摩での上流武士の子弟たちの料理だったといわれています。

逃げる黒豚の頭を一刀で切るのは、腕に覚えのある剣術師範の息子の役割でした。

往生した豚を河原で解体して、肉は豚の代金と焼酎に変えてしまえば、残るのは毛の生えた皮と、肉の付いた骨。

それを青年武士たちは、黒砂糖と味噌で煮て、焼酎の飲ンカタ(飲み方・焼酎パーティ)で楽しんだといいます。

本物の豚骨料理とは、皮に少々毛が残っていて「毛がノドをこすらんと食った気がせんど

(毛がのどの粘膜をこすらないと食べている気がしないぞ)」といって食べていました。

また、彼らは、「骨付っの肉をコリンコリン、バリンバリンかじらんと食った気がせんど

(骨付きの肉を、コリコリ、バリバリかじらないことには食べている気がしないぞ)」

と言いながらトン骨料理を楽しんだといいます

(『日本人の味覚』近藤弘著・中公新書)。

魚では、アラやカツオのビンタ(頭部)を三つか四つにぶち割って大鍋にほうり込み、

巨大な目が鍋の中で白くなる頃がビンタ料理の食べ頃であると知っていました。

魚の目の玉は、「元気になっど(元気になる)」といって先を争って奪いかじりました。

目玉は特にカルシウムの固まりでもあり、それをとり巻く目の回りの、ゼリー状の油肉は、

脳の栄養素として現在人気のあるDHA(ドコサヘキサエン酸 )の含有量も多いのです。

上級武士の子弟たちは、それをすばらしい栄養源とは知らずに大いに摂取していたのでした。

味覚文化の一つ、“食音”の代表として噺家(はなしか)が話す八っつぁんと熊さんの話に、

「たくわんポーリポリのパーリパリ、パーリパリーのポーリポリー」と、お嫁さんと食事している風景がよく出てきます。

さらにまた、日本人には、お茶漬やうどん、そば、そうめんを食べるときには音をたてて食べる習慣があります。

欧米人は、食事中音をたてることを粗野だと批判しますが、日本人は音を立てて食べないと食べた気がしないし、

音をたてることを、むしろ、おいしいということの現れだと見ます。

薩摩名物の冷や汁にしても、夏に全国で食べられる冷やぞうめんにしても、

食べるときには、一気に口の中に吸い込む「ズッ」という勢いのある音と、

冷えたそうめんをのどに流し込むときののど越しの涼感と楽しみを味わうものです。

とろろ汁、せんべい、塩豆、落花生、ラッキョウ、また山川漬をはじめ、多くの漬物も、

ガリガリ、コリコリ、カリカリという音こそ味の決め手です。

若い人たちに流行して、喫茶店やレストランで人気をさらったデザートに“ナタ・デ・ココ”というものがあります。

これは、ココナッツ(ヤシの実)のしぼり汁を、ナタ菌というもので発酵させ固めたもので、

小型の角砂糖状に切ったものが一般的です。

私もすぐデパートに買いに行って試してみました。

それは頭の骨の底までも応えるような異様な響きを感じさせるとともに、

何とも言えないコリコリとした歯ざわり噛みごたえがあっておもしろいと思いました。

ナタ・デ・ココはフイリッピンやタイ、ベトナムなどの食卓には欠かせないものだそうで、

イカの刺し身を食べているような噛みごたえがあります。

低カロリーで食物繊維を多く含むといいます。

珍しもの好きの若者や、健康志向の強い主婦に流行しているデザートです。

日本ではこのような食物繊維の多い食品にさつまいもがあります(さらに、さつまいもが健康によい理由を追加するとしたら、

さつまいもの糖質は小腸から吸収しにくいので、太りにくいということです(その次に吸収しにくいものはお米です)。

さつまいもは、まさに日本人向の食べ物です。

ふかしたさつまいもには、噛むときの音感はありませんが、サツマイモを、四角いはしのように切って

油で揚げた鹿児島県独特のカリントウは、カリッ、カリッという音がします。

ガリガリと骨をかじり、ガリッと木の実をかみ砕く感触は、狩猟・採集時代の縄文人にとっては、

うまさと同時に「今生きている」という生きる喜び、つまり生命の実感であったと思われます。

それが脳の奥深くにインプットされて、現代人にまで引き継がれているのでしょう。

日本人にとって噛みごたえ、歯ざわり、食音は、おいしい味覚の一つとして重要なものであるし、

今後も、食文化の一つとして残していきたいものです。

しかし、欧米化しつつある現在の食生活を見ると、日本人はしだいに、この歯ざわりや食音を失いかけているように思えます。

音を立てないで食べるマナーが良しとされる欧米主導の文化の中で、

音を楽しみながらよく噛みしめて食べる食品は減少しつつあります。

また良く噛んで食べられない子供たちの増加により、何千年もかかって私たちに引き継がれてきた「食音文化」が

しだいにすたれ去っていくのではなかろうかと案じるのは私一人だけでしょうか。


B 「琉球が遠か(遠い)料理じゃが」
子どもの砂糖好きは母親の責任

黒砂糖が薬と考えられて日本に渡来したのは、1200年ほど前の平安時代だといいます。

江戸時代になると、中国やオランダ船が運んできた白砂糖と奄美大島や沖縄で作られた黒砂糖は、いったん大阪に集められました。

 そこで取引を行っていたのは薬種問屋でした。

その後、幕府の保護奨励でサトウキビの栽培が盛んとなっていきました。

大阪の薬種問屋では、本業の薬よりも実入りの良い砂糖の取引のほうが盛んとなり、それが専業化して砂糖問屋となりました。

砂糖はしだいに高貴な人達や(前述のように、徳川14代の家茂は非常な甘党だった)金持ちの間で消費が拡大していきました。

そのため販売するほうには莫大な利益をもたらせたのでした。

薩摩藩では明治維新まで、黒砂糖は藩の大事な財源として命よりも大事に保護されていました。

藩の上役、上流階級でもなめるのがせいぜいでした。

もしも作る者が、少しでもかすめたり味わったりすれば、もちろん打ち首ものでした。

江戸でも最初、庶民の間では黒砂糖は貴重品として扱われ、料理に使うなどはもってのほかでしたが、

時がたって豊富に出回りだすと、庶民の中ではぼつぼつ料理に使いだす者も出てきました。

砂糖が本格的に料理に使われて日本料理が甘くなったのは、明治時代に入ってからです。

すき焼きが流行し、黒砂糖、半精製の砂糖をつぎ込んだ料理が普及しました。

しかし、それがエスカレートして、料理の良し悪しは、砂糖を幾ら使ったかで決まるようになってしまいました。

第2次大戦中は、砂糖は統制品となって日本の家庭から姿を消し、

戦後しばらくの間もヤミで入手するほどの貴重品で、庶民はなかなか口にすることができませんでした。

当時の子供たちは、アメリカ駐留兵が投げ与えるチョコレートやチューインガムに,嬉々として駆け寄ったものでした。

昭和25年頃、精糖業が花形産業として登場して以来、精糖法は進み、なぜか甘み一本をめざしての精製が盛んになりました。

砂糖は(原料はさとうきびや甘薯から精製して作られるが、本名は蔗糖と呼ばれるもの)ビタミンやミネラルなどの栄養素を抜かれた、

甘み100%に近い純甘み料という性質を強めて家庭に普及しました。

砂糖は、いわば純度の高い甘み薬品と化したのです。

特に薩摩の国、鹿児島では、砂糖に対して非常に「甘い風土」が出来上がりました。

なぜかというと、以前はなめることも許されない、もし違反をするならば打ち首ものであった砂糖が、

高価ではあるが、ようやく庶民の手に入るようになったのでした。

いきおい砂糖を使った料理は、鹿児島の人々にとって最高のごちそうとなったわけです。

しかし、砂糖を使った料理がいつも食べられるわけではなく、

来客の折や特別の日に(鹿児島弁で“はれの日”と言う)出すような最高のごちそうにかぎられていました。

鹿児島には今も、その甘い風土が残っていて、どうしても甘さから抜けきれないでいます。

その証拠として、鹿児島県で販売されるメーカーのしょうゆや調味料、めんつゆなどは、

わざわざ「九州風、甘口」として店頭に並びます。そうしないと地元ではよく売れないからです。

また、鹿児島以外の県から訪れた人は「鹿児島県の料理や土産物のさつま揚げは甘すぎる」とか、

「汽車弁もおかずが甘すぎるので、おかずは食べずにご飯だけをいただいた」と苦情をいいます。

しかし鹿児島の人は、今でも砂糖の足りない料理のことを「琉球が遠か料理じゃが」などと言ってけなします。

これも薩摩時代の政策の名残です。

砂糖を使った甘い料理は、今風に言えば鹿児島県民の“グルメ食”でもありました。

もう一つ、鹿児島の食品が甘すぎるのは、冷蔵庫のなかった時代に保存料・防腐剤として豊富に塩が使われましたが、

塩味を薄めるために砂糖が使われたためといわれています。

砂糖と健康との関係について考えてみましょう。

白砂糖(蔗糖)は水に溶けると粘る性質をもっています。

砂糖をとりすぎると、この性質が体液の流れを悪くし、しかも、血液をペーハー7.0以下の酸性(血液は、もともと弱アルカリ性でペーハー7.3前後)にします。この症状をアチドーシス(酸血症)と呼びますが、この血液の酸性を中和するためには血液中のカルシウムが多量に消費されることになります。

同時に体内では、砂糖がエネルギーに変わるとき、多量のビタミンB1が消費され失われます。

ビタミンB1は、蔗糖が分解してエネルギー化するのに必要なビタミンで食品から摂取しにくいのです。

カルシウムもビタミンB1も健康上欠乏しては困る必須栄養素ですから、甘いものを食べるときには、

同時にカルシウムやビタミンB1の多い食品(牛乳、魚、豚肉など)を食べるように心がけることがたいせつです。

ここに、ビタミンB1の欠乏症についておもしろい実験があるので紹介しましょう。

アメリカのある女子大学で、学生全員を寮に入れ、料理のときに特に熱を加えるなどしてビタミンB1を壊し、

B1がほとんど含まれないようにした食事を毎日出しました。

1カ月目は女子大生の体調には変化はありませんでした。

しかし2カ月目からぼつぼつ症状があらわれだしました。

それは、成績が上であった生徒が、簡単な試験でも成績が下がりだしたことでした。

さらに、予習、復習をよくやってきた学生に落ち着きがなくなり、勉強も身に入らなくなってしまいました。

また、数時間の読書でも平気だった生徒が、1ページ読むと飽きて机から離れるようになりました。

記憶力も落ち、なんとなくイライラするようになってしまいました。

3カ月目。彼女たちの感情は激化して、ささいなことでもケンカするようになりました。

寮内だけでなく、道路上でも女子学生が容易にケンカするようになったといいます。

砂糖のとりすぎでもビタミンB1は多量に消費され、欠乏するので、ほぼ以上のような結果を招くことになります。

さらに悪いことには、砂糖は、全身病やむし歯発生との関連性が大きく、その元凶の一つになっていることです。

人間医学会会長 大浦孝秋医師は、『白砂糖の害は恐ろしい』という著書の中で、

「サトウキビ、サトウダイコンを搾り汁にしたては黒砂糖と呼ばれるが、黒砂糖のうちは、

その中にビタミンやミネラルを豊富に含んでおり、少量を用いれば栄養となる。

ところが精製して純度を高くしていくと、もはや食品とはいえない“薬品”となってくる。

それが全身の毒となって数々の副作用をもたらす。

そして人間の生命は加速度的にむしばまれていく。

むし歯、近視、ノイローゼ、精神不安定、胃弱、アレルギー体質は砂糖の過食で、

身体からカルシウムとビタミンB1が奪い去られた結果であり、

動脈硬化、高血圧、がん、糖尿病などが白砂糖の多食で起こると医師たちも認めている。

砂糖消費量が文化のバロメータであるというのは過去の遺物になった・・・」と、白砂糖の害を広く世論に訴え続けています。

白砂糖のとりすぎは酸血症を起こし、骨や歯にカルシウムが行き届かなくなってもろくなります。

そのために容易にむし歯ができたり骨折を起こしたりするようになったり、

あるいは骨の密度が粗になる骨粗鬆症(骨がスカスカになる病気)までも引き起こします。

では、さとうきびのしぼりたてで作られた黒砂糖のほうはどうなのでしょうか。

黒砂糖は、ミネラルもビタミンも植物特有の有益な物質もそのまま豊富に保存されています。まさに自然食といえます。

体にとって有益なことばかりです。

例えば、さとうきびの茎に含まれているオクタコサノールという含有物質は、悪い方の(悪玉)コレステロールを減らして、

よいほうの(善玉)コレステロール増やしてくれる働きがあります。

またオクタコサノールは、脂質代謝能力を向させることによって中性脂肪も抑制してくれますし、

さらに、血液もさらさらになり血管の中を流れやすくしてくれます。

また、黒砂糖に含まれているいろいろなミネラルも、早期によい状態で体に吸収されて潤滑油の働き、

制菌作用もあるし骨や歯を丈夫にする働きもしてくれます。

ですから、料理に甘みが必要なのであれば、黒砂糖をじょうずに使った方がよいのです。

話はもとにもどりますが、白砂糖の糖質は、歯のへこみやすき間に残って、

むし歯の原因となる連鎖球菌を大発生させる栄養源となったり、連鎖球菌の出す酵素で分解されたりして

超短時間でねばねばした水や唾液に溶けにくいデキシトランという物質に変化し、歯にべったりとくっつくようになります。

さらに、このデキシトランの中に連鎖球菌などの細菌が入り込み、それを栄養源として食べながら増殖していきます。

デキシトランの中側に入り込んだ連鎖球菌、乳酸桿菌(乳酸を作る細菌は口の中に6種類)などの出す酵素の働きで乳酸が作られ、だんだんと酸濃度は濃くなって歯のカルシウムが溶解していきます。

これがむし歯のできる大きなメカニズムです。

しかし、これらのメカニズムが解明されたために、最近では、連鎖球菌の酵素の作用で歯に害になる変化が起きないようにと、前もって白砂糖の分子の連鎖構造を変えたり、他の代替甘み料を使ったり、添加された酵素であらかじめデキシトランを溶解させたり、歯に優しいさまざまな試みがされています。

現在それらを使った製品が多く店頭に並んできています。

業者はそのような新製品を「むし歯ができない甘み使用」のキャッチフレーズで宣伝し、販売合戦を行っています。

以下の点からみて本当にやりすぎだと思っています。

宣伝合戦に乗った子どもたちは、そういうものをむやみに与えられることによって満腹感を覚え、

肝心の3度の食事への食欲を失うことになります。

家庭では、小さいときから子どもを“甘いもの好き”に育てたり、

“甘いものはおいしい”というイメージを植え付けるような育てをしたりせず、

野菜でも魚でも、バランスよく、なんでも好き嫌いなく食べられるように育てなければなりません。

国立健康栄養研究所、食品成分生理研究室の池上幸江室長は、『子供の食事は毎日が学習課程』と題して

次のようなコメントを出しています。

「食品のバラエティに富む食生活をすることにより、子どもは新しい食品に対してばかりではなく、

食生活以外の面においても意欲的になります。いわゆる偏食の多い子どもでは、

なにごとも消極的であることはよく体験するところです。

離乳期から3歳位までの食生活によって、ほぼ子どもの食べる力が作られ、それ以降では、もはや手遅れであるといわれています。

また、この時期に作られた食習慣が一生の食のパターンを形成するといっても言いすぎではありません。

いわば、一生の健康が決まるということになれば、おとなの責任はきわめて大きいことになります」と。

また、両親あるいは幼児と一番付き合いの長い母親が甘党であると、

両親がよほどしっかりしなければ幼児の食習慣にもろに影響を与えて、結局、幼児期に子どもを甘党にしてしまうことになります。

親の責任は重大です。



C 果たして代替甘味料は歯にとって良いものか?
最近、有名になっているキシリトールの効用は

砂糖のことについては、前にも詳しく述べましたが、砂糖は、製造技術の進歩とともに甘み物質の代表として利用されてきました。

しかし、近年、むし歯が発生するという問題などのために、砂糖に変わる甘み料が続々と開発されています。

現在は、約40種類の代用甘み料が実用化され、菓子類、各種飲料をはじめとする食料品、医薬品、歯みがき剤などに利用されています。

代用甘み料には、多かれ少なかれカロリーがある糖質系と、カロリーのない非糖質系があります。

糖質系にはデンプンなどの農産物を原料にした単糖類、オリゴ糖類、糖アルコール類があります。

また、非糖質系には天然系と合成系、アミノ酸系があります。

むし歯と甘み料の関連性は


これらの代用甘み料を使うときには、砂糖と違って、次の点に気をつけて使うべきです。

@低カロリーのものでも多量にとれば高カロリーになってしまう。

A糖アルコールを一度に多量にとれば下痢することがある。

Bすべての代用甘み料が、まったくむし歯にならないわけではない。

C調理に使うと甘さが減退するものがある

D 料金が割高で、百パーセントこれだけを使って生活できない。

E砂糖やいろいろのむし歯を発生させる甘み料が混ぜてあるものがある。

F砂糖含有が基準値以下(100ミリリットル中0.5グラム)であつたら製品にはノンシュガーと表示できる。

消費者は砂糖が全く入っていないという錯覚に陥りやすい。

G原材料が砂糖を含んでいても加工段階で砂糖を加えなければ

「砂糖不使用」と表示ができるので、砂糖が全く入っていないという錯覚に陥りやすい。

種類

甘味度

カロリー(kcal/g)

キシリトール

100

3

エリスリトール

80

0

ソルビトール

60

3

マンニトール

40~50

2

マルチトール

80

2

ラクチトール

35

2

糖質系甘味料

100

4~5

最近、むし歯を作らず、むしろ予防してくれるということでテレビなどの宣伝とそれを使った

キシリトールの製品が店頭にぞくぞくと登場しています。

私たちは、マスメディアの宣伝に乗せられて、右習えというように、“誰でも彼でもキシリトール”の風潮があります。

果たして、キシリトールは子どもに食べさせるほどの価値、
それまでして食べさせなければならないのかというような疑問がわいてきます。

集会などで、その疑問について相談をしてきた母親などに、私は以下のように話しています。

「まずは、“子どもを甘党にしない”ことが大原則です。何でも食べられる子どもに育てましょう。

そのように育てれば、キシリトールなどの甘み料を常用しないで良いのです。

むし歯の予防のために、糖分をひかえる甘み制限ということが第一とされた時期もありました。

しかし,子どもの生活環境において糖分をストップさせたり制限させたりすることは容易ではありません。

特に食生活が豊かになっている現在、甘い味なくして食欲も情緒も満たすことは難しいのです。

しかし、与えすぎで甘党にしてしまったら歯だけではなく,全身の健康までも危うくしてしまいます。

もし与えるとしたら、なるべくむし歯になりにくい甘み料で作られているものを選択すべきです。

さて、いま、むし歯を予防するという触れ込みで世間をにぎわしているキシリトール入りという製品が出回っています。

キシリトールの効果は、これをとり続けることでむし歯発生の原因となる歯垢の形成が抑えられた

(他の糖アルコールで出来ている甘味料も全てですが)というデータを基にしています。

そこで、今回、キシリトールもむし歯予防の効果が望めるのではなかろうかということで世間一般に紹介されたのでした。

このような考えでは、従来から発売されてきた多くの非う触誘発性(むし歯を起こす力がない)甘み料と何ら変わりありません。

それは、ただキシリトールが、この非う触性のある糖アルコールの仲間入りしただけのことです。

従来から発売されていたこれらの甘み料に比べてキシリトールだけが、むし歯を起こさない力が特段に高いわけではありません。

また、このキシリトールを利用してむし歯を予防する方法は、現在の日本の実情にあうかどうかの疑問が残ります。

それは、多くの歯科医師会は昭和49年頃から子供を甘い物好きに育てないというスローガンを基にいろいろと努力してきています。キシリトール製品で、またわざわざ甘い物好きに育て、キシリトール製品だけを食べさせようとしても、

多くの食品にはすでにむし歯を発生させる可能性のある甘み料が多く使われています。
家庭でのキシリトール100%の実現は不可能なことです。

それは、ほとんどの甘み食品には歯垢発生や酸発酵性のある砂糖などがまだ多く使われています。

むし歯発生を抑えるキシリトール百パーセントだけの生活は不可能なことです。

また、「キシリトール入り○○%」と表示してあっても、それ以外は砂糖が入っているお菓子があります。

はたして、日本の以上のような、「甘味制限的運動」が日本の子どもたちの、むし歯の発生を大いに抑えてくれたのでしょうか。

その答えは“Noノー”としか言えません。むし歯は年々増加していきました。

キシリトールの発祥地のフィンランドでは、まず、国をあげてのむし歯予防対策にはフッ素の科学的な応用から始まりました。

フッ素の応用は、フィンランドの子どもたちのむし歯ははみるみるうちに減少しました。

それは多大な成果だつたのです。そして、そのずっと後にキシリトールが出てきたのでした。

さて、国をあげて(公衆衛生的な手段)のフッ素の応用がとても遅れている日本で、

ただキシリトールだけを注目しても十分に良い成果が得られないということはだれでも理解できることです。

しかも、甘味食品だけに偏った生活は、歯だけではなく全身の健康までにも悪影響が現れます。

また、これを扱っている“売らんがな”業者の宣伝合戦があまりにも激化しています。

現在、日本の歯科医師や研究者のなかでも、キシリトールに関して慎重論が多く出ています。 

また、キシリトールをとりすぎると下痢の原因になると栄養士会も警告しています。

もし、どうしてもキシリトールに興味があるというかたがおられたら、一度、歯科医院を訪ねて歯科医師か予防の専門家の歯科衛生士により食べる量などの指導を受けたほうが良いと思います」と。

前にも話しましたが、フィンランドでは、ずっと以前から国を上げてフッ素の応用をしていて、

その後にキシリトールを併用するようになりました。

そのキシリトールは糖アルコール性のむし歯の原因にならない甘み料であることは先にも述べました。 


              フィンランドのむし歯予防はキシリトールだけでなかった
                           
(ヘルシンキ大学 北村雅保先生の報告から)

     北欧福祉国家フィンランドは、公衆衛生施策として歯科保健に取組んだ結果、う蝕(むし歯)罹患を激減させることに成功し、
        1990年代初頭には先進国で小児のむし歯の最も少ない国(12歳児のDMFT指数1.2)として知られるようになりました。

              我が日本でも1997年に、キシリトールが食品添加物としての認可を受け、またたく間にチューインガム等の
               キシリトール製品が普及していきましたが、同時に、「過大な宣伝」もあり、
           フィンランドのう蝕予防はあたかもキシリトールだけで成功したかのような誤解が見受けられています。

         例えば、日本のテレビ宣伝では、フィンランドでは夜寝る前にキシリトールのガムを噛むことが習慣である
                         といった広告がありました。
          しかし、現在私が在籍しているヘルシンキ大学歯学部口腔衛生学講座の教官は、このような話題を認識してはいません。

    
                  
フッ素の入った歯みがき剤を用いてブラッシングを行ったらすぐに寝ることが口腔内に残留した微量の
                   フッ化物を就寝中にも停滞させておくために重要と考えられています。

                          キシリトールはう蝕にならないガムとの宣伝とはいえ、ブラッシング後にガムを噛んで
               口腔内のフッ化物を唾液で洗い流すようなことは勧められないという見解は納得できます。 

                   う蝕予防においてキシリトールが効果的に活用されていることは既知の事実ですが、
          一方でフッ化物の積極的な応用が広範に行われたフィンランドの成果であることが見過ごされているようです。
           実際には、フィンランドではフッ素の入った歯みがき剤の市場占有率が20年以上前から既に98〜99%であり、
                フィンランド歯科医師会は毎日2回はこれを利用することを推薦する声明を出しています。
           フッ化物洗口液も、フッ素錠も、数種類の製品がはみがき剤と同様に薬局や商店で販売されていて、
                       処方箋・指示書なしでの入手が可能です。
                全身応用では現在水道水のフッ化物濃度調整が実施されてはいないものの、
           国の南東部や南西部に天然水のフッ化物を利用している地域が存在し、約20万人が居住しています。

         そこでの生後6ヶ月〜6歳児には必要に応じたフッ化物の錠剤が歯科医師の管理の下に無償で給付されています。
             最近当地での疫学調査の結果から、地下水中のフッ化物が急性心筋梗塞の発症に抑制的に作用している
                 可能性が示唆されましたことを、最後に付け加えたいと思います。
                    (Kousa  et a1:J Epidemiol Community Health, 58(2):136-139,2004)

             筆者の私も、2003年9月にヘルシンキで開催された「健康かたばこか世界会議」に参加しました。
             世界会議が終えてからの閉会後ツアーで、ロシアのSt.ステルスブルグに、世界会議に参加された
             世界からの医者、学者、教育者、政府の高官の方々と4台のバスを連ねて5日間の旅行に行きました。
              ツアーで、特に親しくなっていろいろと話をした方は、ヘルシンキの中学校の教師夫婦でした。
            実際、学校でのむし歯予防の方法は、上記のヘルシンキ大学北村雅保先生の報告と全く同じことでした。
             その学校のむし歯予防はキシリトールではありませんでした。フッ化物のむし歯予防が主流でした。

          ロシアツアーからヘルシンキに舞い戻り、ヘルシンキ空港から日本への飛行機に乗ることで飛行場に行きましたが、
               数ヶ所の売店などを見て回りましたが、店頭に幾種類も並べられているガムの中には、
                      キシリトール入りガムはほとんど見当たりませんでした。
             ハテなと思って、今度は免税店に入りました。するとキシリトールガムの販売コーナーがあり、
                日本語で「キシリトールガム。一箱○○円($5.50)」一包装に5個のガムが入りの、
                  一箱に30パック(全量195g)入ったものが積み重ねて売られていました。
                     きっと、日本人の旅行客に売るために用意されていたのでしょう。

        フィンランドの一般の方も買える空港の薬屋さんには、フッ素錠剤も売られていて、私もすぐに買え日本にお土産として
                     持ち帰りました。北村雅保先生が述べられているとおりでした。

            以上のことを考えても、キシリトール製品が、日本では誇大宣伝で売られていることが良く分かると思います。

  

一方、砂糖(蔗糖)はむし歯を多量に作ってしまうということも述べました。

ちなみに1990年の数カ国の、一人平均の年間砂糖消費量と、一人平均のむし歯の数を上げてみましょう。アメリカは、一年間に砂糖は一人あたり31.4Kg消費していますが、むし歯は12歳児で一人平均1.8本です。フィンランドでは、42.0Kgで、1.5本、オーストラリアは50.6Kgで、2.1本、日本は23.0Kg3.6本です。

以上の結果を知って,読者の皆様はいかが思いますか?

実は、日本以外の国では,国を上げて、むし歯の予防のためにフッ素を応用しているから砂糖の消費量には全く関係ないのです。つまり、昔から言われているように、砂糖の消費量とむし歯の相関関係は,フッ素応用の普及した国々においては存在しないのです。




D 丈夫な歯はカルシウム摂取の恩恵だけ?
高まるフッ素への期待と信頼


カルシウムは、人間が健康に生活していくために有益ないろいろの働きをして、陰から応援してくれています。

いわば縁の下の力持ちです。その恩恵は非常に大きくて、はかり知れません。

「かたい歯はカルシウムでできる」ということはだれでも知っています。

しかし、かたくて立派な歯が出来上がるためにはカルシウムのほかにいろいろな栄養素が必要です。

ここで、歯以外の全身的なカルシウムの働きとその恩恵をみてみることにしましょう。

カルシウムは、神経細胞が興奮して機能する際に必要です。

また体を動かすとき、脳の指令を受けて筋肉が収縮しますが、そのときにもカルシウムは重要な働きをしてくれています。

カルシウムが不足すると、神経が過敏になったり落ち着きがなくなったりします。

さらに、カルシウムは止血をするという重要な働きもあります。

つまり、出血した血液を凝固させるトロンボキナーゼという酵素の機能をカルシウムは高めてくれるからです。

最近注目を集めているのにプロテイン・キナーゼCPKC)という酵素があります。

PKCは脳に多量に存在して、長期の記憶や学習能力を高める重要な働きをしています。

体の動作などの刺激で神経伝達物質(アセチ−ルコリン)が働くと

ジアシル・グリセローズという物質が脳の細胞の中で作り出されます。

これができれば微量のカルシウムでもPKCが活性化されて記憶(長期の)や学習能力を高めてくれます。

さらにこのメカニズムの火付け役として働くのが、繊維芽細胞成長因子や自然の食物からとれるグルタミン酸であるといいます。

さて、食事をして血糖値が高くなると、脳で作られるその繊維芽細胞成長因子が脊髄液中に増加して普段の1000倍もの量になり、

それは食後2時間位でピークに達するといいます。

この因子などが記憶や学習能力を高める火付け役となり、学習したものがどんどん脳にインプットされていきます。

それを考えるならば、勉強をするのは食後2時間くらいが最適です。

しかし、今の子供たちには、食後まもなく勉強をしなければならないし、

血液中の血糖値を少しでも早く高めることを考えたほうがよいでしょう。

それには良く噛んで食べることです。

そして、できれば食後しばらくは家族でだんらんを楽しみ精神を休めることです。

よく噛むことによって、ごはんなどに含まれるデンプンなどが早くブドウ糖に変わり、

血液の中にとり込まれるので血糖値は早く高くなります。

そうなるとピークが少しでも早まり、そして学習すると最も良い結果が得られ、学んだものがスムーズに記憶されます。

それは,ご飯を食べて、ゆっくりくつろいでから1時間後にということになりましょうか。

カルシウムの99%は、骨の中にリン酸カルシウムとして蓄えられています。

血液中のカルシウムの量が少しでも不足すると、副腎皮質ホルモンが働いて、骨の中に貯蔵されていたカルシウムは、

すぐに血液中に必要なだけ溶け出てきます。

そのように毎日毎回、骨にカルシウムは出入りをしています。

そのため、血液や細胞中のカルシウム量が足りなくなることはありませんが、骨中のカルシウムが不足する可能性はあります。

使った分だけのカルシウムを外から補給しなければ、骨がもろくなっていきます。

カルシウムが食物といっしょに入ってくるとき、腸管からの吸収されるカルシウム量は体の需要に応じて調節されています。

摂取したカルシウムが体の中で十分に利用されるには、体を動かす、つまり運動することが必要です。

もともと、日本人の成人が1日に必要とする摂取量は600ミリグラムとされていますが、

体格が欧米なみになっている現在では8001000ミリグラム必要だと言う専門家もいます。

成長期に長期のカルシウム不足にあうと、骨や歯の発育が不良となります。

成長期には適量のカルシウムを摂取することが非常に大事なことです。

カルシウムが足りないからといって薬剤に頼る人がいますが、要は好き嫌いせずにバランスのれた食事を毎日心がければ

その必要量は自然に摂取できるはずです。

ところで骨は、絶えず生まれ変わり作られるし、カルシウムもおきかわりますが、

それに対して、歯は一度作られると生涯ほとんどそのままで再生されることはありません。

しかし、歯をとり巻く骨、つまり、歯の周りを支えいる骨(歯槽骨)は、他の骨と同様、

生まれ変わりもカルシウムの置き変わりもありますから、カルシウム不足では歯槽骨はいつでも弱くなってしまいます。

そのため細菌におかされやすくなったりして歯周病にかかり、しまいには歯はグラグラになって抜けてしまうことになります。

ただし、カルシウムが十分に補充されていても、それが有効に歯槽骨に蓄えられ歯をがっちりと支えるには、

運動、つまり噛むことがたいせつです。噛むことが少なかったり、噛む力が弱かったりすると、

その代謝機能は十分に発揮されずに歯槽骨は発育不良となるばかりでなく、歯ぐきの抵抗力も弱まってきます。

さて、甘いものは悪者扱いにされますが、カルシウムは骨や歯を丈夫にするので、

「カルシウムの多い食品をとり、歯を丈夫にしましょう」と善人扱いされます。

確かに、顎の骨の中で歯が作られているとき(歯に限って言えば、永久歯では妊娠3カ月くらいから中学生くらいまで)カルシウムの多い食品を努めてとることは良いことです。そして非常に大事なことです。

しかし、カルシウムをたくさんとったからといって、かたくて丈夫な歯がどんどん作られるというものではありません。反対に、たとえカルシウムが不足したとしても、一度生えてしまった歯が弱く悪くなったり、むし歯になりやすくなったりすることは決してありません。

たとえば、妊娠すると胎児から母親の歯のカルシウムが奪われて、歯の質が悪くなると思い込んでいる人がまだたくさんいます。これは迷信です。先ほども述べたように、いったんでき上がった歯からは決してカルシウムは奪われないのです。その科学的な裏づけは十分にあります。

昔から、煮干しや小魚はカルシウムが多いから歯に良い食品であると言われてきました。

カルシウムの多い食品にはかたいものが多いこと、歯のほとんどがカルシウムでできているために、カルシウムはかたいというイメージが何となく結びついて、カルシウムが歯によいと言われる

なったのかも知れません。

煮干しや小魚が歯に良いということはまちがいありませんが、これはカルシウムが多いからではなく、

同族の鉱物性栄養素つまりミネラルである、フッ素がたくさん含まれているからというのが正しいのです。

食べ物や飲み物の中には必ずといってよいほどフッ素が含まれています。

そして食べ物を食べたり飲んだりして体内に入ってきたフッ素は、必要量だけ身体の臓器の中に吸収され利用されますが、不要なものは24時間以内に排出されます。

ですから、フッ素なしでは人は生きてはいけません

成長期の子供では、体の発育や、強い骨や歯を作ることなどにフッ素は大いに利用されるために、不要なものとして排出される量は少なくなります

体内に沈着するフッ素の99%が主として骨格系に認められます。

フッ素は全身には、必須栄養素の鉄分に次いで、
多く含まれていて
42.8ppm( mgkg)が存在しています。

つまり、体重60kgの人には平均2.6gが存在しています。

ちなみに、骨のフッ素濃度は5001,000ppmで、歯は300600ppmを示しますが、腎臓を除いてほとんどが1ppm未満です(腎臓はフッ素が排出される尿含むので4.16ppmと多くなります)。ちなみに、私たちが日常お世話になっている飲料水中のフッ素の濃度は1ppm以下です。

特に近年、医学面でもフッ素は成人にとっても有益であるということが分かってきました。

骨粗鬆症の予防・抑制・治療に有効なものとして、諸外国では長期のフッ化ナトリウム投与療法がなされています。

最近のカナダの高齢者集団を対象にした研究で、ウォールタールー大学老化学フォーブス教授は、

飲料水中のフッ素がアルツハイマー痴呆症を予防してくれていること発表しました。(詳細は次項に述べます)。

丈夫でかたい、酸におかされない強い歯づくりには、どうしてもフッ素の力が必要です。

そのために、外国では56カ国が水道水に足らない分のフッ素を追加

(添加が開始されてから、もう55年もたっている国もある)したり、

また、水道水にフッ素が不必要に多量に含まれていたら、むし歯予防に効果がある最適な量になるように

取り除いたりするという、つまり、水道水フッ素コントロール(水道水フッ素濃度調整・管理)をすることをしています。

今年度から、中国のあちこちでも水道水フッ素化の事業がはじめられましたが、

中国の水道にはフッ素が多すぎる所も多数含まれていますから、それらのものはむし歯予防に有効になるまで減じるとともに、

少なすぎるところは追加するというように、水道水のフッ素の含有量をコントロールするという科学的な政策がとられるのです。

これが、水道水フッ素化という世界の常識であり、WHOも推奨している所以です。

そして、さらに38カ国の学童がフッ素の錠剤を毎日飲んだり、ドロップや食塩、

ミルクにフッ素を添加したのを摂取したりしてフッ素をむし歯予防のために利用しています。

そのフッ素の科学的な利用で、諸外国ではむし歯の発生が非常に効率よく抑えられています。

むし歯の多かった国が目に見えて成果をあげ、驚くほどにむし歯が減少し続けていることは前記のグラフからも分かります。

最近、日本でもフッ素への理解が高まり、学校では0.2%フッ化ナトリウム水で洗口したり、

家庭ではフッ素入りの歯磨き剤で歯を磨いたり、歯科医院や薬店で手に入れることができる

フッ素のスプレーを歯に吹きかけてむし歯予防をしている家庭も増加しています。

さて、一昔前の農産物は、自然環境の中で育てられました。

それが生育する間に、必須栄養素であるミネラルは大地から時間をかけながら吸収され、茎や葉、実や種子に蓄えられました。

人々はそれらを食べて自然のミネラルをバランスよく摂取し、体をなめらかに動かすための潤滑油としていました。

そのミネラルの中にはカルシウムやフッ素も含まれていました。

しかし、現代の農産物には、ミネラルやビタミンが不足するようになってしまいました。

というのは、食卓に並ぶほとんどの農産物は、季節を無視したハウス栽培などで促成を優先にして栽培されたものだからです。

商品価値と販売量を高まるがために大量の石油を使い、過剰に化学肥料を施した野菜や果物が出回っているのです。

また、人々はグルタミン酸や塩分の多い手軽な加工食品やスナックを食べすぎて、ミネラルやビタミンの摂取量も減ってきています。

明らかに人々は栄養不足状態になっています。このように、わが国の食体系は非常に危うくなってきています。

是非とも、国民の健康にかかわる農業政策の根本的な見直しが必要ではないでしょうか。

わが国の食体系が、現在、非常に危ういところに立たされていると言われているということは、

次の数値から的確に示してくれます。

それを、お金で換算するなら、国民が現在、「食」に支出する総額は、年間70兆円に達しているのに対して、

日本の農水産業の総産出額は12.4兆円に及ぶといいます。

それから出てくる差額の、57.6兆円はどこへ消えていっているお金なのでしょうか。

すなわちそれは、日本の食糧自給率は40%に満たず、それは先進国の中でも非常に低く,

食糧の大半を外国からの輸入に依存しているということで,外国へ消えていった莫大なお金です。

また、「飽食時代」を象徴するように、まだまだ食べられる食品が、いま次々に捨てられています。

1992年に京都市清掃局と京都大学環境保全センターが実施した,京都市の家庭内のごみ調査で、

「食べ残し」の量は,一世帯あたり250gだったといいます。

また、ある調査では、台所ごみの約4割が食べ残しで、そのうちの14%が手付かずであったということです。

それらの調査結果から,日本全体の家庭での食べ残しの量を計算してみるとしたら、1年間で約40万トンとなってしまいます。

そして、「飽食」の果てに自然発生している残飯などで25%が無駄になり、その総量は4千万トン以上と推計されているといいます。

これらのことは、消費者も同時に共犯者となって、見た目にもっと美しいものを,

もっとおいしいものをなどの希望をかなえてくれる生産者や販売者、そして輸入商社を育んできたことも反省しなければなりません。

現在、起こりベくして起こったわが国の、「飽食時代」ということも同時に、

消費者も問題意識を持って本来の「食」というものを真剣に考えてもらいたいと思っています。




E “汚れ学校”と、いじめられた学校が
全国保健優良校で4度目の表彰


むし歯予防にはフッ素の応用が最も優れた方法である」ということは先にも述べました。

その方法と種類には数多くありますが,“水道水フッ素化(水道水フッ素濃度調整法)”が最も優れています。

しかし、日本では水道水フッ素化(水道水フッ素濃度調整法)はいまだに実施されておりません。

そうであれば、本気にむし歯予防に取り組もうとしたら、次に推奨されているむし歯予防方法の“フッ素洗口”をせざるをえません。
フッ素洗口は、定期的に学校などの施設で集団的に応用する方法と、家庭内で、個人的に実行する2つの方法があります。

学校などで集団的に応用するフッ素洗口というこの予防法(公衆衛生的応用法)は、

水道水フッ素化が実施されていないスウェーデンなどの北欧諸国において,国が小学校で集団的に実施して大きな効果をあげました。

その後、1980年代にかけて世界中に広がりました。

わが国では、予防に熱心な歯科医師のいる地区では、フッ素洗口は小学校、幼稚園,保育園でとり入れられ実施されていて、

そこでも目を見張るような成果をあげています。

1998年3月現在では、全国で1934施設、約22万人の児童・生徒がフッ素洗口の恩恵に浴しています。

しかし残念なことに,全国レベルでは1.6%の普及率にすぎません。

さて、私も,フッ素洗口を実施している鹿児島市の城南小学校の歯科校医ですが、

城南小学校は、鹿児島県では最も早くフッ素洗口を開始した小学校です。

昭和48年に、私が城南小学校の歯科校医に就任したときに、生徒たちの口の中をのぞいてみて、

本当にびっくり驚いてしまったのでした。なんと、1人で20本もむし歯を持っている生徒がたくさんおりました。

これは、大変なことです。他の小学校と比べてむし歯は俄然多かったのです。

そして、生徒の口の中は、歯周病も多発生していて悲惨な状態でした。

周囲にある学校の生徒たちからは、学校の近くを通るたびに、

「汚れ学校、きたない学校城南小」と言われていつもいじめられていました。

私は、PTA、校区町内会、愛護会、生徒たちが参加する学校保健会の席上などで、

「むし歯も歯周病もこれだけに多ければ、生徒の全身の健康にも問題が起こっても何ら不思議ではない。いま解決しなければ大変な問題になる」と訴え続けました。

さっそく、このことが重点協議事項に発展して、「では、どうしたら子どもたちの歯を救えるか」

ということを全員で真剣に話し合うようになりました。

「健康は口から。口は健康の入り口だ。それではまず、子どもたちの歯を守ろう」と、

全校あげてむし歯の予防に取り組もうという気概が生まれました。

まず、生徒や父兄、母親たちと、毎週1回の、歯の知識から始まり,そして、むし歯予防の実際へと勉強会は発展していきました。

勉強会によって、口の中の疾病を予防するという心構えがしだいに浸透していって、

家庭、学校においてもそれらの取り組みがなされていきました。

しかし、後から聞いたことですが、このむし歯予防の取り組みにも一部の消極的な教師たちがいたそうです。彼らが職員会で話していたことは、「歯みがきは家庭の責任だ。学校にまでそのようなわずらわしいことを持ってきて欲しくないし、学校がむし歯予防に取り組むべきではない。私たちの仕事も増えてくるし、好ましくない。また、良い例が、学校には水道の蛇口が少ないので生徒がみんな一斉にするハミガキなんかできっこないし、ましてや、フッ素洗口というものを学校に持ち込むということは何事か!フッ素は危険だ。中止して欲しい」といったことだったのでした。

その反対意見も、生徒の健康を真剣に考える校長、教頭、熱心な養護教諭、その他の教師の熱意で打ち消されたということでした。

しばらくすると、生徒たちの歯や歯ぐきはみるみるうちにきれいになって、歯ぐきの腫れた生徒もほとんどいなくなりました。

フッ素洗口については、実際に多くの小学校で実施されている新潟県に、養護教諭がおもむき勉強もしてきました。

それを基に、城南小ではさらにフッ素の知識を増やし、器具も揃えて、とうとう51年の1月からフッ素洗口が開始されたのでした。

それは、週に一回、土曜日に一分間だけの0.2%フッ素水ブクブクウガイ、ただこれだけで良いことだったのです。

また、教室でフッ素洗口に要する時間はたったの10分間だけでした。

フッ素洗口の日には、欠かさず輪番制で母親が6人づつ手伝いに駆け付け、使ったコップや器具を洗って消毒したりしてくれました。

これも現在も続けられています。

毎週、フッ素洗口することで児童生徒たちは、「私たちはいつもむし歯予防をしているのだ。歯の健康のめにやっているのだ」というように、歯の保健意識が継続するとともに、全身へのあらゆる衛生観念にも結びついていきました。これも生徒たちのへの重要な教育の1つであったのでした。

波及効果はこればかりではありませんでした。生徒たちの努力で、校舎の廊下も教室までも清掃が行き届きピカピカに輝くようになってきました。効果は、さらに拡大して教育委員会にも及び、朽ちてきていた木造の古い校舎も、とうとう全部が新しい鉄筋の校舎に変えてくれたし、水道施設もたくさん増えて、
校舎の2階も、3階までも,

手洗いや口すすぎの蛇口がたくさん取り付けられました。

よその生徒からはいつも、意地悪で言われていた汚れ学校が、とうとう全国保健モデル校になりました。

しかも、全国表彰の栄誉も4回にわたって勝ち得たのでした。

生徒たちは今も、きれいな歯と,清潔な体、健全な精神で学校内を走り回っております。

 

年度

検査人員

罹患者総数

6年生の1人当たりむし歯数(DMFT)

城南小

昭和48(1973)年

960人

96.8%

  6.5本

城南小

昭和53(1978)

669

76.5%

2.4

城南小

昭和58(1983)

679

62.1%

1.83

城南小

昭和63(1988)

448

59.6%

1.70

城南小

平成 5(1993)

319

59.3%

1.50

城南小

平成10(1998)

255

49.3%

1.43

城南小

 平成12(2000)

 244

 41.9%

1.25

城南小

平成14 (2002)

244

36.5%

0.91

対照校

昭和58(1983)

156

86.6%

3.75

転入生

昭和58(1983)

30

100%

4.35

  














(*検査人員が減少しているのは、城南小学校は商業地に属しているために、全国都市部どこでも起こっているドーナッツ化現象で、生徒数は年々少なくなっているからです。
*対照校というのは給食後のハミガキは実施しているが、フッ素洗口はしていない学校のことです)

 

私が校医になった昭和48年には、生徒数は960  人で、96.8%の生徒がむし歯にかかっていて、

一人あたりの大人の歯(永久歯)はすでに6.5本も侵されていたのでした。

54年から城南小は12歳児のむし歯が約2本となり、 WHOの宣言(紀元2000年までに、12歳児、

つまり中学1年生から6年生あたりの年令でむし歯を3本以下にしよう)をもう突破できました。

図を参考にしながら城南小の経過を見ると、よく理解できると思いますが、

63年度の全校生徒の、1人あたりのむし歯の本数を平均してみますと、

なんと1.59本となりますし、平成10年度では1.43となり、むし歯にかかっている生徒49.3%となりました

(平成10年度の学校保健統計調査特報によれば、小学校の全国平均は82.1%)。

ですから、昭和48年度城南小学校の統計と比べて半分に減ったということになりました。

さて、フッ素洗口を実施して、効果の現れたかどうかがすぐに分かるのは、特に、前え歯を観察してみればよく分かります。

ということは、フッ素洗口の開始後3年もしたら前え歯のむし歯の発生は止まっていますから、

はっきりとその予防効果が知ることができるのです。

しかし、フッ素洗口をやっていても、城南小学校の定期検診で、前え歯にむし歯作っている生徒が見つかりました。

60年度は588名の中に4名の前歯のむし歯を持っている子供がいたのです。

これにははっきりとした理由があったのです。城南小学校は他の小学校に比べて、特に転入生、転校生が多い学校です。
実は、この4名の生徒は、まぎれもなく転入生だったのでした。

言い替えれば“転入生が稼いでくれたむし歯”だったのです。

ですから、検診の時、私は口の中を覗くだけで、「あなたは、どこの学校からきましたか?」と聞きます。

フッ素洗口をしていない学校からきた生徒はむし歯が多いし、

前歯にもむし歯ができていますから子供は口を見さえすれば分かるのです。

表で、フッ素洗口をしていない他の学校(対照校)での検診結果を参考にしてみてください。

いかにむし歯の発生が多いかが分かります。

ところで、むし歯予防をした結果、生徒たちが今まで出費していたむし歯の治療費は明らかに減少しました。

だれでも理解できるように、1本のむし歯を治療するに要する治療費を計算してみました。

平成5年度、城南小でむし歯を予防した時の全校生徒の要する治療費と、

むし歯予防がされていなかった昭和48年と比較計算してみました。

全校生徒1年間で、何と、833万4832円の節約ができたのです。

生徒1人当たりを計算しますと2万6128円の治療費の節約ができました。

ではフッ素洗口にどのぐらいの経費がかかったのか? それも考えないと?という疑問が当然出てきます。

児童一人当たりの経費、器具の破損補充費、薬品代を総て含めて、1年間に、たった100円の出費ですみます。

その中の薬品代は、1年間に30円もあればお釣りがでます。

昭和59年10月にも、青森県八戸市で開催されました全国歯科保健研究大会で全日本歯の良い学校として全国表彰を受け、

学校歯科保健推進モデル校にもなりました。これまでに全国表彰を受けたのは4度目です。

城南小学校の生徒は、むし歯が少ないし、歯が頑丈ですから、勉強にも熱が入り、賢く、礼儀正しくいろんな有利な点を備えています。

これからの国際社会の中で彼らは、きっと堂々と、世界の健康な一員として重要な役を担っていくことでしょう。




F ミネラルが不足の加工食品で
歯と骨の質がドンドン落ちている


私たちの健康には約20種類の元素(ミネラル=鉱物性栄養素)が必要です。

 その中で、微量でも人の体に不可欠な元素を「必須微量元素」といっています。

必須微量元素の中には意外な元素も含まれています。 たとえばクロムです。

 クロムといえば、一昔前、公害で問題となった六価クロムを思い出します。

しかしクロムは、実は人の血糖値を一定に維持するインシュリンの作用を助けるために微量のクロムが不可欠なのです。

亜鉛は、メッキ塗布作業などで大量に吸収すると中毒症状を起こしますが、母乳の中にも含まれています。

乳児は亜鉛が欠乏すると皮膚がかぶれたり、味覚の発達が悪くなったりするために、

現在は市販の人工乳にも微量の亜鉛が入れられています。

大人の味覚維持のためにもなくてはならない不可欠の元素です。

また、亜鉛は、体内に入ってくるカドミウムや水銀などの有害物質を抑える働きをしてくれてもいます。

現代は欧米化した食事と加工食品のとりすぎで、自然の農産物や魚介類などから摂取できる亜鉛の摂取量も減少しました。

そのため、小児や成人や老人の味覚の異常も発生してきています。

さて、適量のフッ素は

むし歯にならないようする力を備える(抵抗性)とともに、正常な骨格を維持するためにも必要な元素です。

世界保健機関(WHO)や食糧農業機関(FAO)アメリカ合衆国食品医薬品局(FDA)など多くの専門機関も、

フッ素を必須栄養素であるとして推奨しています。

必須微量元素の機能として木村修一、左右田慶次両氏は、編書『微量元素と生体』(秀潤社)の中で、

15種類の必須微量元素をあげてそれぞれの欠乏症、過剰症を説明しています。

そして、フッ素の機能として、骨格維持で、欠乏症はむし歯、骨粗鬆症を記載しています。

さらに欠乏症状として、マウスの実験では貧血と、ラットでは成長・生殖不能をあげています。

東京慈恵会医科大学付属病院・健康医学センター相談部医長 大野誠先生は、

監修した『はつらつ家族・健康を保つ食生活改善』(東京法規出版)の中で以下のように述べています。

「なぜ好きなものばかり食べると良くないの?」という項目のあるページでは、

「がん、心臓病、脳卒中など、いわゆる成人病は生活習慣病ともいわれ、日常生活の善しあしが発病の引きがねになります。

中でも、食生活の影響が大きく、最近のグルメを謳歌した飽食の時代は危険がいっぱいです」

また、「骨がもろく、血液がうすくなる(ミネラル不足がからだをむしばむ)」の章では、ミネラル不足になるわけとして、

「ミネラルとはカルシウム、鉄、マグネシウム、リンなど50種以上の元素のことで、

ごく微量で皮膚や骨、血液、筋肉、神経など、からだのあらゆるところに働きかけて、健康維持に役立ってくれるものです。

このミネラルは、わたしたちの身近な食品に豊富に含まれているのですが、

特に食物が自然な形に近く、新鮮なほど多く含まれています。

ところが、調理ずみの総菜やインスタント食品、加工食品などが手軽に購入できるようになったために頼りすぎたり、

極端なダイエットによる小食や偏食などが原因となったりして、ミネラル不足を引き起こす原因になっています」と結論づけています。

さらに大野先生は、

「その中でも鉄やマグネシウムなど15種の元素を特に『必須栄養素』と呼んでいます。

必須である条件としては、生体に常に存在している。欠乏すると生体機能が低下し、適量投与によって、

その低下した機能を回復させるという3点があげられます」と続けています。

そして「ミネラルの役割は」と題したイラストのページでは、8種類の主なミルラルをあげて簡単な説明を加えています。

その8種類の主なミネラルは、リン、カルシウム、フッ素(骨や歯を強くし、幼児の虫歯予防にも効果がある)、

鉄、亜鉛、ヨウ素、銅、マグネシウムですと。

諸外国で、推奨栄養所要量を年齢別にあげて11日当たり推奨栄養所要量(エネルギー、蛋白質、ミネラル、ビタミン)を

公示している国のうち、アメリカ合衆国とニュージーランドの例をあげてみました。

アメリカとニュージーランドでもミネラル(無機質)の推奨栄養所要量の中にフッ素(F)の項が設けられています。


(ニュージーランドにおける11日当たりの推奨栄養所要量の表 )

(アメリカ合衆国における11日当たりの推奨栄養所要量の表)

 

 


前項でも述べましたが、カナダのフォーブス博士(ウオータールー大学老化学教授)は長期にわたる研究の結果、

飲料水中のフッ素は、高齢者の知的障害であるアルツハイマー痴呆症(アルツハイマー痴呆症はアルミニウムの濃度と

関連があることは既に知られています)を抑える傾向があることを指摘しています。

その研究は、高齢者集団を対象にして、45歳から始めて80歳になるまでの800名を、長期にわたり調査して、

飲料水中のアルミニウムとフッ素の濃度とを関連させたものでした。

その結果、アルミニウムの濃度が高い地域では、70%に知的障害が認められました。

その反対、フッ素が高いと知的障害を抑えられていました。

フッ素は精神の健康にも役立ち、アルミニウムとの拮抗作用があることが指摘されたのでした。

ほかに、フッ素のほかの全身への応用法として、外国では骨粗鬆症の患者の治療法とその予防にフッ素の投与が行われています。

このように、フッ素は全年齢で摂取しなければならない必須栄養素であるということになっているのです。

わが国の栄養所要量に掲載されているミネラルは,

主元素であるCa(カルシウム)、Mg(マグネシウム)P(リン)K(カリウム)Na(ナトリウム)と,微量元素のF()だけです。

昨年から、ようやく厚生省でもF(フッ素)Zn(亜鉛)というミネラルの適正摂取量(所要量)について検討が始められました。

さて、不足すると骨の発育不全や貧血を起こす亜鉛や銅などのミネラルも、毎日の食事にはかなり不足していることが、

横浜市内の一般家庭を対象にした食品分析調査でも分かりました。

ミネラルが不足する原因は、加工食品が多くなったからではないかと、調査・分析した横浜市衛生研究所は指摘しています。

加工食品で問題なのは、大量生産にあります。

大量の野菜の皮をむくには長時間かかるので、その間ずっと水にさらしておきます。

そうすると、ミネラルやビタミンの流失量が多くなります。煮る場合でも、風呂のように巨大な鍋で煮れば、沸騰するにも、冷めるにも時間がかかってビタミンが壊れる率も高くなり、ミネラルの蒸発や沈殿も起こるからです。

女子栄養大学食品学の吉田企世子助教授は、加工食品と家庭の手作り食品との栄養成分比較を試みています。

吉田助教授は、「確かに加工食品は、簡便で安く、味は万人向き、保存性が高いなどの利点はあるが、

その便利さに私たちは目を奪われすぎていないか。加工のハンバーグを例にとれば、タンパク質の量は半分以下、

また油で揚げているというのに脂質が少ないというのは、安い鶏肉が多いからではないでしょうか。

調味にはグルタミン酸ソーダなどの食品添加物を使っています。

見かけは同じでも、中身は相当違った食品であるといえますね」と述べています。

奈良女子大学食品学、的場輝佳教授の最近の研究では、コンビニエンス・ストアーやスーパー・マーケットで販売されている弁当は、カルシウムや鉄分が不足しているし,カリウム,マグネシウム、亜鉛、リンも少なく、塩化ナトリウム,つまり塩分が過剰であるという分析結果をまとめ公にしました。

奈良市,大阪府枚方市、和歌山市などのコンビニエンス・ストアーやスーパー・マーケット,そして弁当専門店を対象にして、19969月から19971月までの5カ月間を,幕の内弁当などの合計37折と当女子大学の学生が自宅で作った食事の9食分を分析比較した結果、家庭で作る食事に比べてカルシウムが40%少なく、鉄分は30%不足しているということでした。

他のミネラル分も20%~30%も不足していたといいます。

そして、的場教授は、「市販品の弁当ばかり頼っていては栄養面で問題が起きる」と警告しています。

以前の農作物は、自然の営みと時間の経過によって、ジワジワとミネラル分(カルシウムやフッ素など)を大地から吸い取り、

さらに光合成や自然環境の変化によってビタミン・ミネラルを必要なだけ蓄えて成育しました。

しかし現代の農産物は、成育の早い品種の導入や、日射量が弱まるハウス栽培の奨励、

を無視した通年栽培化や化学肥料の大量使用などでミネラルの含有量は少なくなっています。

参考までに、地殻を構成している元素を、多い順に並べて番号をつけた、

「クラーク数表」というものを見てみましょう。

私たちが知っている主な必須微量栄養素は、順位が鉄(Fe)は4番目、カルシウム(Ca)が5番目、ナトリウム(Na)が6番目、カリウム(K)が7番目、マグネシウム(Mg)が8番目、

フッ素(F)が17番目です。今回新しく食糧成分表に追加された銅(Cu)は25番目,
亜鉛(
Zn)は31番目です。

また、化学肥料の与えすぎによって、植物内に自然に作られる糖分(体にとって最も良いとされ、歯にも問題の少ない糖分)も低下しています。それは、植物内に多量に吸収された硝酸窒素が早期に植物内のタンパク質と結合してしまい、植物本来の糖分生成能力が落ちるためです。

札幌市内のスーパー等で売られている野菜を北海道中央農業試験場が分析した結果、本来、冬が旬のホウレン草のビタミンCは、100グラム中にわずか8ミリグラムしかなかったといいます。

通常は65ミリグラムあるものです。さらに、3.7ミリグラムあるはずの鉄分も0.7ミリグラムしかなかったといいます。

このように、現在、市場に売られている農産物はミネラルもビタミンも非常に少なくなっています。

また、食生活の変化によって、昔から日本人の重要なタンパク源で、ミネラルを豊富に含む魚介類・海藻類の摂取量も少なくなっています。

ミネラル摂取の低下だけでなく、噛む機会の減少も、むし歯になりやすい弱い歯を作り、

あごの正常な発育を阻害しているそのことは、鹿児島県川薩地区の小・中学生の保護者約1100名のアンケート調査が物語っています。

それによると、小学生で良く噛んでいるのは21%、中学生では24%にすぎないといいます。

さらにインスタント食品やレトルトなど、よく噛まなくても食べられる食品が、

流通機構の発達によって全国のどんな僻地でも容易に手に入れられるようになりました。

これらも児童の顔かたちやあごや口に変化を与え、歯周病やむし歯の発生に大きな影響を及ぼし、

口の中の病気を増加させているのです。


秘伝の目次にもどる

秘伝「かむ健康術」 その6へ

トップヘもどる