店主のつぶやき あまみ庵の店主:森本が雑誌や新聞に書いた文章を掲載します。

南海日日新聞:書評(H8.10.22)

『「琉球弧(うるま)の発信」くにざかいの島々から』

高良勉・著 御茶の水書房 2678円

「辛口で軽やかな評論集」

「未来のオキナワ、日本、アジア、太平洋を考える人々の(たたき台)の一つにもなれば幸いである」

隣ジマの勉ちゃんが三冊目の評論集をまぁ(産)らした。この十年間の果実だが、さらに辛口で過激な味に醸成している。勉ちゃんは、まず琉球弧の抱える多くの矛盾を掘り起こす。基地撤去、反戦平和を訴えながら、肝心の戦争責任も問わずに、支配者も教育者も戦前と地続きの沖縄社会。復帰運動の遺産を食いつぶして、主体性もなく繰り返す日本への同化志向。懲りない事大主義。奴隷根性から抜けきれずに分裂していく沖縄の心。

さらに、「琉球王国や首里中心の琉球文化を批判し相対化できない限り、琉球弧内の文化と生活の多様性や重層性は視えなくなり、琉球弧内の宮古差別や奄美差別、離島差別の問題は解決の糸口さえみつからなくなってしまいます。」とも。

しまざかいの奄美でも、戦争責任や戦前戦後の方言撲滅運動などの総括はいまだになされていない。復帰運動の中身とそれ以降の点検も始まったばかりだ。シマ固有の文化と自然も〈本土並み〉に破壊され続けている。さらに、北高南低型の名瀬市中心の〈奄美の文化〉〈シマ差別〉などの構造も沖縄と同根のままだ。

死者たちの視線を背後霊にした勉ちゃんだが、彼にむん思いの海原には、奄美と島尾敏雄が深いところで環流していて、ぬががんぬホッとさせられる。

「ぼく達は琉球弧の島ジマから垂直に世界へ飛翔するのだ」と宣言し続けてきた詩人の勉ちゃん。彼はその通りに琉球弧の島々を歩き回り、そこからアイヌモシリ(北海道)、台湾、フィリピン、アイルランドの島々へと、いとも軽やかに飛翔し続けている。勉ちゃんが主張するように、わきゃだかたむだむのシマの〈民族意識〉に深く目覚めよう。

その深い〈シマ意識〉を軸にして、うとぅるさん〈国家民族主義〉を意識的に乗り越えよう。本来のてぃん(宇宙)に開かれて自立していたシマ社会へ。

(森本眞一郎)

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