採卵鶏の卵管嚢腫(卵管水腫)について

1998年7月から99年8月にかけて、採卵鶏農場8戸で卵管嚢腫を示す無産鶏を観察しました。
観察した鶏群の概要症状の写真等を別ページに掲載します。


臨床症状のまとめ

多くの例で卵管に嚢胞性の変化が見られました。
卵管が総排泄腔から2〜5cmの部位で複雑に嵌頓して閉鎖していました。
このため、卵秘が起こったり、軟卵殻が1個ないし十数個(最大21個の例も)卵管内に滞留していました。
卵巣は肉眼的には正常に発達し機能しているようでした。
卵墜(卵黄性腹膜炎)を起こしている例もありました。

鶏群の産卵率は一例で92%あったほかは、正常群に比較して15〜25ポイント前後劣っていました。


ワクチネーション

これらの鶏群では別表のとおりワクチンが投与されていました。

検査成績

複数の発症鶏群で細菌分離が試みられましたが、これまでのところ、共通した有意な細菌は分離されていません。
血清抗体検査では発症鶏群のすべてでIB抗体の上昇が観察されています。しかしながら、これまでのところ、特定の血清型に対して抗体価が共通して有意に高いような傾向は判明していません。


考察

一般に卵管嚢腫の原因として (1)初生〜幼雛期におけるIB感染 (2)中雛期以降のIB感染 (3)ストレスによるホルモン異常 (4) 大腸菌や黄色ブドウ球菌あるいはPasteurella haemolytica 等の細菌感染 が考えられます。
私が観察した8戸の症例では原因としてIBが有力です。嚢胞性の卵管は、若齢時にIBウイルスにさらされて卵管組織が損傷を受け、性成熟の時点で液体が貯留するようになったものと考えています。

疫学情報

採卵鶏に発生した卵管嚢腫については、九州地区鶏病技術検討会(平成10年10月15日)に於いて、熊本県城北家畜保健衛生所の崎村武司先生と川邊久浩先生が報告された例があります。これは「平成10年6月、管内の採卵鶏農家の一鶏群において120日齢頃から腹囲膨満、鶏冠の黄色化、産卵低下、無産鶏がみられた。病性鑑定の結果、卵管嚢腫及び卵黄性腹膜炎と診断したのでその概要を報告する。」とした行われた発表で、「今回みられた産卵低下は、卵管嚢腫及び卵黄性腹膜炎によるものと診断した。卵管嚢腫の原因を特定することはできなかったが、本症発生の原因として@初生〜幼雛期におけるIB感染、A中雛期以降の練馬、C−78,GRAY株以外のIB感染、Bストレスによるホルモン異常等が考えられた。」と総括されています。


対策

IBが原因であるという仮定のもとに対策を検討しています。どのようなワクチネーションが野外ウイルスの感染を確実に防御するのか、科学的に把握するためには病原ウイルスを使って実験室で攻撃試験を行うことが最も望ましいでしょう。しかし目下のところ病原ウイルス分離には成功していません。
現時点では対策として、初生〜幼雛期の感染を防ぐために初生でのIBワクチン(散霧または点眼)投与と14日齢での散霧投与を、その後はワクチンの免疫持続期間(生ワクチンで8週間、不活化ワクチンで8〜12週間と推定)を考慮した繰り返し投与のプログラムを検討しています。

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