日本シリーズ

ロッテ恐るべし。手も足も出ず、あっという間に4連敗。

3連敗・藤川まで(10月25日)

真っ向勝負の速球が、打ち砕かれた。7回無死満塁。フルカウントからの9球目。こん身の148キロを、代打・橋本に中前へ運ばれると、藤川は天を仰いだ。里崎に続き、二塁走者・今江が本塁を駆け抜けた。  試合を決定づける2点を奪われると、岡田監督は静かにベンチを出て、中継ぎエースの降板を告げるしかなかった。「2点差やったら…(何とかなる)というのが、あったけどな…」シーズンで2度しかない2点ビハインドの場面で“切り札”を投入したが、まさかの大炎上。鳥谷の失策から始まったロッテの猛攻を防げず、リリーフした桟原まで打ち込まれて、1イニング7失点。3試合続けて相手のビッグイニングを演出した。  2連敗で戻ってきた本拠地・甲子園でも、歯車の狂いを解消できなかった。強心臓の先発・下柳が2回に先制点を許し、同点で迎えた4回1死満塁で、里崎を遊ゴロに打ち取ったが、一塁の判定はセーフ。勝ち越し点を奪われた。  「何でや。アウトやろ!」猛然と井野一塁塁審に食ってかかったが、ジャッジは覆らない。続く今江の打ち取った打球が、不運にも三塁内野安打となり、さらに1点を献上。粘り強い投球で、最年長最多勝を獲得した左腕も、大事な一戦で踏ん張り切れない。終わってみれば、3試合連続で10失点という汚点を残しただけだった。  中日との激しいマッチレースを制し、2年ぶりのペナント制覇を達成したセ・リーグの王者が、勝ち星なしの3連敗。投打とも精彩を欠き、土俵際まで追いつめられた。「最初に投げるピッチャーから、先取点を奪われるからな…」勝利の方程式「JFK」の一角をつぎ込んでも、投壊現象に歯止めがかからない状況を嘆いた指揮官は、禁断の言葉を口にした。  「明日で最後になるかもしれないし、あと1試合あるかもしれん。でもせっかく1年間やってきたのにこれで終われば、何のためにやってきたか分からんからな」絶対に発するはずのなかった「最後」というフレーズまで使って、懸命に奮起を促した。  「明日負けたら、終わり。もうやるしかないです」試合後、藤川が声高に叫んだ。指揮官もナインも気持ちは同じ。「シリーズを楽しみにして、ここまで来たのだから、開き直ってやるしかないわな」岡田監督も力強い言葉で締めくくった。失うものは何もない。声を枯らして応援するファンのためにも、猛虎が最後の意地を見せる。


2連敗(10月23日)

同じフレーズが自然に飛び出した。「このままでは終われないか?」と報道陣に聞かれた金本は、間髪入れずに口を開いた。「そらそうよ」言わずとしれた岡田監督の決まり文句。初戦から10打席連続ノーヒットでも、不屈の精神はまだなえていなかった。  どん底まで落ちた。初回、2死二塁のチャンスを迎えたが、金本が痛恨の二ゴロ。テーマ曲を昨年までの「SANDSTORM(格闘家 シウバのリング入場ソング)」に変えても効果は表れない。主砲の不振に引きずられるように2回1死二、三塁から関本の三ゴロの間に1点を返すのがやっと。「選手が一番悔しがっている。積極的な姿勢は出ていたし、明日に期待しようや」と正田打撃コーチはリベンジを約束した。  リーグ最多の731得点をたたき出した猛虎打線が、3試合でわずか2得点。「金本? 調子悪いよな。ロッテもゲームの中で配球を変えてきているから」と指揮官が嘆くように、チームの1試合平均安打が5本では勝てるはずもない。だが、土俵際に追いつめられたナインは、まだあきらめてはいなかった。  チームで唯一、3試合連続ヒットを放った矢野は「悩んでもいっしょ」と開き直りを強調した。「ファンの方に申し訳ない。1つ負けたら終わりなんで、何とか1つ勝ちたい」と、4打数ノーヒットに終わった赤星はひたすら前を向いた。  「打つしかない」と金本は言い聞かせるように、ロッカールームに消えた。がけっぷちから本領を発揮するのが、この男。最後まで猛虎魂を見せつける。

 

大敗(阪神1-10)10月22日

立ち込める濃霧の先に、日本一への道が映し出された。純白の右翼席も、大量点を刻み込んだスコアボードも視界に入らない。かすかに見えるお立ち台に向かって、ボビーは走った。「最後まで試合ができなかったのは残念でしたが、素晴らしい打撃と素晴らしいピッチングだった」白い霧に包まれた千葉マリンに、バレンタイン監督の勝ちどきが上がった。  絶体絶命の窮地から、自らの手腕で活路を切り開いた。小坂、堀を故障で欠いた第1戦。2番とセカンドに穴が開いたが、逆にマジックの“余地”は広がった。指揮官の選択は、今季1度しかなかった今江の2番起用。そして、4月18日以来の渡辺正のスタメン抜てきだった。「彼らはチームの大事な一員。勝利に貢献すると確信していた」同点で迎えた5回、窮余の策がマジックへと変身した。  口火を切ったのは、前日に1軍合流したばかりの渡辺正。「緊張はなかった」と振り返る強心臓が三遊間を破り、“ボビー劇場”の幕が上がった。西岡が巧みなプッシュバントでつなぐと、一塁ベンチで指揮官がニヤリと笑う。「ひとたびヒットが出たら、ウチの打線は活発になるんだ」2番・今江は右翼線へ勝ち越し二塁打。17打席無安打中でも「4番を外すつもりはなかった」と全幅の信頼を置くサブローが、左越えへ2点二塁打を放ち猛虎に引導を渡した。 試合が濃霧コールドになり、スタンドのファンにあいさつするバレンタイン監督(中央)らロッテナイン  昨オフ、ボビーは西岡、今江の若武者コンビを今季のキーマンに指名。初めて組んだ1、2番は面白いように機能した。「この1、2番は面白くなると思った。ボビーはホンマすごいと思いましたね」と西岡。左対左の不利を承知でスタメンに起用した李承ヨプは1か月ぶりのアーチをかけ、“プレーオフ男”の里崎、ベニーも一発を放った。  マジックは打線にとどまらない。初戦の先発は絶好調の渡辺俊ではなく、不調に苦しんできた清水。レギュラーシーズン終了後、指揮官はもがき続けた右腕に言葉をかけた。「今年は君にとって楽しいシーズンではなかっただろう。だから、日本シリーズでは一緒に喜ぼう」ボビーは不動のエースを見捨てなかった。  5回から千葉マリンを襲った霧は7回、ロッテが10点目を奪ったところで完全に視界を妨げた。先発全員安打の4発10得点。「持てる力をあらゆる面で出せた」濃霧がなくとも、猛虎を“コールド”でKOした。日本一へあと3勝。「雪、雨、砂嵐の記憶はあるが、霧は初めての経験だよ」とボビー。メッツ時代はワールドシリーズで苦汁を飲み、NO1を逃した。スタジアムを覆った白い霧は、最高の“初体験”の前兆なのかもしれない。