2006 4月の阪神

 
さよなら勝ち
(阪神3-2巨人)5月4日

阪神矢野がサヨナラ打で決着をつけた。  2−2の同点で迎えた延長10回2死二塁。三ゴロかと思われた矢野の打球はベースに当たって三塁手二岡の頭上を飛び越え、左翼へ転々…。この間に二塁から久保田が生還した。  矢野は「神懸かり的やね。うれしいけど恥ずかしいよ。金本が万全じゃないのはみんな分かっている。野球は1人でやるものじゃないし、みんなでカバーしたいと思っている」と白い歯を見せた。  この一打でサヨナラ勝ち。開幕から9カード負け越しがなかった巨人に2勝1敗と勝ち越して、快進撃を止めた。


競り勝つ
(阪神2-1ヤクルト)4月30日

競り勝った要因の1つがシーツの守備だ。最終回の捕球直後にノーバウンド送球した赤星も見事だったが、シーツは腕と足を目いっぱい伸ばして一塁走者ラロッカを間一髪アウトにした。彼の身体の大きさをフルに活用したわけだが、188センチの長身は何より野手に「安心感」を与える。しっかりと取り、一塁へ投げればほぼアウトしてくれると野手は思い切ったプレーが出来る。この「安心感」が目に見えない活力になる。それとショートをやっていただけに左右、前後の動きが俊敏で、判断力も優れている。4回の藤井の送りバントに対しリグスを三封したのも彼ならでは。現代野球では一塁の守備はかなりのポイント。好調な打撃だけでなく、守りでもチームに大きく貢献している。


鳥谷がんばる
(阪神9-5横浜)4月26日

味方の執念で導かれた9回2死から打席。サイクル安打へのラストチャンスとなったが、鳥谷は打たされたような遊ゴロに倒れた。「打席を回してもらって、打ちたかったんですけど、気持ちと体がずれて」。  2回に逆転を呼ぶ二塁打、3回に決勝の1号3ラン。引っ張った長打の後に5回に技ありの三塁線突破。クッションボールを横浜小池が深追いする運まで味方した三塁打で、サイクル安打にリーチをかけた。残るは単打。だが7回の二ゴロに続き、最終回2死一、二塁でも快音は出なかった。岡田監督も「焦ったな。速球がバットの先だろ」と苦笑い。快挙は逃したが、それでも天敵攻略の大ヒーローに違いない。  通算31勝9敗のトラキラー三浦を撃った。昨年は20打数2安打のジャスト1割。「昨年も全然(ダメ)だったんですけど、勝利に貢献できてよかった」。今季初対戦の7日大阪ドームと合わせて6打数5安打3打点、うち4本が長打と逆キラーを演じている。  ムードには敏感だ。5連敗、借金2で迎えた23日の巨人戦。東京ドームに入ると「チーム全体がいつもと違う、やばい雰囲気があった。今年初めて」。昨季、全試合スタメン出場の経験が危険レーダーを磨かせた。その試合も適時打を含む2安打で勝利を呼び込んだ。サイクル目前の期待感も、人一倍肌で感じ過ぎたかも知れない。  岡田監督が「覚えがない。一段モーションの問題などで調子が出ていないのもあるだろうが」という横浜三浦のKO劇。過去最高の6得点目は本塁打した鳥谷のホームインだ。3割20本を狙う恐怖の7番打者がガツンと機能した。


連敗脱出
(阪神6-2巨人)

この一発を待っていた。悩める男の目覚めの一撃に、虎党で埋め尽くされた東京ドームの左翼席が揺れた。試合開始早々の一回、阪神・今岡誠内野手(31)が先制の4号3ランを打ち込んだ。首位を突っ走る巨人に食らわせた痛烈な一撃で、チームの連敗は5でストップ。さあ、反撃はここからや―。  机の上にためていた仕事を、少しすっきりさせてみた。これで終わりではないから、ホッとした顔はしなかった。ロッカーから姿を現すと、右の奥歯で強くガムを噛(か)み言葉をしぼり出した。「必死でやってるだけですよ」。そして再び繰り返す。「必死、必死」。今岡は間違いなく、必死で自分の仕事をまっとうした。  一回だ。赤星、シーツの安打などで二死一、三塁と先制のチャンス。狙い球、コースなんて関係ない。グローバーの初球、135キロスライダーが指から離れると、今岡は夢中にバットを振り抜いた。快音を残し、打球は黄色く染まった左翼席に到達。先制の4号3ランで連敗ストップへの号砲を打ち上げた。  本塁打は8日の横浜戦(大阪ドーム)で高宮から打って以来11試合、打点も14日の広島戦(甲子園)以来、7試合ぶりだった。チャンスで打って打点を稼ぐことを仕事と“定義”した男。カバンの中に抱え続けていた仕事を、3打点という形でモノにした。久々の今岡の仕事がカラカラだった虎党の心を存分に潤したに違いない。  「…よかった」。チームは5連敗。その始まりは16日の広島戦だった。完封ペースの江草が九回に犠飛2本で2点を失い1―2で敗戦。2度の満塁機で凡退した試合後、質問を受けた今岡は「やかましいわ」と思わず声を荒らげた。敗戦の責任は当然、今岡だけにあったわけではない。それでも意地があった。チームの悪い流れを止めるため、今岡は必死に野球と向かい合った。  22日には左手中指に「バネ指」の痛みを感じフリー打撃を回避。この日も大事をとって打撃練習を行わなかった。打順変更の可能性もあったが、岡田監督は今岡を信じ起用を続けた。「(宿舎のホテルを)出る前に一回表が大事やと話たんや。先攻やし」。“予言”とばかりにまな弟子が殊勲打を放った。  バスに乗り込む前、また最後に同じ言葉を口に出した。「必死にやるだけ。それだけです。後は何もないです」。野球に対する変わらぬ姿勢。常に変わらぬ信念を持って打席に立つ。信じていた。やはり阪神の5番は今岡以外にはいない。

 
江草無念
(阪神1-2広島)4月16日

10分にも満たない、わずか数分の間に舞台は暗転した。近くて遠かったあと3つのアウト。江草がプロ初完封目前で、苦杯を喫した。  「最後は球が全部高かったです。監督が投げさせてくれたので、それに応えようと精いっぱい頑張ったんですが…」  1−0で迎えた9回は、先頭の代打・福井に左前打。続く1番・緒方にはセンター右へ二塁打を食らった。「あれが痛かった?そうですね」。外角高めに浮いたストレートを悔やんだ。  もう、余力は残っていなかった。無死二、三塁から前田、嶋に連続の右犠飛を打たれ2失点。専大の6学年先輩にあたる黒田に投げ勝つことはかなわなかった。  8回までは完ペキな投球だった。打たれたヒットは、わずかに3本。唯一のピンチだった2回無死一、三塁も、広瀬を中飛、倉を遊撃併殺打で切り抜けた。ただ、8回までの投球数は105球。今季初勝利を手にした2日のヤクルト戦(神宮)も8回を投げ、久保田にマウンドを譲った。9回を迎えるのが初めてなら、要した球数もプロ入り最多だった。  汚名返上の一戦だった。前回9日の横浜戦は、味方打線の援護を受けながら4回5失点KO。同じテツは踏みたくない。それだけに、この日にかける思いは強かった。  「また次、頑張ります」  長いシーズンを思えば、無念の敗戦も貴重な経験にしなければならない。プロ初完投も大きな収穫だ。次回登板は、中6日なら23日の巨人戦が濃厚。もう、悲劇のヒーローとは呼ばせない。


逆転負け
(阪神5-7中日4月13日

3回までに5点もリードしていたのに、四球で塁を埋めホームランという悪夢であっさり負けた。取れるときに取れなかったのが痛い。
中日が逆転勝ちし、連敗を2で止めた。六回、アレックスの3ランなどで1点差にすると、七回に井端が適時打を放ち同点。八回、2打席連続本塁打となるアレックスのソロで勝ち越した。阪神は下柳が六回に突然制球を乱したのが誤算。救援陣も踏ん張れず、5連勝でストップした。


金本、世界新
(阪神10-5横浜)4月9日

金本がフルインニング出場の世界新記録を達成した。おめでとうございます。それが7年間も出続けたのだからすごい。
阪神の金本知憲外野手(38)が9日、横浜3回戦(大阪ドーム)で904試合連続フルイニング出場を果たし、カル・リプケン氏(元オリオールズ)が持つ米大リーグ記録(903)を超えた。金本は8日に「世界記録」に並び、これを更新した。  金本はこの試合も4番左翼で先発出場。3打数無安打だったが、2四球を選び、内野ゴロで1打点を挙げた。チームは10―5で勝ち、金本の大記録に花を添えた。  試合後のセレモニーでは約3万3000人の観衆が祝福する中、阪神の手塚昌利オーナーから記念の盾が贈られた。少なくとも今年いっぱいは出続けてほしい。

 

井川初勝利
(阪神5-2横浜) 4月7日
井川と三浦の投げあいでスタート。しかし、押しまくる阪神だったが得点ができなかった。
シーツが金本のダメ押し適時二塁打を呼び込んだ。8回、2死二塁で川村のスライダーを左前へ。3回と7回には走者を得点圏に置き、ともに凡退しており「8回のヒットはうれしいが、得点圏で走者を還す仕事をできなければいけない」と反省した。それでも開幕からの連続試合安打を「6」に伸ばし「これからもきっちり自分の仕事を果たしたい」と気合を入れ直した。


江草で連敗阻止
(阪神9-1ヤクルト) 4月2日

久保田の9回裏の押し出し四球の前日の悪夢を江草が見事な投球で払拭した。
祝福のシャワーを浴び、阪神・江草が満開の笑顔を咲かせる。「雨の中、最後までありがとうございました」。ベンチの前で下げた頭に、さらなる大歓声が降り注ぐ。生まれるべくして生まれたヒーロー。恐れを知らない強心臓が、06年の猛虎の初白星をつかんだ。  「勝ちたかったけど、負けてもいいかなと開き直って投げました。プレッシャーもなかった。気持ち良かったですね」  計算通りの確信の白星だ。「風が強かったので、低めに投げようと思った」。矢野と確認した攻略法。先制した直後の初回は、一死一、二塁から迎えたラミレスを、ツーシームで併殺打に。三回二死一、三塁の場面では、リグスを空振り三振に仕留めると、その後は危なげなかった。  8回を無失点。球数も100球と初完封を狙えたが…。「久保田が本調子じゃないんで、チームのためにはその方がいい」。マウンドを離れれば、優しい青年となる。変わらぬ姿。この大切な一戦に、広島から父・照生さん(58)と母・恵美さん(53)を招待していた。  江草が電話を入れたのは、29日のこと。「あんたは登録されてないやろ」。母からの言葉にも「いいからきいや」―。“らしくない”反抗を見せて譲らなかった。  「本当に優しい子。怒ってきたこともなくて。左手で、よく頭をなでてくれてね。それがうれしくて」と恵美さん。高校時代、「帰ったよ」と帰宅を告げると、よく母の頭に優しく触れることが多かったという。精一杯の愛情表現。最愛の両親への親孝行は、その左手でもたらされた。  岡田監督からは、26日に「(オープン戦の)順番通りにいくから」とこの日の先発を告げられた。開幕連敗という重圧の中で上がったプロ2度目の先発マウンド。昨年、中継ぎで51試合に登板した男が白星という最高の形で、周囲の期待に応えた。「1年間のいいスタートが切れました」。ウイニングボールは、応援してくれたファンのために、惜しむことなくスタンドへ。江草の強さでもある優しさは、ずっと変わらない。


井川で初戦落とす
(ヤクルト4-3阪神)3月31日

5年連続で阪神の開幕投手を任された井川が、やってはならない幾つかのミスを犯した。  一回は三振を2個奪う抜群の立ち上がり。ところが二回、先頭のラミレスに、直球をとらえられた。左から右に吹く強い風に乗った打球は、そのまま右翼スタンドへ。この一打で我を忘れてしまったのか。直球に抑えが利かなくなり、2四球と暴投で1死一、三塁のピンチを招く。そして宮本の二塁打などで、この回3点を失った。  忘れてならないのは、同じヤクルトと顔を合わせた昨季の開幕戦。井川はラミレスに3ランを浴び、敗戦投手になっている。  開幕戦で2年続けて同じ打者に本塁打を許したこと。六回で降板するまでに7個の四死球を与えたこと。そして、今岡の2ランで反撃の態勢を整えつつあった六回、青木の適時二塁打で失点したこと。  昨年は13勝を挙げながら、勝負所で踏ん張れなかった井川について「変わろうとしているのは僕も感じている。他の誰よりトレーニングしてキャンプに入ってきたし」と話すのは捕手・矢野だった。ところが開幕戦の井川は、その期待に応えることができないままマウンドを降りた。エースの投球とはとても言えない、寂しい内容だった。


WBC組の登板

オープン戦初登板のWBC組の藤川と久保田は明暗が分かれた。1回を1安打無失点の藤川は、直球の伸びが十分で「力があり余っている感じ」と納得顔。米国、韓国戦で痛打を浴びたWBCについても「きれいに整理して、0点を重ねる投球をしていきたい」と前を向いた。 一方の久保田は1回5失点で「バラバラでした。苦いですね」と言葉少な。直球は151キロを計測したが、3四球と制球に課題を残した。
打線の方も湿りがちでなんとなく元気のなさが目に付いた。開幕が怖い気がするこのごろだ。

広島に完敗

オープン戦とはいえ、昔の阪神のような貧打では、ペナンとレースが思いやられる。
岡田阪神が2年ぶりの2試合連続完封負けを食らった。昨季16勝6敗とお得意様にした広島に、散発6安打と沈黙。14日の日本ハム戦(東京ドーム)の9回から19イニング連続無得点が続いている。  苦笑いを浮かべた岡田監督が、自嘲(じちょう)気味につぶやいた。「ちょっと、貧打線やな」。松山、高松、倉敷と中四国を“巡業”する赤ヘルとの3連戦初戦。長距離のバス移動を考慮し赤星、金本、今岡らを休ませた打線は明らかに迫力不足だった。  「思ったよりもストレートが多かったな。チェンジアップがええと聞いてたんやけどな」と指揮官が振り返ったのは、先発した広島の新外国人・ダグラスの投球。初回2死から鳥谷が左翼線三塁打を放ち先制機を演出したが、頼みの4番・浜中は144キロの速球に押され中飛。3回2死二塁の好機でも、藤本が力のあるストレートで遊ゴロにねじ伏せられた。「いい投手やな。どういう感じか見られただけでもよかった」と正田打撃コーチが警戒すれば、4回に右翼フェンス直撃の安打を放った林でさえも「大きい(身長198センチ)から近くに見える」と苦手意識を口にした。