後半戦スタート


優勝(阪神5-1巨人)9月29日

ライバル巨人の目の前で優勝という願ってもない胴上げを見ることができた。
高ぶる鼓動を抑え切れない。潤んだ目にタテジマの軍団が飛び込んできた。両手を突き上げ、岡田監督が歓喜の輪に身を委ねた。大歓声とともに5度、秋の夜空に美しいV字を描いた。  シーツ、桧山らと抱き合うと白い歯がこぼれた。「最高の舞台で宿敵の巨人を倒して、胴上げできたことを最高だと思います。最高の選手に恵まれて、最高の1年になった」同じ言葉を4度も使うほど、興奮を隠せなかった。伝統の一戦で決めた2年ぶりのリーグ制覇。道のりは平たんではなかった。  就任1年目の昨年はBクラスの4位。18年ぶりの優勝を決めた“遺産”では、中日に太刀打ちできなかった。「オレのさい配で負けた試合なんかない」と強がったが、シーズン終了後の風当たりは厳しかった。  「理想の監督は星野さんですね」昨年11月28日、大阪市内で行われた新オーナー就任会見でこう言った手塚オーナーは、V奪回を命じた。「岡田監督には優勝しろと厳命したい」3年契約だったが、勝負の2年目という言葉がひとり歩きした。  タテジマを心から愛する指揮官の反骨心に火がついた。「厳命という文字を見ろ。“命”が入っているやろ。だからオレは命をかけて戦うんや」監督生命をかけた2年目が始まった。  根底から星野遺産を破壊した。1年契約が残っていた伊良部を解雇し、藪のメジャー移籍にストップをかけなかった。自らが中心となって戦力を整備し、投打をリニューアル。その象徴が5番・今岡とともにセットアッパーの藤川だった。  「野球は7回が大事や。投手に代打を送ることができるし、上位に回る確率も高い。あそこで一度流れを切ることが必要」2軍監督時代に短いイニング向きと見抜いていたことで、重要なポジションを任せた。  投打のキーマンが開幕から好スタートを切る一方で、不安も抱えていた。井川だった。勝負どころの試合で、覇気が伝わらない姿がチームの士気に影響すると判断した。6月1日のソフトバンク戦(甲子園)で5回8失点KOした直後、コーチ陣の反対を押し切って2軍落ちを決めた。「10日間で自分の原点に戻ってやれ!」試合後、監督室に呼び、ファーム行きを通告したのは、今季にかける決意の表れだった。 その裏では肉体はボロボロ。現役時代に痛めた首の凝りが取れず、酒を飲まないと寝つけない。午前4時過ぎに目が覚め、パソコンのカードゲームで時間をつぶし、朝を迎えることも。倒れそうな体を支えてきたのは猛虎魂であり、反骨精神だった。  「中日に負けたら、オレは辞める。命をかけて臨んだんやからな」最大8差まで広げた中日が猛追。首位陥落のピンチを迎えても、岡田監督は悠然と構えた。「普段通りにやればええんや」V逸なら引責辞任すると腹をくくり、一部のコーチに意向を伝えた。  この余裕と落ち着きで、8月9日、31日と0・5差まで迫られながら、翌日の中日戦を快勝。これで勢いに乗ると、勝負の9月を16勝4敗とラストスパート。昨年末、家族旅行で訪れた米マウイで予言したように、亡き父・勇郎さん(享年55歳=1986年他界)の誕生日に、甲子園でリーグの頂点に立った。  「オレを野球の世界に導いてくれたからな。亡くなったおやじがいいシナリオで最高の舞台を作ってくれたと思うわ」母・サカヨさん(68)の意向を受け、球団関係者が8回裏の攻撃中から遺影をベンチに飾った。本拠地での胴上げは天国で眠る最愛の父に、最高の贈り物となった。  


マジック1(阪神7-5巨人)9月28日

「甲子園で決める」−。その強い意志が一回、形に表れた。打者11人、7長短打で6点。優勝へ向け、加速する阪神の勢いそのままだった。 優勝マジックは「3」。2位中日は好調とあれば、本拠地での胴上げに、巨人2連戦で連勝は必要条件。勝つしかない試合で、ドラマの幕開けを演じたのは、またもこの男、赤星だった。 高橋尚の初球を左翼線に運んだ。今季9本目の三塁打で、いきなりの無死三塁。続く鳥谷は「どんな球でも打って走者をかえす」。しぶとく中前に落とし、たった5球で1点をもぎ取った。 さらにシーツ、金本の連打で満塁とし、すかさず今岡が「チームの勢いに乗せられた」と2点適時打。矢野の犠飛に井川の適時打まで飛び出し、最後は再び赤星の右前打で6点目。赤星は「井川が前で打ってくれたから…」。全員の集中力が、一つに集約された瞬間だった。 先発井川が4点を失っても、四回にも今岡が今季144打点目となる適時打を放つ。あとはプロ野球タイ記録のシーズン最多78試合登板の藤川ら、自慢の救援陣が反撃を1点に抑えた。Vマジックはついに「1」。


マジック6(阪神.4-0中日)9月21日

神経を研ぎ澄まし、ひたすら獲物を待っていた。金本はカウント1―2から、川上の144キロの速球を鋭いスイングで打ち砕いた。「インコースの直球か、カットボールが甘く来てくれればと思っていた。狙い通りです」先頭の2回に飛び出した先制の38号。舌をペロリと出してダイヤモンドを回る姿に、主砲の風格が漂っていた。  たったひと振りで重苦しいムードをぬぐい去った。独走態勢を築いているとはいえ、同一カード3連敗だけは避けたかった。これでエース・井川が黒星を喫した翌日の成績は31打数12安打の打率3割8分7厘、2本塁打、9打点。「たかが1点やけど、それが大きいんよね」と、岡田監督も新たな記録に肩を並べた4番打者を褒めたたえた。  衰え知らずだ。ラッキーゾーン撤去後の38本塁打は、03年のアリアスと並ぶ球団最多タイ記録。積み重ねたアーチは移籍1年目(03年)の19本からちょうど2倍になった。「シーズン中盤から、自分が40本打てれば優勝できると思っていたんでね。まずは優勝ですけど」爆笑を誘った下柳とのお立ち台で、頼れる主砲は高らかに大台突破を宣言した。  頼れる男のひと振りで、連敗は2でストップ。優勝へのマジックを6に減らした。「今年を象徴する試合やった。地力がついたというか、ここぞという時に自分たちの野球ができた。4番も打ったし、チームカラーが出たね」と岡田監督は興奮気味にまくし立てた。7回からは勝利の方程式であるJFKを投入し、今季12度目の完封勝ち。王者らしい戦いぶりで3年連続で負け越していた対中日戦を11勝11敗の5割で終えた。  最短優勝は広島でゲームのある25日。だが指揮官も、主砲も本拠地胴上げしか頭にない。「(マジックを)1つずつ減らしていきたい。最後はここで決めたい」と岡田監督が叫べば、金本も「甲子園で胴上げできるように頑張ります」と力強く言い放った。ターゲットは28日からの巨人2連戦(甲子園)。4番打者が将の背中を、夜空の向こうに突き上げる。

 

マジック8(阪神11-3ヤクルト)9月18日

 ナインとハイタッチを交わした岡田監督は、いつにも増して晴れやかな笑顔を見せた。「能見にとってはチャンスだった。何とか物にしてくれた」緊急先発で、甲子園初勝利を飾ったルーキーを、真っ先に褒め上げた。  優勝へのカウントダウンが始まった猛虎に、非常事態が起こった。先発予定の安藤が、練習が始まっても、現れなかった。実は、泉夫人(28)がこの日の朝、急に体調を崩し、安藤は看病のため、試合に出場できないことを申し出た。球団は、命に別条はないことを強調した上で、安藤への配慮で、出場選手登録から外したことを発表。沼沢正二取締役管理部長(47)は「チームのことは心配しないで、看病に専念してほしいと伝えた」と説明した。  後半戦に入って6連勝中で、10勝(5敗)を挙げている4年目右腕が離脱。「早くよくなってほしい。それしかないわな」報告を受けた岡田監督は、8月15日に2軍落ちし、9月10日のウエスタン・リーグ、サーパス戦(北神戸)から、登板間隔があいていた能見を、代役に指名した。「球場に入ってから(先発を)言われた。そりゃ、びっくりですよ」開幕ローテーションに名を連ねた左腕も、さすがに動揺を隠せなかった。  今季、3試合で0勝1敗、防御率15・12と苦手のヤクルトを相手に、初回から捕まった。1死二、三塁、ラミレスの2点適時打で先制点を献上。3回まで5安打を浴びた新人を、しかし、打線が救った。  3回だ。2死から今岡の27号で同点に追いつくと、なおも2死一塁で、矢野が勝ち越しの17号2ランを左翼席へ叩き込んだ。4回は、金本が打点を自己最多の116に伸ばす37号3ラン、矢野の2打席連続の18号2ランなどで6点を挙げた。これで、金本、今岡の「KIアベック弾」が出れば、2003年から2引き分けを挟んで9連勝。17安打、11得点の猛打で、7回9安打3失点の能見に、5月8日の日本ハム戦(札幌ドーム)以来となるプロ3勝目を、プレゼントした。  落合竜が敗れたため、優勝マジックは8。19日からの中日3連戦(甲子園)次第では、最短23日のVが現実味を帯びてきた。安藤の復帰時期は不透明だが、もう、何が起こっても心配はない。「安藤に大丈夫、というところを見せたかった」矢野が全員の思いを代弁した。チーム一丸でアクシデントを吹き飛ばした猛虎が、Vロード最終章に突入した。


マジック点灯(阪神10-0広島)

球団新記録の21得点を挙げた24時間前の勢いは、衰えていなかった。初回無死満塁、金本の2点二塁打で先制し、今岡も右前タイムリーと一気に畳みかけた。2回2死一、二塁でも再び、選手会長が左翼線への2点二塁打。7月17日の広島戦(甲子園)で、7回を無得点に抑えられたレイボーンを、早々とマウンドから引きずり降ろした。  「前夜の余韻というか、初回の5点が大きかった。昨日、当たっていなかった鳥谷と今岡にヒットが出たので、つながると思った」と、岡田監督は表情を崩した。2003年7月11、12日の巨人戦(甲子園)以来の2試合連続2ケタ得点。チームでは、1946年7月のグレートリンク、セネタース戦以来、2試合で31得点も挙げた。「こんなん初めて。最高の誕生日になりました」と、4安打5打点を挙げた今岡も、お立ち台で声を張り上げた。 4回無死一塁、今岡が中越えに25号2ランを放つ  チーム全体で17安打を放ちながら、ノーヒットに終わった前夜(10日)の試合後。梨恵夫人(26)を誘って、2人だけで食事に出かけた。「日曜だと店が閉まってるから、前祝いを済ませてきたよ」心身ともにリラックスして臨んだ31度目の誕生日。思い描いた通りの活躍で、打点を127まで伸ばした。  今季4度目の同一カード3連勝で貯金は今季最多の26。2位・中日が敗れたため、勝率1位マジックを13に減らすとともに、13日にも、正真正銘の優勝マジック13が点灯する可能性が出てきた。「ひとつ、ひとつ、戦うだけですから、そういうことは考えないように頑張っていきたい」と、一戦必勝を強調した猛虎の将。ひょっとするとこのまま逃げ切れそう。


久保田踏ん張る(阪神4-3中日)

今日の試合も前日同様に薄氷を踏むようなしあいだった。先発の下柳が連敗を救った。
2位・中日とのゲーム差を再び3に広げた。延長十一回、先頭の中村豊が左越えソロを放ち、勝ち越した。九回から登板した抑えの久保田が踏ん張り、リードを守り切った。中日は九回、野選と犠飛で2点差を追いつく粘りを見せたが、延長で力尽きた。  ▽阪神・岡田監督 すごい試合? (審判が)すごい試合にしたんやろ。「ジャッジだから」と言うなら、正確にしてもらわんと。  ◇土壇場で耐えた阪神が逃げ切った  延長十一回、高々とレフトに舞い上がった打球が予想外に伸び、そのまま左翼席に飛び込んだ。抗議や中断ありの5時間を超える熱戦に終止符を打ったのは、伏兵・中村豊だった。  十一回の先頭打者。中日・平井の直球にバットがうまく反応した。中村豊は「夢みたい。こんな結末は予想していなかった」と興奮を抑えられない様子。無理もない。首位攻防戦の劇的な決勝打が自身3年ぶりとなる本塁打。「監督から『勝つ』という気持ちが伝わってきた」と打席での心境を振り返った。  興奮の理由には、九回裏の18分間にわたる中断もある。岡田監督が選手をベンチに引き上げさせ、球場は異様なムードに包まれた。伏線は1点リードした九回表2死満塁で、関本が右前打を放った場面。三塁走者の今岡に続き、檜山の代走で途中出場した中村豊が二塁から本塁寸前でタッチアウト。この時も阪神は激しく抗議していた。  絶対に落とせない、という気迫。それが投手起用にも現れていた。藤川、ウィリアムス、久保田を七回から1イニングずつ起用する必勝パターンを崩し、1点リードした六回から3人を相次いで投入。岡田監督が勝負に出たことを意味する投手交代だった。これからは総力戦。死力を尽くした戦いが続く。【栗林創造】  ○…中日が今季2勝を献上している先発・下柳に五回まで散発2安打に封じ込まれた。キレの良いシュート、スライダーを内外角に丹念に投げ分ける投球に狙い球を絞り切れず凡打の山。前日の試合で猛打賞の活躍を見せた井端、立浪がともに2打数無安打。打撃フォームが崩れ、自分のタイミングでバットを振らせてもらえなかった。  ○…中日は1点をリードされた場面で切り札の岩瀬を投入し、逆転勝ちに執念を見せたが実らなかった。九回に2点差を追いつき、なお1死満塁のサヨナラの場面に、後続打者が連続三振に倒れたのが響いた。最後の詰めが甘かった落合監督は「今日は監督の責任で負けた。それだけだ」と、敗戦に疲労の色を隠せなかった。  ◆首位攻防戦、判定めぐり18分間中断  ナゴヤドームで7日行われた中日−阪神戦で、球審の判定をめぐり阪神の平田勝男ヘッドコーチが退場処分となり、試合が午後9時36分から18分間中断した。  阪神の2点リードで迎えた九回裏の中日の攻撃。阪神・久保田を攻め、無死二、三塁とし、谷繁の打球は二塁へのゴロ。二塁手の関本はスタートを切った三塁走者のアレックスを刺そうと本塁に送球したが、橘高球審はセーフの判定。関本に野選が記録された。  これを不服とした平田ヘッドが橘高球審に体を張って詰め寄り、「暴力行為」と判断された。さらに岡田監督が選手をベンチに引き上げさせたため、中断が長引いた。  ▽友寄・三塁塁審(この試合の責任審判) タイミングはアウトに見えたのかも知れないが、(アレックスの)手が先に入ったので(橘高球審は)セーフの判定を下した。自信がなければジャッジはできない。


危ない試合(阪神2-1横浜)

札幌での2連戦は2試合とも薄氷をふむような試合だった。
空振りを狙ってきた低めのフォークに、藤本が懸命に食らいついた。延長10回1死一、三塁。巧みなバットコントロールで、川村の決め球を拾った打球が中前に抜けると、岡田監督が激しく両手を叩いた。  「とにかくヒットが出なかったからね。ピッチャーが頑張っていたし、藤本がよく打ってくれたよ」初戦はわずか5安打。この日も9回を終了して、安打はスペンサーの2本だけ。重苦しい雰囲気を振り払ったのは、8月17日に長男・啓寿(けいじゅ)ちゃんが誕生したプロ5年生だった。  「ピッチャーが頑張っていたので、何とかしたかった」藤本は指揮官と同じ言葉を口にした。先発・杉山が右ひじに死球を受けながらも、7回を4安打1失点。8回からウィリアムス、9回1死から藤川が、ひとりの走者も許さない。1番・赤星から5番・今岡まで、無安打という深刻な貧打病を、投手陣がカバーしたことが、延長10回の「1点」に結びついた。  勝ち越した直後の10回からは、抑えの久保田が打者3人をピシャリ。3度目の「JFK」によるパーフェクトリリーフで3連勝。貯金を最多の「23」まで増やした。「最後までしのいでいくしかなかった。久保田も毎日、自分の投球をしてくれたらいい」横浜とは7度目の延長戦を自慢の投手力で制し、シーズンの勝ち越しを決めた指揮官が、思わず胸を張った。  2位・中日が敗れて、8月24日以来、11日ぶりに3ゲーム差。「最後に追い上げとったな。ウッズがホームランか。ふーん」落合竜の敗戦に無関心を装っていたが、最後に含み笑いがこぼれた。「でも、ようこのヒットで、連勝したな」2試合で計9安打。連敗しても不思議でない状況で、白星を2つ並べたのは「JFK」を中心とした投手陣がいるからだ。6日から敵地・ナゴヤドームに乗り込む直接対決で、上昇カーブを描いた猛虎が、落合竜に引導を渡す。

 

首位を守る(阪神8-2中日)

今岡が昨夜のエラーを帳消しにする大活躍で首位を死守した。
8回表の守備。ホットコーナーに走る今岡に、拍手の雨が降り注いだ。「気持ちよかったですね。今日は本当に負けられない試合だった」7回1死二塁で左中間に適時三塁打を放ち、昨年5月9日の中日戦(甲子園)以来となる1試合6打点。抜群の勝負強さを誇る5番打者は帽子を取り、高々とグラブを突き上げた。  背番号7の独り舞台は3回に幕を開けた。同点で迎えた2死一塁。山本昌の初球、126キロのスクリューを左翼席に放り込んだ。値千金の23号2ラン。5回1死一、三塁ではカウント2―1からファウルで粘り、10球目の142キロをジャストミート。今季初の2打席連続弾で前夜(31日)の屈辱を晴らした。  頭の片隅にあったのは、惨敗につながった3回の失策だ。先頭・荒木の三ゴロをジャッグルし、5点を奪われるきっかけを作った。しかし、この日は3回1死、荒木の三塁線の当たりをダイビングキャッチして素早く送球。好守で先発・下柳をもり立てた。  2本塁打を含む4打数3安打で1985年のバース以来となる120打点の大台に乗せた。146試合に換算すれば、143打点ペース。50年に藤村富美男氏がマークした球団記録(146打点)の更新も見えてきた。「2本目のホームランが大きかった。今岡にしか出来ひん打ち方や」岡田監督も天性の打撃センスに目を細めた。  チームは再び貯金を21に戻し、2位・中日に1・5差をつけた。手塚オーナーが岡田監督に続投を要請したメモリアルデーに、選手会長が花を添えた。「来年も続けて欲しいし、今年は胴上げをして、いい形で終わりたい」と今岡。思い描く青写真は、背番号80が宙に舞う姿しかない。(表 洋介)   ◆8回桧山に頭部死球 両軍もみ合い  もう我慢の限界だった。岡田監督が真っ先に一塁ベンチを飛び出した。「おい、頭に来るボールが多過ぎるやろ!」コーチ陣と共に、どなり声を張り上げながら突き進んでいく。怒りに満ちた視線は、中日・落合監督に向いていた。  8回だった。無死一塁の場面で、4番手・小林の球が桧山の頭部付近に一直線。その場に倒れ込んだ。幸いにもヘルメットをかすってバットに当たっただけで済んだが、指揮官の怒りは当然、収まるはずがなかった。「カネ(金本)らをはじめ、頭の付近に来るのが多過ぎるわ。あそこの場面で行く(投げる)訳がないやろ」口をとがらせながら、語気を強めた。  ホームベース付近で両軍入り乱れた乱闘騒ぎ。最後にゆったりとした足取りで輪に加わった敵将は、冷静な口調で「何でこんなに過敏になるの。(現役時代に)網の目をくぐって当てられてきたオレが、そんなことをするはずがないよ」と、否定した。  首位攻防戦の真っただ中でぼっ発した「竜虎バトル」。残りは5試合。6日からの2連戦(ナゴヤドーム)で、岡田VS落合の再び激しい火花が散りそうだ。

 

井川完投(阪神7-1広島)8月23日

井川は何度も小さく左こぶしを握り締め、ガッツポーズを繰り返した。11年ぶりの長期ロード勝ち越しをもたらした、ハーラートップタイの11勝目。「広島打線が早打ちしてくれたんで。いつも通り頑張るだけです」9回を5安打で嶋の19号ソロのみの1失点完投。ヒーローインタビューで、プロ通算70勝目を淡々と振り返った。  序盤から小刻みなテンポで左腕を振り続けた。8回、先頭の栗原の打球が左ふくらはぎを襲ったが、約3分間の治療を経て、最後までマウンドを守り続けた。「100球を切って完投するなんて初めてちゃうか。球数も少なかったし、足にも当たったけど、最後までいかせるつもりやった」と岡田監督も気迫あふれる97球を絶賛。2003年9月16日の広島戦(甲子園)の自己最少(102球)を勝る省エネピッチで、今季2度目の完投劇を作り上げた。  まさにワンマンショーだった。1点リードで迎えた5回にはバットで魅せた。2死満塁から大竹の141キロの直球をこん身の力で叩きつけた。大きく弾んだ打球は遊撃への内野安打。今季2打点目となるタイムリーで、自らに貴重な3点目をプレゼントした。  チームは3連勝で今季最多の貯金22。長期ロードの通算成績を10勝7敗1分けとし、あと2試合を残して1994年以来の勝ち越しを決めた。「あんまり気にしてなかったけど、井川が完投したのはみんなの刺激になるし、リリーフも休めた。甲子園に帰るまで、あと2つ頑張るだけ」と指揮官は最後の最後まで井川を褒め続けた。  この日は7イニング終了時点でプロ通算1000投球回を達成。「分かっていましたけど、たまたまです」とそっけないが、入団4年目の01年からローテを守り続けてきた事実を数字で証明した。女房役の矢野が、誤って記念球をスタンドに投げ入れたが、ナインの説得もあり、最終的には本人の手元に届けられた。  殊勲のお立ち台が終わると、エースは口を閉ざし、無言でバスへの道を歩いた。降り注いだ井川コールには帽子を取って、2度頭を下げたが、表情は冴えない。心の底から白い歯を見せるのは、V奪回の瞬間と決めている。  


金本満塁弾(阪神3-1ヤクルト)8月22日

右翼席へ着弾するのを見届けると、金本はゆっくりとダイヤモンドを1周した。「2本とも阪神戦やろ。一番最高の結果になった」鮮明に覚えていた。広島時代の1998年5月3日の阪神戦(広島)で中込から放って以来、7年ぶり3本目のグランドスラム。5回無死からの29号で、一挙6点のビッグイニングを派手に締めくくった。  指揮官の言葉で、闘争心に火がついた。4回、ベンチ前の円陣で、岡田監督がゲキを飛ばした。「地に足をつけた野球をやろう」ミスが続出する嫌な流れを、4番打者が断ち切った。鳥谷の押し出し四球と、シーツの右前安打で2点を勝ち越した後、金本が館山の143キロ直球を、右翼へ突き刺した。「三振か内野フライだけはやめようと思ったから、よけいに軽く打てた」6試合ぶりの一発で、開幕から続いた神宮の連敗を4で止めた。  中日との差は、7月30日以来、4ゲームに開いた。「他は気にせず、自分たちの野球をして(優勝に)向かっていくだけ」と、金本はナインの気持ちを代弁した。長期ロードは再び白星が先行。このまま長期ロードのラストスパートをかける。


あと一本が(阪神1-1横浜)8月16日

高校球児に本拠地を明け渡す長期ロードの前半を終え、2週間ぶりに関西に戻ってきた岡田阪神。首位はキープしているものの、2位・中日が1・5ゲーム差で猛追している。「6連戦が続くこの2週間が大事やな」と岡田監督も力説するように、26日からの巨人戦で甲子園に帰るまで、何とか白星を積み上げたい。指揮官はエース井川を中6日でマウンドに送り出した。  井川は序盤から丁寧なピッチングを展開する。初回1死から小池に四球を与えたが、金城を右邪飛、佐伯を二ゴロに料理すると、3回には三浦の3球三振を手始めに、石井、小池をわずか4球で打ち取った。これで波に乗ったかと思われたが、落とし穴は4回に待ち受けていた。先頭の金城に8号ソロを浴び、先制点を奪われたのだ。  しかし、猛虎打線がすぐさま反撃に転じる。その裏2死一、三塁から藤本が三浦のフォークをすくい上げた。右中間にポトリと落ちる右前タイムリーで阪神が同点に追いついた。なおも一、三塁から井川が四球を選び、満塁。だが赤星は遊飛に倒れた。  打線の援護を得た井川は、再び粘り強い投球を見せる。5回2死から石井の死球と小池の中前安打で2死一、三塁のピンチを招いたが、金城を146キロの直球で中飛に抑え、無失点で切り抜けた。  阪神は6回、勝ち越しのチャンスを作る。先頭の桧山が三塁後方に落ちる幸運な二塁打で出塁。だが矢野、藤本が空振り三振に倒れると、井川も平凡な遊ゴロに終わり、絶好の機会を逃した。  阪神は7回にも先頭の赤星が三塁内野安打で出塁。鳥谷が犠打を決め1死二塁としたが、シーツが空振り三振。金本が敬遠され、2死一、二塁となったが、今岡も空振り三振に終わり、またもや勝ち越しに失敗した。  阪神は9回、1死二塁とし、サヨナラのチャンスをつくったが、鳥谷、シーツが倒れ、延長戦に突入した。  12回も両軍無得点でドローに終わったが、中日が巨人に敗れたため、阪神はゲーム差を2に広げた。

 

福原がやっと勝った(阪神5-3中日)7月10日

6点差をひっくり返された悪夢を福原がリベンジをはたした。
屈辱にまみれた前夜のエースに代わって、白星を取り返してみせた。福原が7月6日のヤクルト戦(甲子園)以来、約1カ月ぶりとなる6勝目だ。  「むちゃくちゃ長かったです」と振り返ったのは、二死満塁のピンチをしのぎ、2点のリードを守った五回だ。9番・代打大西からのスタート。同じ五回に9失点した前日9日の井川と同じシチュエーション。まず大西は遊ゴロに打ち取った。だが、荒木、井端の1、2番コンビに連打され、二死後にウッズに四球を与えて満塁。  迎えた福留には、久保投手コーチに申し出てこの回から変えたワインドアップのモーションから真っ向勝負。スライダーで空振り三振に仕留めると、グラブを叩きながらマウンドを降りた。  「昨日ときょうの違いは、先発ピッチャーが5回を投げきるかどうか。昨日と同じゲーム展開で、五回も大西からで一緒。井川は打たれたけど、福原は抑えたな」と岡田監督。リードを守れたから藤川、ウィリアムス、久保田をちゅうちょなくつぎ込めた。そして勝った。指揮官が福原の粘りを称えたのも当然だ。  「大事な試合で勝てて良かった」。安堵の笑みを浮かべた福原。負ければ首位を陥落した試合。リーグワーストの12敗。勝利に恵まれずに、黒星を重ねてきた虎投の中核が、“転落”のピンチからチームを救った。

ヤクルトに連敗(阪神1-2ヤクルト)7月31日

藤川が打たれヤクルトに連敗してしまった。明日から死のロードが始まる。
藤川だけじゃない。杉山も痛恨の1球に泣いた。1点リードの七回二死二、三塁。カウント1−0から、144キロの真っ直ぐが甘く入った。代打・ユウイチの打球は足元をすり抜けて、中前へ転がった。  「矢野さんのリードに助けられた。最後はリードのところに投げられなかった。打たれたのは、ぼくの責任です」  再三の窮地も、踏ん張り続けた。いきなり一回一死一、三塁のピンチを招いた。四回にも一死一、二塁とされたが、いずれも後続をピシャリと抑えた。  五回無死から土橋に右中間二塁打を浴びても、藤井のバントを迷わず三塁へ送球し、土橋を挟殺。七回無死一塁でも、リグスのバントを二塁で刺した。自らの好守で窮地を脱出したと思われたが、その後に同点打を浴びてしまった。  安定感は抜群だ。規定投球回には到達していないが、防御率は2.70。下柳の2.65に次いで、虎投先発陣の中で2位。交流戦でも松坂、杉内らエース級と対等に投げ合ってきた。この日も藤井に負けじと7回1失点。 久保投手コーチは「よかった。仕事してくれた」とねぎらった。  「焦ったんかな。一塁が空いているところで、慌てて1ストライクから勝負せんでもよかった」  岡田監督は、あえて辛口で評価したが、“日曜日の男”として期待の裏返し。同い年の藤川とともに、杉山にとっても夏の長期ロードはリベンジの旅にもなる。


いぶし銀・下柳(阪神5-0ヤクルト) 7月29日

打たれそうでいて、得点を許さない投球を続けている下柳。
後半戦のスタートをきっちり白星で飾った。たよりになるまさに阪神のエースだ。
6回81球で0封。アウト18個のうち、14個を内野ゴロで奪った芸術的な9勝目は、ベテラン左腕の“らしさ”が凝縮されていた。  「ナイスピッチング? どうも…。普通に投げただけです」  いつも通りお立ち台は“拒否”。広報を通じて「いつも以上に余分な力を入れないように心がけた。試合を作ることができてよかった。矢野のリードのおかげです」とコメントを加えると、足早にロッカーへ入った。  9勝1敗。貯金8は虎投No.1。下柳が投げれば好守が出る。打線が応える。ふとしたグラウンドでの光景に、その理由がにじみ出ていた。  三回、連続で好守を見せた二塁・藤本に近づくと、指をさしながら声をかけた。六回一死二塁では、岩村のあわやの大飛球を、中堅・赤星がフェンスいっぱいで捕球。遠いマウンドから軽く帽子のひさしに手をやると、快速センターもすっと帽子をとって応えた。「逆に捕れなかったら言われますけどね」と笑顔の赤星。「いつもハッパをかけてもらっているし、下さん(下柳)が常にベンチでも応援してくれているのも、見ているし。リズムがいいですから」。  抜群のリズムとバックとの強い信頼関係が支える37歳の快投。そこに繊細さも併せ持つ。ファウルでもフェアでも、一度『打球』となった球は必ず違う球に替える。「バットに当たるのが嫌なんでしょうね。憲伸(川上=中日)と一緒。大胆に見えるけれど、めちゃくちゃ繊細ですから」と矢野。ゲン担ぎに近い決め細やかさも、下柳のマウンドでの強さを生む。  「頭が下がるというか…暑い中、自分でゲームを作ってくれた。六回まで0点が勝因。あのリズムを見て、安藤も福原もよくなった」。岡田監督もうなる芸術ピッチ。背中で語る左腕が、2年ぶり3度目の2ケタ勝利へ涼しい顔でリーチをかけた。


首位折り返し(7月26日)

オールスターでの阪神勢の活躍をもとに、このまま突っ走れ。
永遠のライバルに、とどめを刺す。甲子園での練習前、ベンチで岡田監督は、後半戦の秘策を明かした。「赤星の(左)脇腹の状態もよくなってきた。これからは自由にいってくれたらええ」リードオフマンに、盗塁の“解禁”を言い渡した。  6月15日の西武戦(インボイス西武)で、二盗を試みた際、遊撃・中島と交錯。左ろっ骨に3か所のヒビが入っていることが判明した。負傷前は65試合で31盗塁だったが、負傷後は25試合で9盗塁。チームの1試合平均得点も、4・94から4・56に減少。赤星の体調を考慮し、これまでは勝負どころでの盗塁しか許可していなかった指揮官が、回復具合を見て、ついにゴーサインを出した。  亀裂骨折の影響で、帰塁がきつく、大きなリードが取れなかった赤星も、「けん制が速くない投手しか、勝負できなかったけど、昨日ぐらいから、かなりよくなってきました」と全快宣言。巨人・阿部からは、2003年4月30日(甲子園)に刺されて以降、17回連続で盗塁に成功中。「違ったところから、プレッシャーをかけるのも、ぼくの仕事。イライラさせれば…」塁上から揺さぶり、相手の司令塔のリズムを乱すつもりだ。  巨人の攻守のキーマン・阿部をつぶせば、勝ったも同然。この3連戦で1勝すれば、巨人の自力Vの可能性は消える。「(高橋)由伸がいないのは大きいよな。巨人だし(勝てば)勢いがつくよ。区切りはもうない。最後までやっていくだけや」猛虎の将は自信たっぷりに、残り55試合、突っ走ることを宣言した。