交流戦


クルーン 161km(阪神1-1横浜)

赤星が40盗塁を果たしたが、延長の最終打席で
クルーンの日本最速球161kmをも体験した。しばらくは繰り返し映像が見られそうだ。
無風だった甲子園に、一陣の風が舞った。蒸し暑い空気を切り裂いて、赤い彗星が一、二塁間を駆け抜けた。延長十回一死一塁。2番手・川村の初球に何の迷いもなくスタートを切る。今季40個目の盗塁。3年連続で大台をクリア。延長十二回の死闘の末、無念のドロー。平日の聖地を埋めた4万5472人に勝利はプレゼントできなかったが、“赤星劇場”が虎党清涼剤となった。  「いけると思ったから(初球から)いった。延長に入って、大事な場面。アウトになってはいけない場面だった」  延長での盗塁。絶対にミスが許されない局面での二盗を決めた。しかも、初球。恒例となった虎党の『走れコール』を聞かないうちに二塁ベースに到達した。セ・リーグでは広島・緒方(95〜97)以来となる3年連続の40盗塁はもちろん、リーグ断トツトップだ。  六回には“冒険”もした。「いってからやばいと思ったけど。一個でも先を狙っているから」と、得点に結びつかなかったが、次打者・鳥谷の初球を弾いた相手捕手・相川の隙をついて間一髪、三塁を陥れた。  足だけでは終わらない。七回二死満塁から、押し出し四球を選んで劣勢を跳ね返した。フルカウントからのフォークにバットが止まった。「よく見たね。フォークがあると思ったから、止まった。なかったら止まらない」。通算29敗(9勝)の難敵・三浦を攻略した選球眼と配球の読み。「ほとんど打てるボールはなかった」と脱帽するほど、三浦は難攻不落だった。孤軍奮闘の赤星が勝ちに等しいドローを呼び込んだ。  最後まで聖地を沸かせた。延長十二回、速球王・クルーンとの対決。カウント2−2からの6球目。日本最速の161キロをファウル。「150キロとは全然違う。ファウルするのが精一杯だった」と苦笑いも、フルスイングで対抗だ。痛めていた左わき腹の不安もなくなってきた。2安打で打率.325 にあげた。


貯金が19(阪神14-5広島)7月15日

 勝負強い5番打者を中心とした打線が、御前試合6連勝をもたらした。左足内転筋を痛めている金本が四球で歩いた直後の2回2死一塁、今岡がロマノの直球を左翼スタンドに叩き込んだ。「第1打席に失敗しているので、打ててよかった」無死満塁のチャンスで右飛に倒れた初回の雪辱を果たす16号2ランで、試合の行方を決定づけた。  ポイントゲッターのバットは止まらない。5回だ。シーツ、金本が連続で押し出し四球を選び、なおも1死満塁のチャンスで玉山の直球を右中間にはじき返した。「毎度、毎度のことだけど、金本さんのお陰だからね」ダメ押しの2点二塁打で82打点。自己最多をマークした昨年にあと「1」と迫った。またアーチをかけた試合はこれで6連勝と選手会長が大暴れした。 1回2死満塁、左前に適時打を放った下柳  チームは毎回、先発全員の17安打と切れ目のない攻撃を展開した。また金本の4四球を筆頭に、全体で13個のフォアボールを選ぶなど、赤ヘル投手陣を完膚なきまでに叩きのめした。岡田監督は「低めのボールをよく見極めていたな。今岡は2死からの追加点がすごく大きかった。前半戦の最後なんで、ネジを巻き直して、頑張っていきたい」と、今季最多タイの貯金19に目を細めた。


ようやく片岡が(阪神7-5ヤクルト)7月12日

昨年から出番のなかった片岡がようやく仕事らしい仕事をした。(拍手)
心地よい感触の残った両手をパチンとたたき合わせた。言葉にならない叫び声とともに、片岡は二塁ベース上で右こぶしを突き上げた。忘れかけていた猛虎ファンの声援。「久しぶりに戦力になれたような気がしてホッとしました。いい時に使ってもらえて、なかなかいい結果が出てなかったんですけど、スッとしました」苦労を重ねたベテランは顔をほころばせた。  研ぎ澄ました集中力で逆転打を導き出した。1点を追う7回2死満塁。2―2と追い込まれた6球目、123キロのスライダーをジャストミート。打球は右中間を割り、走者一掃の3点二塁打となった。  開幕直前の3月19日に左ふくらはぎに激痛が走った。当初はシーズンインに間に合わせるリハビリメニューを組んだが、予定は大幅にずれ込んだ。「若い時に体を節制してなかったせいかもしれんわ。毎日が飲み会みたいやったから」15年目に突入したプロ生活を振り返り、後悔と反省で胸がいっぱいになった。  折れそうになる心を支えてくれたのが2人の息子だった。鳴尾浜での練習を終え、芦屋市内の自宅に戻ると、元気いっぱいの長男・大空君(2つ)と、二男・吉平君(0歳)が待っていた。「アイツらほんまにやかましいからな」缶ビール1本を晩酌にして円卓を囲む楽しいひと時。1軍昇格した後は、遠征も多くなるため、テレビ電話付きの携帯で笑顔をチェックし、毎日の活力にしている。  チームは50勝に一番乗りで10カード連続勝ち越しに王手をかけた。貯金を今季最多の19に伸ばし、岡田監督も笑いが止まらない。「今の方が(2年前よりも)強いんじゃないですか。このまま? いかなあかんでしょう」とお立ち台でも笑顔を振りまいた片岡。遅れてきた36歳のいぶし銀が、ようやく本来の力を見せつけた。  


問題のスペンサー(阪神2-0中日)7月10日

アリアスの代役・スペンサーがお目覚めか。檜山もパットしないこのごろだが
この日テレビを付けたととたんに、スペンサーのところに大飛球がとんでいった。それをたおれながらとった。
2点リードの八回二死。中日・谷繁が藤川の初球、147キロの直球を右中間に弾き返す。半身の姿勢で必死で球を追ったのはスペンサーだ。グイッと左手を伸ばし、同時にフェンスに頭をぶつけて転倒。だが、黒いグラブに収まった球は落とさなかった。  「目をつぶってグラブを出したんだ。谷繁さんはガッカリしただろうけどね」。桧山との併用が続く助っ人は、笑顔で好守を振り返った。  不振続きだったバットからも、このところ快音が響いている。この日は二回。一死三塁で前進守備の遊撃・井端の頭上を越し、金本を本塁へ迎え入れた。4月29日ヤクルト戦(神宮)以来となる先制打。交流戦では不振を極めたが、7月の声と同時に打撃はうなぎのぼりだ。出場7試合連続安打。この日は九回にも右前打を放ち、2試合連続のマルチも記録。21打数9安打で、.429の高打率を維持している。  それが好守にも表れた格好だが、スペンサー自身は「守備はいつも練習している通り。バッティングとはあまり関係ない。ただ、自分がヒットを打てていないときは、相手チームにもヒットを打たせたくないんだ」と説明した。  手術した右肩が回復した浜中が、右翼の守備練習を本格再開。同じ右打ちのスペンサーにとっては、後半戦に向けてより厳しい状況が待ち受ける。生き残るためにも、バットで“7月攻勢”をかけるしかない 。

鳥谷ついに3割へ(阪神2-1ヤクルト)7月6日

開幕当初はいろいろ言われた鳥谷だったがいつのまにか3割を超えてきた。
 「コンスタントにヒット? たまたま出ているだけですよ。3割? あと何十試合もあるわけですしね。このままいけるように頑張りたい」  試合終了後、恒例となった約1時間の居残り特打でかいた汗を気持ちよさそうにぬぐい、目尻を下げた。  まずは、初回。同期で昨年の新人王・川島の137キロカットボールを右前にはじき返す。連続試合安打を「13」に伸ばした。そして、1点ビハインドで迎えた四回一死の2打席目。当たり損ねの打球が二遊間に飛んでいく。全力疾走で一塁を駆け抜けて、遊ゴロ内野安打をマーク。この一打をきっかけに、川島のリズムが崩れる。二死満塁からスペンサーが四球を選び、背番号1が同点のホームを踏んだ。  4打数2安打で打率は.301。5月24日のオリックス戦(倉敷)以来の大台超え。キャンプからマンツーマンで指導してきた正田打撃コーチも進化を認める。「技術的には細かいことをいえばいろいろあるが、ゲームに出続けて、足りないところを修正している。このままいくとは思っていないが、それなりの成績は残せる」と2年目の飛躍に太鼓判を押した。  うまくなりたい。ヒットを打ちたい。進化の原動力は向上心に裏づけされた豊富な練習量。試合後も一番最後まで残ってバットを振る。「いい時もあれば、ヒットが出ない時もあります。なるべくその差を少なくするために練習をしているわけですから」。決して嘘はつかない努力が鳥谷を脱皮させた。  7日はオールスターのファン投票の結果発表。セ遊撃部門で当確ランプはついているが、この3割到達で人気と実力の両面で勝ち得た堂々たるトップ当選が濃厚だ。虎の若大将が大きく羽ばたこうとしている。

首位阪神(阪神6-3横浜) 7月3日

このごろ連敗をしなくなったなあと思っていたら首位を不動のものにしていた。
阪神は安藤が初完投勝利こそ逃したが、九回途中3失点で3勝目。久保田が10セーブ目。打線は二回に矢野の10号2ランで先制、終盤の加点で突き放し、7カード連続の勝ち越し。  横浜は八回まで1安打で、九回の反撃も遅過ぎた。  別人のようにリズムが良くなった。大胆なフォーム改造がはまった安藤が、5月13日以来の3勝目。「正直、多少の不安があったが、やるしかない。自分を信じていった」。今季から先発に転向した4年目の右腕は、かみしめるように話した。  きっかけは、前回の登板後の久保投手コーチとの話し合いだった。来季から左足を2度上げる投法の“2段モーション”が禁止になる。安藤のトレードマークともなっていたこのフォームだが「どうせ変えるなら、早い方がいいということになった」。“1段”に戻すにあたり参考にしたのが巨人の上原。左足の陰にボールを隠す動きを取り入れ、黙々と練習を積んだ。  新フォームは、安藤にぴったりだった。この日は「ちょっと模索していた」と言う立ち上がりこそ制球がばらついたが、三回以降はまさに快刀乱麻の出来。直球が伸び、変化球も面白いように低めに決まっていく。八回まで許した安打は、二回の村田の一発だけ。「球数も少ないし、テンポがいい。軽い感じですごくボールがいっていた」と、岡田監督も絶賛の快投を演じた。  初の完投勝利が目前となった九回に乱れ、降板したが、それは次への課題だろう。最後は久保田が締め、阪神は7カード連続の勝ち越し。貯金は14に伸びた。


広島に連勝(阪神7-3広島) 6月29日

先発の福原は相変わらずのホームラン病からぬけだせない。
前半で2本のホームランで3失点。でもこのままで後半戦をむかえて、逆転に結びついた。
たったひと振りで、ひっくり返した。痛快な放物線が、黄色く染まった米子の左翼席へ吸い込まれた。2点を追う七回一死一、二塁から、3番シーツが逆転8号3ラン。30二塁打でシーズン日本記録52(谷=オリックス)を上回るペースの“ミスター・ツーベース”が、仮面を脱ぎ捨て、19試合ぶりのアーチ。3連勝で貯金を13に伸ばす千金弾だ。  「狙っていた? 高い球にヤマを張っていた。スライダーが甘いところにきてくれたからね」  トドメは、同じ元赤ヘルの金本の豪弾。九回一死一、三塁から、ベイルのスライダーをバックスクリーン右にドカン。「ちょっと泳いだ。ベイルは真っ直ぐを打たんと価値はない」と素っ気無いが、2試合連発、19号3ランで勝負あり、だ。  “負け試合”だった。5回まで9安打を放ちながら、1点。シーツも一回に金本の左前打で一塁から三塁を狙って、憤死。土を叩いて悔しがった。福原も2発を許す最悪の展開。それを3、4番のアベック弾でモノにした。  「こんなん負けゲームや。こんなことしてたら足元すくわれる」と厳しい表情で手綱を引き締めた岡田監督も、Vへの手応えを感じるからこそ。力づくで勝利をもぎとれるからこそ、強い。  昨年まで広島に在籍したシーツ。試合前は2000安打の野村に「おめでとう!!」と祝福も贈った。この日の猛打賞で今季C戦全8試合に安打を放ち、打率.486。14打点で4発。「ラッキー。何でだろう、わからないよ」。開幕直後は内角攻めへの“遺恨”もあったが、今はただ勝利のために、打つ。己はもう捨てている。  趣味のゴルフは90〜95の腕前。「得意なクラブは7番アイアン」とはいかにもシーツだが、普段は巧打で打ち分けても、ここ一番では「300ヤードは出る」というドライバーショットへ豹変する。  「チームが勝っているから、楽しんでやれている。いい雰囲気だね」  大阪では株主総会が開かれ、手塚オーナーがチームへ最大級の賛辞を送った。セ・リーグではここ10年、「6月首位チーム」が8度、制覇している。“優勝確率”は80%!! 風は確かに吹いている。今岡、金本の前にシーツあり。つなげる。そして走者をかえす3番打者が、猛虎の独走を加速させる。


巨人戦もさよなら勝ち(阪神4-3巨人) 6月24日

初回に3点を取って楽勝かと思っていたらすぐに追いつかれ
なかなか追加点が取れない展開が続いた。阪神打線も塁にはでるが後一本が出ない。
宿敵にトドメを刺すには十分すぎる打球が、漆黒の夜空に舞い上がった。三走・赤星が悠々とホームをかけるのを見届けたヒーローは、両手を高々と突き上げた。めったに見せないド派手なアクションが、虎党のボルテージを倍増させた。総立ちの甲子園。今岡コールが鳴り止まない。サヨナラや! 巨人との伝統の一戦。今季最多の4万8523人で埋め尽くされた聖地が、『今岡劇場』に酔いしれた。  「うれしいっす。本当に。赤星の足だから、打った瞬間、点が入ったなと思いました」  慣れたはずのお立ち台。サヨナラ犠飛に、冷静な男の声が上ずった。今夜ばかりは興奮を抑え切れなかった。  ドラマの最終章は延長十一回だ。先頭・赤星が中前打で出塁。一死一、三塁で、金本が敬遠された。手負いの赤星の姿勢、目の前での敬遠。しかも、九回無死一塁で試みたバントが最悪の結果(捕ゴロ併殺)になっていた。気負いという名の“三重苦”に陥りそうな局面で、責任感の強い今岡を救ったのが、岡田監督だった。打席に入る直前、初めて声をかけられていた。  「監督には『おまえが決めてこい』と言われました。前の打席でミスしていたし、超開き直りでいきました」。初体験の出来事に力が抜けた。3番手・久保のカウント1−1からの141キロのカットボールを振り抜き、サヨナラ中犠飛。エース・上原で必勝を期した巨人を選手会長の“帳消し打”で競り落とした。「勝手にバントをしたから、お前が決めろと言ったんや」と岡田監督も苦笑いで振り返った。  打点王(69打点)が苦しんでいた。23日の中日戦の試合前のフリー打撃。直前の2試合で9打数2安打に終わっており、「今日はめいっぱい振るわ」と“ストレス発散打法”を宣言。フルスイングを見せていた。「気持ちの切り替えが大事。悪いことはすぐ忘れる」という理論の持ち主が見せた珍しい姿だった。  今季4度目のサヨナラ勝ちで最多タイの貯金11。03年以来、3カ月連続で月間勝ち越しも決めた。「最悪の一日になると思った。ついてますね。ヒーローになっている自分がいる。野球っておもしろいなあと痛感する一日だった。今は目の前のことだけ。2年前も今年も変わらない」。首位を独走も、優勝の2文字は封印した。実りの秋へ、稀代のバットマンが猛虎の進撃を支える。


鳥谷サヨナラホームラン(阪神4-2中日) 6月22日

鳥谷がやってくれました。延長12回、劇的なさよならホームランだ。
虎党の夢を乗せて、弾丸ライナーが左翼席に突き刺さった。サヨナラや! 大阪ドームを揺るがすような大歓声に包まれて、ナインが待ち構えるホームに照れくさそうに飛び込んだ。落合竜との延長十二回の死闘に終止符を打つプロ初のサヨナラアーチ。ヘルメットが脱げるほどの手荒い祝福をかきわけ、笑顔の岡田監督と歓喜の抱擁。こんなにはしゃぐ鳥谷、見たことないで! まるでドラマのような劇弾に、2万8140人は優勝を確信した。  「何が起こっているのか自分でも分かっていないです。打った瞬間、入ったと思いました。まさか自分がホームランを打てるとは思ってなかったのでよかったです」。今季初のお立ち台。3号サヨナラ弾にクールな男が大絶叫した。今季最多貯金11。2位・横浜に今季最大4差をつけた主役は興奮を隠せなかった。  首位攻防第2R。延長十二回一死一塁。平井の外角直球を得意の左方向に運んだ。「大学のときにあったかな」。早大2年の法大3回戦(01年5月1日)。延長十一回にバックスクリーンに放って以来のサヨナラ弾。その夜、飲みに繰り出した先輩の誘いを断って、東京・東伏見の室内練習場で一人バットを振っていた記憶が蘇ってきた。誰にも負けない練習量が鳥谷を支えている。  一人舞台だった。2点差の四回に川上から3試合ぶりの2号右ソロで追撃ムードを高めた。自身初の1試合2発。15日の西武戦で生まれた1号に261打席を要したが、「これまで打球が上がらなかった。上半身と下半身の連動ができてきた」という手ごたえが、量産態勢に突入させた。  4月15日からの中日戦。5打席連続三振など11打席連続無安打に終わった。九回に代打も告げられ、今季初の途中交代した17日。宿舎への帰りのバスでは前のイスに頭をあてながらうつむく姿があった。そのまま新幹線で東京移動。「乗った瞬間に寝て、着く直前に起きる」という男が1時間30分、屈辱に震え眠れなかった。感情の起伏を表に出さない鳥谷が見せた苦悩の姿。前日の同点適時打を含め、リベンジした。昨年7月以来7カードぶりの中日戦の勝ち越しを決めた。  「最後はホームランで締めくくることができました」。落合竜も蹴散らした。

ペナント再開(阪神4-3中日) 6月21日

交流戦は阪神にとってはいい戦いができた。というのも、中日に大きく引き離されて
いたのが、交流戦が終わってみれば、順位が逆転していたのだから交流戦様様といえる。
相棒への思いが正捕手の背中を押した。同点に追いついた5回、なおも無死満塁から、今岡、代打・桧山が連続三振。嫌な流れの中で、矢野の眼光が鋭く光った。「井川が頑張ってたしね。逆に開き直っていた」フルカウントから岡本の128キロスライダーを強振。勝ち越しの2点適時打がライナーで三遊間を抜けると、一塁を回ったところで何度も両手を叩いた。  逆転劇の陰の功労者は、もちろんエースだ。3回までに2点を失ったが、ここから踏ん張った。最速147キロの直球で押す攻めの投球で、7回までの残り4イニングで許したのは2四球だけ。「何とか粘って投げることができました。矢野さんを含め、野手のみなさんのおかげです」とほおを緩めた。大阪ドームで迎えた4月1日のヤクルトとの開幕戦で、8回6失点での黒星スタートをリベンジ。通算でも9試合で6勝2敗、防御率1・75と抜群の相性の良さを見せ付けた。 久保田(左)を笑顔で迎える岡田監督  復活した左腕が7回4安打2失点で6勝目。「キャッチャーとしては先発に勝ち星をつけたい。きょうは攻撃でもリードでも、すべてで満足できた」と、矢野は何よりも喜んだ。2点ビハインドの4回には8号ソロで反撃ののろしを上げるなど攻守に大活躍。こちらも大阪ドームでは通算44試合で打率3割2分9厘、2本塁打、16打点と大暴れしている。  リーグ戦再開で白星スタートした岡田監督も「セ・リーグ同士でこういうゲームができた」と、会心の笑みを浮かべた。貯金は今季最多タイの10。矢野もお立ち台の最後で「僕たちには優勝しかないんで、頑張ります」と叫んだ。猛虎がV奪回へ向け、再び走り始めた。  

鳥谷がんばる(阪神4-0西武)6月14日

井川が久しぶりに投げた。三振はまだ、取れないが
打たれながらも要所をしめる投球で西武打線を抑え込んだ。
インボイス西武)先制タイムリー、そして貴重な中押しにつながる“つなぎ”のヒット。2番の鳥谷が、松坂撃破にまたも貢献だ。  「いい場面で回ってきた、そういう打順だったんで、いい結果につながって良かったです」  三回。左前打の赤星が、盗塁と捕逸で三塁まで進む無死三塁のチャンス。初回の無死一塁では右飛。「初球を簡単に打ち上げてしまったので。何とかしたかった」と反省を生かしてボールを見極め、カウント2−3から松坂の147キロ直球を中前に弾きかえした。  かつて西武球場=インボイスには、将来に夢をはせた幼いころの原点がある。西武の黄金時代によく日本シリーズの観戦に訪れた。早大時代も学舎が近く「僕にとっては、地元みたいなものですから」と試合前から意気込んでいた。  二死一、二塁で回ってきた七回の4打席目には左前に運んで満塁とし、浜中の2点タイムリーへとつないだ。松坂からは、5月18日(甲子園)の対戦でも2安打しているが、これで6試合連続安打。打撃不振の藤本に代わって5日のロッテ戦から任され、この日で8試合目となった2番の“水”にも慣れてきた。  岡田監督も「ようつないどるな。先制点の欲しいところやったからな」。1番・赤星−2番・藤本の並びがあくまで基本だが、今のところ鳥谷を外す理由がみつからないのが実情だ。  交流戦に入ってからは猛打賞を3度記録するなど勢いが増してきた。「毎日毎日、知らないピッチャーで余裕はありません」と話すが、残りは2試合。松坂キラーのハクもついた。上り調子を維持したまま、交流戦を終えたい。
 
金本さよならホームラン(阪神5-4日本ハム)6月10日

安藤がピリッとせず、打線もつながりを欠いていたが金本が一発で解消してくれた。
ホームを踏んだ金本がナインにもみくちゃにされた。「藤本にカンチョーされたわ」ズボンを脱がされそうになったのも、ご愛きょう。勝ったのが、すべてだった。  延長10回、4番が決めた。横山の2球目。真ん中に入った140キロ直球を逃さなかった。打球は甲子園に凱旋(がいせん)した新庄の頭上を越え、バックスクリーンへ。「どうだ!」とダイヤモンドを1周した。  昨年5月8日の中日戦(甲子園)以来、自身5本目の劇的弾で、今季2度目のサヨナラ勝ちだ。「私生活でいろいろ心配事が多いので、野球にぶつけました」お立ち台では、軽妙なトークで場内の爆笑を誘った。  記念日に負けたくなかった。2点を先制された直後の初回1死一塁、入来から右中間へ、11試合ぶりとなる14号2ランを叩き込み、逆転に成功した。史上4人目となる全12球団からの本塁打だ。「胸を張るような記録じゃない」と笑い飛ばしたが、交流戦元年に早々と珍記録をクリアした。  2日のソフトバンク戦(甲子園)で三瀬から頭部に死球を受けた。その後は両ふくらはぎに張りを訴えた。「岡田監督を胴上げしたい」という一心で、37歳は自分の体にムチを打つ。4番の独り舞台で、岡田阪神は貯金を今季最多タイの8に伸ばした。「みんなの前でヒーローインタビューをしたいと申しておりました」最後も冗談でファンの心をわしづかみにした。  

火曜日(阪神4-2オリックス) 6月7日

三連戦の初日は勝てないジンクスがあったが、苦戦の末やっと勝てた。
先発は二軍から上がったばかりの前川だったが、四球で自滅してしまった。
思わぬ奇襲だった。「全然、考えてなかった」岡田監督も仰天したように、オリックスの先発は、2試合連続で萩原だった。ナインに動揺が走ったが、1番の赤星は冷静だった。「対戦してますから。訳の分からんピッチャーではない。とにかく塁に出ようと」四球を選ぶと、続く鳥谷の4球目にスタート。今季26個目の盗塁に成功すると、鈴木の悪送球が絡んで三塁まで到達。シーツの中前適時打で、先制のホームを踏んだ。  この試合まで、リードオフマンが初回に盗塁を決めれば、5戦すべてで得点を挙げ、結果的に勝利を収めていた。「初回に走ったら、勝ってるっていうのは知っていたから、今日は勝ちかなと思いこんでやった」10試合ぶりに初回に盗塁を決め、これで6戦全勝だ。さあ、赤星がどこまで記録を伸ばしていくか楽しみだ。

今岡怒りの一発(阪神10-7ロッテ) 6月3日

“最強”ロッテ相手に甲子園での悪夢の連敗を3で止め、カード初戦の連敗も5でストップ。絶対負けられない試合を劇弾で決めたヒーローは、お立ち台で「ファンのおかげ」「嬉しい」と繰り返すと、笑顔の“会見拒否”でロッカーへ直行した。  これで58打点。勝負強さは球界随一のセ打点王が、初めて前の打者を歩かされ勝負を挑まれた。まだ3ボールから、すでに打席の方へ。ベース1周では、ロッテベンチへ気合の“咆哮”もみせた。なめるな!! しかしそれは怒りというより、勝利への強い渇望だった。  前日2日、金本の頭部死球直後に左中間二塁打。「絶対打たなアカンから」。絶対打たなアカン場面で本当に打てる。その心理について「理屈じゃない。勝ちたいということ」と言い切った。「結局負けたんだから、こんな話は意味ない。きょう勝てばいいんでしょ。きょうは勝つ!! 俺はやるよ」。試合前から、すでに気合は最高潮だった。  常に高い得点圏打率。秘訣は「投手より心理的優位に立つ」ことだ。気持ちで上回り、興奮と冷静な判断を一直線の力に変える。9年間で積み重ねた最大の財産だ。  こんな話をしたことがある。「結婚すると、どうでもいいことが、本当にどうでもよくなる」。どうでもよくないことに恐るべき力を出す裏には、家族がある。支えてくれる存在が、何気ない日常生活から勝負強さと精神力を養ってくれる。  「初めてじゃないか、敬遠は。勝負強さをああいう所で発揮してくれた。打点王やからな」と岡田監督。選手会長に全幅の信頼を寄せる指揮官は「甲子園で何とかみんなで(連敗を)止めようと。きょうはみんなで止めた」と声を強めた。夜空に響いた猛虎の咆哮。執念の勝利に、甲子園はいつまでも揺れていた。

3連敗 6月2日

とうとう3連敗を喫した。緒戦の敗戦のときその予感はあったが、まさか現実になるとは・・・・。
 「重いわな。最初の7点が。ホームランで勢いづかせた。最初の3点がよけいやった」。終わってみれば接戦も、岡田監督は序盤の失点を悔やんだ。二回一死一、二塁から伏兵・宮地に先制3ラン。サンケイスポーツ評論家の星野伸之氏も、この福原の投球を敗因に挙げる。  星野 「福原は全体的に球が高く、甘く入っていた。きょうは風がいつもの逆の右翼方向に吹いていて、左打者でも球が伸びるので、宮地に対しても細心の注意を払うべきだった。レフト方向へ打たせる配球が必要。次が投手だし、ヒットならいいけど、本塁打は最悪。防げるところを防げてなかった」  三回にも松中に2ラン八回には藤川が城島にトドメの2ランを浴びた。前日1日の乱調・井川の流れを止められず、結局この3連戦で計8被弾。甲子園では、今季初となる3タテを食らってしまった。  星野 「走者がいる場面での本塁打が目立つ。本塁打だけは避ける配球や、できるだけ失点を抑える意識がもっと必要だ。杉山は研究されていなかったが、福原、井川の左右の両エースは調子が悪い上に、かなり研究されていた」  リーグ優勝した4シーズンのうち62、64、03年は本拠地で3タテを食ったことがない。残る85年は1度あるが、直後の本拠地3連勝で“チャラ”にしている。3日からのロッテ戦では、その再現を目指さなければならない。  星野 「ロッテは投手陣がいいので、そう点は取れない。先発が防げる失点をできるだけ抑えることが大事。もう一度気持ちを切り替えてやるしかないね」  後半に入った交流戦。初対決のとき以上の分析と修正が勝負を分ける。


井川ついに2軍へ 6月1日

ソフトバンク軍団にポカポカ打たれ続ける井川。ついに2軍降格のはめに・・・。
今シーズンの井川は球威・コントロールともにピリッとしない試合が続いていた・・・・。
期待を裏切り続けるエースに容赦なかった。開幕から2カ月。ついに堪忍袋の緒が切れた。会見場のイスにどっかりと座った岡田監督が、井川の二軍落ちを自ら切り出した。技術の改善以前の問題。エースの気迫のなさが気にいらなかった。  「下へ落とす。次はもう違う投手でいく。あまりにも内容が悪いからしようがない。他の投手や野手に影響がある」  試合前には頭になかった井川の二軍落ちを即決した。ヤクルトと入れ替わり、5月21日から死守していた単独首位から陥落した。厳しい現実が不快指数を上げていた。  キレるのも当然だった。二回にはズレータ、三回には松中に特大弾を浴びた。五回にも3本のタイムリーで4失点。今季最短の5回を投げて、プロ入り自己ワーストの8失点だった(今季3敗目)。五回終了時には、うつむきながらベンチに引き揚げる井川に、4万5269の観衆がブーイング。バックネット裏の男性ファンがコップに入った水をグラウンドに投げ込むなど、聖地は異様な空気に包まれた。  03年の日本シリーズの第1戦で投げあった斉藤へのリベンジを願っていた分だけ、失望も大きかった。  03年に20勝(5敗)でリーグ優勝に貢献したエースのスランプ。開幕から3試合で勝ち星がつかず、本調子にはほど遠い内容が続いた。首脳陣も、登板間隔を変更するなど、エースの復活のため、もがいてきた。5月12日のロッテ戦で完封勝利で復活の兆しが見えたが‥。その後も、3試合連続で先制点を許すなど、小手先の修正では効果がなかった。  「ゆっくり構えているピッチングじゃね。修正点? 気迫やろ。気持ちしかないよ」と久保投手コーチ。問題は技術じゃない。精神面の不安定さだと指摘した。昨オフにはポスティングによるメジャー移籍を要求して世間を騒がせた。気持ちの揺らぎが、不調を招いているといってもいい。  99年9月17日以来となる二軍行き。「チームが負けてしまって残念です」。常に気丈に振る舞ってきた25歳も、首脳陣の信頼をなくすという事の重大さを認識した様子で語った。かつての栄光から一転、どん底にたたき落された。エースに訪れた最大の試練。気迫で乗り越えるしかない。


福原完投(阪神10-0オリックス) 5月25

福原がやっと勝った。それも完投勝利で・・・。これで、井川、福原が勝ち出せば
阪神の快進撃が始まる。今日からは東北楽天との3連戦だ。楽天も中日に3連勝して上昇中だ。
 「なかなか勝てなかったので、つい嬉しくて(ガッツポーズが)出ちゃいました」。打のヒーロー・今岡とともに上がったお立ち台。スタンドを揺るがす『福原コール』のシャワーを浴びながら、投のヒーローは照れ笑いを浮かべていた。  3安打無失点、無四球でたどり着いた九回二死。はじめて走者を三塁に背負った場面で、3番・早川にこん身の真っ向勝負を挑んだ。この日100球目となる初球は、149キロで空振り。同じく149キロの2球目を外角低めにズバッと決めると、最後は高めの148キロ。ものの見事に相手のバットが空を切る、圧巻の直球3本締めだ。  ここまでの苦い思いがすべて吹き飛んだ。「どうしても序盤に点を取られるケースが多かったので、きょうは最初から全力でいきました」。4月2日のヤクルト戦(大阪D)。7回無失点で2005年のトラ初勝利を手にして以降、白星から見放された。同8日の横浜戦(甲子園)は9回を投げたが延長引き分け。その後も好投を続けながら、打線の援護はいずれも2点以下。気がつけば黒星が6つ並んでいた。  そんな福原を見かねた首脳陣は中6日から中8日の調整に変更。余裕ができたなか、下半身の再強化に取り組み、軸足の使い方と右腕のトップの位置を確認した。  「ずっと6連戦の初戦。そういうプレッシャーもあったやろうし。きょうは、きのう引き分けて点をやれないという気持ちが野手に伝わった」。岡田監督も、右のエースの復活を喜んだ。序盤から飛ばす福原に、打線が応えて10点リード。そして満点の完封ショー。  「自分でもすごく良かったと思う。次も頑張ります」。額に光る汗をぬぐってロッカーに消えた背番号「28」に、自信が蘇った。これから福原の季節だ。がんばれ・・・・。


初回が・・・杉山(阪神2-4オリックス) 5月24日

杉山は立ち上がりをうまく攻められた。元阪神の北川にタイムリーをうたれた。
北川はたくましく成長していた。阪神を出てよかった。杉山は2回以降は好投しただけに悔やまれる。
 「変化球が手探り状態で甘くなってしまった。調子がよかっただけに初回の投球が悔やまれる。悔しいです」  終わってみれば、7回を投げて、失点は一回の3点だけ。自己最多となる毎回の10個の三振を奪った。調子がよかっただけに、まさかの3敗目に試合後は無念の表情を見せた。オープン戦の開幕投手をつとめた2月26日の同カード(安芸)。4回6失点のリベンジを狙った3年目右腕が、返り討ちにあった。  「立ち上がりが不用意やった。慎重に丁寧にいっとかな」と岡田監督がしきりに首をひねったのも当然だ。6連敗中の福原と先発ローテの順番を入れ替えて、杉山を今季初の中5日で起用していた。前回先発の18日の西武戦。松坂との投げ合いを6回無失点で制した背番号18に6連戦の初戦を託したが、結果が出なかった。


井川と濱中(阪神5-3西武) 5月19日

今年の井川は球威がないので三振がとれない。
四球を出し、簡単にヒットをうたれ、どうなるのかわからない初回だった。
また、濱中も代打要員として交流戦は活躍の場を与えられ張り切って打席にむかった。
たった1打席にかける執念が実った。カウント2―1からの4球目。大沼の外角スライダーに、浜中は左手一本で食らいついた。フラフラと上がった打球が、右前へポトリと落ちた。勝ち越しの2点タイムリー。一塁ベース上で、背番号31は力強く右手を握りしめた。  浜中の出番は突然だった。「代打とは思わなかったので、自分でもびっくりした」4回2死満塁の好機で岡田監督は、7打席連続無安打の関本を代えた。「迷いとかはなかった」指揮官の早めの勝負手に、まな弟子が応えた。「変なバッティングしやがって」ジョーク交じりの褒め言葉が、浜中の身にしみた。  猛虎に“満塁男”が誕生だ。6日の日本ハム戦(札幌ドーム)、14日の楽天戦(甲子園)に続く適時打となり、満塁では3打数3安打6打点。「野球で一番最高の場面。ピッチャーの球が絞りやすくて打ちやすいし、気持ちが高ぶる」期待に応える男が、4月21日以来となる中日との同率首位をもたらした。  たった1人のお立ち台が気持ちよかった。いつかこの日が来るようにと、半年前から左手にファンからもらったミサンガを巻いている。「魂を込めて、復活するように」願いを込めて、苦しいリハビリを続けてきた。  浜中の中ではまだ、途中にすぎない。「守備に就けるようになって、初めて完全復活なんです」焦る気持ちを抑え試合中は鏡の前でスイングを繰り返す。がんばれ濱中。
 
どうした・福原(阪神2-3西武) 5月17日

福原がなかなか勝てない。初回からピンチの連続だ。打線も凡打の山を積み上げた。
「福原の時はずーと点が取れん。打ったろうと野手もやってることやけどな。仕掛けが遅い」。岡田監督は、突然ブレーキのかかった貧打を嘆いた。八回まで西武先発・帆足の前に散発6安打。またもや福原を見殺しにして今季初の5連勝を阻止された。  やはり「鬼門」だ。昨年まで3年連続雨天中止が続いたこの西京極。4年ぶりの戦いにも貧打で敗れ、11年越しの通算6連敗となった。甲子園から見て、西京極のある北東の方角はまさしく鬼門。由緒正しい(?)虎の鬼門は、またも災いをもたらした。  象徴的な場面が四回の赤星だ。「スタートは完璧。相手のバッテリーが上回ったということです」。先頭で遊撃内野安打。執ようなけん制をかいくぐり、関本の2球目にスタートを切った。しかし、捕手・細川のワンバウンド送球に阻まれてしまったのだ。  前日まで交流戦9試合で5盗塁。これが交流戦初の盗塁失敗だった。その原因となったのが西京極の土。試合前、赤星は一、二塁間ダッシュを3度も繰り返して、首をひねっていた。「(地面が)軟らかいね。足を踏み入れたらズボッと入った。雨の中みたい」。球場側は「いつも通りの整備をしただけ」というから、もともとこのグラウンドは、赤星に向いていなかったのだ。  終わってみれば、戦前に西武・伊東監督が「何といっても赤星。盗塁で刺すことができたら勢いに乗れる」と話していた通りの展開。虎の得点力がそがれたのは、レオの徹底マークというより「鬼門」で“地の利”を失ったことにあるのだ。  「打線が打つ? そうや。打線が援護してやらんと」。岡田監督が「今季のヤマ」という西武、ソフトバンク6連戦で出鼻をくじかれた。だが、18日は甲子園で松坂を迎え撃てる。鬼門では勝てなかったが、聖地で怪物を退治すること。それが虎のV奪回の最低条件だ。

完封負け(阪神0-3ロッテ) 5月10日

阪神が今季2度目の完封負けを喫した。同じ8安打ながら、6番・スペンサーが3度の好機に凡退。2失策と守備の乱れが失点に結びつき、完敗だ。  スペンサーが天を仰いだ。とらえたはずの直球が、平凡なフライとなり、二塁・渡辺正のグラブに収まった。3点を追う9回、無死一、二塁。一発出れば同点の場面で2、4回の好機に続き凡退。浜中も最悪の遊ゴロ併殺打でゲームセット。4月20日の巨人戦(東京ドーム)以来、今季2度目の完封負けだ。  岡田監督は嘆いた。「交流戦の4試合、早い回で得点できない。先発を早いうちに攻略せんと」6日の日本ハム戦(札幌ドーム)は10点を挙げたが、その後は1点、4点、0点の貧打ぶり。歩調を合わせるかのように、守備陣がミスを重ねた。「野手もしっかりと守ってやらんといかん」と指揮官。オセロゲームのように白星と黒星の繰り返しで再び貯金は1。ロッテのお株を奪うような爆発力が、とにかく欲しい。

能見が完投勝利(阪神4-1日本ハム)

新人の能見投手が札幌ドームで完投勝利を果たした。井川がピリッとしない中での見事な投球だった。
細身の左腕がでっかい仕事をやってのけた。北の大地で背番号14が蘇る。開幕から33試合目。今季チーム初の完投勝利をマーク。プロ入り2度目のヒーローインタビューでは、右翼席の虎党に頭を下げて、やまない『能見コール』に応えた。  「(一回で)丁寧にいかなアカンと思いました。一発を打たれないように、高めに投げないように投げました」  あの“新庄神話”を崩壊させた。一回、新庄が初球を左前打。日本ハムには、新庄が一回にヒットを打つと6勝1敗というデータがあった。そんな嫌な流れでもひるまず、一死満塁からオバンドー、田中幸を強気の攻めで三振、一飛。九回にオバンドーに一発を浴びて完封勝利は逃したが、7安打1失点で2勝目。虎の新人では96年の舩木聖士以来の完投勝利で、交流戦の歴史的な“完投一番乗り”を果たした。  悪夢のKO劇が進化させた。前回1日のヤクルト戦(神宮)、最短の2回1/3でノックアウトされた。最大級の屈辱で調整法の変更を決断。「投げ込むことが精神安定剤」と周囲から言われるほどの投げ込みの鬼が、ブルペンから遠ざかった。登板前日に100球近く投げ込んでいたことが、腕の振りを鈍くしていたのだ。ブルペン入りを登板間2回から前々日の1回だけに切り替えた。  入念な準備もあった。3連戦初戦の6日。ウオーミングアップを終えると、マウンドの硬さをチェックした。4月17日の中日戦(ナゴヤD)で左ふくらはぎがつり、緊急降板。その反省からサプリメントの錠剤を飲むようにしたが、一番の原因はマウンドとの相性にあった。「ドームの土が硬くて、体重が前に乗らないまま投げていた。ここは大丈夫」。自信を持って臨んだマウンドでの完投劇だった。  前日7日に延長十二回の激闘でフル回転した中継ぎ陣には、休養をプレゼント。「それが一番よ。タフやからな」。岡田監督も、交流戦初のカード勝ち越しを導いたヒーローを称えた。  「次は完封? それは難しいけど、チームが勝つように頑張ります」。謙虚な25歳ルーキーは母の日に、兵庫県内の自宅でテレビ観戦していた母・洋子さん(54)へ、最高のプレゼントも贈った。開幕から1カ月で驚異の進化。『サンデー・アツシ』の季節はこれからが本番だ。

交流戦(阪神10-2日本ハム

濱中が一年ぶりに姿をあらわした。まだ、投げることはできないが、
打つほうに関しては問題はないようだ。しかし、現実はそんなに甘くはない。
三振、また、三振という中で、ワンチャンスを生かしてよみがえってきた。まずは、おめでとう。
自らの両腕で未来への扉を再びこじ開けた。浜中の魂を込めた打球が左翼線を切り裂いた。勝ち越しの走者2人がホームを駆け抜ける。「この1年本当につらかったんで…。走ってるとき、いろんなことが頭を駆け巡った。無我夢中でした」昨年5月5日の広島戦(広島)以来、366日ぶりに1軍のグラウンドへ戻ってきた男は、両手を叩きながら二塁ベースに達すると、右こぶしを前に突き出し、言葉にならない叫び声を上げた。  0―2で迎えた8回だった。4連続安打で2点差を追いつき、なおも2死満塁の場面だった。浜中は空振り2つでカウント2―1と追い込まれた。ここまでの3打席は無安打の2三振。しかし、昨年7月の右肩再手術から復活をかけるバットマンに、失うものは何もなかった。「とにかく思い切って振っていこうと思った」建山の139キロの直球を迷わず強振。起死回生の勝ち越し2点二塁打を放ち、8、9回の猛攻までも呼び込んだ。  ひと回り大きく成長した。一昨年5月に右肩を故障してから、痛みとの戦いが始まった。打撃フォームにも大きな影響を及ぼす。内角球に対し、痛みでバットのヘッドが返せない。試行錯誤の日々。そして傷が癒(い)えた今、背番号31はより完ぺきなスイングを手に入れた。ようやく1軍に昇格を果たした5日の練習前、浜中は1人で監督室のドアをノックした。「よろしくお願いします」恩師の目の前で頭を下げ、再出発への決意を新たにした。