「夢よもう一度」と今年もセリーグを制覇。そして、悲願の日本一を目指してキャンプが始まった。
今年は巨人も重量打者を並べて強そうだし、落合中日にもてこずりそうだ。苦手のヤクルト
もいるし、
去年のようにぶちきりの優勝は難しいだろう。


さすが伊良部投手
(3/28 デビロレイズ戦)
(日米親善野球、オープン戦、阪神7−7デビルレイズ=九回規定により引き分け、28日、東京ドーム)最後の刺激を加えることで、伊良部の右腕が劇的変化。ついに開幕へのメドが立った。くすぶっていた男に、デ軍は最高の火種だった。  「基本の4球種(直球、カーブ、スライダー、フォーク)が十分に使えるメドが立ちました。去年、チームとしても、自分としても、やり残したことがあるんで」  6回5安打2失点。今季一番の内容。MAXは142キロ。スローカーブとの緩急差で打者の錯覚を呼び、落差十分のフォークも決め球として有効だった。キャンプからの調整遅れを、一気に取り戻した印象だ。  ニューヨーク時代を知る男たちは一様に「大人になったイラブ」に驚き、称えた。「当時は自分と戦っていた印象だが、今は自分を制御できている」とはデ軍のピネラ監督。試合後の立ち振る舞いも変わった。会見の最後に「ヤンキースでやり残したことはないか?」と聞かれた伊良部は、こう答えた。  「やり残したことはないです。(当時の投球とは)変わらざるを得ない。やれることにトライしていきたいと思います」  逆輸入2年目。心の奥底で、1つの区切りを得たことは間違いない。


大丈夫?ウイリアムス
(3/25 横浜戦)
開幕前に一大事−。ウィリアムスがまた炎上とは…。岡田監督が守護神のツメの甘さに憤った。  「何で最後は上から投げたんかな…。2球連続やったやろ…」  3−3と、同点で迎えた九回二死二塁。横手投げのウィリアムスが、小池にカウント2−1から、2球連続して上手投げ。この2球目の真っすぐを左前へ破られてサヨナラ負け。まだテスト段階の上手投げを、試合を決める勝負の1球になぜ? 指揮官にも疑問の残る背信シーンだった。  またもや勝利の方程式が崩れた。ウィリアムスは前回、21日の近鉄とのOP戦(大阪ドーム)で九回二死満塁から鷹野に逆転のサヨナラ2点打を許した。そして、この試合も小池にサヨナラ打を浴びて、登板2試合連続の抑え失敗。25セーブを上げた来日1年目の昨年にはなかった連続黒星に、チームもOP戦ながら4連敗と黒星を重ねた。  「球自体は満足している。新しいことにチャレンジしているので、それで失敗しちゃったかな」  最後の上手投げのミスを、ウィリアムスは弁明したが、本音を言えばアセりまくってる。その証拠が岡田監督のコール無視。八回から登板したウィリアムスの本来の予定は実は1イニングだけ。ところが、九回に入る際、岡田監督が次に登板予定の石毛をいったん深谷球審に告げたのに、勝手にマウンドへ。掟破りのコール無視、しかも他の投手の調整分まで奪ってしまって炎上してしまったから、岡田監督もたまらない。  「最初から1回と決めてるんやからな。(本人も)不安なんやろ」  その不安の根がさらに広がった。安藤−ウィリアムスの勝利の方程式に依然答えが出ない。「今さらどうこう言う時期じゃない。本人がどうするか考えるしかない。こういうパターンで決めてやってる。心配しても変わるヤツおらんし、今から探してもおらん」  4・2開幕まで残り1週間で、今さら抑え陣の配置転換などできない。不安の残る守護神と“心中”覚悟。緊急事態に岡田監督も悲痛な叫びだ。なんか投手陣がピリッとしない。


井川、開幕大丈夫かな
(3/20 近鉄戦)
開幕投手に指名した阪神・井川が6回を投げて、被安打5、2失点。数字はそれほど悪くないが、エースとなると別だ。  「6回2失点。普通のピッチャーなら合格点やけど…。内容が悪すぎる。開幕投手なんだから」  珍しく語気を荒らげた。これまでオープン戦に2度登板。7日のオリックス戦(甲子園)では4回4失点。13日のヤクルト戦(甲子園)は5回3失点。好投とはほど遠い結果だったが「開幕に合わせてくれたらエエ」と動じなかった。  しかし、開幕まで2週間を切った今回は黙ってはいなかった。「ストレートが走っていない。腕が振り切れていないから(チェンジアップを)待たれる」。二回二死一塁、阿部にチェンジアップを左翼席に運ばれ2失点。その打たれ方が気にいらなかった。  三回にはセットポジション時に静止しなかったためボークまで取られた。入団以来、公式戦で一度も記録したことがないボーク。精彩のなさを象徴している出来事だ。そして五回、再び阿部に打たれた左前打が直球が133キロしかなかったことを見れば、不安を抱くのも当然だ。  もっとも、当の本人は監督の心配などどこ吹く風。「自分としては満足。徐々に調子を上げる。いろいろと考えながらやっている」。開幕までに仕上げると言わんばかりに自信満々の表情を浮かべた。  オープン戦登板は、あと27日の横浜戦(横浜)のみ。岡田監督は「次はセ・リーグ相手だしね」と会心投球を要求した。4・2開幕戦で満開にならなければならないエースに、残された時間は少ない。 井川ならやってくれるだろう。


金本のデビューは

3/10・西武戦で四番打者・金本は2三振に・・・・・・・・・・。ベテランとは言え初舞台はほろ苦かった。
阪神・金本の“タテ縞4番デビュー”は、2三振に終わった。それでも誰よりも、存在感はあった。  「変化球についていけなかった。これから実戦を重ねて、(変化球に)ついていけるように、なればええよ」  自身にとっては、昨年の日本シリーズ以来となる甲子園。4番のコールに、球場のボルテージは一気に上がった。先頭打者で迎えた二回。しかしカウント2−3から西武の先発・後藤光のフォークボールに、バットは空を切った。  四回の第2打席は、そのフォークの軌道が頭に残って直球に見逃し三振。ファンの反応は、タメ息よりも、その姿を拝むことのできた満足感の方が勝っていた。  左足に重心を残す4番打法は、影を潜めた。「ゲームに出せる状態ではなかった」と本人は苦笑いを浮かべたが、各球団のスコアラーは「4番は金本」と口をそろえた。まだ見ぬ打法への恐怖心が、にじみ出ていた。  「本人も言うとったやないか。『前に飛ぶか心配です』と…。何個、三振しようが関係ない。開幕に合わせてくれたらエエんや」。岡田監督もニュー金本の本領発揮を楽しみに待っている。「特に意識はない」と金本自身はあえて無関心を装うが、その座はもう用意されている。今後も試合に出ることによって、感覚を磨く。そして指定席への道を辿っていく。


関本やるじゃない
(ロッテ戦 3月4日)

関本が開幕一軍へ向けて猛アピールをした。(今年はおおばけしそうま予感・・・・)
ここまで打てば、何かに響くはずだ。開幕スタメンのダークホースが3安打、しかもヒットすべてに打点をつけた。結果を出し続ける関本に指揮官は、また甲子園にいる主力勢は何を思うか。  「今の時期は結果オーライではダメなんです。3本目は絶好球だったのに崩されたし。(レギュラー争いは激しいが)僕は何も意識してない」  初回一死一、二塁からの右前タイムリーを皮切りに、三回は二死二塁から左前適時打。1打席凡退を挟み、七回二死一、二塁の第4打席でもしぶとく右前に運ぶ。OP戦3試合目で2度目の猛打賞。11打数7安打6打点、打率.636という驚異的な暴れっぷりだ。  「見ての通りや。(内野のレギュラーも)まだまだ可能性はあるよ。今の感じでいけば(主力も)ウカウカできない。サードもやらせる」  ご満悦の岡田監督は、内野戦争の新たな火付け役に指名した。6日のオリックス戦(ヤフー)からは内野で唯一レギュラーが決定しているセカンド・今岡が登場予定。今後は三塁での出場チャンスが与えられる。キンケード、片岡がにらみ合っているところに、関本の参戦。鳥谷vs藤本で盛り上がる遊撃と並び、競争心むき出しの戦場に変えようというのだ。  8年目にして、実は開幕一軍の経験がない。確実に入ると思われた昨年もオープン戦の打率2割台前半に沈み、直前で二軍行きを告げられた。それだけにレギュラー獲りというよりは、まず一軍に生き残るという意識が強い。ベンチに入っていさえすれば、いつかチャンスはやって来る。  寒い松山から届いた猛打の知らせ。主力メンバーは、尻にチリチリ熱いものを感じたはずだ。

満塁ホームラン・桜井

(オリックス戦 2月29日)
またも桜井がやってくれました。かっての同僚・ムーアから満塁ホームランをたたきだした。
 猛虎に「新・満塁男」誕生だ。2回2死満塁。桜井が自慢のパワーでムーアの直球を粉砕した。晴れ間が戻った南国の空に白球が舞い上がると、一番深い左中間スタンドへズドン。ワンバウンドして場外へ消えた。  オープン戦第1号は、豪快なグランドスラム。「満塁ホームランはプロで初めて。高校(PL学園)時代にあるかも知れないが、記憶にないですね」と首をひねったのは最初だけ。「打ったのは好きなコース。大好物ですよ。2軍と1軍のレベル差? 感じないですね」と笑い飛ばした。  28日に安芸で行われたオープン戦初戦(対オリックス)では7回1死満塁で、走者一掃の逆転二塁打。成長著しいプロ3年生は2日連続して、重圧のかかる満塁の場面で結果を残した。「追い込まれてからでも、思い切りバットを振れるのはすごい」バックネット裏で広島・畝(うね)スコアラーも感心しきりだ。  久々に登場したスケールの大きい大砲候補だが、岡田監督は開幕2軍スタートの方針を変更する気は毛頭ない。「最初からあと1年(は2軍)やね。そう決めてる」と開幕1軍のフレーズには、断固として首を縦に振らなかった。  桜井も指揮官の考えは理解している。「なるようにしかならない。あまり意識しないで、ひとつひとつやるだけ」と力を込めた。桜井と同じ外野で1軍の生き残りをかける的場が、この日のゲームで右肩をねん挫した。開幕まで何が起こるか分からない。「新・満塁男」は出撃態勢だけは整えておく。


桜井の四番もありそう
(2月28日)
期待の若者・桜井がやってくれました。満塁で走者一掃の逆転二塁打。浜中もうかうかできないぞ。
「七回? あそこだけやったけどな。あそこは打つと思ってた、雰囲気かな」  選手、指導者として修羅場をくぐってきた指揮官が感じた逆転ムード。これが最高の猛爆となって目の前で演じられた。1−4と3点のビハインドに若虎の猛打が炸裂。3連打で鳥谷の二ゴロで1点追加して、さらに連続四球を選んで押し出しで1点差。一死満塁の絶好の逆転機に、打席に立った桜井が燃えた。  カウント2−3。昨年までの同僚、谷中の甘く入った真っすぐを一閃。打球は安芸の118メートルの中堅フェンスにワンバウンドでブチ当たった。走者一掃の逆転二塁打。この若虎の一撃に、ベテランも燃える。二死から八木の左前タイムリー、野口の2点打を含む4連打のつるべ打ち。関本、平下ら生き残りをかけた面々もからんでこの回、8安打、一挙8得点と猛虎打線が大爆発した。  「あそこで三振してたらシャレにならない。気持ちが入ってました」  将来の大砲候補・桜井は、11日の広島との練習試合(沖縄・宜野座)でもバックスクリーンに一発を放ち、オープン戦開幕4番に抜擢された。シーズン開幕後はファームの4番で熟成する基本方針にも、「気持ちを強く持って開幕一軍に残りたい」という決意が、逆転打という実を結んだ。これぞ激しい競争原理を持ち込んだ岡田イズムの浸透だ。スタメンに名を連ねた主力を下げた途端の猛打爆発もその証し。この展開を岡田監督も読み切っていた。  「ビックリするようなことは起きていない。今の時期、あとのメンバー(若手主体)の方が打ちよるなと思っていた」  猛爆の初陣初勝利。「どうでもええよ、そんなこと…」。勝利の味より、うれしい手応えがある。着実な底上げで新猛虎打線がさらにパワーアップ。安芸の地のこの猛爆から、連覇への道のりが始まった。


定位置争い
(2月21日)
藤本と鳥谷の遊撃手争いがますます面白くなってきた。
2万5千人の観客を集めた今キャンプ初の紅白戦で、遊撃の定位置を争う藤本と新人の鳥谷(早大)が紅白に分かれて先発。1回に藤本が右前打を放てば、鳥谷もすかさず左前打でお返しするなど、文字通りのアピール合戦となった。互いに2安打した打撃面は「2人ともあのぐらいの結果は残せる」(岡田監督)とまずまずの出来。だが、藤本は7回の打席で空振りした際に右脇腹付近を痛めて交代。送球ミスなど2失策を記録した鳥谷も「やっちゃったという感じ」と頭をかいた。対決第1ラウンドは、まずは痛み分けといったところだ。 

 
キンケードは本物?

出会い頭で1発は打てる。2発目でもまだ半信半疑。しかし、3連発となったなら確信してもいいだろう。新助っ人・キンケードが、また打った。さすがの新庄も、その打球を遠く見つめるしかなかった。  「(3試合連発は)風のおかげさ。バットのいいところに当てようとしか考えてない。結果はその後ついてくるもの。今はいい状態だと思う」  2戦連発を放った宜野座村球場から、初めてのビジターで名護に登場。その第1打席で、内弁慶ではなかったことを証明した。日本ハムの左腕・正田の真ん中低めストレート。両腕を畳んで弾き返した打球に、右翼・森本はいったん捕球体勢に入ったが、そこから球が伸びた。最後は伸ばしたグラブをかすめるように、得意のライナー弾が右中間席に届いた。  さらに三回先頭の第2打席でも右前打。新庄見たさに集まった1万2000人の目を奪った。3戦連発のうち2発が左腕から。そして、左腕を打ち崩すための基本である右への巧打。来たるべきシーズンでも“左殺し”になってくれるのは間違いない。  実は、この猛虎の新大砲と日本ハムの新プリンスには接点がある。外国人獲得を任務とする三宅渉外担当が、8日に名護キャンプを視察。新庄と再会すると、真っ先にその話題になったという。「キンケード、入ったんですね!! びっくりですよ。あれは絶対活躍すると思いますよ」  昨年、メッツ傘下の3Aノーフォークにいたときに対戦。広範囲に打てる打撃、安定した守備力に驚いた新庄は、その名前をインプットしていた。ところがキンケードは「接点がないんだから印象もないね」。新庄など眼中になし、といった風情だ。これは本当に期待していいのかもしれない。

 

ひとつの怠慢プレー

裏切られた気分だった。岡田監督が若手に怒りを爆発させた。期待を込めて4番・左翼に起用した桜井が守備で凡ミス。打撃で3打数ノーヒットだったことなど、どうでもいい。怠慢プレーを激しく叱責した。  「アウトカウントを間違えたらしい。論外や。ガムシャラさがない。打撃がダメだったから守備に集中していなかったんやろう。ボケッと守りやがって!」  結果的に練習試合2試合目にして“監督初黒星”。敗戦への流れを作ったのは、桜井の怠慢プレーだった。  1点リードで迎えた七回一死三塁。3番・木元の打球が左翼ファウルゾーンに飛んだ。これに三塁走者・森本がタッチアップ態勢。しかし、ボールを捕球した桜井は本塁に激走する走者に視線を送るどころか、ボールを持ったままベンチに引き揚げようとした。  浅い左邪飛がまさかの同点犠飛。普通に返球すればアウトだった。しかし、楽に同点を許したことで、直後の逆転負けの流れを作ってしまった。このミスの後、さらに2失点。試合を決めたミスだった。  「あれは自分のミスです」。11日の広島戦(宜野座)では広島・河内からバックスクリーン直撃の一発。評価は急上昇していただけに桜井はションボリ。  「あいつがアウトカウントを間違えたことで全員がおかしくなった。全員に迷惑をかけた。60発ぐらい打つ選手やったら許したるけど、そんな選手じゃないやろ!」  岡田監督は担当コーチの吉竹守備走塁コーチにも反省を促した。2万5000大観衆の中での緊張感のないプレー。昨年までの星野阪神では考えられなかった気の緩みが試合に出てしまった。

藤本対鳥谷
(2月1日)

阪神期待の新人・鳥谷と藤本の定位置争いがキャンプ初日から激化した。(頼もしいかぎりだ。)
やっぱり底がしれない―。阪神・鳥谷敬内野手(22)が1日、キャンプインとともに始まった藤本との“遊撃ガチンコ対決”でいきなり超人ぶりを発揮した。すべてのメニューを藤本と同組でこなし、午後には特打の直接対決をはじめバットを振りっぱなし。バテバテの先輩を置き去り、一番遅くまで体を動かし続けた。第一ラウンド、まずは鳥谷が藤本に強烈な先制パンチを浴びせた。 --------------------------------------------------------------------------------  あまりに絶妙のコントラストだった。「自分の体力で精一杯。鳥谷?気にする余裕がなかった」と疲れ切った藤本が球場を後にした20分後、鳥谷は練習を終えた。「思ったより緊張もなく普段どおりやれました」。6時間にわたる鮮烈デビュー戦を平然と振り返った。  追い抜かなければならない相手はずっと隣だった。競争を意識付けさせるという首脳陣の考えによるガチンコ正遊撃手争いのゴングが鳴らされたのは、正午すぎの守備練習から。イレギュラーに苦しむ藤本をしり目に、堅実なグラブさばきを崩さなかった。  そして、午後2時すぎ。打撃ケージ裏からは岡田監督が視線を注ぐ。フリー打撃、マシン打撃、さらに藤本と2人で臨んだ特打のフリー打撃。晴れて背番号「1」をまとった鳥谷は、延々と繰り返した打撃練習で鋭く、強い打球を最後まで放ち続けた。  フリーではサク越えゼロも、55スイングで安打性の当たりは26本。特打では152スイングでサク越え6本、安打性の当たりは72本。「バッティングでアピールしたいのでたくさん打ててよかった」。ケロリとする鳥谷を、金森打撃コーチは「いいスイング。バットを振っただけうまくなれる。打撃は道理。道理の通りやっている人はみんな名球会に入っていますから」と絶賛した。  打撃練習後は約1時間のウエートを行い、球場を出たのは午後5時。充実のキャンプインを見守った岡田監督は笑っていた。「勝負?まだ1日で判断するもんじゃない」。鳥谷の超人ぶりに「ルーキーとか、この時点から思っていない」と改めて期待を高めた。

ムッシュ吉田氏が指導

 牛若丸を継承だ―。阪神・鳥谷敬内野手(22)が3日、藤本とともにトラの伝説の遊撃手・吉田義男氏(70)から臨時指導を受けた。俊敏にして華麗なプレーで虎党を魅了した“ムッシュ”は、瞬時に黄金ルーキーの欠点を修正。「うまさだけじゃなく、うまさと強さのある名ショートを目指してほしい」。球界一の遊撃手へ、鳥谷が名守の極意を伝授された。 --------------------------------------------------------------------------------  辺りには2人にしか共有できない空気が漂う。これから受けるであろう栄誉をかつて手にした大先輩から手渡される。その言葉、動き、息遣い。一つ一つが、鳥谷にはただ楽しかった。“牛若丸”の教えをのみ込むことに没頭した。  午後1時23分。雨のため石川市の屋内練習場で、鳥谷と吉田氏、未来と過去の名声は出会った。吉田氏は隣で聞き入る鳥谷のグラブを手に取って確かめ、お互いの左手を合わせ、うなずいた。「手が大きい。非常にいいグラブを使っている」。そして上着を脱ぎ、ライバル2人のノックに目を光らせた。  「教えてもらったのは全部です。動き出しから投げるところまで」と鳥谷は思い返す。手投げノック105球に通常ノック37球。約40分のレッスンは“2次利用”もできるようビデオにまで収められた。  吉田氏から施された修正は(1)捕球するグラブの位置をより前へ(2)捕球動作の開始時に腰を上げるな―など。基本だが、だからこそ一連の動きに流れがつく。「基本的なことがすごく大切なことをあらためて感じました。できないところを教えてもらったんで、やっててすごく楽しかったです」と珍しく顔を紅潮させた。  “歴史的光景”を、岡田監督は後方から見詰めていた。「秋季キャンプのときに福原がお願いした。一つ一つの言葉に重みがあるからな」。より完成された遊撃手に育てるため、指揮官の意向で同コーチが依頼し実現したものだった。  臨時教室を終えた吉田氏は生徒2人を「1年間やっている分、藤本君に一日の長があります。プロとして捕って投げることには」と採点。だが、鳥谷の素材を目の当たりにしてこう期待した 「三拍子そろった名ショートを目標にしてほしい。12球団を見渡しても松井(稼)君が抜けて(適任者が)いない。宮本(ヤクルト)とかいますけど、うまさだけじゃなくて、うまさと強さのあるショート。それがタイガースから出てほしい」  吉田氏の願い。「なかなかなれるもんじゃないですから」と言いながら、“2代目牛若丸”鳥谷は“初代”に最敬礼。そしてプレーで応えてみせると誓った。 まずは、藤本を超える働きをむせることだ。

巨人のカツノリ

阪神からトレード移籍した巨人・野村克則捕手(30)が、10日に1軍昇格することが5日、明らかになった。高橋一三2軍監督(57)が“合格通知”を出したもので、堀内恒夫監督(56)が宮崎入りする9日に正式決定する。1軍昇格後、野村はナインに阪神の投手陣攻略の講師役を務めることを熱望。父親の野村克也シダックスGM兼監督(68)譲りのID授業で1軍定着を狙う。  まだレガースやミットは阪神時代のまま。それでも連日若手に交じって野村は必死に汗を流し続けた。その姿に高橋2軍監督は「動きがいい。声も出ているし、2軍にいる選手じゃない」と話し、10日の1軍昇格を堀内監督に進言する考えを明かした。すでに堀内監督の頭の中には「体調が良ければ10日に上げる」という考えもあり、故障をしない限り、宮崎キャンプ初日からの1軍昇格は決定的だ。  「1軍が近い?そうなんですか?でも今年やらなきゃ終わり。その日に全力を尽くす。そういう覚悟でやっています」  1月27日の入団会見からわずか9日。スピード昇格内定にも笑顔はない。昨年は1軍試合出場はゼロで、ヤクルト、阪神、そして3球団目の巨人に移籍した今年はプロとして勝負の年だと考えている。帽子のひさしに記した「一所懸命」。新人時代に元プロテニスプレーヤーの松岡修造氏にもらった言葉をかみしめて野球に打ち込んでいる。  だからこそ、1軍で実力を示すだけでなく“頭脳”でもチームに貢献する考えだ。「球種、配球の傾向だったら、ある程度分かるし、阪神というチームが巨人の各打者をこういうふうに見ているとか、攻め方も話ができる」。オープン戦前の2月下旬に全体ミーティングで各球団の分析を行うが、そこで講師役を買って出る。  昨年、チームは対阪神戦で球団ワーストタイの17敗を喫した。エース井川には3戦全敗、防御率0.75で安藤、ウィリアムスの救援陣にも防御率1点台に封じられた。虎投手陣攻略がV奪回の最大のテーマとなるのは百も承知の上。「今までずっとメモを取ってきた」と話すように、投手陣の性格、長所、短所までを記したマル秘ノートを惜しみなく提供する。まさに、父親である野村シダックスGM兼監督譲りのID講師。チームにとって大きな戦力となるのは間違いない。  「清原さんが、僕が来てすぐにしゃべりかけてくれて、気持ち的に楽だった。僕も1、2軍を問わず自分から積極的に話していきたい。話さなきゃ性格とかも分からないからね」。どん欲に高みを目指す野村。1軍定着への本格挑戦がいよいよ始まる。