Gary Anthesによる記事(2000年5月1日 COMPUTERWORLD,URLは上記)
身体障害者の就職状況は,1990年にアメリカ人障害者法が議会で可決されてからかなり改善されている.専門家のコメントでも差別事例が減り,雇用者は身体障害者が働けるような施設整備を進めているとのことである.しかし,知的障害者に関してはいまだに進歩がほとんどない状況である.アメリカでは6百万人の成人が精神遅滞や精神科疾患(分裂病など)や神経学的障害(自閉症など)を持っている.そのような障害を持つ人々はしばしば雇用者からは見放されており,実際60%にあたる360万人が無職である(InfoUseより).障害者に対する恐れと無理解が存在し,障害者はしばしば烙印を押されている.たとえ就職申し込み書に障害を書くところがなくても,(面接の時や初対面の時)奇妙なマンネリズム(常同)行動を見た雇用主は不採用を決めてしまうのである.例えば自閉症者はしばしば社会的スキルやコミュニケーションスキルに乏しく対人コンタクトを避けてしまう.「面接者は私の履歴書をみた段階ではたいへん資質があるとポジティブに判断する」Gavin Simpsonの言である.Gavin Simpsonはコンピューターグラフィックスの分野でいくつかの賞を獲得しコンピューターアニメーションの仕事につくことを希望している.「しかし,面接者たちがどうやら僕の欠点について何か考えてしまうらしく,僕が何か少し違っていると思うらしい.自閉症だとポイントが低いんだよね!」 Simpsonは自分の人間関係スキルをのばすためのコミュニケーション療法や行動療法にも通っており,志願する先の情報技術(IT)雇用者に対してはいつも自閉症であることを告げているとのことである.「最初はOKしてくれるんだが,最終的には不採用通知が届くんだ」と彼は言う.
行政や知的障害者のための私的団体の多くが治療に目標を置いているが,職業訓練や就職あっせんについては対応が遅れている.職場側からの(知的障害者に対する)求人はしばしば最低賃金および最低賃金より低い賃金での就職者を見つけることに力点が置かれており,知的障害の支援者はそういった求人状況を「3つのF(food, filing and filth:食べ物関係,書類詰め,ごみ関係)」と呼んでいる.しかし支援者たちは,知的障害者はコンピュータープログラミングやホームページデザインなど情報技術に関する仕事の従事者としては未開発の宝庫であると述べている.フィラデルフィアにあるMatrix Research Institute(知的障害者および身体障害者のための非営利研究訓練センター)の訓練普及部長のBarbara Grangerは,同センターで訓練を受けている知的障害者の多くがコンピューターに関する訓練を希望していると述べている.Grangerによると,なぜ彼らがコンピューター関係の訓練を望むかというと,集中力に問題があったり,他人とのコミュニケーションに困難があるからであるとのことである.「コンピューターは知的障害者に可能性と機会(great structure)を提供しているのである」とGrangerは述べる.ボストン大学の精神リハビリテーションセンターでのコンピューターを使った訓練の責任者であるLarry Kohnは「私の生徒は,コンピューターが精神疾患に偏見を持たないからコンピューターを使った仕事が好きなんだと言っている」と述べた.また,彼の生徒たちは,(職場の)人間たちからは得ることができない迅速で明白なフィードバック(をコンピューターから得られること)が好きなようである.企業のデータ入力担当であるBeth Keirnsは11年前の21歳の時に自閉症と診断を受けた.彼女はしばしば社会的なニュアンスが理解できずに他の人々の感情をつい害することが多いと言う.Keirnsは生物学で学位を持っており,6年間経理会社に務めることができたのは,部分的には,職場の同僚に対する彼女の代弁者として仲介役をやってくれたスーパーバイザーのおかげである.そして,「コンピューターはある種の領域で私をその気にさせてくれる」 「私はコンピューターの気分を害することはない」と彼女は付け加えた.
適切な職場環境:省略
良き指導者は重荷を軽くしてくれる:省略
管理スタイルの再考
柔軟性のある就業時間などの特別な職場環境の提供に加え,異なる管理スタイルが精神的障害を持つ従業員の何人かには適切であろうとRichard Baronは述べている.彼は,フィラデルフィアに住むコンサルタントで精神科的障害を持つ人々の就業に関する専門家である.「彼らはもうちょっと直接的に指摘されることを必要としているかもしれない.また,してもらいたいことが何なのか,何が悪いのかをもうちょっと頻回に指摘すべきなのかもしれない」とBaronは言う.Gavin Simpsonは面接の時に自分が自閉症であると表明した時,いつも彼は自分の気質の利点について指摘してきたと語る.「私は面接官に自閉症者が持つスキルはしばしば独創的に現れると説明した.そして自閉症の特徴のひとつは,内容によっては非常に仕事熱心なことなのである」と彼は言う.精神的障害を持つ人にとって最も適切な職場環境はどういうものかという質問に対しては,彼は,「たくさんの締め切りがある過度に忙しすぎる環境は適切ではない.なぜなら自閉症者は締め切りに弱いからである.彼らが自分たちの創造性と問題解決能力を発揮できるようなプロジェクトをかれらに与えてください」と答えた.Wendel Simpsonは,彼の息子(Gavin)が多くの自閉症の成人と同様に「レーザー光線のような」集中力と一気に16時間もの間一つの問題に取り組む能力を持つ完璧主義者であると語る.「息子は子供の時一番最初にバスケットボールのスラムダンクができるようになった.なぜなら彼は自分だけで何時間も練習したからである.そしてその時から試合に出してもらえるようになった」と回顧する.父親はこのバスケットボールでの経験が息子Gavinの情報技術職における未来のメタファー(暗喩・象徴)であると考えているが,(息子の職業での成功を)確信しているわけでもなさそうである.「Gavinは頭のいいやつで,彼は自分より才能や能力のない連中が就職できて,Gavin自身は就職できない現実をまのあたりにしている」 「そういう経験で彼は元気がなくなり,私は悲しくなる.がんばれGavin,チャンスはあるさ!とはさらに言いにくくなっている」
文献
1. テンプル・グランディン.自閉症の体験世界.発達障害研究 21: 279-283, 2000.