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日本の特殊教育の行方(4)
学校教育法施行令の一部を改正する政令案に関する意見募集の結果
2002年7月,伊地知信二・奈緒美

4月19日に,文部科学省のパブリックコメントのホームページに,学校教育法施行令の一部を改正する政令案に関する意見募集のまとめが掲載されました.

http://www.mext.go.jp/b_menu/public/index.htm から見ることができます.

大変対応が遅くなってしまいましたが,文部科学省の回答についてその問題点や注目すべき点をまとめます.先日長野県では,脱ダム宣言を出した田中康夫知事が県議会で不信任され,ある県議が「政治は理想や理念じゃない」と発言しておりましたが,残念ながら教育もどうやら理想や理念じゃないと文部科学省は考えているようです.脱養護学校宣言が日本で出されるのはまだまだ先のことのようです(このコンテンツのURLは文部科学省の意見アドレス:voice@mext.go.jpに送りました).

1.「統合教育が主流になるべき」とする世界的なコンセンサスを無視

多くの意見が,統合教育・インクルージョンの重要性を主張していますが,

 

・分離教育の基本姿勢は変えなければならない.

・本当の「共に生きる」社会を実現するためには,子供の時から障害児と健常児が同じ場所で共に学ぶべきである.

というような重要な教育理念をどう考えているのか,なぜサラマンカ宣言を無視しているのかなどについての文部科学省からの回答は,予想はしておりましたが残念ながら全くありませんでした.

2.個別指導を強調することによる分離教育の正当化

欧米の検討では,分離教育での個別指導よりも,特殊学校を廃止し統合教育で個別指導をした方がより少ない費用ですむという結論がでており,このことが,サラマンカ宣言の背景の一つになっています.つまり個別指導をすべきだから分離教育という論法は成立せず,統合教育での個別指導の充実を考えるべきなのです.文部科学省はこういうことは全て知っているはずなのですが・・・.ひょっとして知らないのかもしれません.

3.ノーマライゼーションの誤解

この点も,私どもの意見で指摘したのですが(日本の特殊教育の行方2),回答で「社会のノーマライゼーションの動向を踏まえたもの」として児童生徒一人一人の教育的ニーズによりきめ細かく対応する(手続を弾力化する)としています.ニーズにきめ細かく対応するのがノーマライゼーションと考えているとしたら大変な誤解で,本来の意味は主に健常者の方が障害者に歩みより,脱施設化,脱特殊学校化を進めるのがノーマライゼーションです.

4.特殊学校対象者基準の新設

この点も,私どもの意見で指摘しました(日本の特殊教育の行方2).しかし,取上げてはもらえず,回答文の中に「国の定める盲・聾・養護学校に就学すべき障害の程度を定めた上で」と記載し,今回の改正の目的のひとつが特殊学校に就学すべき児童の基準新設であることを明言しております.日本の特殊教育の行方(2)で紹介した私どもの意見の中で述べましたように,改正前は,「対象となる障害の程度に関する基準」という表現はなく,記載上は「特殊学校の目的は基準を満たす児童を対象とすること」となっており,「基準を満たす児童は特殊学校へ行くべき」とは書いてなかったわけです.ところが,今回の改正は「特殊学校に就学すべき障害の程度」と改正されております.障害児の定義であったものが,特殊学校対象者の定義に変更されたわけです.

5.障害の程度を特殊学校対象者基準としている点

私どもは,「個別指導ができるから特殊学校へと主張するのであれば,特殊学校対象者基準は個別指導の必要性で設定すべき」という意見を出しましたが,これも取上げてはもらえませんでした.

6.学習障害,ADHD,高機能自閉症等は知的障害の程度に関する規定に含まれない

これは回答で明言しており,2001年秋に検討を開始した「特別支援教育の在り方に関する調査研究協力者会議」の報告を踏まえて今後検討するとしています.改正で知的障害者で特殊学校対象者の基準は「一 知的発達の遅滞の程度が,意思疎通が困難で日常生活において支障があり援助を必要とする程度のもの」 「ニ 前号の程度未満で,社会生活に適応することが著しく困難なもの」となっております.ADHDや高機能自閉症であって,意思疎通の困難性や援助の必要性があるケース,あるいは社会的障害が著明なケースは,特殊学校へ就学すべきと判断されてしまうことを危惧しておりましたが,回答文中で,「今回の知的障害者の規定は,知的機能の発達に遅滞があることに加え,意思疎通の困難性・・・」としており,知的機能をIQと解釈すれば,IQの高いADHD例や高機能自閉症児は意思疎通が困難であっても,日常生活に援助が必要であっても,また社会適応障害が明瞭であっても普通学校に就学してもいいということになります.この回答文は解釈見解として大変意義のあるものとなるかもしれません.

7.障害児でも普通学校へ就学できる特別な事情

改正中には,「基準に該当しても,その障害の状態に照らして,小学校又は中学校において適切な教育を受けることができる特別の事情があると認める者について,市町村教育委員会が小・中学校の入学期日を通知するための規定を整備する」という一文があり,この部分を「就学手続の弾力化」と称して強調しております.また,回答文中では,「市町村教育委員会が,特別な事情の有無を判断するに当たっては,当該児童生徒の障害の状態に照らして,施設設備の整備状況等ハード面の事情のみならず,当該児童生徒に用意された特別な教育的支援の内容,専門性のある教員の配置等も踏まえて総合的に判断されるべきものと考えます」としています.個別指導が受けられる環境が普通学校に仮にあれば,重度の障害児でも普通学校へ就学できると解釈できますので,この点も非常に重要です.しかし,そういう普通学校が存続するためには,予算や人材の点で今後はさらに厳しくなることが予測されます.

8.就学先は親が決めるのか,教育委員会が決めるのか?

この点に関しては,これまでは特殊学校対象者基準というものがなく,法的には障害児の定義だけが存在していたので,親の選択権をかなりの都道府県が認めてくださっていたわけです.ところが,今回の改正で特殊学校対象者基準が新設されましたので,回答中に,「就学に関する事務は自治事務であり,市町村教育委員会が,就学指導委員会の調査及び審議を踏まえてより児童生徒の障害の状態を把握するとともに,学校や地域の実情等を考慮しながら一人一人の教育的ニーズに応じた適切な教育を行えるかどうかを判断し就学先を決定します」と,強気の発言をしています.つまり,就学先は教育委員会が決めると明言しているわけです.この点からも今回の改正が何のための改正かがうかがい知れます.親の意見表明の機会については,回答文中で,「保護者の意見表明の機会の設定,・・・等について,文部科学省としての考え方を示すことにより適切な実施と運用を図りたい」としてはいますが,やはり就学先を決定するのは市町村教育委員会と明言しています.

 


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