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日本の特殊教育の行方(1)
学校教育法施行令の改悪?
2001年11月,伊地知信二・奈緒美
同日一部訂正

京都新聞に掲載された学校教育法施行令に関する情報を11月21日にアスペルガー症候群の方の親御さんからメールで教えていただきました.「来春改正される学校教育法(施行令)の中で,対人関係に障害のある子供の普通学校への入学を禁止する項目が入る可能性があるとの記事があり,アスペルガ−症候群の子供はどうなるのかということを危惧しています」とのことでした.

びっくりしてインターネット上の情報を調べてみますと,以下のような状況が判明しました.今後注目すべき動きですので概略をご紹介します.

主な情報は信州大学の立岩真也先生の下記ホームページなどから得ました.
http://ehrlich.shinshu-u.ac.jp/tateiwa/l6500000.htm

1.「21世紀の特殊教育の在り方について(最終報告)」について

概要はhttp://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/13/01/010108.htm

報道発表はhttp://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/13/01/010102.htm

平成12年11月に中間報告が発表され,本年(平成13年)1月に最終報告として公表された「21世紀の特殊教育の在り方に関する調査研究協力者会議」からの答申です.文部科学省が設置したこの調査研究協力者会議は,協力者と文部科学省担当者から成っております.最終報告が出た時点では,メディアは好意的に評価しました(http://www.mainichi.co.jp/news/selection/archive/200011/06/1107m046-100.html).

(評価できる点)

「一人一人のニーズに応じた」と表現し個別対応の重要性を強調しています.また,生涯にわたる相談支援体制を地域で,教育,福祉,医療,労働等が一体となって推進すべきとしています.全体として,市町村及び都道府県の教育委員会の役割を強調しており,「教育相談のための常設の窓口を設置すべき」とか,「周りの人々が障害に対する理解を深め,ボランティア活動への積極的な参加を促していくことも重要」などと記載しており,すばらしい点を含んでいます.基本的な考え方の中の評価できるポイントは以下の4つです.

生涯にわたる支援,乳幼児期から学校卒業後までの支援体制が必要としている点は評価できます.「早期からの教育的対応に関するニーズの高まり」に対応すべきとしています(幼稚園や保育所への教育相談担当者の定期的派遣や関係機関の職員交流/障害のある幼児に対する盲・聾・養護学校の対応:平成11年3月の盲・聾・養護学校学習指導要領改定/盲・聾・養護学校の幼稚部教育の充実).また卒業後の相談支援体制にまで言及し,生涯学習の機会や就労支援,生活支援の充実の必要性を指摘しています(盲・聾・養護学校を地域の特殊教育センターに位置付け).「高等部の整備及び配置,高等養護学校の設置促進等について検討」との記載もあります.

通常の学級の特別な教育的支援を必要とする児童生徒への積極的対応という内容は大変評価できるものです.通常の学級に在籍し特別な教育的支援を必要とする児童生徒の具体例として,学習障害児・ADHD児・高機能自閉症児を挙げ,「効果的な指導方法等について検討する」としています(より軽度の障害のある児童生徒等への対応).「特殊学級や通級による指導における教育は学校の教職員全体で支援するとともに,非常勤講師や特別非常勤講師,高齢者再任用制度による短時間勤務職員等の活用について検討する」という記載も画期的なものです.

もう一つ非常に重要な点は,従来の養護学校システムを踏襲して特殊教育は盲・聾・養護学校でとしている全体の流れの中で例外を示してある点です.「今後は,就学指導の在り方の見直しに伴い,・・・,学校施設のバリアフリー化はますます重要となってくる」としており,「エレベータやスロープなどの学校施設が整備された小学校に就学する場合や,コンピュータ等の情報機器を利用すれば意思表示や筆記の代替が可能な児童生徒がそれらの設備が整備された小学校等において適切な教育を受けることができると考えられる場合」を具体例として記載してあります.視覚補助具,補聴器,補装具等の性能の向上なども考慮して就学基準を見直すとしている点は,補助具を使った時の計測値が良ければ普通学校を指定するというだけのようです.

(玉虫色の部分)

「必要な教育的支援を行うため,就学指導の在り方を改善することが必要」としており,一見いいことを言っているように見えますが,一部の例外(前述)を除き統合教育やインクルージョンの考えがほぼ欠落している全体の流れからすると,盲・聾・養護学校へと選別するための就学指導を強化すると解釈すべきなのかもしれません.「市町村教育委員会が児童生徒の障害の種類,程度,小・中学校の施設・設備の状況等を総合的な観点から判断し,小・中学校において適切に教育を行うことができる合理的な理由がある特別な場合には,盲・聾・養護学校に就学すべき児童生徒であっても小・中学校に就学させることができるよう就学手続きを見直すこと」という記載は,前述の肢体不自由児の場合や補助具使用時の能力考慮を指しているようで,この点がメディアによって評価されました.しかし,「合理的な理由」があるかどうかを判断する場合,インクルージョンの考えが乏しいままでは,前述の具体例以外の場合は,通常の学級では「設備がない,スタッフが足らないから適切な教育を行えません」といういつもの決り文句の根拠を明文化してしまうことになります.小・中学校に補助教員や補助スタッフを置いたり,必要なバリアフリー化を実行する意欲と予算さえあれば,どんな障害であっても通常のクラスで教育が受けられるというふうに解釈できないこともない訳ですが,地方分権化の流れの中では「予算は地方で」という傾向が強くなり普通クラスでの受け入れ態勢が急速に改善することが望めない現状では,楽観的解釈は難しいようです.前述した評価できる点についても,その財源を「現状のまま,かつ,地方で」ということであれば,絵に画いた餅ということになってしまいます.

(問題点)

問題点1:子供の権利条約の「申し込みに応じた支援」というスタンスが欠落している点は重大な問題です(必要な支援だけを強調し,求められた教育支援の提供については全く触れていない).

問題点2:ノーマライゼーションを,「障害のある者もない者も同じように社会の一員として社会活動に参加し,自立して生活することのできる社会を目指すという理念」と解説し,ノーマライゼーションの進展(自立のための支援)を基本的な考え方の第一に挙げています.これは自立できる可能性を持つ障害者にとってはありがたいことですが,どうしても自立できない障害者の教育支援についてはこれまでと同様触れていません.つまり,ノーマライゼーションの意味を「障害者に努力させること」と歪曲し,健常者が歩み寄るべき部分には意図的に触れておりません.統合教育やインクルージョンの考えがほぼ欠落しているわけです(肢体不自由児などを例外的に例示:前述).

問題点3:重複障害や情緒障害などによる行動上の問題を有する場合を,就学基準の総合的判断において慎重にすべきと別記している点.前述の肢体不自由児やコンピュータで意思表示ができる障害児を普通学校に就学させ得る具体例として記述した後に,「ただし,市町村教育委員会が,その総合的判断を行うに当たって,重複障害や情緒障害などによる行動上の問題を有する場合など障害の種類,程度によっては,当該児童生徒の生命の安全や他の児童生徒への影響等を十分配慮する必要があることや適切な指導が行われる必要があることに留意して,慎重に判断する必要がある」としています.「自閉症児の場合は隔離教育」と明言しているようにもとれます.

問題点4:特殊学級への就学基準を明文化して,徹底すべきとしている点.「国は特殊学級に就学すべき障害の種類,程度や通常の学級において留意して指導すべき児童生徒の取扱いの基準等について,・・・,その対象範囲等について法令に規定すること等により明確にするとともに,その趣旨の徹底を図ることが必要である」としています.

問題点5:「就学指導委員会の役割の充実について」の中で,「審議に当たり保護者が意見表明する機会を設ける」としてはおりますが,「市町村教育委員会の判断と保護者等との意見がくい違う場合,都道府県教育委員会に置かれる就学指導委員会が客観的な立場から専門的な助言を行う等の機能を果たすことを検討すること」としています.つまり,これは選別のための2段階システムのようです.平成12年4月に,いわゆる地方分権一括法が施行されたことにより,児童生徒の就学に関する事務については,国の機関委任事務から地方の自治事務に変更されたとのことで,この地方における就学すべき学校の指定事務での親とのトラブルを,市町村教育委員会と都道府県教育委員会が2段階で対応するということのようです.

 

2.文部科学省学校教育法施行令等「改定案」について

インターネット上では,この改定案の存在を確認することはできませんが,本年9月に「障害児を普通学校へ全国連絡会」が情報を得,また,大阪では「障害児を地域の学校へ!大阪連絡会」が主催した「学校教育法施行令改悪に抗議する緊急集会」が10月2日に開催されております.その後,10月18日に「学校教育法施行令改定阻止緊急集会」,11月10日に「新たな選別を許すな!学校教育法施行令改定に反対する集会」などが開かれました.

http://ehrlich.shinshu-u.ac.jp/tateiwa/2000/011002.htm

http://www.ne.jp/asahi/zenkokuren/top/syukai.html

これらのコンテンツには以下のことが書かれています(掲載者の許可を得ずに転載します).

(学校教育施行令改定の理由)

(経過と予定)

(改定のポイント)

(1)小中学校に就学させる特例措置(新規)
  1)重度重複障害を除く
  2)施設設備の整備により適切な教育を受けることが可能な者
  3)合理的要件を全て備えた者
     ・安全に過ごすことが可能なこと
     ・対人関係形成上、著しい問題が認められないこと

(2)盲・聾・養護学校対象となる障害の程度を明確に規定(施行令22条の3変更)
  ・視覚障害…視力要件をはずし、視覚認知力に緩和
  ・聴覚障害…聴力要件をはずし、話声理解力に緩和
  ・知的障害…障害の状況を詳細に規定
  ・肢体不自由…機能要件から日常生活基本動作の能力に
  ・病弱…生活規制の期間常時と規定

(3)必要な場合、就学指導委員会等へ相談
  (学校教育法では新規、指導委員会の設置義務付けはなし)


(特例事項に関する文部科学省の考え)

(1)特例要件
 特例措置が認められる児童生徒は、介助員なしに学習や身の回りのことができることが前提であり、学校における施設設備など物的な条件の下で特別な配慮なしで受けれるかどうか判断すべき。市町村が行う判断の具体的要件は以下。

<本人要件>
1)重度の障害(盲・聾・養護学校に就学すべき程度)を重複していないこと
2)対人関係形成上著しい問題が認められないこと
3)本人が小中学校の管理下において、安全に過ごすことができること
4)本人および保護者の希望

<環境要件>
5)障害に応じて学習するために必要な施設設備などが整っていること
6)障害に応じた特別な教材等の提供
7)移動等の支援の可能性

(2)改正等手続き
 上記4)5)6)7)は法的拘束力を持たない就学指導資料で規定
 参考 <具体的な事例について国の見解>
・車椅子の子どもをバリアフリーの整備された学校に受け入れ…適当
・中度の知的障害の子どもを小学校に受け入れ…不適当だが違法でない
・介助員を配置して肢体不自由児の子ども受け入れ…不適当だが違法でない
・日常的に医療ケアが必要な子どもの受け入れ…違法
・行動障害で対人関係形成上問題がある子どもの受け入れ…違法

(3)就学決定の裁量権
 現行の制度の下では、市町村教委は障害児を養護校に就学させても普通学校に就学させる権限はない(県教委にある)のを、市町村裁量で選別できるようにする。就学指導委員会の設置は必置とはしない。

(4)特殊学級に就学すべき児童生徒の範囲
 特殊学級の設置が任意であるため局長通知により規定


(指摘された問題点)

(1)就学に際し、これまでの別学体制を基本的に踏襲しており、世界がインクルーシヴな教育へと転換しつつある現状に反していること。

(2)就学の特例事項を明記する事で大阪のような重度重複障害児の校区保障に足かせとなること。

(3)地方自治への移行とも関連し、市町村・学校長などに府教委方針(三原則)に反する行為をする者が出る心配がある。


3.おわりに

要するに,小中学校に就学させる特例措置というのを設けると同時に,特例要件を設定して,自閉症などが特例要件を満たさないことをはっきりと明文化して,特例要件を満たさない児が普通学校に通うことを違法とする国の見解を出そうとしているようです.また,「21世紀の特殊教育の在り方について」の答申には,良い点も含まれているのに(前述:評価できる点),良い点のほとんどに関しては具体化の動きはないようです.肢体不自由児が普通学校で学べる道を開いたことについては評価できますが,文部科学省のこのような動きは,子供の権利条約の「申し込みに応じた援助」という理念を無視し,現行の養護学校体制維持のためにノーマラーゼーションの意味を歪め,インクルージョン・統合教育という世界的な流れから逆方向に向かっております(取り急ぎ現状のまとめのみのアップです).

 


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