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セクレチン・自閉症(3)

2000年12月,伊地知信二・奈緒美

autismconnectに掲載されましたセクレチン療法に関する記事を紹介します.アメリカではまだ効果に対する期待が大きいようですが,科学的には客観的有効性は証明できておりません.セクレチンのブラックマーケットが暗躍しているという話は以前触れましたが,供給源として日本が関与しているという指摘にはびっくりしました.5施設大規模トライアルの結果は2001年前半に結果がでるようです.


5つの研究グループが学会で発表(2000年8月10日,アメリカ・ボストン)


5つの研究グループが8月5日から9日にボストンで開かれた世界小児消化器病学会において自閉症児におけるセクレチンの効果を評価した研究結果を発表した.このホルモン剤使用の安全性,消化管症候の変化,自閉症症候の変化,および投与された児の生物学的変化などが解析された.

Horvathら(セクレチン騒動を最初に起こしたグループ:メリーランド医科大学小児科)はセクレチン1回注射前後の腸管透過性を25人の自閉症児で報告した.注射前では,25例中19人(76%)で腸管透過性は異常高値を示した.注射後は2重盲検コントロール法で評価し,プラセボとブタセクレチンがそれぞれの児に1回ずつ注射された(注射の順番はランダム盲検).注射の1週間前から3週間後までに尿サンプルが採取された.20例で最終的には腸管透過性のレベルが有意に減少した.20人中13人(65%)で透過性の増加,2人(10%)で変化なし,5人(25%)で減少がみられた.発表者らは自閉症児のかなりの%で,セクレチン1回注射により改善する消化管透過性の異常が存在すると結論した.また,発表者らは,プレスクール言語スケール-3(PLS-3)を用い表出言語における変化も検討した.注射前,注射後1,2,3,そして5週後に評価し,統計的に有意な変化はみられなかった.親の主観的な印象では,83%の親が中等度から著明な言語の改善が注射後にあったとしている.発表者らは以前に報告された言語の改善はPLS-3では確認できず,親の観察結果は明らかにPLS-3の結果とは異なると結論した.プラセボグループなしでは,親の報告のどの程度がプラセボ効果によるものかを結論することはできず,PLS-3よりも親の方が感度の高い観察者であるかどうかも不明であるとしている.

Schneiderら(アリゾナSouthwest自閉症研究センターとアリゾナ州立大学)は,二重盲検,プラセボコントロールデザインで広汎性発達障害の治療としての合成人セクレチンの効果を評価した.参加者はセクレチンあるいは生理食塩水(プラセボ)の一回注射後12ヶ月間フォローアップされた.2歳から10歳の自閉症児30人は,ランダムにハイドーズ群(0.4mg/kg),ロードーズ群(0.2mg/kg),プラセボ群の3群に分けられた.精神科的評価および言語評価,消化管に関する病歴聴取は投与前,注射後3,6,そして12週で行われた.Childhood Autism Rating Scale,Vineland Adaptive Behaviour Scales,Gilliam Autism Rating Scale,PLS-3での平均スコアは,3群全てにおいて経時的に改善した.さらに解析した結果セクレチン投与量が多い場合,投与前に自閉症症候がより著明であることは,6週と12週でより改善が大きいことに相関していた.対照的に軽度あるいは中等度レベルの自閉症症候のケースでは概ねセクレチン注射は無効であった.発表者は自閉症症候が重度なほどより効果があると結論し,投与量は多いほど効果があると結論した.また今後の研究ではどういうサブセットに有効なのかという点と投与量が課題となることが示唆された.

Sockolowら(Winthrop-University病院小児科,ニューヨーク)は,34人の自閉症児で静注したセクレチンの安全性を検討した.ブタセクレチンを2回投与し6週間経過を観察した.投与直後の生命にかかわる副作用なし.投与前には34例中25例で血液中のセクレチン濃度が低かった.注射前後共,抗セクレチン抗体の出現なし.34例中4例でドラマティックな社会性の変化が親および治療者/医師により確認された.4人とも血中セクレチン濃度が低く,抗gliadin IgG抗体が陽性であった.発表者はセクレチンの2回静注は小児において安全な投与法であり,抗gliadin IgG抗体陽性で血中セクレチン濃度の低い一部のケースにおいて,自閉症症候が有意に改善するチャンスが大きいと主張した.

メリーランド医科大学の研究チームはRepligen Corporation(セクレチン製造会社)と共にもう一つの発表をおこなった.自閉症児の尿中物質の解析で,HPLCおよびマススペクトロメトリー法を使った.以前の研究結果では尿中のopioid peptidesといくつかの尿中代謝産物の量の変化が報告されている.40人の自閉症児(3−12歳)と44人の健常児の尿サンプルが集められ解析された.2群間で最も優位な違いは,自閉症児の47%で,7-methylxanthineの尿中レベルが検出できないほど低かったことである.二重盲検,プラセボコントロール,クロスオーバーデザインでの検討では(20例の自閉症児),プラセボとセクレチンの尿中代謝産物に対する効果が評価された.セクレチンを投与すると,尿中7-methylxanthineは有意に増加し,プラセボ投与ではこの効果はみられなかった.投与前に7-methylxanthineがゼロであった4例では,セクレチン投与後に7-mehtylxanthineは100倍以上に増加した.発表者らは,尿中7-methylxanthineの欠乏している例がセクレチンが有効なサブセットであるのか否かを結論するには,さらなる研究が必要と結んだ.

Repligen社は,最近フェーズ2の研究を行っており,これはプラセボコントロールデザインの臨床トライアルで,自閉症児におけるセクレチン投与量を3段階に分けている.アメリカにおける5つの場所での多施設共同研究である.


セクレチン多施設臨床トライアルについて(2000年11月2日,Needham,Massachusetts)


アメリカの5つのメディカルセンターにおいて新しく行われているセクレチン臨床トライアルで,このホルモンが自閉症の症候を緩和できるかどうかを確認できることが期待されている.

年齢3歳から6歳の140人の自閉症児が,セクレチンかプラセボを盲検法(投与者もどちらかわからないデザイン)で投与され,効果がでる児がいるのか,いた場合はどういうサブグループに有効なのかが検討されている.実施施設は,Mayo Clinic and the Rochester Institute for Digestive Diseases in New York, the University of Maryland Medical Center, the University of California, Davis/MIND Institute, and the Southwest Autism Research Center in Phonix, Arizonaである.

結果を待てないと言っている親もおり,アメリカFDAの認可がなくてもこの治療が受けられることを希望している.

強迫性障害などのような症候に対する治療薬はあるが,自閉症に特異的にデザインされた薬剤はこれまでのところまだない.自閉症児および自閉症成人例の標準的治療は,集中的な言語療法と個別教育などが含まれる.

メリーランドのAnnapolisの近くに住んでいるJagerさん一家は,消化のために膵臓を刺激するホルモンであるセクレチンが何人かの自閉症児にドラマチックに有効であるという報告を耳にした.いくつかの小さな研究結果ではプラセボとの差が報告されていないにもかかわらず,1999年の4月に自閉症の娘Megan(3歳3ヶ月)にこのホルモン剤を注射してくれる医師のところにMeganを受診させた.

母親は,「投与後4時間でMeganはLet goとしゃべったのよ!」と言う.「それはびっくりしたわ! それまでMeganは二単語文をしゃべったことがなかったのよ」 Meganはそれまではできなかったやり方で外界と相互関係を持ち出したのである.

この少女はその後の4ヶ月の間にさらに3回のセクレチン注射を受けた.「注射後,Meganの行動は改善した」とJager氏は語る.「Meganと何かするのに努力は必要ないのです.彼女はより素直でより寛大です.彼女は強迫性障害を完全に克服し始めたのです」 Meganは夏の間通常のプレスクール(パートタイム)に通い始め,来年は普通の幼稚園に入園の予定である.「そんなことができるなんて考えたこともなかったのです.使える言葉も増えており,自閉症的行動も減ってきている.この治療は娘の自閉症状態を穏解に導いている.彼女は眠りからさめたのです」

Repligen社(合成セクレチン製造会社)の社長で主任管理者であるWalter Herlihy氏は,消化管と脳の間を連結する神経を刺激することで,このホルモンは脳に作用すると信じている.この神経シグナルは胃酸を中和する膵液を分泌させると彼は語る.「セクレチンは既に知られている脳パスウェイを通して作用します・・・」

Repligen社は自閉症治療におけるセクレチンのパテントを保有しており,現行の臨床トライアルのスポンサーである.Herihy氏によると,このトライアルは最大規模のもので結果は2001年前半に明らかになるとのことである.

Jager氏はセクレチンが治療薬(cure)ではなく,全ての児に効くというわけではないと強調した.しかし有効である児が存在することは間違いないとしており,その一人がMeganであると主張している.「全ての自閉症児がこの治療法が効くかどうかを試みる機会を得るべきです」と語る.

しかし,しばらくはセクレチン療法を全ての自閉症児に試すということはできない.セクレチンは膵疾患の診断のためにのみ認可されているのである(FDA).ブタから膵疾患診断用セクレチンを製造していたFerring製薬は1999年に需要減少を理由に製造を中止している.その後,アメリカでは,臨床トライアルをとおしてのみ合成セクレチンが入手できる状況である.

Jager氏はどこでセクレチンを手に入れたのかを明らかにすることを拒絶した.しかし,医師の話では多くの親たちがFerring製薬が生産を中止する前にセクレチンを入手しストックしているということである.また,海外から輸入している親もいると言われている.

Cindy Schneider先生(今回のトライアルを実施している施設の一つSouthwest Autism Research Center)は,「親たちは日本からセクレチンを輸入したり,インターネットで購入している」と語った.

何人かの親はセクレチンを溶剤と混合して,皮膚から吸収されると信じ込んで自分の子供の皮膚に塗布している.Schneider先生は,「化学の専門家によるとセクレチンは非常に不安定なものであり,変化せずに皮膚から吸収さえるかは疑わしいと述べています」と語る.「舌下に投与する人もおり,効いたと断言している.私はそのような投与法で使えるのかはっきり言えません.治療法が欲しくて被れかぶれになっている親はたくさんいるのです.今は大規模な実験の段階です」.

Bristol-Power先生(National Institute of Child Health and Human Development)は,Repligen社が行っている研究は,これまでに行われたトライアルのデータと合わせると,決定的なデータになるであろうと予想している.「これまでのところ,あまり期待はできないが,腸管-脳連結により興味が集まり,セクレチンが治療薬でない場合でも,少なくとも少数の児で有効なのはなぜなのかが話題になりつつある.」と付け加えた.

Wiznitzer先生(Autism Center at University Hospitals in Cleveland所長)は,セクレチンは自閉症にはなんの効果も持たないと信じているが,消化管症状が改善すればその分のストレスは無くなると語る.「これは自閉症の治療法ではない.中心となる問題は腸で何が起こっているかである.」Wiznitzer先生は,自閉症児でセロトニンに関連した何かが起こっていると予想しており,その件についてのさらなる研究の必要性を指摘している.また,Wiznitzer先生は消化管症状のある自閉症児は検査と治療を受けるべきであると追加している.そのようなケースは行動が消化管症状に平行して改善するようであるとWiznitzer先生は述べる.「子供の言葉は自閉症であっても進歩するものである.自閉症児がしゃべりだすのは平均3歳頃であり,治療の有無にかかわらず自閉症児でもしゃべりだすのである.自然の経過ではなく治療効果だと断言することはできない.因果関係を証明するには膨大な研究が必要である.」と語る.

Schneider先生はRepligen社の研究デザインはこれまでのものよりもより特異的であると述べている.「対象児の数もより多いが,説明があまり公開されていない測定法も使われている.」と語る.Schneder先生は消化管症状のある重症な自閉症児のみが対象になっていると指摘する.10週に渡り3パターンの投与量でトライアルが行われている.「自閉症児の中に特異的なサブグループがあることが判ってきている.我々は(今回のトライアルでは)リンゴとオレンジを比較しているのではなく,ただオレンジをみているだけである.」とSchneider先生は述べている.

Herlihy氏は,もしセクレチンの効果が自閉症児の中のほんの一部でのみ現れるとしても,価値あることであると言っている.「全ての自閉症児に有効な治療薬ができるには,長い時間がかかるでしょう.」と語った.


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