彼女はアスペルガー症候群であったらしく,37歳の時に自閉症を指摘されており,それまでは学校の成績も普通で対人関係の問題点も表面化していなかったようです.しかし,彼女は自閉症のもうひとつの側面である優れた才能を職業に役立たせることに成功しました.彼女は自分の持つ強力な記憶力と特殊な視覚情報のとらえ方(visual thinking),そして興味があるものには徹底的に集中できる潜在能力を職業に応用することができることに気がついた数少ない自閉症者の中の一人なのです.記事の中では,アメリカの「Wellesley自閉症サービス協会」の会長の話として,自閉症者のひとつの特徴は,障害と才能が混在していることであると紹介されています.彼女が,自閉症者の中でも特殊な存在であるという一般的な見解は述べてありますが(この点については異議ありです),エール大学の小児精神科の助教授のコメントとして,「自閉症とコンピューターは相性がいい」と述べられており,コンピューターシュミレーションとしての自己分析やコンピューター解析による社会理解に取り組んでいる自閉症者もいるようです.
サラ・ミラーさんが以前,食品加工工場の品質管理の専門家であった頃の話として,「まるでレインマンがカードを全て暗記した様に,食品加工の理論の細部に渡るまで一度に記憶することができたわ」と語ったことが記載されています.また,自閉症者で動物学者(助教授)のテンプル・グランディンの記載として「全ての記憶はイメージとして記録され,インターネットの各ウェブページをクリックして引き出すようにそれらの記憶を頭の中で思い出すことができる」が紹介されており,自閉症者の思考がコンピューター的であることが示唆されています.テンプル・グランディンは,動物精神学者としても知られておりますが,家畜のための施設や特殊装置の設計でも有名で,「私はコンピューターの3Dグラフィックソフトを使うのと同じような感じで頭の中に装置の全貌を思い浮かべることができるのよ」と述べており,「みんなそうなのかと思っていたわ」と言ったそうです.サラ・ミラーもvisual thinkingを基盤にインプットとアウトプットを処理しており,言葉や文で記憶しているのではなく,「私はいつもビデオカメラでものを見ているような感じで記憶している」と語っています.「ありきたりのことでも,それまで見たことのないことに直面すると,パニックになって,ライオンと虎と熊が私に飛びかかってくるようなすごい不安を感じて動けなくなるの.だから始めての顧客の場合は同僚と一緒に行くことにしています」と彼女は語っています.見たことのない視覚的な刺激の中では,視覚情報だけでなく音などに対しても過敏になってパニックになってしまう自閉症の特徴が併せて紹介されています.彼女のコンピュータープログラマーとしての特殊能力は,ほとんどの自閉症者に共通すると考えられている視覚的な情報処理(visual thinking)能力に基づいているのです.
(コメント)
レインマンのストーリーや,天才画家として知られる山下清の優れた記憶力のことや,フォレスト・ガンプの記憶力があまりに優れているのでNASAが宇宙飛行士に抜てきした話などをすぐに思い出しました.また,多くの歴史上の天才たちがvisual thinkerであって,失読症や言葉の障害をかかえていた事実や,障害と才能(天才性)の二面性が特徴のクロスオーバー児の話題なども関連してくると考えます.自閉症という状態が,visual thinkingという状態と不可分であれば,全ての自閉症児の思考過程はコンピューターとの相性が良いということになります.個別指導でのコンピューターの利用をもっと考えていかねばと思いました.多くの自閉症児は,テレビゲームやコンピューター遊びにおいては,健常児と差がなく,むしろ天才的であることは皆さん御存知と思います.寛くんも「裏わざの魔術師」と呼ばれています.