はじめに
大学の保健管理センターや学生相談室などの
学内相談機関には,対人関係や社会性で大学内でさまざまなトラブルを起こすが,医療機関を
受診するには至らないsub−clinicalなケースが多
く来室する。筆者は大学保健管理センターの常
勤の精神科校医として,そのようなケースを多
く経験しているが,その中で始めは“人格障
害”と診断されたが,その病理を詳細に検討し
たり,幼小児期に受診していた医療機関からの
情報から,実際には広汎性発達障害,すなわち
Asperger症候群や高機能自閉症の年長例であったケースを2例経験したので報告し,人格障害と広汎性発達障害の関係について若干の考察を
加えて述べたい。
抄録:大学保健管理センターで,その症候から始めは人格障害と診断されたが,その 病理や幼小児期に受診していた医療機関からの情報で,実際には広汎性発達障害,すな わちAsperger症候群や高機能自閉症の年長例であったケースを2例経験した。診断につ いて,DSM一Wで検討したが,広汎性発達障害の主徴や症候は,分裂病質人格障害や強迫 性人格障害と類似する点が多く,広汎性発達障害の知見をもたないと診断が混乱しやす い。人格障害の診断は,他人を振り回す陽性の行動化を起こす境界性人格障害などでは, 明確になってきたと思われるが,この2例のように他人とあまりかかわらなかったり, 不登校のような陰性の行動化を起こすケースでは,幼小児期の病歴が不明だと診断は難 しく,また知能障害のない広汎性発達障害のケースは想像以上に多いため,人格障害を 疑うような青年期・成人のケースを診察する際,広汎性発達障害の知識をもつことは必 須である。
文献
1. Rapin I. Autism. N Eng J Med 337: 97-104, 1997.