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OCSDs(強迫性障害関連状態)としての自閉症

1999年8月,伊地知信二・奈緒美

Obsessive-compulsive disorder(OCD)は,日本語では強迫性障害と訳されており,DSM-Wでは逸脱した強迫観念あるいは強迫的行為が存在することで診断されます.このOCDと以下の点で類似する状態として,obsessive-compulsive spectrum disorders(OCSDs)という概念が提唱されています(文献1).
  1. 反復して頭にうかぶ思考あるいは抑制が困難な反復行動
  2. SSRIs(selective serotonin reuptake inhibitors)が有効な例がある
  3. 発症が比較的早期
  4. OCDに合併しやすい・OCDの家族歴として存在しやすい
OCDとOCSDsを異なるものとして扱う場合の両者の違いは,「強迫観念あるいは強迫行為の内容が限定されておらず,かつ,他のDSM-Wの第一軸の障害が存在していない場合がOCDで,一方,OCSDsはOCD以外の第一軸の障害として診断可能な反復思考・反復行動を含み,内容が限定される場合が多い」ということのようです.OCD-related disordersという表現もあり(文献2),OCDをOCSDsに含んで考えることもできそうです.最近Hollander氏は,身体醜形障害(body dysmorphic disorder),病的賭博(pathological gambling),自閉症の3つをOCSDsの代表として記載しています(文献1).自閉症をOCSDsとしているのは今のところHollanderらだけのようですが,Boltonらは,自閉症者の家族歴の中にOCDが多いことを改めて指摘し,「OCDはコミュニケーション障害や社会性障害と密接に関連しており,広義自閉症傾向(broader autism phenotype)の中の一つとして考えるべきであろう」と述べています(文献3).

この他にも体毛を繰り返し抜いてしまう抜毛癖(trichotillomania)もOCSDsではないかとの報告があります(文献4).身体醜形障害や抜毛癖に加え,心気症(hypochondriasis),神経性無食欲症(anorexia nervosa),妄想性障害(delusional disorder),衝動制御の障害(impulse control disorders),性嗜好異常(paraphilia),性嗜好異常を伴わない過剰性欲,神経性大食症(bulimia nervosa)やドカ食い障害(binge-eating disorder),Tourette's障害,窃盗癖(kleptomania),衝動買い(compulsive buying)など全てをOCSDsとしてうつ病との関連を主張している研究者もいます(文献5,6).強迫性人格障害という診断名もありますが,当然人格障害(personality disorder)者の中にもOCSDsとの関連が無視できないケースが存在します(文献7).体臭恐怖(olfactory reference syndrome)もOCSDsではないかとの指摘があります(文献8).

人間の行動や心がいかに複雑で,分類や概念の整理がまだまだ不完全であることが明らかに読み取れる話題です.それぞれの行動上の特質において,正常者と異常者(極端例)の境界線は不明確で,文化や時代により境界線が変動してしまいます.自覚的に,あるいは他覚的(社会的)に常軌を逸しているかどうかの判断ラインから頭を出している氷山の一角とも言える極端例のみを分類・整理するのは本当は無意味なのかもしれません.自閉症者も,社会性・コミュニケーション・こだわり(強迫的)の3つの特質の極端例であるわけですが,自閉症を含む人間の行動の理解を深めるには,複雑に融合・重複している氷山の水面下の部分を含めて考える必要があるようです.


文献
1. Hollander E. Treatment of obsessive-compulsive spectrum disorders with SSRIs. Br J Psychiatry Suppl (35): 7-12, 1998.
2. Hollander E. Obsessive-compulsive disorder-related disorders: the role of selective serotonergic reuptake inhibitors. Int Clin Psychopharmacol 11 Suppl 5: 75-87, 1996.
3. Bolton PF, et al. Autism, affective and other psychiatric disorders: patterns of familial aggregation. Psychological Medicine 28: 385-395, 1998.
4. Swedo SE & Leonard HL. Trichotillomania: an obsessive compulsive spectrum disorder? Psychiatr Clin North Am 15: 777-790, 1992.
5. McElroy SL, et al. Obsessive compulsive disorder. J Clin Psychiatry 55 Suppl: 33-51, 1994.
6. McElroy SL, et al. Kleptomania, compulsive buying, and binge-eating disorder. J Clin Psychiatry 56 Suppl4: 14-26, 1995.
7. Hayashi N. Obsessive-compulsive disorder comorbid with borderline personality disorder: a long-term case study. Psychiatry Clin Neurosci 50: 51-54, 1996.
8. Stein DJ, et al. Is olfactory reference syndrome an obsessive-compulsive spectrum disorder?: two cases and a discussion. J Neuropsychiatry Clin Neurosci 10: 96-99, 1998.


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