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自閉症傾向・多動傾向の脳外科手術の問題点(10)
(軽度の三角頭蓋に対する形成術)


:ヘルシンキ宣言の無視について


2002年8月,伊地知信ニ

このコンテンツは,下記宛名の先生方に一通ずつ郵送で発送しました(平成14年8月3日).

沖縄県立那覇病院

脳外科 S先生

小児科 SS先生

N院長先生

沖縄県立那覇病院倫理委員会殿

沖縄小児発達センター O先生

発達障害児を含む患者さんに対する,先生方の日々のご配慮ご活動ご苦労様です.また,これまでに以下の点で,私どものお願いを聞き入れてくださり,改善してくださった点につきましても,感謝申し上げます.
私どものお願い・指摘 S先生らの対応
院内倫理委員会での検討の必要性を指摘(平成12年5月) 平成12年7月12日,院内倫理委員会開催
文書によるインフォームドコンセントの必要性を指摘(平成12年5月) 平成12年7月より実施
比較研究の必要性を指摘(平成12年5月) 比較研究への努力(脳と発達 33: 487-493, 2001)
健常児にも軽度三角頭蓋がいるはずと指摘(平成12年5月) S先生論文で初めて認める(Child's Nerv Syst 18: 215-224, 2002)
nonsyndromic typeの誤解を指摘(平成12年5月) 「軽度三角頭蓋には臨床症状はまれと信じられていた」と修正(Child's Nerv Syst 18: 215-224, 2002)

しかし,ご存知のように私どもが以前から指摘させていただいております臨床研究に関する世界的な常識からの逸脱に関しましては,ご改善くださらないままであります.一番最初に,軽度三角頭蓋手術の話題を教えていただいた時に,高い研究水準を要求されるテーマに臨床の第一線の県立病院が取り組んでいるとのお話に感銘したことを思い出します.しかし,この驚きは,S先生の最初の論文を見せていただいて,落胆と全く別の驚きに変わりました.私どもがお願いするまでは,文書によるインフォームドコンセントも行っておらず,院内倫理委員会さえも開催されていない状態だったわけです.S先生も“小児の脳神経”のレターのやり取りで,「生物医学研究の範疇と指摘され,正直驚きましたが,むしろ光栄であると考え先生の指摘を忠実に実行しようということになり,手術をいったん中止し,院内で倫理委員会を開いてもらい,これまでの40例の分析結果を報告し,明記したinformed consentを作成し親の了承を受けるということを条件に手術再開の了承を受けています」と述べられ,研究であることを既にお認めになっておられます(文献1).研究ではないと患者さんの家族に説明しながら,実際は十分な研究体制をとらずに臨床研究を続けることは,これまで指摘させていただいたように,臨床研究の倫理的ルールを定めた“ヘルシンキ宣言”を無視した行為であります.また,院内倫理委員会には,研究としてこの件を審査し,予備的データや研究デザインが承認に値するものであるかどうかを検討する義務があります.これまでに,指摘させていただいた問題点を,より多くの人に議論していただきたく,既にご存知とは思いますが,今回ランセット誌のレター欄に投稿させていただきました(文献2).この件に関するエディターの先生方の注目度は非常に高く,臨床研究と診療行為の境界域に関するホットトピックスとしてご採用いただきました.日本医師会雑誌のヘルシンキ宣言の訳文と共に同封いたします.ご査読よろしくお願いいたします.

最後に2000年5月から先生方にお願いしております内容(2002年4月に5を追加)を繰り返します.

1.真に患者利益を優先させるためには,ルールに従い,まず治療の正当性をエビデンスで示すべきである(疫学的検討,これまでのデータの詳細な比較解析).

2.上記に基づく倫理的再検討と対象病態の再吟味を行うべきである.

3.さらなる臨床比較研究の正当性が(特定の一群に対して)示された場合は(効かない例をできるだけ対象から外す),親の理解と医師の見解の解離をなくすべき(研究としてのインフォームド・コンセント).

4.臨床研究はできるだけ科学的であるための努力を(クロスオーバー法,録画盲検法,他の手術症例との比較).

5.術後支援体制の確立(特に効果のなかったケースについて).

 

896-1411 鹿児島県薩摩郡下甑村長浜8−3

EGT研究所・長浜診療所

伊地知信二,伊地知奈緒美


文献
1.
下地武義.著者からの回答.小児の脳神経 25: 412-413, 2000.

2. Ijichi S, Ijichi N. Ignorance of Helsinki Declaration. Lancet 360: 415, 2002.


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