Sorry, so far only available in Japanese.
「腸炎に関連した後天性の自閉症?」に関する議論(6)
自閉症の全国的登録制度を!(MMRワクチン騒動後の親の意見)
自閉症児における消化管の炎症?(セクレチン騒動を起こしたHorvath先生の論文)

MMR・自閉症・腸炎(6)

2000年3月、伊地知信二/奈緒美

臨床系医学専門雑誌ランセットに載りましたMMRワクチンと自閉症の論文(文献1)は,既にたくさんの批判や議論を集めました(同じタイトルの1〜5として話題に掲載).関係する論文は,引き続きこのような形で紹介していきます.


私見:MMRワクチン,自閉症,そしてアダム(文献2)

アダムは,1990年の1月に生まれた.彼の姉と比べると,ゆっくりだったが何事もなく成長していったが,15ヶ月の時,2単語の発話ができるようになっていた頃,MMRワクチンの接種を受けた.18ヶ月を過ぎた頃,アダムの発達に変調が見られ始めた.態度がよそよそしくなり,関心がない様子で,不注意さが目立ちだし,手をパタパタ動かしたり,回転させたりし始めた.私たち親は,最初は何人かの友人や専門家にこのことを相談し,「心配しすぎだ」と言われていたが,アダムが2歳の誕生日の頃,専門医により自閉症的であり,それに伴った退行現象であることが告げられた.そして,その原因は,遺伝性が考えられ,環境因子の影響も否定できないと説明された.

我々の反応は,同じ状況の他の親たちといっしょで,原因が何かを探すことであった.妊娠中に感染症に罹った可能性は? 水疱瘡で脳症になったのでは? 出産の時の無酸素症? 飲料水の中の鉛?(これはチェック済み) 学習障害の家族歴は? 代謝障害の可能性は? 説明がつけば,彼の弟か妹をもうけるかどうかの判断に役立つであろうし,もっと重要な点は,もし原因がつかめれば,ひょっとしてアダムのための治療の道がひらける可能性がある.我々は,MMRワクチンがアダムに何か影響を与えた可能性も考えたが,十分に考えた結果,アダムはワクチン接種以前から正常に発達していたとは言えないと結論した.

*****自閉症の原因は十分には解明されていない*****

アダムは現在9歳で,最近4年間は,自閉症児のためのすばらしい寮制学校に在籍している.1998年,Andrew Wakefield氏らが,MMRワクチンと自閉症の間に関連があるのではと仮説を表明した時,たくさんの自閉症児の親たちが,「これが答えなんだ」と納得してしまった.私たちは,なぜそうなってしまったのかをよく理解することができる.アダムの学校の親たちの間でも,いろいろな意見があったが,2つの異なった立場に分かれた.「ワクチンの危険性が証明されたわけではない」とする立場と,「ワクチンが自閉症の原因である」とした立場であった.「ワクチンは安全」とする行政の立場は忘れられ,私が保健行政の仕事であり,Wakefield氏の話に乗らなかったため行政側の人間と思われていたようだ.その後,3つの研究結果が,MMRワクチンと自閉症の関連を否定したのである.

イギリスの自閉症児の多くの親たちにとって,この否定的結果はショックであり,現在もその余波が続いており,公式な見解を求めている.結果はどうあれ,親の集団的見解がメディアの誇大報道に対する感情的な反応として解釈されるとしたら,それは我々親にとっては大きな屈辱である.自閉症の原因は十分には解明されておらず,効果的な治療法の開発のためになされていることもまったく不十分な状態なのである.

自閉症のための対策は,教育予算と福祉予算のかなりの部分を占めており,自閉症が増加しつつあるという指摘もある.実際,地域の専門家のところを受診する自閉症の症例数は増加している.自閉症に関する国家レベルの疫学的調査や研究は未だ乏しく,増加の原因が自閉症の知名度が上がったせいなのか,本当に症例数が増えているのかはっきりしていない.

次に必要なことは,自閉症関連状態(the spectrum of autism)の全国的な疫学調査(登録制度)の実施である.登録内容は,家族歴,社会的環境,胎児期のエピソード,新生児期の情報,ワクチン歴,発達歴,一般的な健康状態,合併疾患などを含むべきであろう.将来的には,治療法や療育法の長期的発達に与える影響に関する情報も得ることができるであろう.

このような登録体制が整えば,自閉症児の数がもし増加していく場合の,関連する環境因子の検討や,自閉症児に供給される福祉や教育にまつわる偏見の程度やタイプを検討することもできるようになるであろう.登録すべき児の同定や分類においても困難があるであろうが,私たち親は,今後のためには詳細な評価がなされるべきことを確信している.


自閉症児における消化管異常(文献3)

(目的)消化管症状を持つ自閉症者において,上部消化管の構造および機能を評価する.
(デザイン)36人の自閉症児(平均年齢5.7歳:標準偏差2)において,胃カメラを施行し,粘膜生検を行った.また,消化管および膵臓酵素の解析および細菌・真菌培養検査も行った.最も多かった消化管症状は,慢性の下痢,鼓腸,腹部違和感,腹部膨満であった.
(結果)36人中25人(69.4%)で,組織学的逆流性食道炎のグレードIまたはグレードIIであった.15例で慢性胃炎,慢性十二指腸炎が24例であった.十二指腸粘膜におけるPaneth細胞の数は,自閉症児においてコントロール群と比較して有意に増加していた.58.3%にあたる21例で,消化管性炭水化物消化酵素の活性が低下していたが,膵機能には異常はなかった.自閉症児の75%(27/36)で,セクレチン負荷(静注)により,膵液-胆汁排出の増加がみられた.下痢を呈した21例中19例は,下痢のないケースに比べ,有意に高い水分排出(fluid output)を呈した.
(結論)特に逆流性食道炎や二糖(しょ糖や乳糖)消化異常などの,これまでに自閉症で指摘されていない消化管疾患が,言葉の遅れを伴う自閉症児の行動上の問題に関与している可能性が考えられる.セクレチン静注負荷による膵液-胆汁分泌増加の所見は,膵臓と肝臓におけるセクレチン受容体の増加(upregulation)を示唆する.自閉症における脳と消化管機能異常との関係を解明するためには,さらに検討を進める必要がある.


コメント:
二つ目のHorvath先生の論文は,自分が起こしたセロトニン騒動に対する批判や,MMRワクチン議論での否定結果に触れることなく,一方的に議論を進めています.セロトニン静注が自閉症には無効とした論文が公表される前に投稿したようですが,雑誌に掲載される前に,いろいろな否定結果が耳に入ったはずなのですが??


文献
1. Wakefield AJ, et al. Ileal-lymphoid-nodular hyperplasia, non-specific colitis, and pervasive developmental disorder in children. Lancet 351: 637-641, 1998.
2. Goldberg D. MMR, autism, and Adam. BMJ 320: 389, 2000.
3. Horvath K, et al. Gastrointestinal abnormalities in children with autistic disorder. J Pediatr 135: 559-563, 1999.


表紙にもどる。


ご意見やご質問のある方はメールください。

E-mail: shinji@po.synapse.ne.jp