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MMR・自閉症・腸炎(20)
議論完全に再燃,自己免疫性腸炎?
2002年7月,伊地知信二・奈緒美

Uhlmann先生が筆頭著者で,Mol Patholに自閉症児の消化管から麻疹ウイルスが検出されたと報告し(MMR・自閉症・腸炎の19で紹介済み:文献1),Torrente先生が筆頭著者で,Mol Pshchiatに消化管の免疫組織化学検査の結果が発表されました(下に訳:文献2).最初のWakefield論文のラストオーサーであるWalker-Smith先生がLancetに出したレター(文献3)は,MMR・自閉症・腸炎(18)で紹介しましたが,このレターは文献1と文献2を紹介して関係者に再考をうながすためのものでした.文献2の概要の訳に続き,この二つの論文とWalker-Smith先生のレターに対する反響などを紹介します.

Wakefield先生一派の免疫組織化学に関する論文(文献2)

概要:我々は退行現象を伴う自閉症児において,腸上皮のダメージが優位なリンパ球性腸炎を報告した.今回,25人の退行性自閉症児の生検十二指腸組織を,11人のセリアック病,5人の脳性麻痺・精神発達遅滞児,および18人の組織学的に正常なコントロール群と比較検討した.免疫組織化学検査は,リンパ球,上皮系細胞,そして機能マーカーについて行った.我々は上皮内リンパ球および固有層内リンパ球のマーカーおよび,粘膜免疫グロブリンと補体C1qの局在を検討した.標準的組織病理は,自閉症児において腸細胞(enterocyte)とPaneth細胞の増加があることを示した.免疫組織化学では,正常コントロールおよび脳性麻痺コントロールと比較して,腸上皮および固有層の両方でリンパ球浸潤が増加し,陰窩細胞増殖の亢進がみられた.上皮内リンパ球および固有層形質細胞はセリアック病よりは少なかったが,固有層のT細胞分画がより増加し陰窩細胞増殖は類似していた.最も著明であったのは,IgGの沈着が血管側壁の上皮表面に自閉症児の25例中23人で見られたことで,補体のC1qの沈着と同じ場所であった.この所見は他のグループでは見られなかった.これらの所見は自閉症児において,これまでに報告されていない腸症(enteropathy)が存在することを示しており,腸において粘膜リンパ球密度と陰窩細胞増殖が上皮IgG沈着と共にみられる.これらの所見は自己免疫性病変を示唆するものである.

文献2に対するランセットのコメント(文献4)

イギリスの研究チームが,自閉症児において消化管の異常の原因となる自己免疫的背景が存在することを支持するエビデンスを報告した.この研究者らは自閉症児の小腸において,腸上皮細胞の表面にIgGが沈着し,リンパ球が浸潤し,そして陰窩細胞増殖が増えていることを報告した.編集者のコメントの中でJulio Licinioは,「これらの所見は重症自閉症において自己免疫疾患が存在している可能性を示唆する」と結論した.Royal Free病院(Wakefield一派の病院,現在はWakefield先生は転勤)のSimon Murchらは,小腸病変を持つ25人の自閉症児から腸サンプルを採取し,いろいろな免疫化学的テクニックで検討した.比較のために,彼らは18人の正常コントロール,11人のセリアック病,そして5人の脳性麻痺児をコントロールとした.ルーチンの染色では,自閉症児とコントロール群の間にはマイナーな違いだけであったが,免疫化学検査で自閉症群で明らかな異常が発見された.CD8陽性リンパ球の腸上皮内密度は,正常コントロールまたは脳性麻痺群に比べて有意に自閉症児群で増加していた.しかし,セリアック病ほどではなかった.自閉症児はまた他の群に比べ固有層におけるT細胞浸潤の密度も増加していた.しかし,最も著明な所見は血管側壁のenterocyteの細胞膜と,上皮下基底膜へのIgG1とIgG4の沈着であり,他のグループではこの所見は見られなかった.沈着が部分的で不完全な例もあるが,著明で広範囲にわたる例もあった.Murchは「腸の炎症が,少なくとも自閉症児の一群において真に起こっている」と結論した.しかし,彼は,その様な予想もされなかった消化管病変が自閉症を特徴づける認知異常の原因になったり憎悪因子になったりするのかどうかは,大きな疑問であると述べている.「もしこの疑問の答えがイエスであれば,将来,最初の退行現象の時に免疫治療が使えるかもしれない」と彼は言っている.自閉症に対する消化管異常の意義の理解に関する次のステップは重要であり,IgG沈着の局在が腸上皮抗原に対する特異的な結合を意味しているのかどうか,またそうであればその抗原は何なのかを発見することである.その他の疑問としては,明らかに広範囲にわたった腸に浸潤しているリンパ球に関してのものである.「フォローアップ研究では,これらの自閉症児において十二指腸および大腸リンパ球からのTNF(tumor necrosis factor)の自発的産生の増強と,局所的リンパ球性胃炎の証拠が得られた」と,Marchは報告している.同時に,彼はこの組織学的所見が自閉症の診断に使えないかどうか考えている.「わかりやすい組織所見は,ルーチンの診断のためには微妙すぎる.しかし,ヘリコバクター・ピロリの場合も同じことが過去にはあった.パターン認識によってより良くなるかもしれない」と彼は述べている.

MPオンラインのエレクトロニックレターでのO'Leary先生らの反論:Halsey先生のレター(MMR・自閉症・腸炎19)への返事(文献5)

2000年5月に,この件を検討するために召集された会議の会議録の拡大レビューの責任著者であったNeal Halsey先生はその前書きを担当している.この会議は後述するようにアメリカ小児科学会(AAP)とCDCP(the Center for Disease Control and Prevention)が召集したものである.

Halsey先生は我々の論文に関連して若干の観察を行っている.それらに関して以下に回答する.

サンプル収集について:ケースとコントロール間でサンプル収集における差異は存在しない.ケースにおいてもコントロールにおいても全てのケースから凍結生検組織を無菌器具を使って入手し,サンプル毎に無菌容器に保存した.容器は密封され液体窒素中に浸けられた.サンプルはダブリンのO'Leary教授の研究室に着くまで容器が開けられることはなかった.Royal Free病院では,6階でこの操作が行われ,麻疹ウイルスを扱う研究はこの階では行われていない.コンタミネーションは考えられない.ケースとコントロールから採取した,全てのパラフィン封入サンプルは同様のコンタミネーション対策の下に集め,麻疹が扱われている環境との接点はない.注目すべきことに,アメリカの病院を含む他の病院からO'Leary教授の研究室に直接送られてきたサンプル(複数)においても麻疹ウイルスは検出されているのである.O'Leary教授の研究室で生検サンプルを解析しているスタッフは,ケースまたはコントロールサンプルの臨床データの詳細を知らない.研究の一部である最初の分子解析のコードは公表してある.

TaqMan PCR,液体でのPCR,および細胞レベルでのPCRのために使われたコントロールの正確性からすると,疑陽性結果はほとんど考えられない.論文中に記載してあるようにコントロールRNAでは一貫して陰性結果であった.頚部や乳腺や甲状腺の生検組織からのRNAを抽出コントロールとして2回ずつ抽出し,再び一貫して陰性であった.ダブリン内で地理的に離れている2ヵ所の研究室でPCRは行われた.

加えて,TaqMan PCRのコントロールは慎重に扱われ,テンプレートを入れていないコントロール(NTC),増幅のコントロール(NAC),プローブを入れていないコントロール(NPC),非対称TaqMan PCRコントロール,関係のないプライマーでのコントロール,関係のないプローブでのコントロールなどが使われた.

炎症性組織からウイルスが検出され,正常組織からはウイルスが検出されないだけではないかという可能性は考えにくい.なぜならウイルスは炎症性疾患を持つ児の回腸生検組織からは検出されなかったからである.加えて,遺伝子総量の修正解析も,グループ内およびグループ間でPCR抑制の可能性を特異的に検証するために行われた.再び,我々がリンパ結節性過形成のある特異な児において麻疹ウイルス持続感染を単に見ているだけではないかというHalsey先生の示唆は間違っていた.論文に記載したように,発達障害のないリンパ結節性過形成の児童からは麻疹ウイルスは検出されなかったのである.

遺伝子配列について:この解析は麻疹ウイルスの野生株とワクチン株の両方を検出できるようにデザインされ,両者を鑑別するためのものではない.鑑別するための検討は現在進行中である.

症例:発達障害を伴う児童は,自閉症スペクトルと診断されている.彼らは,消化管症状に関して調査された.選択バイアスをさけるために連続して親を調査した.

コントロール:生検は粘膜生検であり,クローン病において肉芽種性の炎症が存在する部分(Wakefieldらが麻疹ウイルスを検出した)は,粘膜下,漿膜である.炎症性のコントロールを設定した理由は,麻疹ウイルスのゲノミックRNAが,非特異的炎症巣内に隔離されているかどうかという疑問に正確に答えるためである.結果はノーであった.

摘出虫垂炎もまた本研究のコントロールとした.論文中で指摘したように,麻疹ウイルスの存在を示唆するWarthin Finkeldyの巨細胞が虫垂で同定されることが報告されている.著者は摘出虫垂炎をコントロールコホートとして含むことは,無作為に選別された子供のポピュレーションにおける麻疹ウイルス感染の存在を同定するために適切であったと信じた.

用語:退行現象を伴う児童と消化管症候に関する詳細な検討は,疑いの余地無く,自己免疫性の小腸結腸炎を伴った新しい症候群を同定した.疫学はこれらの所見の妥当性に反論するどころか,評価する能力において全体的に不適切である.Halsey先生には,これらの子供たちが持っている慢性の回腸結腸リンパ様結節性過形成が正常の反応であることを示す科学的な文献を示していただきたい.

非典型的暴露:Halsey先生自身が,かなり正確に述べているように,もし非典型的ウイルス感染が合併していることに対する副反応を示唆する生物学的理由が存在する場合は,大規模な比較研究が行われるべきである.明らかなことには,一つの論文は亜急性硬化性全脳炎が麻疹と水痘に関連していることを示唆している.他の論文でこの関連を否定しているものもあるが,非典型的な合併ウイルス感染に関連する状況が必ずしも明確にされているわけではない.

Halsey先生は,アメリカ小児科学会とO'Leary教授との間のやり取りに関することをいくぶん不正確に述べている.O'Leary教授は,Halsey先生によって出された間違ったコメントを,記録のために訂正することを望んでいる.アメリカ小児科学会とO'Leary教授との間のやり取りは実際は,前に述べたように,自閉症とMMRワクチンとの関連の可能性の件を検討するために召集された特別な会議に関連したものである.その時O'Leary教授は言葉と,文書で,個人的理由で出席できないことをアメリカ小児科学会の担当者に説明した.担当者はアメリカ小児科学会に,内容は査読に提出中でありそれ以上のコミュニケーションが適切ではないと伝えた.

上のレター中で引用された自閉症腸炎に関する論文(見のがしていました:文献6)

概要:(目的)我々は回腸リンパ様結節性過形成を伴う結腸炎を退行現象のある自閉症児において報告した.本研究の目的はこの病変の特徴を検討し,リンパ様結節性過形成が自閉症に特異的なのかを検証する.(方法)回腸-結腸鏡により,腸症状を有する自閉症スペクトル児21例で連続的に評価した.比較はブラインドで行い,組織学的に回腸と結腸が正常の8例,回腸のリンパ様結節性過形成を持つ発達正常の児童10例,クローン病15例,潰瘍性大腸炎14例を検討した.免疫組織化学検査にて,細胞種類と機能マーカーを検討し,組織化学検査で,glycosaminoglycansと基底膜の肥厚を検討した.(結果)組織所見では典型的な炎症性腸疾患よりも軽度であるが,自閉症児においてリンパ球性腸炎があることが示された.しかし,基底膜の肥厚と粘膜のガンマ-デルタ細胞密度は他の対象群に比べ有意に増加しており,炎症性腸疾患のケースよりも増加していた.CD8陽性細胞の密度と腸上皮内のリンパ球の数はクローン病,リンパ様結節性過形成,そして正常コントロール群に比べ増加していた.CD3陽性細胞と形質細胞密度,および陰窩細胞増殖は,正常群およびリンパ様結節性過形成コントロール群よりも増加していた.固有層でなく腸上皮のglycosaminoglycansは途絶していた.しかし,腸上皮はHLA-DR陰性でT(H)2反応が優位であることが示唆された.(結論)免疫組織化学検査は,自閉症スペクトル児において特異なリンパ球性結腸炎が存在することを確定した.この病態では,腸上皮は特に障害を受けていることが判明した.この所見は自閉症においてエビデンスが増えつつある腸上皮機能障害説に矛盾しない.

疫学の価値:MPオンラインのレター(文献7)

我々は,4月17日のO'Leary教授のレター(文献5)と,MorrisとAldulaimiによる編集者のコメント(MMR・自閉症・腸炎19)に対してコメントする.O'Leary教授と編集者のコメントは両方とも,疫学が価値がないものとして論述している.MorrisとAldulaimiは,「疫学は感度の低い手段である」としており,残念なことに間違った見解である.医学研究には多くの原則があり,それぞれは異なった研究目的のために利用されている.残念ながら,研究者はしばしば自分自身のフィールド以外の原則を理解していない.治療に関する疑問は,無作為化コントロール臨床治験により最善の解答を得ることができる.しかし,特に原因や危害に関する疑問など,臨床治験やケースシリーズでは通常は解答が得られない研究課題が存在する.このような課題は疫学的研究を必要としている.古典的な例は,喫煙と肺癌の関係を示した,Richard DollとAustin Bradford Hillの研究である.この研究課題は,観察的疫学研究のひとつであるケースコントロール研究により結論がでた.エビデンスのレベルとしては,ケースシリーズ解析のランクは低いが,にもかかわらず,新しい病気や新しい臨床状態を記載するためには有益である.良い例が,ホモセクシャルの男性のカリニ肺炎のケースシリーズの記載に端を発するHIVである.しかし,Uhlmannらの研究も,コントロールを設定し,それらをケースと比較しており,その論点を示すために皮肉なことに疫学に依存している.JAMAで発表される医学論文のためのユーザーズガイドは,妥当性を評価するための便利なガイドラインを提供している.我々が答えるべき最初の質問は,「ケース群とコントロール群は,興味の対象としての違いではなく,アウトカムにおける重要な決定因子に関して同様なグループであるか?」である.この答えは,問題の論文に関してはノーである.ケースにおいては85.5%が男児でコントロールでは67%が男児となっており危険率は0.01未満で有意差がある.ケース群の年齢巾は3歳から14歳,コントロール群の年齢巾は0歳から17歳である.ケース群とコントロール群の選別のプロセスに関する情報がないが,コントロール群は前方向に集められた適合サンプルというよりも便利の良いサンプル(その時入手可能な何でも良いサンプル)のようである.サンプル採取の時間に関する情報もない.記載されているのは,コントロールサンプルは5年前からのものであり,ケース群は昨年からのものであることだけである.二番目の質問は,「比較されるグループにおいて同じ方法でアウトカムと暴露が測定されているか?」である.組織における麻疹ウイルスの存在は同じ方法で計測されているかもしれないが,いつ,いかなる理由でサンプルがコントロールとして集められたかが不明な場合,古い検体に対する検査法の感度が変化する可能性があるので,この質問には答えることができない.ケース群における診断プロセスの情報がなく,発達障害の診断が不明確で,コントロール群において発達障害の診断が除外されたかどうかについての情報もない.発達障害の定義に関しても情報がない.三番目の質問は,「フォローアップは十分に長期で完結しているか?」である.本研究ではフォローアップはない.4番目の質問は,「時間的な関係は正確か?」である.今回の論文にはこれに関する情報もないため,1998年のWakefieldらの論文をみてみると,炎症性腸疾患が自閉症に先行するという仮説を支持する時間的関係は存在しない.実際,1998年に記載された12例のうち,半分のケースで腸症候の開始時期に関する情報がなく,残りの6例の中で4例において,行動上の症候は腸症候よりも実際は先に起こっている.4番目の質問は,「量依存性の反応が存在するか?」である.これに関しても何も示されていない.この論文では危険率を算出していないが,この症候群を有する児における麻疹ウイルスの存在のだいたいのオッズ比は60.9(95%信頼区間で,19.4-205)であることが,データから計算できる.このオッズ比は肺癌の原因となる喫煙のオッズ比よりも高く,そのような高いリスクレベルにおいて,もし麻疹ウイルスが実際にこのまだ確認されていない症候群の原因であるとしたら,そのことのための疫学的証拠が存在することが予想される.しかし,そのような証拠はない.この新しい症候群の原因にBradford-Hillの基準を適応するためには,この症候群自体の正確な定義が得られることが必要条件であることを思い出さなければならない.

ランセットのコメンタリー(文献8)

広汎性発達障害(PDD)は,自閉性障害を含む一群の障害を記述するための包括的用語である.自閉性障害は,コミュニケーションにおける発達遅滞,社会的相互関係スキルにおける遅れ,そして特異な行動異常を呈する.遺伝素因と環境因子の両方がPDDの病因に関連しているとされているが,背景となる原因はまだよくわかっていない.PDD児の中には1-2歳頃に退行現象を呈するものがおり,この時期における環境因子暴露に関する懸念が存在する.MMRワクチンに対する非典型的免疫反応が,誘発因子のひとつである可能性が示唆された.この仮説は,公衆衛生上重要な意味を持っているので,アメリカの議会公聴会を含むかなりの議論が巻き起こった.さらに,WHOやアメリカ小児科学会などの機関がこの件に関してコメントしている.広く認められている結論では,現時点で入手可能なデータはMMRワクチンとPDDの間に関連があることを支持していない.

Andrew Wakefieldらは,PDD児の中で,特に退行現象の既往があり慢性の消化管症状を持つ一群が,腸管異常に関連して,麻疹抗原に対する脱制御状態の免疫反応を呈している可能性を指摘した.1998年に,WakefieldのグループはPDDおよび他の精神神経障害を有する児童の一群を報告した.この子供たちは,腹痛,腹部膨満感,下痢などの慢性の胃腸症状に関して消化器科に紹介されてきた.12人の子供たちが検査を受け,驚くべきことに,11人が肉芽種を伴わない回腸リンパ様過形成を有していた.このグループによるさらなる研究により,コントロール児においては14%であるのに対し,PDDでは93%の児に回腸リンパ様結節性過形成が報告された.回腸リンパ様結節性過形成とMMRワクチンの関連の可能性が,これらの報告によって,ワクチン接種と多くの症例での症候のオンセットとの時間的関係から示唆された.これらの研究において,可能性のあるサンプルバイアスは,患者が消化器科へ紹介されたことにより同定されている点である.もし,退行現象のような既往が回腸リンパ様結節性過形成のあるPDD児でより多いのであれば,消化管症状のあるなしでPDD児を評価する必要がある.

Uhlmannらは(Wakefieldを含む),新しい論文の中で,PDDで組織学的に回腸リンパ様結節性過形成が確認されているケースの腸組織を評価している.RT-PCRを使い,麻疹ウイルスのnucleocapsidタンパク,fusionタンパク,およびhaemaglutininのRNAフラグメントを,対象者91人中75人で同定した.対照的に,非単一性のコントロールグループにおいては,70例中で5人だけに麻疹ウイルス同定のためのRT-PCRが陽性であった.PCR産物の,fusionタンパクDNAに対するプローブおよびhaemaglutinin DNAに対するプローブとのhybridisationは,75例中4人で示されたが,配列の特異性は確認されていない.このような結果は注意して解釈しなければならない.例えば,パピローマウイルス用のプライマーによる(非特異的)人DNA配列の増幅が報告されており,その後のPCR産物の同定確認のための方法の開発を誘導した.にもかかわらず,たとえ麻疹ウイルスDNAが評価された組織に存在するとしても,その意義については議論が残る.

同じような研究が,潰瘍性大腸炎やクローン病のような腸のリンパ様過形成を伴う疾患において,ヘルペスウイルスDNAや麻疹ウイルスを含むウイルスを検出している.従って,麻疹の核酸配列が回腸リンパ様過形成を伴うPDD児で発見されたことの臨床的重要性は不明である.ひとつの魅力ある代替説は,リンパ様過形成がたくさんの抗原やDNA配列の量の増加の存在と関連しており,その結果クロスリアクションを起こす抗原やDNA配列が検出されてしまう可能性である.この仮説に一致することとして,ウイルス蛋白よりも宿主蛋白に由来する麻疹ウイルス関連抗原が,いろいろな結腸疾患患者で報告されている.

Wakefieldらは,正常の行動発達であった児において,PDDの診断に先行して,麻疹ワクチン接種の後すぐに退行現象が起こるパターンが特に意味があると示唆している.しかし,退行現象の既往の有無にかかわらず,親が児の症候に最初に気づいた児の年齢は同じとする報告もある.加えて,初診時の年齢はMMRワクチンの導入前後で変化がないとする報告もある.胃腸症状の頻度は,退行現象のある自閉症児でもない自閉症児でも同じであるようである.MMR接種の時期とPDD児においてその典型的症候が認識された年齢の,近接した時間関係に関しては,MMRワクチン接種の直後にPDDとして受診したケースが偶然に存在していたことも予想できる.

PDDの原因は非単一性であるようであるが,異なるPDDの診断基準における症候が重複していることから,背景となる因子は共有されていることが示唆される.加えて,脳と消化管の神経伝達物質のいくつかは共通しており(例えばvasoactive intestinal peptide),またPDD児におけるセクレチン刺激反応の異常も報告されており,PDD児において脳-腸軸の障害が存在する可能性が生物学的に考えられることが示されている.全員というにはほど遠いが,胃腸症状は一般ポピュレーションに比べてPDD児において増加していることが明らかにされている.にもかかわらず,これらの児童の腸管症状はしばしば内視鏡で検査されることはなく,従ってPDD児における炎症性腸疾患の特異バリアントの存在は広く認識されているわけではない.

従って,PDD関連炎症性腸疾患に関するアイデアはさらなる熟考に値する.この仮説を支持する報告として,WakefieldらのグループはIgGとC1qが25人の自閉症児の中で23例において十二指腸の生検組織の血管側面上皮に沈着していることを発見して報告した.コントロール群ではこのような所見はない.しかし,現時点では,PDD,腸疾患,そしてMMRワクチンの間の因果関係に結論がでたわけではなく,憶測に過ぎない.

自閉症,腸の炎症,そして麻疹(Lancetの通信欄,Walker-Smithのレターに対する反応:文献9)

(Elphinstone Pのレター)John Walker-Smithは,製造会社に対する現在の法的訴訟に含まれている当事者対抗アプローチによって,子供たちが不当に扱われていると述べた.しかし,どのように,またなぜかについての説明のためのエビデンスは何も述べられていない.親を通じて,この訴訟を始めたのは,この子供たちであり,訴訟を起こした家族には費用の負担はなく,莫大な公費が使われている.対照的に,保健担当専門官や製造会社は費用負担に直面する.MMRワクチンとの因果関係を支持するエビデンスのないまま,またこの因果関係を否定するエビデンスが集まる中,この訴訟は公的に資金提供されていることは,我々の法システムの寛大さを示すものである.(経済的に)破綻しつつある健康保健行政の現状からすると,これは不十分な公的資金のじょうずな使用と言えるのであろうか? これらの子供たちにはたいへん同情するが,被告である製造会社に比べて,原告のこの子供たちの方が不当に扱われていると言えるであろうか? さらにこの訴訟が勝ち取るものは,弁護士を金持ちにすること以外に何があるのかを予想することは困難である.

(Barr Rのレター)私は,MMRワクチンの接種の結果,子供が自閉症になったと信じている家族に関する要求を扱っている事務弁護士事務所の一員である.John Walker-Smithは,製造会社に対して起こされた現在の法的訴訟に含まれている当事者対抗アプローチによって子供たちが不当に扱われていると述べた.私と私の協力者たちはこの意見に全面的に賛成である.ポピュレーションではなく,個々のケースの研究を奨励するための我々の努力にもかかわらず,現在の状況は発生した.私は,Wakefieldの研究に対する批判の多くが疫学的なものであったという,Walker-Smithの指摘に賛成する.我々は,MMRワクチンを受けた後に健康を害した子供たちの,数百件もの個人的訴えを扱っている.1996年,私はいったい何が起こっているのかと懸念して,医療安全委員会のチェアマンに手紙を送り,MMRワクチンによって明らかに影響された児童のカルテやその他の情報を開示するように請求した.私の請求は政府の担当者に3度送られたが,棄却された.(行政の)唯一の譲歩は,児の症候について親に調査書を送るというものであった.我々と健康省は協力して1200通もの調査書を送った.健康省は,我々と我々の依頼者に照会することなく,この家族調査書を調べる委員会を立ち上げ,また彼らが後に主治医に送った調査書も集計した.彼らは現在この集計結果を,MMRワクチンが自閉症と関係ないという主張を支持するエビデンスの一部として使っている.彼らは,この調査結果が事務弁護士によって照会された100人以上の子供たちの記録の詳細にわたる評価を含んでいると記載している.しかし報告書自体には,親への調査書と主治医への調査書から得られたエビデンスのみを説明するものであると述べられている.報告書の結論は,使われている情報の性質から,MMRワクチンと自閉症あるいは炎症性腸疾患の間の関連は,証明することも反論することもできないというものであった.Walker-Smithの意見について議論する人はほとんどいないであろう.この訴訟問題に関連している我々は,家族が他の方法を持たないがゆえに行動しているだけである.明らかに,MMRは多くの児童に対しては何の危害も加えない.疑問点は,適切な調査を必要としている一部の子供たちにおいてMMRワクチンが安全であるかどうかである.実際は,イギリスは適切なワクチン-傷害補償制度を持っていない.唯一,親が児の障害の少なくとも60%が特定のワクチンにより起こったことをを証明した場合にのみ,一回限り,10万ポンドが現在支払われている.ワクチン傷害支払いユニットか裁判所に申請できない親には何の公共援助も供給されない.また,自閉症は現時点でMMRワクチンの副作用とは認められていない.結局,ほとんどお金は支払われていない.もしイギリス政府がアメリカのように,もっと援助的な政策を出すつもりであれば,Walker-Smithの提言に対しては,その解決策がスタートし,再びこれらの重要な公衆衛生課題に何らかの常識を適応することができるかもしれない.

(Smeeth Lらのレター)John Walker-Smithは,疫学的研究がMMRワクチンは多くの子供で安全であることを示したことを認識している.また,彼はさらなる非疫学的研究が,退行現象と腸疾患を伴った一群の児童において必要であると示唆している.この示唆は,麻疹ウイルス遺伝子が,コントロール群に比べ,腸疾患と発達障害を有する児の腸組織においてより高頻度に存在することを示した論文を根拠としている.このコントロール群は何人かは腸疾患を有しているが発達に関しては正常である.Walker-Smithは,疫学的方法が鈍感すぎる手段であり,この新しい疑問を解くことができないことを示唆している.我々はこの意見に強く反対する.我々は,もしUhlmannらの所見が確認された場合,さらなる分子レベルの研究が,麻疹ウイルスマーカーのオリジンや,マーカーの存在がこのタイプの自閉症に特異的なのか,また他の腸病態においてもこのマーカーが存在するのかなどの疑問を検討する必要があるという点では賛成である.最後の可能性は麻疹ウイルスマーカーの持続的存在が自閉症の原因ではなく自閉症にむしろ無関係であることを示唆する.もし自閉症のほんの一部がMMRワクチンへの暴露で起こっているとして,それらのケースがその臨床特徴や病理特徴でその他全ての自閉症から区別することができないのであれば,疫学的研究ではこの関連を同定したり確認することは出来ないであろう.しかし,そのような確認の必要性は提示されていない.鍵となる疑問はMMRワクチン(または他の麻疹ウイルス含有物)への暴露がこの比較的まれなタイプの自閉症のリスク増加に関連しているかである.疫学的研究はこれまでのところこの疑問に答えていない.なぜならこの疑問はこれまでに提示されていないからである.疫学自体が鈍感な方法であるからではない.この自閉症サブグループに注目し,適切なコントロールグループと比較した研究は,この関連を評価し,麻疹ウイルス暴露と症候のオンセットの間の時間的関係を確認して,因果関係に言及するであろう.

(Eden OBのレター)2月23日のランセットの編集者コメントには,MMRと自閉症に関する投稿が主にネガティブ意見であったといくぶん遅ればせながら認めている.Wakefieldらの研究が最初に報告された時,我々の多くは良識的に考えてこの報告を疑った.この点においてはLancetには少なくとも何らかの責任がある.我々の多くは麻疹の実際の危険を指摘し,特に先天性あるいは後天性の免疫異常児においては特に麻疹感染は危険であることを訴えて原稿を書いた.しかし,我々の投稿はこのトピックに関しては既に知れ渡っているとしてリジェクトされた.生命の危機の可能性がある麻疹ウイルスのような疾患のために始まったワクチンプログラムや,妊娠中の風疹感染のように児の重篤な疾患の原因となりえる対象においては緊張状態が元々備わっている.頻度が低いものの,明らかなワクチンに対する異常反応のリスクは,個人のリスクとバランス関係にある.ゆえに,このトピックスは最大の客観性と感度をもって扱われなければならない.現在の医学の偉大なる挑戦のひとつは,個人の福利とコミュニティーの全体的健康のバランスを取ろうとしていることである.Lancetは以前の議論においては,何の客観的バランスも提供してはおらず,おそらく公表するべき原稿を選ぶ際にも客観的バランスを考えていない.以前の試みとは対照的に,Lancetの最近の編集者はそのようなバランスを提供している.メディアのヒステリーは,数多くの親に大きな害をおよぼし,子供のために何が正しいのかと苦悶させた.私は,今後はLancetは原稿の選択においてもっと思慮深くあることを期待する.Lancetは高度に信頼されており,世界中で読まれている.しかし,その内容は権威としてあつかわれ,メディアは良かれ悪しかれLancetの内容が健全で客観的であると評価する.このレターもアクセプトされないかもしれないが,編集室の責任者にはこのメッセージをじっくり読んでもらいたい.

(Thrower Dのレター)John Walker-Smithは,非疫学的研究のプログラムが正しく,また今行われるべきであると訴えている.これらのことを見過ごす人々は,臨床医学における最初のルールに気づいていない.そのルールとは「患者に聞け」である.健康省は自閉症が典型的にはワクチン接種の時期に表面化すると断固としてゆずらないが,正常の幼児であった後に,MMR接種の直前で自閉症が起こったケースを提示していない.また,数年の正常の発達の後に,MMR接種を受けた年長児において自閉症が起こっていることを説明しようとはしない.MMRと自閉症の間の関連を示すエビデンスはいくつかのレビュー中には存在しないが,エビデンスがないことがエビデンスがないことのエビデンスではない.これを混同することが医学の致命的間違いであることを証明しているのかもしれない.後天性自閉症におけるMMRの非関与のエビデンスとして引用されている多くのレビューは,それからさらなる臨床研究によって書き換えをせまられている.例えば,Singhは125人の自閉症児のうち75例で普通でないMMR抗体(MMRの麻疹haemagglutinin抗原に関連した抗体)の存在を報告している.92例のコントロールではこの抗体はなかった.加えて,MMR抗体陽性の自閉症児の血清の90%以上が,ミエリン塩基性蛋白に対する自己抗体もまた陽性であった.この結果をSinghは自閉症におけるMMRと脳自己免疫の間の因果関係を示唆するものとして解釈している.そのような所見はWalker-SmithとWakefieldらによる懸念に良い根拠を与えることを示唆する.これらの所見はまた親の報告にも矛盾しない.アメリカの医学研究所の予防接種安全レビュー委員会は,この件に言及した疫学的研究が無いことを理由に,発達期に受ける複数の予防接種に感受性のある子供が暴露することについての懸念を言及することは不可能であると述べた.イギリスの健康省は,研究が行われていないことに関する率直さは共有していないようである.彼らは自閉症研究への研究費を少しだけ増加した.しかし,臨床研究は企画されていない.スコットランドの医療担当チーフのMac Armstrongは,MMRと自閉症に関する臨床研究に研究費をだすことへの要望は妨害されるであろうとまで述べている.ますます,疫学の粗雑なサイエンスと臨床検討からなる法医学的サイエンスの間の戦いになりつつある.疫学を絶対的に信頼して,児童の予防接種における公の信頼を強化することを望む人々は,問題点に関する内容がおそらく含まれていないカルテを基にすることになる.


文献
1. Uhlmann V, et al. Potential viral pathogenic mechanism for new variant inflammatory bowel disease. Mol Pathol. 55(2):84-90
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