Potential viral pathogenic mechanism for new variant inflammatory bowel disease
http://jcp.bmjjournals.com/cgi/data/55/1/DC1/1
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新型炎症性腸疾患のウイルス病因メカニズム
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(目的)炎症性腸疾患の新型(回腸結腸リンパ結節性過形成)が,発達障害を伴った一群の小児コホートにおいて記載された.本研究はこれらの患者(新型炎症性腸疾患)の腸組織に持続感染の麻疹ウイルスが存在するかを,分子生物学的解析を用い,コントロールグループと比較して検討する. (方法)対象児および組織学的に正常のコントロールの回腸末端からの生検組織は,ホルマリン固定・パラフィン包埋サンプル,および新鮮凍結サンプルとして保存し検討した.麻疹ウイルスのFusion(F)遺伝子とHaemagglutinin(H)遺伝子は,TaqMan逆転写PCR(RT−PCR)法にて検出し,Nucleocapsid(N)遺伝子は逆転写in situ PCR法で検出した.mRNAシグナルの局在は,濾胞性樹状細胞に特異的な抗体を使って調べた. (結果)組織学的に回腸リンパ結節性過形成および腸炎と診断された91例のうち,75例は,腸組織において麻疹ウイルスが検出され,コントロール群では70例中5例が陽性であった.麻疹ウイルスは,反応性濾胞性過形成部位における,濾胞性樹状細胞とリンパ球内に同定された.麻疹ウイルスのコピー数は総RNAあたり100000から300000コピー/ngであった. (結論)今回のデータは発達障害児において,麻疹ウイルスの存在と腸の病態の間に関連があることを確定した.
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Fusion gene:ホスト細胞との融合に必要な蛋白をコードする遺伝子. Haemagglutinin gene:赤血球凝集素をコードする遺伝子. Nucleocapsid gene:ウイルス粒子の核酸を含む蛋白質の殻をcapsidといい,核酸とcapsidが形成する構造をnucleocapsidという.nucleocapsidをコードする遺伝子. in situ PCR:組織切片上でPCRテンプレートの存在場所を同定するために行うPCR |
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発達障害児のコホート集団において,免疫を介する炎症性腸疾患の新型が報告された.腸の病理像は,回腸および大腸のリンパ結節性過形成と非特異的大腸炎を含み,この腸炎はクローン病でもなく潰瘍性大腸炎でもない.この新しい疾患の組織学的および臨床的側面は,既に報告されている.その中で,有症候児の回腸の生検組織における反応性濾胞過形成は,その場所での持続性のウイルス抗原発現を反映している可能性が示唆された.また,予備的な免疫組織化学検査データは,有症候児の腸粘膜リンパ様組織の細胞外マトリックス中に麻疹ウイルス抗原の存在を示唆した. 麻疹ウイルスは,単鎖型のパラミキソウイルスファミリーに属しており,亜急性硬化性全脳炎(SSPE)や麻疹封入体脳炎を含むいくつかの疾患の原因である.麻疹は,20世紀における小児死亡の上位原因の一つにランクされる.開発途上国においては,毎年百万人の死亡が麻疹ウイルス感染症に関与している. 「麻疹ウイルスはSSPEや麻疹封入体脳炎を含むいくつかの疾患の原因である」 我々の研究は,麻疹ウイルスと上述の状態の間に関連がある可能性を検証する.この目的を達成するために,回腸結腸リンパ結節性過形成と発達障害のある児からの回腸末端生検査組織に麻疹ウイルスを同定し,局在を検討し,そしてその定量を行うために,いくつかの分子生物学的テクニックを応用した.
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affected:ここでは有症候のと訳す. |
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対象と方法 患者およびRNA抽出 全ての患者サンプルは,ロンドンのRoyal Free病院の消化器科から提供された.91人の有症候児(年齢中央値は7歳,3歳から14歳,77例が男児)から,回腸のリンパ様組織が得られた.発達上正常の小児コントロール(70例,0から17歳,47人が男児)は,19人の正常回腸生検サンプル,13人のマイルドな非特異的慢性炎症性変化例,腹痛で精査した3例の回腸リンパ結節性過形成例,8例のクローン病児,1例の潰瘍性大腸炎例,そして虫垂炎を含む腹痛のために虫垂切除を行った26人の児童である. 麻疹ウイルス陽性コントロールは,亜急性硬化性全脳炎(SSPE)が1例と麻疹ウイルスが感染しているVero細胞である.陰性コントロールは,感染のないVero細胞,人組織,Raji細胞からのコントロールRNA,正常末梢血単核細胞である. トータルRNAは,新鮮凍結生検組織,末梢血単核細胞,そして麻疹ウイルスが感染したVero細胞,感染していないVero細胞からUltraspec-11 RNA単離システムを使って抽出された.トータルRNAはまた,フォルマリン固定,パラフィン包埋組織からは,Purescript RNA単離キットを使って抽出された. 液相RT−PCR 麻疹ウイルスのN(Nucleocapsid),H(Haemagglutinin),F(Fusion)領域の塩基配列が保存的な部分に対するPCRプライマーとプローブは,Primer Express Software Version 1.5を使ってデザインした.選ばれた配列の特異性は,NCBI Blastプログラムでチェックした.プライマーセットが重複しているものもある(例えばN1とN2のPCRアンプリコンは一部重複している). 組織切片上でのin situ PCRにおいては,プローブの5プライム端をbiotinでラベルし,Southernブロット用のプローブは3プライム端をdigoxygeninでラベルした.TaqMan定量的逆転写PCR(RT−PCR)においては,プローブは5プライム端を蛍光分子FAM(レポーター色素)で,3プライム端をTAMRA(分解されないプローブ上でレポーター色素の蛍光を消す)でラベルされた. PCR解析を最適化するために,純化した麻疹ウイルスRNA(Hu2)を陽性コントロールとして使った.以下の最適反応条件がそれぞれ25マイクロリットルの反応に使用された:(反応条件の訳は省略) .それぞれの反応で抽出RNAは50ng使用.RNAからDNAを作るRT活性と,DNAからDNAを作るポリメラーゼ活性の両方を持つrTth DNA polymeraseを使い,ワンチューブ法でRT−PCRを行った:(反応条件の訳は省略).Southernブロット解析 反応特異性の確認のために,TaqMan RT-PCRで麻疹ウイルスが陽性であった4人の有症候児(下記)に関しては,前述のように液相でのRT-PCRを行った.麻疹ウイルスが感染しているVero細胞,SSPE脳組織,および4人の有症候児からの回腸リンパ様組織を検体とした,麻疹ウイルスF遺伝子およびH遺伝子のPCR産物(アンプリコン)については,テンプレートの入っていないコントロールと共に,配列特異的プローブを使いSouthernブロット解析を行った.麻疹ウイルスに特異的なプローブは,DIG oligonucleotide 3' end labellingキットを用い,3プライム端をdigoxigeninでラベルし,検出はDIG蛍光検出キットを用いた.(反応条件の訳は省略) TaqMan RT-PCR リアルタイムでPCRサンプルの量を検出できるRT-PCR(5プライム側のnuclease活性に基づく解析法)は,ABI 7700シークエンス検出機を使って行われた.配列に特異的なPCRプライマーとTaqManプローブは,前述のようにPrimer Expressソフトウェアーを使ってデザインした.全ての定量的PCRは,専用施設内で,専用ピペッターとエアロゾル抵抗性ピペットチップを使い,クラス2の層状換気システムを持つベンチフードの中で準備された.テンプレートとなるRNAは,隔離施設のおいて準備されPCR反応液ミックスに加えられた. TaqMan RT-PCRは,EZ TazMan RT PCR反応液を説明書に従って使い行った.RT-PCR反応は,一反応を2回ずつ行った.これもrTth polymeraseを使いワンチューブ法でRT−PCRを行った.(反応条件の訳は省略) TaqMan RT-PCRのためのコントロールは,テンプレートを含まないコントロール(テンプレートの代わりに水),増幅不能なコントロール(ポリメラーゼを抜いたもの),関係のないプライマー+特異的TaqManプローブ(ヒトpapillomavirus 16およびヒトherpes virus 8用のプライマー),プローブだけのコントロール(PCRプライマーを抜いたもの),ヒトRNAコントロール,失活RNAコントロール,不完全なTaqMan PCR(プライマーの片方を抜いたもの),を含む. 遺伝子量の補正は,glyceraldehyde phosphate dehydrogenaseを内コントロール遺伝子として使って行った.麻疹ウイルスの定量的TaqMan RT-PCRは,F遺伝子とH遺伝子に関して標準曲線を設定して行った.TaqMan RT-PCRのスタンダードは,F遺伝子とH遺伝子の特異的PCR産物をクローニングベクター(TOPO TAクローニングシステム)にクローニングすることで作られた.PCR産物が挿入されたプラスミドは,Riboproberiptionシステムを使ったcRNAにされた.このcRNAを段階的に希釈し,標準曲線を作成した. RT in situ PCR RT in situ PCRは,コピー数の少ない遺伝子の検出を可能にし,組織内のどの細胞にその遺伝子が存在するかを検討できる.その感度は,1個の細胞あたりウイルスゲノム1個と報告されている.切片はキシレン中でワックスを除き,アルコールの濃度段階法を行った.内因性のavidinとbiotin活性は,Dako社のbiotinブロッキングシステムでブロックした.その後切片はproteinase Kで17分間(37度)処理した. 前処置の後,麻疹ウイルスRNAはin situでPCRし,その後切片は100%エタノールで固定し,風乾された. ハイブリダイゼーションは5プライム側にbiotinを付けたoligonucleotideプローブを使い,以前報告されているプロトコールで行った.ハイブリッドの検出には,3段階の免疫細胞化学法またはdinitrophenol tyramideシグナル増強法を使った.アルカリフォスファターゼ活性は色素発生原としてNBTとBCIPを使って検出した.内因性のアルカリフォスファターゼは,検出の間,内因性の抑制因子であるlevamisoleを使ってブロックした. 反応の最適化のための実験は最初,フォルマリン固定パラフィン包埋で,麻疹ウイルスの感染したVero細胞を使い,プローブの濃度をいろいろと変えて行った.プローブ濃度が1マイクロg/mlで最適条件を得,この濃度をその後の実験に使用した.73人の有症候児からの生検組織と5人の正常コントロールからの生検組織が検討された. RT in situ PCRのためのコントロールは以下のとおりである.麻疹ウイルスが感染したVero細胞,感染していないVero細胞,感染細胞と非感染細胞を混ぜたVero細胞,麻疹ウイルスN遺伝子プライマーと関係のないプローブ(意味のないpyruvate dehydrogenaseのプローブ)の組み合わせ,関連のないプライマーとN遺伝子特異的プローブの組み合わせ,である.ハイブリダイゼーションコントロール実験は,ヒストンのmRNAプローブを使い行った.その他のコントロール実験には,RT in situ PCR前の麻疹ウイルス感染Vero細胞のRNase処理を含む. RT in situ PCRと免疫組織化学の組み合わせ 麻疹ウイルスのシグナルがどこに局在するのかを検討するために,濾胞樹状細胞CNA 42モノクローナル抗体を使った免疫組織化学処理に引き続いて,麻疹ウイルスN遺伝子を検出するためのRT in situ PCRが前述のように組織切片上で行われた.in situハイブリダイゼーションのために,5プライム側のbiotinラベルしたoligonucleotideプローブが前述のように使われた. 麻疹ウイルスのハイブリダイゼーションシグナルは,horseradish peroxidaseとAECで表出され,樹状細胞のシグナルは器質としてAPおよびNBTそしてBCIPを使った3段階検出方法で表出された. 倫理的承認 これらの研究のための承認は,Royal Free病院の倫理実践委員会によって得られた.コントロールを含む全ての対象者において,完全に情報を親に伝え,親から文書で承諾を得た.
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amplicon:PCR産物 |
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表1 麻疹ウイルスの(PCRのための)プライマーとプローブの塩基配列(とジーンバンクアクセッション番号)
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結果 結局,有症候児91例のうち75例が,回腸のリンパ様組織に麻疹ウイルスRNAを持っており,一方コントロール群では70例中5例だけが陽性であった(p<0.0001). 全部で6つの異なるPCRプライマーセットが,液相RT-PCRを使って,麻疹ウイルス感染Vero細胞から抽出したRNAから,麻疹ウイルスのF遺伝子,H遺伝子,そしてN遺伝子を増幅するために最適化された. 麻疹ウイルスのF遺伝子とH遺伝子を検出するためのプライマー/プローブセットの特異性は,以下の検体から抽出したRNAを使って確立した.(1)4人の有症候児から採取され凍結保存されていた回腸生検サンプル.(2)SSPE患者の脳.(3)麻疹ウイルス感染Vero細胞.4人の患者サンプルの全ては,麻疹ウイルスのF遺伝子とH遺伝子に関してTaqMan RT-PCRで陽性であった.PCR産物(アンプリコン)の特異性は,F遺伝子およびH遺伝子に特異的なプローブと使ったSouthernブロット解析で確認された.平行して行われた,テンプレートの入っていないコントロール検体では陰性結果が得られた. 91例の有症候児の中で70例は,TaqMan RT-PCRで陽性であり,一方コントロール群では70例中4例が陽性であった(表2).陽性サンプルにおける麻疹ウイルスのコピー数は一般的に低かったが,100000から300000コピー/トータルRNA1ngであった.小児のコントロール群では,健常児または限局性の回腸リンパ結節性過形成を示した小児においては麻疹ウイルスは検出されなかった.しかし,26人の虫垂切除サンプルのうち4人では麻疹ウイルスゲノムが検出された(表2). RT in situ PCRの最適化のための実験は前述のように行われた.プローブ濃度は1マイクロg/mlで,最適のシグナルが得られ,その後の実験にはこの濃度が使われた. 麻疹ウイルス感染Vero細胞では,麻疹ウイルスのPCR産物(アンプリコン)は,細胞質内のシグナルとして検出された.SSPE患者の脳組織では,RT in situ PCRにて,灰白質に,麻疹ウイルスアンプリコンの不連続な集積巣が検出された.同じように処理された正常脳組織にはシグナルは検出されず,SSPE脳組織切片でも関連のかいPCRプライマーを使うとシグナルはなかった. 有症候児の57例の生検組織のうち,42例は麻疹ウイルスのN遺伝子がRT in situ PCRで陽性で,アンプリコンは回腸生検組織の連続切片において検出できた.4例のサンプルは,バックグラウンドの染色性が高すぎて麻疹ウイルスの存在を判定できなかった.また,11例の生検組織は麻疹ウイルス陰性であった.コントロールグループでは,組織学的に正常な小腸および大腸粘膜を持つ5人の小児のうち一例で,麻疹ウイルスのN遺伝子RNAが検出された.このコントロールの一例で見られた麻疹ウイルスの分布は有症候児におけるものと同一であった.麻疹ウイルスのアンプリコンは反応性の濾胞中心に局在しており,樹状突起を有する細胞やいくつかのリンパ球に関連してた.関連のないPCRプライマーを使った連続コントロール切片では,麻疹ウイルスのシグナルは見られなかった.麻疹ウイルスが感染したVero細胞においても追加のRT in situ PCRが行われた.RNase処理をすると,麻疹ウイルスが感染したVero細胞でもシグナルは陰性であった. 結局,91例の生検組織を検討し,56例はin situ RT-PCR(麻疹ウイルスN遺伝子)とTaqMan RT-PCRの組み合わせで解析した.これらの生検組織のうち37例は麻疹ウイルス陽性で,5例は両方の検査で陰性であった.また6例はTaqMan RT-PCRで陽性,in situ PCRで陰性,5例はin situ PCRだけで陽性であった(表2).
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図1 最適反応条件で増幅された麻疹ウイルスcDNAアンプリコンのゲル電気泳動写真(コントロール麻疹ウイルスRNAであるHU2を使用).第1レーンと第10レーンは(両脇),DNAの階段状サイズマーカー.第2レーンと第3レーンは二つの異なるFusion(F)遺伝子プライマーセットによる,F遺伝子cDNAアンプリコン(DNA産物).第4レーンと第5レーンは,二つの異なるNucleocapsid(N)遺伝子プライマーセットによるN遺伝子cDNAアンプリコン.第6レーンと第7レーンは二つの異なるHaemagglutinin(H)遺伝子プライマーセットによるH遺伝子cDNAアンプリコン.第8レーンは人pyrubate dehydrogenaseのPCR産物(陽性コントロール).第9レーンは第2レーンの条件からテンプレートを抜いたもの(陰性コントロール).
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テンプレート:PCRなどのサンプルは,PCR産物の最初の原型となるためテンプレート(鋳型)と呼ばれる. |
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図2 (A)有症候児からの新鮮凍結した回腸末端生検,SSPE脳組織,そして麻疹感染Vero細胞から抽出したRNAをサンプルとした,麻疹ウイルスFusion(F)遺伝子とhaemagglutinin(H)遺伝子のRT-PCRアンプリコンのアガロースゲル電気泳動.Mは100bp間隔の階段状サイズマーカー.第1レーンから第6レーンは以下のRNAサンプルからのF遺伝子PCRアンプリコン.そのサンプルはそれぞれ,麻疹感染Vero細胞,SSPE脳,有症候児1−4.第7レーンはテンプレートを抜いた条件での陰性コントロール.第8レーンから第14レーンは,同じ順番でのRNAサンプルからのH遺伝子のPCRアンプリコン.一つのサンプルで,F遺伝子のRT-PCRは失敗した(第5レーン). (B)Aで記載したアガロースゲルのSouthernブロット解析.プローブは本文の対象と方法に記載したようにdigoxigeninでラベルしたF遺伝子特異プローブ. (C)Aで記載したアガロースゲルのSouthernブロット解析.一旦Bのプローブを剥がした後,digoxigeninでラベルしたH遺伝子特異プローブを使った.
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表2 TaqMan RT-PCRとRT in situ PCRの結果まとめ
かっこ内は検査された総数.NTはnot tested.
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図3 RT in situ PCR検査.一本鎖のビオチン化オリゴヌクレオチドプローブを使い,感染Vero細胞における麻疹ウイルスNucleocapsid遺伝子を検出.(A)は最適細胞質染色条件(1マイクログラム/ml).(B)はプローブ濃度を上げた条件(1.5マイクログラム/ml).(C)は非特異的な染色性が核において増加した条件(2マイクログラム/ml).
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図4 (A)は組織はSSPE脳組織.麻疹ウイルスのNucleocapsid(N)遺伝子を検出するための,in situハイブリダイぜーションとRT in situ PCRの組み合わせ.脳の基質ないに黒色のシグナルが示されている.(B)はAの陰性コントロール.Aと同じ条件であるが,PCRプライマーは関係のないものを使用.麻疹ウイルスシグナルは見られない(オリジナルの倍率は400倍).(C)はin situハイブリダイぜーションと組み合わせた,麻疹ウイルスN遺伝子のRT in situ PCR.組織は有症候児から得られた反応性の回腸リンパ濾胞中心の部分.明らかに玉状の原繊維状のパターンの中に高密度の中心コアがあり,そこから放射状にシグナルが陽性である.(オリジナル倍率は1000倍).(D)Cとの連続切片でのRT in situ PCR.関係のないPCRプライマーを使った陰性コントロール.(オリジナル倍率は1000倍).(E)麻疹ウイルスN遺伝子検出のためのRT in situ PCRとの濾胞樹状細胞のマーカーであるモノクローナル抗体CNA 42を使った免疫組織化学の組み合わせ.有症候児から得られた反応性の濾胞中心に存在するシグナル陽性細胞.再び,麻疹ウイルスゲノムのシグナル(赤)が,細胞体に一致すると思われる中心性のパターンを呈している.一方CNA 42抗体(青/黒)は,その細胞体から放射状に広がる樹状突起を描いている.(オリジナル倍率1000倍から拡大).(F)RT in situ PCRは,過形成領域で,麻疹ウイルスRNAに感染した成熟リンパ球のシグナルを示している.
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図5 RT in situ PCRのコントロール実験.検体は麻疹ウイルス感染Vero細胞で,条件は麻疹ウイルスNucleocapsid(N)遺伝子を検出する条件.(A)はRNase処理.(B)はRNase処理なし.(A)in situ PR-PCRの前にRNase処理が行われるとシグナルは見られない.(B)RNase処理のステップがないと,細胞質にシグナルが見られる.
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考察 我々は発達障害を有する小児において,持続性の麻疹ウイルス感染と,回腸結腸リンパ結節性過形成および回腸結腸炎との間の関連性を記載した.分子生物学的データは,有症候児91人のうち75人に麻疹ウイルスゲノムが存在することを示し,70例のコントロール児では5例のみで陽性であった.加えて,この疾患表現型は男児が圧倒的に多く,発達障害が男児に多いという報告に矛盾していない. 麻疹ウイルスの局在は,RT in situ PCR法と免疫組織化学法を組み合わせることで生検組織上で評価された.シグナルは繊毛状の性質があり,特異的なCNA42抗体で染色した免疫組織化学法で確認された樹状細胞の細胞質に関連していた. 麻疹ウイルスは,有症候児においては,回腸生検組織の反応性濾胞過形成の中心部にある樹状細胞に優位に検出されたが,このような過形成部分においては成熟したリンパ球にもまた同定された.この結果は,これらの児における回腸結腸炎の病態における麻疹ウイルスと免疫反応の相互作用の可能性を示唆する.麻疹ウイルスはリンパ様過形成と回腸結腸炎の病態における免疫トリッガ−である可能性がある.このようなタイプの免疫反応のための反応開始因子は,樹状細胞である可能性がある.樹状細胞は末梢においてウイルス抗原をつかまえ,処理し,補助刺激分子を表出して,リンパ様組織において免系メディエーター(B細胞とT細胞)にウイルス抗原を運搬して提供する.その結果,サイトカインが分泌され免疫反応が開始される. 麻疹ウイルスが濾胞樹状細胞に局在することは,HIV-1腸症において見られるHIV-1感染のパターンに類似している.濾胞樹状細胞中の麻疹ウイルス抗原の存在は,潜在性の麻疹ウイルス感染から持続性の麻疹ウイルス感染へ進行する時の移行ステージを反映しているのかもしれない.HIV感染との同じである可能性は興味あるものであり,HIVは麻疹ウイルスと同様に,細胞性免疫を破壊する可能性を持ち,濾胞過形成を誘導し,感染の初期にリンパ節腫脹(lymphadenopathy)を呈する.これは,濾胞樹状細胞のネットワークの拡大に関連しており,胚中心内にHIVがトラップされていることと関連している.感染の早期潜在期には,HIV抗原は濾胞樹状細胞の表面に検出することができ,このパターンは麻疹ウイルスでみられたものと類似している.そのような局在は,免疫学的寛容の誘導に有利であり,ウイルス除去の失敗を招来する.麻疹ウイルスと免疫学的異常と慢性腸病態が関連しているメカニズムは,現時点では不明である.麻疹ウイルス暴露の遅発性の消化管免疫後遺症の先例としては,慢性免疫不全,下痢性疾患,そして早期自然麻疹暴露に続く死亡などが報告されている.麻疹ウイルスの自然感染はTヘルパー細胞の1型(Th1)の反応および防御性の細胞障害性免疫を誘導する(麻疹の古典的発疹や胃腸症状などで特徴づけられる).その後,抗体産生を伴う遷延性のTh2反応が続く.多くの感染者で,遅発性の病理学的後遺症なしに,終生免疫が獲得される.にもかかわらず,麻疹ウイルスのアタックの間の免疫活性化は,非特異的な細胞性免疫反応の強い減衰がないように起こるのであって,麻疹ウイルスが免疫を抑制する可能性を反映している.最近の研究は,この想定される免疫抑制が感染した樹状細胞におけるIL-12産生障害と活性化T細胞によるIL-2受容体アルファの表出遮断によって起こるのではと示唆している.そのような環境では,Th1免疫が障害され,Th2反応が優位となり,しばしば持続性の感染を起こすだけでなく,遅発性の免疫病態を誘発するかもしれない. 「麻疹ウイルスは,リンパ様過形成や回腸結腸炎の病態における免疫学的トリッガ−である可能性がある.」 麻疹ウイルスは健常児3例の,単発性リンパ様過形成の生検組織からは検出されなかった.虫垂切除術を受けた26人の児童の中では,4人だけが麻疹ウイルスRNAが陽性であった.明らかに健康な児童の一部の腸に麻疹ウイルスが存在することは,麻疹感染症の児童の炎症のある虫垂にWarthin-Finkeldyの巨細胞が見られる所見からすると驚くべきことではない.しかし,一般集団に持続性の麻疹ウイルス感染が存在するかどうかは知られておらず,さらに検討する必要がある. このような予備的研究は,元々麻疹ウイルスに注目して行われた.我々は他の感染症の存在を除外したわけではない.ウイルスはその他の組織でも持続感染を起こすかもしれない.また,引き続く持続感染に必要でない一過性の効果を発揮するかもしれない.そのような一過性のリスクのひとつは,麻疹ウイルスと他の感染への同時暴露が麻疹ウイルスの持続感染のリスクを増加させることかもしれない.このような非典型的暴露パターンはSSPEのリスクファクターとして同定されている(水疱瘡と脳炎原性エンテロウイルス). 我々の研究は多くの疑問を誘発する.最も重要な疑問は,麻疹ウイルスは発達障害における腸の炎症において原因的役割を果たしているかということである.この研究は,発達障害児における回腸結腸リンパ結節性過形成と回腸結腸炎と麻疹ウイルスの関連を初めて報告した.
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要点 ・組織学的に確認された回腸リンパ節過形成と腸炎を有する91例の患者の中で,75例がその腸組織に麻疹ウイルスが陽性であった.一方,70例のコントロールでは5例が陽性であった. ・麻疹ウイルスは反応性の濾胞過形成の部位にある濾胞樹状細胞といくつかのリンパ球内に発見された. ・これらのデータは,発達障害児じおける麻疹ウイルスと腸の病理の存在の間の関連を確定する. |