MMR vaccination, ileal lymphoid nodular hyperplasia, and pervasive developmental disorder

Hendrickson BA & Turner JR. Lancet 359: 2051-2052, 2002

 

MMRワクチン接種,回腸リンパ結節性過形成,そして広汎性発達障害

 

広汎性発達障害(PDD)は,自閉性障害を含む一群の障害を記述するための包括的用語である.自閉性障害は,コミュニケーションにおける発達遅滞,社会的相互関係スキルにおける遅れ,そして特異な行動異常を呈する.遺伝素因と環境因子の両方がPDDの病因に関連しているとされているが,背景となる原因はまだよくわかっていない.PDD児の中には1-2歳頃に退行現象を呈するものがおり,この時期における環境因子暴露に関する懸念が存在する.MMRワクチンに対する非典型的免疫反応が,誘発因子のひとつである可能性が示唆された.この仮説は,公衆衛生上重要な意味を持っているので,アメリカの議会公聴会を含むかなりの議論が巻き起こった.さらに,WHOやアメリカ小児科学会などの機関がこの件に関してコメントしている.広く認められている結論では,現時点で入手可能なデータはMMRワクチンとPDDの間に関連があることを支持していない.

Andrew Wakefieldらは,PDD児の中で,特に退行現象の既往があり慢性の消化管症状を持つ一群が,腸管異常に関連して,麻疹抗原に対する脱制御状態の免疫反応を呈している可能性を指摘した.1998年に,WakefieldのグループはPDDおよび他の精神神経障害を有する児童の一群を報告した.この子供たちは,腹痛,腹部膨満感,下痢などの慢性の胃腸症状に関して消化器科に紹介されてきた.12人の子供たちが検査を受け,驚くべきことに,11人が肉芽種を伴わない回腸リンパ過形成を有していた.このグループによるさらなる研究により,コントロール児においては14%であるのに対し,PDDでは93%の児に回腸リンパ結節性過形成が報告された.回腸リンパ結節性過形成とMMRワクチンの関連の可能性が,これらの報告によって,ワクチン接種と多くの症例での症候のオンセットとの時間的関係から示唆された.これらの研究において,可能性のあるサンプルバイアスは,患者が消化器科へ紹介されたことにより同定されている点である.もし,退行現象のような既往が回腸リンパ結節性過形成のあるPDD児でより多いのであれば,消化管症状のあるなしでPDD児を評価する必要がある.

Uhlmannらは(Wakefieldを含む),新しい論文の中で,PDDで組織学的に回腸リンパ結節性過形成が確認されているケースの腸組織を評価している.RT-PCRを使い,麻疹ウイルスのnucleocapsidタンパク,fusionタンパク,およびhaemaglutininのRNAフラグメントを,対象者91人中75人で同定した.対照的に,非単一性のコントロールグループにおいては,70例中で5人だけに麻疹ウイルス同定のためのRT-PCRが陽性であった.PCR産物の,fusionタンパクDNAに対するプローブおよびhaemaglutinin DNAに対するプローブとのhybridisationは,75例中4人で示されたが,配列の特異性は確認されていない.このような結果は注意して解釈しなければならない.例えば,パピローマウイルス用のプライマーによる(非特異的)人DNA配列の増幅が報告されており,その後のPCR産物の同定確認のための方法の開発を誘導した.にもかかわらず,たとえ麻疹ウイルスDNAが評価された組織に存在するとしても,その意義については議論が残る.

同じような研究が,潰瘍性大腸炎やクローン病のような腸のリンパ過形成を伴う疾患において,ヘルペスウイルスDNAや麻疹ウイルスを含むウイルスを検出している.従って,麻疹の核酸配列が回腸リンパ過形成を伴うPDD児で発見されたことの臨床的重要性は不明である.ひとつの魅力ある代替説は,リンパ過形成がたくさんの抗原やDNA配列の量の増加の存在と関連しており,その結果クロスリアクションを起こす抗原やDNA配列が検出されてしまう可能性である.この仮説に一致することとして,ウイルス蛋白よりも宿主蛋白に由来する麻疹ウイルス関連抗原が,いろいろな結腸疾患患者で報告されている.

Wakefieldらは,正常の行動発達であった児において,PDDの診断に先行して,麻疹ワクチン接種の後すぐに退行現象が起こるパターンが特に意味があると示唆している.しかし,退行現象の既往の有無にかかわらず,親が児の症候に最初に気づいた児の年齢は同じとする報告もある.加えて,初診時の年齢はMMRワクチンの導入前後で変化がないとする報告もある.胃腸症状の頻度は,退行現象のある自閉症児でもない自閉症児でも同じであるようである.MMR接種の時期とPDD児においてその典型的症候が認識された年齢の,近接した時間関係に関しては,MMRワクチン接種の直後にPDDとして受診したケースが偶然に存在していたことも予想できる.

PDDの原因は非単一性であるようであるが,異なるPDDの診断基準における症候が重複していることから,背景となる因子は共有されていることが示唆される.加えて,脳と消化管の神経伝達物質のいくつかは共通しており(例えばvasoactive intestinal peptide),またPDD児におけるセクレチン刺激反応の異常も報告されており,PDD児において脳-腸軸の障害が存在する可能性が生物学的に考えられることが示されている.全員というにはほど遠いが,胃腸症状は一般ポピュレーションに比べてPDD児において増加していることが明らかにされている.にもかかわらず,これらの児童の腸管症状はしばしば内視鏡で検査されることはなく,従ってPDD児における炎症性腸疾患の特異バリアントの存在は広く認識されているわけではない.

従って,PDD関連炎症性腸疾患に関するアイデアはさらなる熟考に値する.この仮説を支持する報告として,WakefieldらのグループはIgGとC1qが25人の自閉症児の中で23例において十二指腸の生検組織の血管側面上皮に沈着していることを発見して報告した.コントロール群ではこのような所見はない.しかし,現時点では,PDD,腸疾患,そしてMMRワクチンの間の因果関係に結論がでたわけではなく,憶測に過ぎない.