Autism and gastrointestinal symptoms

Horvath K & Perman JA. Current Gastroenterology Reports 4: 215-258, 2002

 

自閉症と胃腸症候

 

概要:自閉症は,有症候児における社会的相互関係の障害とコミュニケーションの障害で特徴づけられる行動症候の集まりである.典型的には制限された反復性の,そしてお決まりの行動に関連しており,3歳までに発現する.この障害の原因は不明である.この10年間で,自閉症の生物学的基盤を調べるための研究が有意に増えた.最近の臨床研究は,胃腸症状,消化管の炎症,および胃腸機能障害が自閉症児に多いことが明らかになった.軽度から中等度の炎症が上部消化管および下部消化管の両方で発見された.加えて,肝臓の機能(sulfation)減退,病的腸管透過性,セクレチン静注に対する分泌反応増加,消化酵素活性減少が,自閉症児の多くで報告されている.消化に関する症候を治療すると自閉症性行動に有効であるようである.これらの観察結果は自閉症の未解決のパズルの断片に過ぎないが,脳-腸連関に関するさらなる研究の必要性を示唆している.

(イントロ)自閉症は250人あたりに一人いるかもしれず,自閉症児の80%が男児である.多くの場合3歳までに診断を受ける.我々の最近のデータでは,新しいケースの多くは遅発型に属しており,正常の発達が一年間あった後に続いて退行現象がみられる.自閉症の診断はいろいろな行動症候の存在を基礎としている.自閉症スペクトルとしては単一の原因で説明することはできない.結節性硬化症,Down症,脳性麻痺,脆弱X症候群,そして先天性風疹などの疾患が自閉症罹患率の増加と関係している.自閉症の原因は不明であるので,たくさんの仮説が示唆され,たくさんの異なる理論が自閉症児に関連づけられている.最近10年間で,自閉症研究における焦点は心理学的研究からこのひどい障害の生物学的背景を探る研究に変わってきた.免疫学的,遺伝学的,代謝的および胃腸科的研究努力に加え,神経画像研究や脳病理研究を使った研究がかなりの量の新しい情報を提供している.しかし,この生物学的研究は,未だに発達段階であり,たくさんの議論,特に脳と遺伝研究における議論を伴っている.例えば,自閉症の脳責任病巣に関してはコンセンサスは得られていない.消化管は脳に比べると研究の対象としては手っ取り早いターゲットである.しかし,1996年より前では,自閉症の胃腸症候に関する研究は2つあるだけであった.1971年,無作為に選んだ自閉症児15人に関する報告で,6人が大きな便,独特のにおいのする便,あるいは下痢気味の便,または間欠性の下痢であり,ひとりはセリアック病であった.2番目の研究は,alpha-1 antitrypsinの血清濃度が低いことを報告した.数年前まではこれらの所見にはほとんど注意が払われなかったが,その後,ルーチンの胃腸評価検査が自閉症児に行われ,胃腸症候の増加,消化管における組織学的変化,胃腸機能異常がコントロール群に比べて自閉症児で増加していることが明らかになった.最近の6年間で,自閉症児における胃腸異常を報告した論文の数が増加した.このレビューの目的は自閉症児において報告された症候,組織所見,機能異常などをまとめることである.

自閉症における胃腸症候

自閉症発症年齢と胃腸症候

我々は,我々の施設において,1996年から自閉症児における胃腸症候を評価している.胃腸症候の有病率を評価するために,我々は412人の自閉症児を対象とした.自閉症行動の発症年齢の平均は18.0+-6.7ヶ月で,診断年齢の平均は29.4+-11.3ヶ月であった.これらのケースのたった21.1%が1歳の誕生日前に明らかな自閉症症候を示していた.40.5%のケースで,自閉症の初発症状は12ヶ月から18ヶ月の間に起こっていた.最近の傾向は,1歳以後に症候が発現する遅発型自閉症が同定されることである.親は胃腸症状が始まった年齢についてははっきりとは記憶していなかった.典型的には,胃腸症状は行動症候と同時か,または出生後すぐに報告されているかのどちらかであった.

胃腸症候の有病率

自閉症児の多くは,言葉をしゃべらず,腹部の不快感を報告することができない.親や心理学者はそれらの関連症候のいくつか(突然のかんしゃく,腹部を押す動作,攻撃的行動)を,単なる行動上の症候として考えているかもしれない.頻回の便意や嘔吐などの他の症候はより客観的に評価することができる.

アリゾナで行われた調査において,親は,慢性の下痢(379例中71例,19%),便秘(379例中78人,21%),そして便の固さの変化(379例中25人,7%)などが自閉症児にあることを報告している.下痢と便秘の有病率は,調査した40人の非自閉症者(自閉症児の兄弟)ではそれぞれ8%と10%であった.Lightdaleらは,自閉症児500例に関して調査を行っている.親の報告に基づくと,これらの児の20%は一日に3回以上の排便があり,半数は頻回にガスでお腹が膨らんだり腹部膨満があり,3分の1では腹痛を訴えている.

我々は平均6.5歳(標準偏差3.6年)の自閉症児412例から,4ページにわたる質問用紙を使って,詳細な医学的情報を集めた.質問用紙はアメリカ東部の支援団体に送られ,バルチモアにある自閉症クリニックに通院する児の親にも配られた.全ての児童は自閉症スペクトルと診断され,DSM-IVでは,PDD-NOSであった.質問用紙のひとつのセクションは胃腸症状に関するものであった.データを確認するために,我々は412例中116例で親にインタビューした.インタビューされた親は,彼らの健常児(自閉症児の兄弟)に関しても同じ質問に答えてもらった.我々は,年齢が適合した43例の健康な兄弟からもデータを集めることができた.以下の胃腸症状が評価された.

・下痢:2週間以上持続する1日に3回以上の下痢あるいは水様便

・便秘:一貫して硬便で,一週間に2回以下しか腸動かない

・悪臭のある便

・一週間に2-3回起こるガス(ガスによる腹満?)

・一週間に少なくとも1回の腹部膨満感

・一週間に少なくとも1回の腹部不快感のサイン

・食べたものが胃から口へでてくる

・6歳までトイレが一人でできない

全体で,84.1%の自閉症児の親が,上記の症候の少なくとも一つがあると回答し,健常兄弟コントロール群では31.2%であった(p<0.0001).この研究の詳細は表1に示す.従って,アメリカで行われた3つの調査全てが自閉症児において胃腸症候が多いことを示している.

表1

  自閉症(%) (健常)兄弟%

胃腸症状の数

なし

4以上

 

17

10

17

15

41

 

72

16

7

0

5

特異な症候

腹部不快感

ガス

膨満感

げっぷ

逆流

かんしゃく

理由なく泣く

突然の攻撃的行動

睡眠障害

 

44

54

34

24

16

44

43

33

51

 

19

便     3回以上/日

      2-3/日

      1-2/日

      3-4/週

      1-2/週

一貫して 下痢/水様

      軟便

      正常

      硬便

      変化する

におい  悪臭

      すっぱい臭い

      正常の臭い

20

25

35

32

18

13

10

23

49

43

13

72

21

81

12

93

トイレトレーニング

発達障害児はしばしばトイレトレーニングが困難である.自閉症児(平均年齢19.5歳)の親100人に対する後ろ向き調査では認知レベルおよび言語レベルがより低いことが,便と尿のトレーニング達成年齢に有意に相関していた.我々の調査では4歳以上の自閉症児の57.2%がトイレトレーニングをまだ達成していなかった.

体の発達

自閉症児59人の体重と身長の解析では,正常の発達であった.平均体重パーセンタイルは58.4%+-30.5%で,慎重パーセンタイルは47.5%+-29.0%であった.ボディーマスインデックス(BMI)は59人の自閉症児で63.2%+-30.7%であった.19人(32.3%)はBMIが85パーセンタイルを超えていた.BMIが増加していることは,部分的にはキャンディーやクッキーが自閉症児のための多くの行動療法において再強化の手段として使われていることで説明できるかもしれない.さらに,これらのデータは,自閉症児の多くには臨床的な明らかな吸収障害がないことを示唆している.

胃腸症候と睡眠障害

夜間に覚醒することを伴う睡眠障害は,自閉症児の親の半分が報告しており,それに対して健常兄弟群では6.8%だけであった.この睡眠障害のメカニズムは確認することが困難であるが,痛みや腹部違和感を伴った夜間覚醒は,子供における胃食道逆流現象や食道炎においてよくみられる所見である.自閉症児においても,健常児(自閉症児の兄弟)においても,胃腸症状があるケースの方が,胃腸症状がない例に比べて睡眠障害の頻度が高い(p=0.0001).

自閉症児における味覚機能

6歳から22歳までの自閉症者15人に関して行われた小規模の未発表研究が,対象者の味覚機能をコントロールと比較検討している.自閉症児は塩と砂糖に対して味覚低下を,また苦味やすっぱさに対して味覚過敏がある.

消化管における内視鏡異常と組織学的異常

我々の経験では,全身麻酔を行った自閉症児において胃カメラまたは大腸ファイバー検査を行うことは難しくはない.大腸ファイバー検査のための前処置でさえも自閉症児で可能である.しかし,検査中および検査直後の安全で有効な管理は熟練した小児麻酔科医によって得られる.

内視鏡所見

潰瘍やびらんなどのはっきりとした上部消化管内視鏡異常はほとんどこれらの対象児には見られなかった.最も頻度の高かった変化は,遠位部食道腫脹,充血,そしてもろさであった.一方,胃噴門部充血,十二指腸弁結節,十二指腸粘膜のもろさ,なども頻度はより少ないものの見られた(個人的観察).

結腸の所見はまた軽度で,分節性の腫脹,充血,表面のびらん,そして結節などが含まれていた.Wakefieldらは,検討した発達遅滞および自閉症児の93%において,軽度から中程度の回腸リンパ様結節性過形成の所見を記載した.結腸においては,30%の症例がリンパ様結節性過形成を呈した.ざらざら化,血管パターンの消失,紅斑,紅輪サイン,表面の潰瘍もまた記載されている.炎症性変化は断続的であるが,結腸全体に分布している.

組織学的所見

公表されている組織学的所見を表2にまとめる.我々のケースシリーズでは,検討した自閉症児の60%が胃食道逆流に矛盾しない炎症を呈していた.これらの児童の臨床症候は組織学的所見に相関していた.腹痛の徴候,夜間の覚醒,そして突然の日中のかんしゃくなどの,少なくとも一つがある症例は93%であった.

表2 自閉症児における組織学的所見のまとめ

  対象児数 部位 所見 頻度%
Horvathら

36

食道

 

十二指腸

 

 

 

逆流性食道炎

慢性胃炎

Helicobacter pylori感染

慢性炎症

Paneth細胞の増加

絨毛の鈍化

Celiac病

69.4

41.6

0

66.6

80.5

5.5

0

Wakefieldら

60(50例は自閉症)

52

結腸

 

 

 

回腸

 

 

慢性の炎症

好酸球浸潤

上皮下アポトーシス

上皮内リンパ球増加

濾胞性過形成

好中球−急性回腸炎

アフタ性潰瘍形成

88

40

50

13

92

8

4

慢性の胃炎は自閉症児の3分の1以上に存在する.有意な上皮内のリンパ球浸潤はないものの,リンパ様集積やリンパ球浸潤が粘膜に増加しており,周辺の腺組織の軽度のみだれを伴っていた.我々の症例シリーズではHelicobacter pylori感染の例は無く,H.pylori胃炎の有病率は自閉症児においては非自閉症児に比べて高率ということではないようである.対象児の3分の2で,いろいろな程度の慢性,非特異的十二指腸炎がみとめられた.36人中たった2人が軽度絨毛鈍化を呈していたが,組織学的所見はセリアック病ではなかった.

Wakefieldらは,50人の自閉症児を含む60人の発達障害児の回腸結腸生検の内視鏡的および組織学的解析の詳細を報告した.反応性の濾胞性過形成は,回腸生検が成功した51例中47例で,回腸に存在した(88%).組織学的解析では上皮内リンパ球の増加が発達障害児の13%で見られた.これらの所見は炎症性腸疾患のものではない.著者は炎症性腸疾患の新しいバリアント型が自閉症およびその他の発達遅滞児において存在すると結論している.

免疫組織化学および形態測定研究

Paneth細胞は,腺窩の基底に位置し,lysozyme,lactoferrin,defensinなど多くの因子を分泌し,局所の免疫防衛に役割を担っている.我々は,形態測定解析を行い,腺窩に見られるPaneth細胞の数を22例の非広汎性発達障害児(非PDDコントロール)と比較した.その結果,腺窩あたりのPaneth細胞数は,それぞれ3.09+-0.46対2.07+-0.32と有意差があった(p<0.05).細胞数に加え,Paneth細胞内の顆粒サイズはより大きく,腺窩内腔への顆粒の放出像も頻回に見られた.我々の最近の免疫組織化学研究および生検検体ホモジェネートのELISA法での検討では,コントロールに比べ自閉症児のPaneth細胞内のlysozyme内容物が非常に多いことが示された(322+-58対150+-24マイクログラム/グラム蛋白,p=0.017,未発表).

Furlanoらは,21人の自閉症児と4つのコントロール群の横行結腸生検組織を組織化学的に検討した.コントロール群は,正常コントロールが8人,リンパ様結節性過形成が10人,潰瘍性大腸炎患者が14人,クローン病患者が15人である.彼らは他のグループに比べ自閉症群において基底膜肥厚と粘膜ガンマ/デルタ細胞の増加が有意に著明であったと報告した.彼らはまた,上皮glycosaminoglycansの分布についても記載している.CD8+サプレッサー細胞および上皮内リンパ球の数も自閉症児において,Crohn病やリンパ様結節性過形成や正常コントロールに比べ増加していた.CD3+細胞,形質細胞密度,腺窩増殖比も正常コントロールより増加していた.自閉症児における上皮はHLA-DR陰性であり,Th-2反応が優位であることを示唆した.

集約すると,これらの内視鏡所見,組織所見,免疫組織化学検査所見は,自閉症児の消化管に慢性の炎症が存在していることを示唆する.報告された消化管の炎症が特異的な脳領域を含む複数臓器性の炎症プロセスを反映すると結論したくなる.しかし,さらなる厳密は研究が,脳-腸連結を証明するためには必要である.

胃腸機能障害

報告された消化管の炎症に加え,機能的変化が自閉症児の小腸および大腸に関して報告されている.

腸の透過性

1996年,D'Eufemiaは,明らかな消化管症状のない自閉症者21人中9人に(43%),腸の透過性増加を報告した.40人のコントロールでは一例も腸透過性は増加していなかった.我々はラクチュロース-マニトールテスト(LMテスト)を自閉症的行動を持つ25人の対象児に行い透過性を検討した.25例中19人(76%)の児はLM費がカットオフ値より上であった(p=0.03).我々はセクレチン治療の後にこのテストを繰り返し,20人中13人でLM比が減少したことを発見した(0.06+-0.031から0.02+-0.011).2例では変化なく,5例ではLM比の増加が見られた.

消化酵素

内視鏡所見とは対照的に,carbohydrate吸収異常の検出のための呼気水素/メタン比測定は,自閉症児においては必要な協力が得られないため困難である.このテストの替わりに,我々は内視鏡生検検体を使ってdisaccharidase酵素活性(lactose,sucrase,maltase,palatines,そしてglucoamylase)をルーチン検査として測定している.44人の対象児の中で18人が2つ以上のdisaccaridase酵素活性が低下していた.lactoseとmaltaseの欠損が最も頻度が高く,続いてsucrase,palatinase,glucoamylaseの活性低下が見られた.酵素活性の低い児は皆,下痢便かガス腹であった.

親は児がカゼインを含まない食事を摂るようになった後,行動が改善したと報告した.この改善効果の可能性のある説明は,食事からのlactoseの除去がいっしょになっており,lactose吸収異常に関連して症状が改善したことが考えられる.

十二指腸液の細菌および酵母菌培養

抗生物質治療は,腸の微生物叢の生活変化および菌交代現象を起こす.自閉症児の多くは1歳までに開始された抗生剤治療を何コースか受けている.ある検査会社(Great Plains,Lenexa,KS)は,自閉症児の尿で有機酸が増えていると報告している.彼らの報告は,これらの有機酸が腸の細菌や酵母菌に由来すると述べている.この検査の詳細は論文化されておらずpeer reviewを受けていないが,自閉症児における抗真菌薬の一般的使用の可能性を示唆する.経験的な論文は抗真菌治療が自閉症行動を改善できることを示唆した.

過去2-3年の間に,我々が評価したほとんど全ての児は,低用量の長期抗真菌治療を受けた(表3).結果的に,我々は抗真菌治療を内視鏡検査の7-10日前に中止し,絶食時無刺激状態の十二指腸液を,真菌,好気性菌および嫌気性菌の培養検査に送った.これらの児の43.1%が真菌培養で陽性であった.年齢が適合し,いろいろな消化管症状を呈しているコントロール群では,231%で十二指腸液真菌培養が陽性であった.好気性培養および嫌気性培養では自閉症児とコントロール群の間に有意差はなかった.

表3 自閉症に試みられた消化管に関連する治療

治療 理由 コメント
カゼインフリー食

グルテンフリー食

オピオイド過剰説:exorphins(外因性のオピオイド:カゼインに由来するbeta-casomorphinsとグルテンに由来するdiadorphins)が脳に入って機能障害の原因となる. ただ一つの小規模オープン研究が効果を検討:lactoseの除去は,lactose吸収異常のある児には有益効果
消化酵素サプリメント 消化不良の可能性:消化酵素がexorphinsを分解 膵臓酵素欠損のエビデンスなし:disaccharidase酵素の少なくともひとつの活性減少が約50%でみられる
Probiotics 漏出性の腸管,腸環境異常(dysbiosis)を改善する 自閉症に関する論文なし
セクレチン 静脈投与により自閉症児の一群において行動改善 臨床的生物学的マーカーを検討するさらなる検討が必要
バンコマイシン 嫌気性菌の過剰発育の可能性 一過性効果
Nystatin,fluconazole 尿中有機酸検査に基づく,真菌過剰発育の可能性 有機酸検査は妥当性を検討していない:微生物検査による過剰発育の確認が必要

嫌気性菌の過剰繁殖の可能性から,Sandlerらは11人の遅発性自閉症児において経口バンコマイシン投与の効果に関する小規模研究を行った.彼らは,治療前後の評価に基づき,短期間の改善を報告したが,治療を中断すると効果も消失した.著者らは腸細菌叢-脳関連が存在する可能性があり,自閉症の一群でのさらなる研究が必要と結論している.

膵胆分泌

セクレチンは,膵管細胞と胆管上皮の両方に対して分泌刺激作用を有している.我々は内視鏡検査時に2IU/kgのセクレチンを静注し,セクレチン投与に続く分泌液増加を観察した.刺激後の膵胆液量の平均は,コントロール群に比べ自閉症者で高かった(3.8+-2.2ml/min対1.46+-0.57ml/min,p<0.05).対象児の大半では(75%),セクレチン刺激に続く膵胆液流出量は非自閉症者の値よりも1標準偏差多かった.慢性下痢の既往のある自閉症児は,下痢のない群に比べ統計学的に有意に流出液量が多かった(4.8+-2.3対2.4+-1.3ml/min,p<0.05).

この反応率の増加は,膵管and/or胆管におけるセクレチン受容体のupregulationの状態を示唆する.しかし,自閉症児はセクレチンを分泌している.我々は,内視鏡施行中の十二指腸の酸性化に引き続き血液中にセクレチンが分泌される量を測定するためのパイロット研究を行い,何の異常もみられなかった.ゆえに我々のデータは,自閉症における消化の最初のフェーズにおける機能異常を示唆しているかもしれない.セクレチン静注投与後の膵臓酵素の分泌が自閉症児で正常であることも報告されている.検討した89例の自閉症児のうちたった1人だけが膵臓機能障害であった.

肝臓におけるacetaminophen代謝異常

自閉症児は肝機能検査では何の異常もみられない.肝臓におけるconjugationプロセス(sulfationとglucuronidation)は,基質としてacetaminophenを使って研究されている.これらの研究はacetaminophenのsulfate conjugateを分泌する肝臓の能力が,年齢を適合させたコントロール児と比較すると,自閉症児で消失していることが示された.肝臓におけるconjugation能力においては全体的な低下はない.血清中のsulfateの濃度はコントロールに比べ自閉症児で有意に低下していた(1.51+-2.75対8.3+-5.4pmol/mg蛋白).一方sulfateの前駆体であるsysteineは増加しており(0.56+-0.4対0.36+-0.359mmol/mg蛋白),この結果はおそらく酸性化分解経路の抑制によるものであろう.

我々の研究では,8から9週の間隔をおいて2回繰り返して計測しても,acetaminophen sulfate-glucuronide比は,26人の遅発性自閉症児のうち22人で1未満と低かった(未発表).尿中のsulfite,sulfate,そしてthiosulfate分泌は増加し,一方thiocyanateは減っていた.これらの所見は自閉症児における肝臓のsulfation能の持続性障害を示唆する.

自閉症と特別食

自閉症児におけるグルテンフリー,カゼインフリー食の有効性に関するしっかりとした科学的なエビデンスはない.たくさんの自閉症児がグルテンフリー食を食べている一番の根拠は,そのような食事で行動学的改善があったとする経験的報告があることである(表3).これまでのところ,我々の研究室で血清を検査した420例の自閉症児の中で,セリアック病の血清学的エビデンスを示したケースはなく,上部消化管内視鏡検査を行った90例の中にもセリアック病の組織学的所見を呈したケースもなかった.小規模なイタリアでの研究はセリアック病と診断された120例の中に自閉症的行動を呈する例はなく,また自閉症児11例の中に組織学的なセリアック病の所見はなかった.1979年に,McCarthyとColemanは,脂肪便と低カルシウム尿を呈した8人の自閉症児を検討し,グルテン制限により行動学的改善が見られたと報告した.彼らはまた,これらのケースに4週間の間一日に20gのグルテンを負荷し,体重や腸の状態などは有意な変化なく,腸の生検でも組織学的異常はみられなかった.自閉症とセリアック病に関して何らかの関連を明らかにするためには,大規模な疫学的研究が待たれる.

たくさんの間接的科学データが,オピオイド過剰説を支持する.この説の発端は,自閉症的行動症候のいくつかが,モルヒネ中毒において観察される症候に類似している事実であった.この観察は食物からの外因性オピオイドが自閉症の行動学的異常やコミュニケーションの障害に寄与しているのではないかという予想に拡大された.実験室での研究は,グルテンとカゼインがそれぞれgliadorphinsとbeta-casomorphinsと呼ばれるオピオイドセグメントである可能性を明らかにした.beta-casomorphinsの無変化輸送(吸収)は,腸粘膜を通して起こることが犬の新生児期において示された.腸透過性の変化は自閉症児において記載されている.オピオイドペプチドが腸においてグルテンとカゼインから無変化で吸収されることが,自閉症児において起こりえることが予想されている.

尿のペプチド濃度の増加(hyperpeptiduria)は,自閉症対象者で報告され,オピオイド過剰説をさらに間接的に支持することに貢献した.しかし,これらの外因性ペプチドの消化管を介する経路や,脳への入り口,そして尿における出現は,人においては示されていない.内因性のオピオイドがラットの出生後において小脳の細胞増殖を制御するという報告に基づき,gliadorphinsとcasomorphinsは中枢神経系において神経伝達物質システムに影響し,結果的に自閉症における社会性障害が起こり得ると結論された.オピオイド説についてのさらなる間接的エビデンスは,オピオイド拮抗物質であるnaltrexoneの治療トライアルから得られ,自閉症児のサブグループにおいて中等度の行動学的改善があったと報告されている.

一つのコントロールを設定していない研究はオピオイド過剰が存在するかどうかを検討した.Knivsbergらは,24時間蓄尿検査での尿中ペプチド増加のある自閉症スペクトル者5人を検討した.これらのケース全員は,グルテンフリー,カゼインフリー食を与えられ,社会的行動や認知,およびコミュニケーションスキルなどが,制限食前と制限食開始後4年間継続して評価された.尿検査のパターンやペプチドレベルは1年後に正常化した.行動異常も減少し,社会的スキル,認知スキル,コミュニケーションスキルの使用においても改善がみられた.しかし,この研究はオープン研究であり,コントロール群を設定していない.

自閉症と免疫系

自閉症と食物アレルギー

我々の消化器外来を訪れる子供たちの多くは,食物アレルギーに関して異なる血液検査を受けている.我々の調査では,自閉症児412例の24%が食物アレルギーを持っており,その兄弟では4.5%であった(未発表).彼らの多くはIgG型の抗体検査を受け,少数だけがIgE型の抗体検査を受けた.検査で陽性であった食物を児の食事から抜くことを親は試みた.17種の食物抗原に陽性であったある児では,その食事から17種類全てが除かれた.

報告された食物アレルギーの頻度が高いにもかかわらず,自閉症と食物アレルギーの関連に関する大規模な研究は公表されていない.イタリアでの研究は36人の自閉症児を検討し,カゼイン,lactalbuminそしてbeta-lactoglobulinに対する特異的IgA抗体,およびカゼイン,に対するIgGおよびIgM抗体が20人の健常児におけるレベルに比べ有意に高レベルであることが発見された.8週間の制限食後にこれらの自閉症児においては明らかな行動症候の改善が報告されている.

自閉症児における好酸球性食道炎や胃腸症の頻度に関する研究は報告されていない.我々の経験では,自閉症ポピュレーションにおいてこのような疾患概念がより多いという印象はない.

麻疹ウイルスと自閉症

次の二つの疑問点に関して文献上の議論が存在する.1つ目は,過去15年間で自閉症の有病率が増加しているかどうかである.二つ目は,この有病率の増加があるとしたら,MMRワクチンの接種導入と関連があるかどうかである.消化管の視点からすると,この疑問は,麻疹ウイルス遺伝子がリンパ節に存在することが,麻疹ウイルスが消化管の炎症のトリッガ−になっているか,または行動上の問題の原因であるかということになる.この件に関する最近の会議への参加者は,末梢血リンパ球や腸組織検体において分子レベルの技術でウイルスの部分を発見することは,因果関係のエビデンスを構築することではないと結論している.その理由は健常児においてもいくつかのウイルスの持続感染が知られているからである.MMRワクチンと自閉症の関連があるかどうかを証明するためにはさらなる研究が明らかに必要である.

結論

過去10年間で,自閉症の生物学的側面に関する我々の注意を喚起するデータが有意に集まった.しかし,この発達障害の原因や病態生理はミステリーの段階のままである.これらの議論の残る疫学的観察および病因的観察の多くは,さらに問題が明らかになることを求めている.異なる,神経解剖学的観察,組織学的観察,および機能的観察は,ひとつの共通する仮説の中に融合するには至っていない.

消化管は,最近第二の脳と呼ばれることがあるが,自閉症においてたくさんの異常をかかえている.消化に関する症状が中枢神経系の機能障害の二次的結果であるのか,両方の臓器を含む同一の病態プロセスの部分であるのかを明らかにするためには,さらなる研究が必要である.臨床的見地からすると,我々は自閉症児の消化器症状のほとんどを治療することができる.そしてそのような治療はしばしば彼らの行動にも有効であった.これらの児を評価している消化器専門医は,いろいろな消化管に関する地y聾が自閉症児において使われている事実を知るべきであるが,その効果については科学的なエビデンスはない.