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自閉症は増加しているか?(Nature Medicine, 2001)

2001年7月,伊地知信二・奈緒美

Nature Medicineに掲載されました,「Scientists question rise in autism」というタイトルの記事(文献1)をご紹介します.自閉症の増加を疫学者は否定しているという内容です.

(文献1の概訳)
自閉症の発生率が明らかに増加していることに反応して,アメリカ小児科学会は自閉症状態を診断する際に小児科医の手助けとなる新しいガイドラインを作成した(文献2).報告によると,自閉症は過去数十年の間に10倍にも増加しており,1970年代には2500人に一人であったものが,1990年代には250人に一人と言われている.しかし,疫学者はこれらの統計データを取るに足らないものと見ており,データ上の増加は自閉症の概念が広くなり軽症例やより頻度の高いタイプのケースが含まれるようになってしまったからだと提案している.

診断スペクトルが広がる現象はその状態がより理解されるようになった時に共通して起こるとRobert Davisは語る.彼はワシントン大学疫学教室の助教授である.「我々は最初に氷山の一角を見るのであり,このことは自閉症に限ったことではない.はっきりとした現象であり,増加は著明であるが,驚くには値しないのである」とDavisは述べた.

シカゴ大学精神科教授のCatherine Lordは,研究が進めば進むほど定義が広義になると説明している.例えば,ロンドンの精神研究所のMichael RutterとSusan Folsteinは,一卵性双生児例のたった60%が自閉症に関して一致するのであるが,一致しないペアの自閉症でない方もほとんど言語障害や社会的スキルの問題をかかえており,軽症例の自閉症と解釈することもできることを発表した.イギリス医学研究議会社会精神ユニットのLorna Wingは,自閉症児および特発性精神遅滞児の両者において,言語理解の低下,社会的相互性の制限,限られた遊びの3つがみられることを指摘している.

また,社会的により認知されてきたことや自閉症の理解が進んだことなども原因であろう.そのために医師はより診断しやすくなってきたのである.15年前は,自閉症児を自閉症であると診断しても何の利益も得ることがなかった.「当時は単なるラベル付けであり,自閉症児を村八分にし,治療もなく,失うものはあっても得るものは何もなかった」とDavisは語る.現在は状況が変わり,早期介入が効果を示すため診断することのデメリットは何もない.そして事実診断によりいろいろ得るところがあるのである.

信頼できる診断技術の進歩は,自閉症発生率の増加が単純に診断基準の変化や報告が増えたことで説明できるかどうかを判断するための補助となる.最近の数百人の回顧的研究において,Karin Nelsonらは,後に自閉症や精神遅滞と診断される新生児は出生時に神経ペプチドや神経栄養因子が血中で増加していることを報告した.しかし,共著者であるJudith Gretherは,「これらのデータが出生時の末梢血のマーカーがその後その児がどうなるかに相関していることを示唆しているのであるが,自閉症のテストとしてはまだまだ実用的とは言えないであろう」と慎重である.ひとつには,このマーカーは自閉症と発達遅滞を区別するマーカーではない.

一方では,発生率が増加していることに関する報告が,アメリカのDan Burton議員の耳に届かなかったわけではない.彼は,自閉症児の祖父であり,自閉症の原因がMMRワクチンであるとする説の支持者である.アメリカ医学研究所は,MMRワクチンと自閉症の因果関係の主張を拒絶したが,Burtonは自閉症のための研究費をさらに2千万ドル追加することを要求し,小児ワクチン副作用法の条項を追加するための法案を提出した.

 


文献
1. Pasadena LD. Scientists question rise in autism. Nature Medicine 7: 645, 2001.
2. AAP, Committee on Children with Disabilities. The pediatrician's role in the diagnosis and management of autistic spectrum disorder in children. Pediatrics 107: 1221-1226, 2001.


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