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Autistic spectrumの実際的な分類(Wing先生の総説)

Wing L. The autistic spectrum. Lancet 350: 1761-1766, 1997.
(概訳)
Autistic spectrumとは,発達障害に属する一群の疾患で,その対処すべき症候(社会的相互関係における障害/コミュニケーションにおける障害/イマジネーションにおける障害/ワンパターンで反復性の行動)は患者の生涯に渡って存在する.学習障害として表面化する場合もあるが,非常に優れた認知能力を持つケースもあり,能力的な到達点はあらゆる場合が有り得る.また,他の肉体的/精神科的/心理的いかなる状態とも併存し得る状態である.

臨床像
それぞれの症候の程度が各ケースで異なっており,臨床像は能力的到達度や合併病態の影響を受ける.年齢,性,性格,気性,社会的/物理的環境,教育的/心理学的/医学的対処などの全てが行動パターンに影響を及ぼす.

既存の診断基準(ICD-10やDSM-W)が試みているようなサブグループ化は,実際の臨床の場では判定者によって結果が異なったり,どのサブグループとするか難しかったりして,役に立たない場合が多い.また,臨床像は,年齢や環境の変化に伴って変化する.この論文では,単に社会性の障害のタイプによってautistic spectrumをサブグループ化する.この方法でも,各サブタイプ間に境界線を引けるわけではなく,また,当然サブタイプ間の移行は有り得るわけであるが,既存のどの分類よりも実際的である.

Aloof group(引きこもり型)
自分の世界に閉じこもり,外界からの刺激に反応を示さないタイプ.家族の愛情表現には反応するかもしれないが,特に同年齢の者には反応しない.しゃべらない場合やまったく動かない場合もある.手足や体の意味のない動きが,繰り返し見られ(stereotypies),刺激に対する嗜好性などがみられる.自傷行為が問題となる.多くは,中等度の学習障害を呈し,視空間課題に高い能力を発揮したり,単純記憶力に優れる傾向がある.正常かあるいは優れた認知能力を有する場合もある.日常的な環境やパターンが変化することに拒絶反応を示し(こだわり),おうむ返しの言葉(echolalia:聞こえた言葉をすぐに繰り返す/同じせりふを時間をおいて繰り返す)が特徴的.おうむ返しの言葉は,何かの要求を伝えるためのこともあるが,意味がないこともある.おうむ返しのために,自分がジュースを飲みたい時に「I want juice」と言う代わりに「Do you want juice」と言う傾向がある.言葉を知っていてもそれを会話に使わないこともある.ボディーラングイッジを使わない,アイコンタクトが苦手,反復性動作やこだわり動作はするが通常の遊びはできないなどの特徴がある.その他,感覚刺激(特に音)に対する奇異反応,睡眠障害,偏食/拒食,奇異な姿勢/奇異な歩行(つま先立ち歩行など),注意力障害と好きな対象に示す優れた集中力,などがみられる.

Passive group(受け身型)
社会的な関わり合いは,自発的にはできないが,受け身の立場にはなれる.コミュニケーション/イマジネーション障害やこだわりなどは無関心型と本質的には同じであるが,比較的表面化しにくい.小学校は,普通学校を卒業している場合が多く,中学校で同級生との社会的関わり合いができずに問題が表面化する傾向がある.

Active but odd group(活発型)
活発な社会的アプローチを示すが,それは子供っぽく,その場にそぐわず,また場合によっては不適切で一方的.言葉は流暢で文法的にも間違いはないが,反復傾向があり相手にしゃべらせない.言語発達に何も問題がなく,適応能力も有している場合があるが,多人数で遊ぶことが苦手で,テーマが限られていたり,話の内容の反復傾向/おたく傾向がみられる(ビデオのワンシーンを繰り返し見る,時刻表や鳥の種類のことばかり言う,計算ばかりしている,特定の人物や主人公にこだわる,など).興味の対象は変化することもあり,非現実的な空想化に走る場合もあり,現実と空想を区別できていないこともある.協調運動が苦手で,チームプレーを必要とする運動が苦手.自己中心的で,他人に合わせることをしないために,かんしゃくや攻撃的性格を含む問題行動がみられる.認知能力は高い傾向.

Loners(一匹狼型)
平均以上,あるいは優れた知的能力を持ちながら,1人で行動し,周囲に興味を示さないタイプ.学校では,先生や友達の要求に答えないため,学校生活はストレスが多いが,知的能力が高いため,成人になってからは幸福な生活を営むことが多い.社会的な人間関係のルールを機械的に把握してしまう場合もあるが,好んで一匹狼を貫く場合もある.結婚している場合もあるが,配偶者は感情的な関わり合い(rapport)の欠如を感じていることが多い.精神科的疾患になったり,犯罪を犯したりする場合もある.

病因
病因が解明されているほんの一握りのケース(脆弱X症候群など)でさえ,それを臨床型からサブグループ化することはできない.自閉症関連状態に特異的な脳の解剖学的異常(脳のサイズが大きい傾向を除き)や生化学的異常は特定されていない.遺伝素因の関与は全ての自閉症関連状態で示唆されており,結節性硬化症や先天性風疹などによる脳機能への影響も自閉症に関連する場合が知られている.退行期を呈する症例を中心に脳波異常やてんかん発作の存在が報告されており,三分の一のケースが,てんかん発作の経験をすると言われている.一部の症例で予防接種が原因として報告されたが科学的根拠はない.

診断
“心の理論”の障害/ボディーラングイッジが使えない・理解できない,などの特徴を評価し診断につなげることができるが,テスト形式の場合は満点だったからといって自閉症関連状態を否定することはできない.同年齢の集団の中の無作為な環境で,問題点は最も顕在化する.家族や近親者から詳細に病歴を聞き取ることが重要で,実際の臨床の場で自閉症の特徴の有無を判断するためには,診断医の臨床経験が最も重要である.鑑別診断で検討すべき病態の全てが,自閉症関連状態に合併し得るため,自閉症の特徴の有無を評価/判断できるかどうかが診断につながる.成人例では,特に高機能タイプの場合,あらゆる精神科疾患に誤診されることが有り得る.自閉症関連状態と変わり者の健常者との間に境界線を引くことは不可能で,日常生活に対処すべき問題点が表面化した場合にのみ診断の必要性が生じてくる.日常生活に何の支障もないケースの診断は,単に学術的興味からなされる.

教育・療育・治療
自閉症を完治させる治療法は現時点では存在しない.最も効果的な療育法は,問題点と才能の両方を評価し,方針を決めていく教育体制であり,それによって,自閉症児は能力を最大限に発揮でき,行動上の問題を最小にすることができる.多くの場合,自閉症専門の学校での療育が必要とされている.成人後も,独立できない場合は,必要に応じた支援が必要である.医師は,専門家チームの中の一員として参加することが,最も効果的であり,早期の診断/脳波検査(てんかんに対する対処)/染色体検査(脆弱X症候群の診断を含む)などが初診時検査として行われるべきである.行動上の変化が,潜在する他の合併疾患による痛みや不快感に対する反応である場合があり,(本人が症状をうまく説明できないことが有り得るので),常に専門的な配慮が必要とされる.攻撃的な行動などに対する抗精神薬の投与は,環境に対する対処や行動上の対策に付加的に行うべきで,できる限り短期間にとどめるべきである.

頻度
一万人あたり,3.3人から16人.Autistic-spectrum disorders(自閉症関連状態)としては,一万人あたり15人,アスペルガー症候群や高機能自閉症では,一万人あたり35-36人という報告もある.自閉症関連状態が増加している印象があるが,結論はでていない.

予後
行動上の問題は,2歳から5歳の頃と中学/高校時代に表面化しやすい.全ての年齢で,適切な教育や療育や援助があれば,問題を解決する可能性がでてくる.成人で,うつ病や自殺傾向/カタトニー/パラノイド(犯罪に走る場合がある)などが,環境に反応して出現することもある.学習障害が高度の場合は,生涯,独立できないことが多く,全ての面で援助を必要とする.中等度の学習障害では,部分的に独立生活ができ,場合によっては共同生活者を必要とする.高い能力を発揮できるケースでも,なんらかの援助を必要とする場合が有り得る.自閉症関連状態では,社会生活上の問題点は,本状態の存在を認識していない場合や,医者や専門家が「自閉症ではありません」と否定した場合に最も健在化する.周囲の人の無理解や敵意が問題をさらに悪化させる.家族に対する適切な指導や支援,適切な教育,仕事やレジャーにおける援助,また場合によっては住居の提供などが自閉症関連状態を持つ人の潜在する能力を引き出し,その生活をより良いものにする.


(解説)「既存の自閉症の分類や診断基準が役に立たない場合が多い」と指摘しています.診断のためのテストや心理テストに問題がなく,テスト中の態度や会話に何の問題がない場合でも自閉症関連状態を否定できないことが述べられており,診断のためには診断医の臨床経験が最も重要であると結論しています.健常人との間に境界線がないことが繰り返し強調されており,著者の臨床経験の豊富さと,既存の考え方にとらわれない観察の鋭さを感じました.薬物療法は,あくまでも短期間の補助的/付加的な方法であって,環境に対する対応や行動上の対策を優先すべきであるとしている点も私たちの考えと一致します.自閉症的傾向を持ちながら,社会にある程度適応できる人々にも応用できる分類を提唱しています.全てのケースの病因としては,一般的に言われている,「発育期の脳損傷によって起こる器質的な障害」という記載はなく,一部のケースで知られている気質的な変化を種々雑多なトリッガーのひとつとしてあつかっている印象を受けました.



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