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横浜市における自閉症の(累積)発生率

Honda H, et al.(横浜市総合リハビリテーションセンター/本田秀夫ら): Cumulative incidence and prevalence of childhood autism in children in Japan. British Journal of Psychiatry 169:228-235, 1996.

(概訳)横浜市の北部の三つの保健所が管轄する地区で行われた自閉症の疫学調査。1988年生まれのコホート(追跡集団:9240人)は5年間フォローされ、累積発生率は一万人あたり16.2。1994年12月1日の罹患率は一万人あたり21.1であった。診断された自閉症児の約半数で、IQは70以上であった。


(解説)累積発生率で600人に一人、罹患率で500人に一人が自閉症という結果で、これまでの疫学調査に比べ、高率であることを結論しています。最初のスクリーニングでの見落とし、母集団にかかるバイアスなどを避け、対象地域内の全ての自閉症児をリストアップすることを目標に、1歳半健診、3歳児健診、自宅への訪問健診、保健所単位での療育相談/合同クリニック、幼稚園・保育所との連携などでネットワークを構築しています。初回の診察で診断が困難な場合は、週一回の集団プログラム(10週)に参加してもらって、十分観察を行った上で判断しています。最終的な診断基準はWHOのICD-10 DCRを使用し、診断や治療/療育方針の決定は集学的です(小児精神科医・臨床心理学者・言語療法士・ソーシャルワーカー・教師がチームを組んで参加)。

ICD-10 DCRについて:
アメリカ精神医学会の最新の診断基準であるDSM-IVの中の自閉症の基準は、前のバージョンであるDSM-III-Rを改訂したものではなく、DSMよりも評価の高かったICD-10(WHO)の診断項目から4項目を削除し、診断のための項目数の基準を変更しただけのものです。これにより、診断基準の統一化に近づけたと共に、特異性/感度のバランスがよい診断基準になったと言われています(参考文献1 )。ICD-10は、診断のためのガイドライン(文章)と診断基準(診断項目と項目数の基準:クライテリア)の両者があり、診断基準はDCR (diagnostic criteria for research)と呼ばれており、WHOから提供されています。

自閉症児と非自閉症児の境界:
累積発生率では、ICD-10のガイドラインにより自閉症と診断あるいは自閉症を疑われた36名のうち、5歳時までにその半分が自閉症でないと判断されています。また、残りの半分のうち、最終的に3名が、診断基準(ICD-10 DCR)により自閉症でないとされ、結局診断された自閉症児は15人(男10人/女5人)となっています。また、罹患率の検討では、疑い例を含む38人のうち、17名がガイドラインにより否定され、さらに診断基準(ICD-10 DCR)により3名が削られ、最終的には18名(男13人/女5人)です。これらの事実は、自閉症者と自閉症でない者の境界がはっきりしたものでないこと(連続性があること)の傍証のひとつと考えることができます。同様に、典型的な(狭義の)自閉症者と広義の自閉症者の間には、はっきりとした境界線がありませんし(参考文献2)、自閉症とアスペルガー症候群の関係も連続性があるべきものです(参考文献3)。

IQ値の評価について:
DSM-IVでは、IQが約70までを精神遅滞としており、71から84を境界知能(V code)としています。本論文は、これに従い、リストアップされた自閉症児の約半数が精神遅滞でなかった(高機能)とし、また、IQが85以上が約45%、100以上が二人いたとしています。IQテストの結果だけで個々の自閉症児の知能レベルを評価することは、非常に問題が多いことは、以外と議論されることがありませんが、本論文でも残念ながら触れられていません。


参考文献

1. Volkmar FR, et al.: Field trial for autistic disorder in DSM-IV. Am J Psychiatry 151: 1361-1367, 1994.

2. Wing L. Autistic spectrum disorders: no evidence for or against an increase in prevalence. BMJ 312: 327-8, 1996.

3. Frith U. Social communication and its disorder in autism and Asperger syndrome. J Psychopharmacol 10: 48-53, 1996.


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