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自閉症者の脳の解剖所見(Bailey et al.)

Bailey A, et al. A clinicopahtological study of autism. Brain 121: 889-905, 1998.
(概訳)自閉症者6名の脳の病理解剖所見.6名中4人は脳が大きく,また,大脳皮質の異常も4例でみられた.脳幹部,特に下オリーブ核においても発達異常の所見があった.全ての成人例で小脳のプルキンエ細胞数が減少し,この所見はグリオーシス(膠細胞増加)を伴っていた.これらの所見は従来の限局性神経発達異常という見解を支持しない.自閉症における大脳皮質病変の存在が示唆される.


(解説)自閉症者の脳が解剖学的/病理組織学的にいったいどうなっているのかは,実際は結論がでていません.健常者の脳との厳密な比較研究が不十分なのです.自閉症の専門家の中には,「発達段階での脳損傷によって起こる脳の器質的な障害」とか「脳障害」というような表現をいまだに使っている先生もおられますが,最近は「脳の機能障害」とか「脳の発達異常」という表現が多くみられます.Rapin先生は「deviant brain development with genetic implications」(遺伝素因が関与した脳の発達異常/逸脱した発達)(文献1)と表現しており,Happe先生とFrith先生は,「a developmental disordr with a biological basis」(生物学的な基盤を有する発達障害)(文献2)と記載しています.共通しているのは,「自閉症を定義する唯一の根拠は行動上の特徴だけである」という見解であり,「脳に傷がある」という表現は不適切であり,「発達上の問題による機能逸脱」という考えが一般的です.つまり,現時点では,健常者の脳と自閉症者の脳を比較しても,本質的な差異を見いだすことはできず,量的な差や程度の差しか存在しないわけです.この論文では,共通する単一の限局性病変がないことが強調され,いろいろな場所に見られる所見は神経発達異常(neurodevelopmental abnormalities)と表現されています.大きさや形や細胞密度や細胞の並び方の異常が主であり,異常といっても正常と比べて過剰な場合と減少している場合の両方があり,原因として発達段階での細胞移動への何らかの影響などが考察されています.もちろん組織化学的な成分異常や,分子生物学的な脳異常が否定されているわけではなく,まだ検討されていない段階ですが,この論文では,いろいろな発達異常の組み合わせ(a combination of diverse, but related, neurodevelopmental abnormalities)で自閉症が起こっている可能性があると述べています.これらの解剖学的な事実と,自閉症者と健常者の境界線が不明瞭で,自閉症的な健常者も普通にみえる自閉症者もいるという事実の間に矛盾はありません..


(文献)
1. Rapin I & Katzman R. Neurobiology of autism. Ann Neurol 43:7-14, 1998.
2. Happe F & Frith U. The neuropsycology of autism. Brain 119:1377-1400, 1996.


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