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自閉症者の脳(fMRI研究):自閉症者の優れた能力
(隠し絵課題)
(Baron-Cohen先生のグループ)

Ring H.A. et al. Cerebral correlates of preserved cognitive skills in autism: a functional MRI study of Embedded Figures Task performance. Brain 122: 1305-1315, 1999.
(概訳)

自閉症者の認知能力を考える研究の多くは,欠落しているドメインを対象とする.しかし,隠し絵課題(Embedded Figures Task: EFT)のような部分的情報処理や視覚サーチに関するテストにおいては,自閉症者は健常者よりも優れた能力を示すことが知られている.本研究では,機能的MRI(fMRI)検査により,隠し絵課題をこなしている時の脳を検討し,以下の仮説を検証する.その仮説は,健常群と自閉症群では,両群間の隠し絵課題の成績の差の原因となる異なる大脳情報処理過程が存在し,異なる脳領域が活動しているというものである.結果は,いくつかの脳領域は,両群間で活動性に差はみられなかったが,健常コントロール群においては,課題に関連した脳活動が全体的に強く発現したことに加え,前前頭皮質領域(prefrontal cortica areas)の活動がみられたが,自閉症群ではこの所見がなかった.逆に,自閉症群では,腹側頭頂側頭領域に活動がみられた.これらの機能的相違は,認知情報処理過程が両群で異なっていることを示唆している.つまり,対象の視覚的特徴の解析において,健常者はワーキングメモリーにより依存しており,自閉症群は視覚システムに異常に依存していることが考えられる.上記の説を,自閉症における情報処理が全体モードというよりも部分モードで行われる傾向を有するとする自閉症モデルに関連しながら議論する.

(イントロ)
自閉症に関するほとんどの心理学的研究が,認知上の欠陥の本質を検討してきた.Happe,Baron-Cohenが検討した「心の理論」,Tager-Flusbergが提唱した「プラグマティックス」,WingとGouldおよびScottとBaron-Cohenが記載した「イマジネーション」などはその例である.しかし,数少ない貴重な報告は,自閉症者における認知能力の優位点を指摘し,その能力は「島状に存在する能力」として特異的なドメインに限られている.そのような優れた能力は,自閉症がKannerにより最初に記載された時から認識されており,最近では,「idiot savant」状態として明快に研究されている.

ある課題において保持されたあるいは優れた能力は,複雑な刺激の成分をさらに分析することでクローズアップされる.例えば,多くの学習ドメインにおいては,発達に伴って能力が高くなるが,ある言語のネイティブになる能力は,小児期にピークがあり,その後低下する.小児は形や意味の構成成分のうち限られた数だけを認知し記憶しており,大人は全ての単語を含む膨大な情報量を記憶していることが,このことの説明として提唱されている.つまり,子供は認知処理の容量に限界があるため,成分分析を必要とする言語獲得に関しては有利であるという説である.神経発達障害の場合,Williams症候群では,空間認知,プランニング,数,問題解決能力における深刻な障害にもかかわらず,言語処理課題や表情処理課題は心の理論課題同様保たれている.Karmiloff-Smithらによると,Williams症候群の児は,障害されていないモジュール(認知システムの単位)を社会的相互関係のために使いこなして,言語や心の理論課題に応用している(存在する能力を使いこなして,できないことをこなす).一方,正常の発達からも,また神経成長障害の病理からも,明らかに保たれたあるいは優れた能力が,成分的なあるいは部分的な認知プロセスを介して可能になっていることが示唆されている.

実験心理学に由来する方法は,自閉症者がある課題においては,量的に優れた能力を発揮することを示している.この自閉症者における優れた能力の最も著明なものが「隠し絵課題」における能力である.この課題は,複雑な図形に,単純図形が含まれており(一見隠されており),被検者は,複雑な図形の中の問題の単純図形を見つけださなければならない.ShahとFrithは,自閉症児は,健常児よりもより正確にこの課題をこなすことを報告し,JolliffeとBaron-Cohenは,高機能自閉症またはアスペルガー症候群関連状態の成人が,この課題を健常者よりも迅速にこなすことを指摘した.自閉症者やアスペルガー症候群の人の親もまた,この課題をこなすのが得意であり,自閉症の強い遺伝性を考えると非常に興味深い.

隠し絵課題における機能的神経画像研究の報告や健常者における検討はこれまでになく,基盤となる認知プロセスについても,想定される機能的神経解剖についても確立されていない.脳損傷患者での検討により,失語症を伴う左大脳半球損傷の患者でも右大脳半球損傷の患者でも,隠し絵課題は苦手であることが報告されている.片側の脳の穿通性外傷の患者では,右側か左側かの問題よりも,損傷のサイズの方に隠し絵課題の苦手度が関連することが示され,また,コルサコフ症候群の患者においては,特に隠し絵課題が苦手で,空間ワーキングメモリーが障害されていることが報告されている.コルサコフ症候群における所見は,健常者が隠し絵課題をこなす時に,ワーキングメモリーを利用していることを示唆する.隠し絵課題の内省的な解析では,課題をこなすためには複数のプロセスが存在することが示されている.最も直接的なアプローチでは,ターゲット(単純図形)を全体として見ること,それをワーキングメモリーに保持すること,そしてひとまとめにして複雑図形にマッチさせること,などのプロセスが考えられる.もし,この全体的なアプローチで,正確な解答が迅速に供給されない場合は,次の戦略が実行される.この次の戦略では,単純図形の部分が認識され(交叉する線の部分など),再びワーキングメモリーに保持される.そして,複雑図形の中で適合する部分がサーチされる.これらの戦略は,比較的単純なパターンをワーキングメモリーに保持し,それらしいパターンを複雑図形に探し,複雑図形から抽出し,そして単純図形と比較するという点では共通である.加えて,もし,単純図形あるいは複雑図形のどちらかが,実生活でよく見かける物によく似た形である場合は,複雑図形から単純図形を抽出するプロセスが影響を受けるであろう.なぜなら健常者の場合は,刺激の中に意味を探す傾向があるからである.この後者の知見は,隠し絵課題の基本的な性質を考え合わせると,健常者による隠し絵課題処理に対象物がどんなふうに見えるかを分析する過程が含まれていることが示唆される.

このように隠し絵課題を認知の面から分析すると,健常者は対象物がどんなふうに見えるかを分析することが多いようであるが,複雑図形から単純図形の全体を抽出したり,単純図形の一部を抽出したりする時に視覚-空間ワーキングメモリーシステムもまた利用していることが示唆される.以前,隠し絵課題や他の視覚分析課題の成績が自閉症者において優れているのは,自閉症者が主に利用している部分的情報処理戦略(local processing strategy)の結果であることが提案された.我々は,機能的MRI(fMRI)により,「コントロール群と自閉症群では,隠し絵課題をこなす時に活性化する脳の部位が異なり,機能的解剖上のこのような違いは,部分的認知戦略なのか全体的認知戦略なのかに関連している」という仮説を検証したい.

(方法)

対象:
自閉症あるいはアスペルガー症候群の6例は,平均年齢,利き腕,IQ,社会的経済的状態,そして教育レベルにおいて,12例の健常コントロール群と有意な差がない.IQは,成人読みテスト(National Adult Reading Test)により評価し,IQが正常範囲にあり,会話能力が十分に発達したものだけを対象とした.自閉症群は,ICD-10とDSM-IVの両方で,自閉症かアスペルガー症候群の基準を満たした.自閉症群では,WAIS-Rでは言語性IQ85以上であった.コントロール群は,6例の男性と6例の女性で,自閉症群は4例の男性と2例の女性であった.

全例において,ヘルシンキ宣言に従い,記述によるインフォームドコンセントを得た.本研究は,ロンドン大学精神研究所の研究倫理委員会の認可を得ている.

実験概念:
fMRI検査中は,被検者は繰り返し,隠し絵課題あるいはコントロール課題を行っている.標準隠し絵課題A型を使用し,異なる複雑図形が描かれた12枚のカードから成り,それぞれの複雑図形の中には問題となる単純図形が一個だけ隠されている.単純図形は8種類.

今回の研究では,隠し絵課題は,MRI検査を行いながらできるように一部変更した.複雑図形は10個を無作為に選び,MRI装置に入る前に別の1枚で練習を行った.課題は次のように紹介された.「あなたは,きれいな色のついた大きな図形と,簡単な形を見せられます.あなたは,大きな図形の中に隠されているその簡単な形をみつけてください.隠されている簡単な形は,大きさも向きも,見本のものとまったく同じ物です.」その後練習課題が示され,練習課題でやり方が理解できなかったものはいなかった.練習課題の後,被検者はMRI装置の中に入り,課題のやり方を繰り返した後,「問題となっている簡単な形を大きな図形の中に見つけたらすぐに,右手のボタンを人差し指で押してください.一つ見つけてボタンを押した後は,他にもないか探してください.しかし,一枚の大きな図形ではボタンは1回だけ押してください.できるだけ早く,できるだけ正確にお願いします.」と付け加えた.

検査デザインは,ブロック化周期性ABA・・・デザインで,課題処理(A)とベースライン(B)間のコントラストを繰り返し吟味した.それぞれの状態は30秒間で,それぞれ5回繰り返し,1コース5分の検査とした.

1回の課題処理で,被検者は隠し絵課題を2つこなす.それぞれの複雑図形は,簡単な形と並べられて15秒間提示される.これらの刺激は,ビデオモニター上に提示され,ベースラインでは,被検者は何も表示されていないスクリーンを注視することを要求される.

画像処理と画像解析:
課題処理(A)とベースライン(B)の1クールは,1/60ヘルツなので,このリズムで,T2強調シグナル強度の周期性変化をサインカーブとコサインカーブの和でモデル化した.サインカーブの振幅(ガンマ),コサインカーブの振幅(デルタ)は,それぞれのボクセル(画像の単位)における運動-訂正fMRIシリーズに対し,偽一般化 least-squares適合法(実測値との差の2乗が最低になるようにする)により算出した.ガンマの2乗とデルタの2乗の和は,標準誤差で除し,実験的検出力の標準化された予想値(基礎検出力比:FPQ)を得ることができる.デルタは入力機能に関連する周期的なシグナルの変化を表し,デルタの値が正のボクセルは,課題処理時に最大値を示し,デルタ値が負のボクセルは,ベースライン時に最大値を示す.それぞれのデータのボクセル毎のFPQとデルタ値によりマップが作成され,無作為化FPQはそれぞれの解剖学的平面毎に10枚作成された.

包括的活性マップを得るために,実測FPQマップと無作為化FPQマップは,TalairachとTournouxの標準スペースに転写され,フィルターによりスムージングされた.標準スペースにおけるそれぞれの脳内ボクセルのFPQ中央値は,無作為化FPQマップから確認されたFPQ中央値と比較し有意であるかが検討された(危険率を0.0008とした片側有意差検定).実測ガンママップも,同様に標準スペースに転写されスムージングが行われた.ガンマの中央値は包括的に活性化しているボクセルにおいて計算され,ガンマの中央値が正であれば,そのボクセルは,隠し絵課題により包括的に活性化しているとみなされ灰色の背景色の中に配色して示され包括的脳活性マップが作られた.

(結果)

課題成績:
6人の自閉症者は10問中平均8.8問(標準偏差1.6),12人のコントロールは10問中7.7問(標準偏差2.0)に正解し,統計学的に有意差なし.コントロール群の中では,男女差なし.

包括的脳活性:
包括的脳活性マップは,自閉症群とコントロール群でそれぞれコンピュータ処理され,隠し絵課題負荷により活性化した部位は多数みられた.自閉症群とコントロール群で共通していたのは,下側頭回(Brodmannの21,37),上片縁回(Brodmannの40),前楔小葉(precuneus,Brodmannの7),下前頭回(Brodmannの44),中後頭回(Brodmannの18,19)であった.

自閉症者とコントロール群間で異なる活性化部位:
周期的反応の平均パワーにおける両群間の差異を評価するために,2次因子として性差を設定し,各脳内ボクセル毎に,分散の2方向解析モデル(ANOVA)に回帰した.帰無仮説は,両群間の差をゼロとし,どちらかの群あるいは両群において活性化した4701ボクセルにおいて,並べ替えによって検討した.コントロール群では,両側の頭頂領域(Brodmannの7),右の背外側前前頭皮質(Brodmannの9,44),両側後頭皮質(Brodmannの18,19)であった.

両群間の違いを,部分的な反応において評価するため,同じく,共分散の2方向解析モデルに回帰し,共分散としてすべての平均FPQ値を含んだ.この解析により,コントロール群において有意に大きな反応パワーが,両側の頭頂皮質と右の背外側前頭皮質に認められた.加えて,自閉症児においてより反応パワーが大きかった部位として,右の後頭皮質(Brodmannの18,19)から,下方および前方に広がり,下側頭回(Brodmannの37)に及ぶ部位がクローズアップされた.

(考察)

本研究において,我々は,自閉症者において保持されている隠し絵課題における能力が,健常者とは質的に異なる神経システムに依存している可能性を初めて機能的脳画像研究により示した.

自閉症群とコントロール群においてそれぞれ独立に活性化している部位を検討すると,両群において同様に,後頭領域,下側頭領域,さらに下方の頭頂領域において活動が見られた.これらの領域は,以前から,物体および空間視覚処理と,物体記憶と空間記憶の両者に関連することが知られている.また,Brodmannの7と40は,以前より,視覚刺激の複雑な処理を必要とする課題や,視覚的注意の応用に関連することが報告されている.心的回転や3次元形状に遠近法ラインをマッチさせることが要求される課題のfMRI研究においては,Cohenらが,これらの領域が,空間的関係のコード化や視覚的注意の配分に関連していることを結論している.さらに,単純な線と四角形刺激を用い,2つの課題(視野の中で,他の物体よりもある物体の場所に注意を払う必要のある課題と,文体の全体を形作るパーツを分析することを必要とする課題)間の類似点と相違点を調べるために行われたPET研究では,両方の課題共に左右の上頭頂領域(Brodmannの7)と左の下頭頂葉(Brodmannの40)を含む数多くの領域に活動が見られた.Finkらは,上頭頂領域は,課題の正確な性状に関係なく払われた視覚的注意に関連することを示唆しており,一方Brodmannの40領域における脳活動は,物体を空間に位置づけるプロセス,および/あるいは,物体関連性質について判断することに関係していることが示唆された.我々は,Finkらが報告した領域には脳活動を認めなかったが,これはおそらく,本研究での実験課題が,物体認識過程と空間認識過程の両者を含んでいるからであろう.しかし全体としては,複雑度において隠し絵課題に類似している操作を含むCohenらの結果と,一見比較的シンプルなFinkらのデータの両方において,視覚的注意や物体認知処理,空間認知処理における頭頂領域の役割が示されている訳である.一方,本研究では,隠し絵課題においては,コントロール群も自閉症群もこれらのプロセスを共有していた.

コントロール群において有意に活動していた脳領域は,右の背外側前前頭領域および両側背側頭頂領域を含んでいる.全体的には,隠し絵課題処理に関連する脳活動は,自閉症群に比べ,コントロール群において高かった.この結果は,これまでの報告(自閉症における広範な安静時脳活動の減少)と一致する.故に,我々はまた,全体的機能的反応を分散として両群で比較した.その結果,自閉症群においては,物体認知に関連するとされる右腹側後頭側頭領域において脳活動の相対的増加が示され,また,コントロール群では,特異な背外側前前頭領域と頭頂領域においてより高い脳活動が確認された.後者は,刺激として線描写を使った,物体と空間の関連のためのワーキングメモリー研究により報告された領域である.これらの研究は,空間的ワーキングメモリーは,右腹側外側前前頭皮質(Brodmannの47),右下頭頂小葉(Brodmannの40),右中前頭回(前運動皮質,Brodmannの6)の活動を必要とすることを指摘している.

本研究により,コントロール群はまた,(隠し絵課題に関連して)背側頭頂領域である両側前楔小葉(precuneus,Brodmannの7)および上頭頂小葉(Brodmannの7)にも脳活動を示した.これらの領域は,単純ターゲット(点)を視覚的にサーチする課題において健常者で活性化することが知られている.この課題でのより複雑な配列においては,ターゲットは色と動きの結びつきにより判断される.このような課題は,隠し絵課題とはいろいろな意味で異なっているが,共に,より複雑なシーンの中の比較的単純なターゲットをサーチするという点では同じである.加えて,隠し絵課題においては,被検者は,動きと色というよりも,形と色の結びつきに取り組まなければならない.Corbettaらは,もし上頭頂小葉と前楔小葉(precuneus)の結びつき課題における活性化が,以前から空間的注意の変更に関連しているとされる脳活動と同じであるとすれば,健常者においてサーチされるべき視野を必要とする課題は,視野の中でそれぞれの物体を解析するために,空間的注意の変更を行っていると結論している.我々の結果では,自閉症者は,隠し絵課題に関連して,健常者が視覚的サーチやワーキングメモリーのために活動している脳部位は,活性化していないことが示され,このことはまた,自閉症者が隠し絵課題処理のために,健常者とは異なる方法を使っているとする仮説を支持する.

健常者群の隠し絵課題処理に関連して活性化する脳部位は,より高いレベルの視覚的認知とワーキングメモリーに関与しており,自閉症者において(隠し絵課題での)一次視覚領域および視覚連合野の活性化は,課題処理のための異なるアプローチの存在を反映しているのかもしれない.自閉症者において,より高い脳活動は,Brodmannの17,18,19において見られ,この領域は以前から物体の視覚的イメージの状態で活性化することが報告されている.自閉症被検者が,複雑図形の上に単純図形(ターゲット)の全体または部分を重ね合わせるために心的イメージを用い,それから複雑図形とイメージしたデザインがマッチする場所をサーチすることで,隠し絵課題をこなしている可能性が考えられる.自閉症群ではまた,中後頭領域と中側頭領域のジャンクション部に近い領域が,右側だけ隠し絵課題で活動している.この部位は,多くの研究が,マカク猿で動きに感受性を持つ領域として知られているMT領域に対応する人の領域の近くであることを報告している.隠し絵課題は,明らかな動きに関連していないが,運動の処理に関連する神経機構が用いられる処理能力が存在するとする考えから,運動の錯覚であったり,実際のあるいは明らかな運動がなくても,この部位に活性化が見られる場合があることが報告されている.従って,自閉症者が利用している戦略の一部が,この能力を応用している可能性があり,ひょっとすると,健常者は使っていない,複雑図形の上で単純図形を動かすようなイメージを使っているのかもしれない.しかし,現時点では,この可能性は予測に過ぎない.人においては,このMT領域の位置は,人によって数センチメートルのずれがあるため,平均値を出すような研究では,その位置を正確に描出することができないことが考えられる.また,動いている刺激がないのだから,人におけるMT領域がどこであるかを論ずることができない可能性がある.

さらに,自閉症者でアクティブであった一次視覚皮質および視覚連合野は,地(背景)から図(まとまりを持った図形)を分離する課題処理に関連していることが知られている.従って,自閉症者が高度に部分的な分析を使って隠し絵課題を解くために使っている方法は,部分的には,ターゲットの単純図形あるいはその部分を動かすためにイメージを使い,複雑図形の上に重ね合わせるといった手法を使っている可能性が,我々の結果から支持される.自閉症者は,その後,重ね合わせたターゲットに類似しているかどうかを検討するために,複雑図形の部品から単純図形のような図が作れるかどうかのプロセスに入る.面白いことに,DriverとBaylisは,輪郭合わせ課題における一連の辺縁指定テストにおいて,一般的に,健常者は図の形の辺縁のみに判断を制限することができず,意図的に注意をディスプレイの一つの部分に向けることでそれがやっとできるようになることを報告した.この図-地分離(figure-ground separation)のプロセスは,隠し絵課題において複雑図形からターゲット図形を浮き出させるための一手段に直接関連しているかもしれない.また,このことが,イメージを全体構造(whole structures)として考えることがもともと苦手な自閉症者が,なぜ隠し絵課題をこなすのがうまいのかを説明してくれるかもしれない.

まとめると,自閉症群もコントロール群も両方とも,複雑な色つきデザインの認知処理に関連することが以前から知られている,側頭葉,頭頂葉,および後頭葉の脳構造の活動を使って隠し絵課題をこなしている.しかし,自閉症群は,ワーキングメモリーへの依存が少なく,物体認知に関与する脳領域のいくつかにおいてより大きな脳活動をしめすことで特徴づけられるアプローチを使用している.

MRI装置の中で,自閉症被検者は,有意差はないものの,健常者よりもわずかではあるがより正確に隠し絵課題をこなした.処理時間は計測されなかった.しかし,本研究でMRI検査を受けた自閉症者は,以前JolliffeとBaron-Cohenが報告した自閉症者群の一部であり,その結果では,自閉症者は健常者よりも迅速にこの課題をこなした.今回の検討では,それぞれの図は15秒間提示され,被検者は複雑図形の中にできるだけたくさんのターゲット図形を探すように指示された.しかし,実際は,複雑図形の中のターゲット図形は1個だけであり,提示時間も十分なので,課題処理速度の差はその成績に影響しないであろう.

本研究において,コントロール課題は,何も表示されていないモニターを見ているだけとした.この選択は,よりアクティブな視覚的課題がないため批判を受けるかもしれない.つまり,このコントロール課題では,隠し絵課題による脳活動から,形や線や色を見るというプロセスをサブトラクトすることができない.加えて,隠し絵課題全体を細分化して検討できるようなコントロール課題が追求された場合は,最終的な課題成績の基盤となる細分可能な認知 プロセスに関して,より決定的な説明ができるかもしれない.我々が,今回のコントロール課題を選んだ理由はいくつかある.当初から,自閉症群とコントロール群では,全体としての課題処理方法(manner)における相違点が存在することは予想していたが,この2群により正確に利用される関与プロセスを区別する成分課題を設定することができなかった.また,どのようなコントロール課題が最も適しているかも,はっきりしない.ターゲットを見つけるために複雑図形をばらばらにすることは,課題を解くためのカギを与えてくれるかもしれない.一方,コントロールとして,ターゲット図形だけを提示したり,複雑図形だけを提示したり,色や光や形や線の分析を含むその他の視覚的刺激の場合は,視覚的認知プロセスのいろいろな側面を示すであろうが,ターゲット図形を浮き出させるプロセス自体を含んでいない.故に,我々は,もし2群間に神経処理における相違点が存在するのであれば,課題と安静コントロールを比較することで,そのような相違を最っもクローズアップできるのではないかと考えた.グループ間の機能的差異の成分的議論は,今後の課題としたのである.自閉症群とコントロール群における性比の差に関しては,解析により2群間の差異は性比の差によるものではないという結果であった.

隠し絵課題を上手にこなすために,特異的に必要な物として,自閉症者が,複雑な刺激の部分的(情報)処理を利用していることがさらに証明された.Frithは,自閉症者は中心性統合/統合的一貫性が弱いことで特徴づけられると提案し,自閉症者は全体レベルでの情報処理よりも部分レベルでの情報処理により多くの時間をかけるとした.4つの実験的証拠がこの仮説を支持している.(1) Weschler知能スケールのブロックデザインサブテストにおいて,健常者の場合は,あらかじめ分割したデザインを見せることによって,ブロックを使って問題のデザインを再構築する速度が速くなる.しかし,自閉症者は分割したデザインを見せても見せなくても成績が変わらない.(2) 自閉症被検者は,文の全体的な意味文脈に従って単語を使い分けることができず,「there was a tear in her dress」も「there was a tear in her eye」も同様に,tearを同じ発音で読んでしまう.(3) 自閉症者やアスペルガー症候群者はテキスト処理中に局所的一貫性(local coherence)を獲得することが困難.(4) 自閉症者は,相対的に視覚的錯覚を起こしにくく,おそらくこれは,全体的イメージではなく視野の構成要素に集中しているからであろうとされている.

自閉症者は,より部分的なアプローチで複雑な刺激を処理しており,このことは,隠し絵課題の環境で何が有効な戦略であるのかを教えてくれる.このより有効な戦略は,健常者が使うワーキングメモリーや全体的なアプローチではなく,断片的なプロセスを含んでいる.結局,社会的減少の断片的分析が,自閉症者の情緒的理解における障害や心の理論における障害の背景となっているのかもしれない.


(解説)ビジュアルシンカー(visual thinker)の脳構造について,多くのヒントを与えてくれる論文です.


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