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視覚的な認識における左右
:自閉症者の鏡文字に関連して


Walsh V: Neuropsychology: reflections on mirror images. Current Biology 6: 1079-1081, 1996.
(概訳)「モナリザの微笑み」の絵を知らない人はまずいないが,モナリザが右肩を前に出していたか,それとも左肩を前に出していたかを正確に記憶している人は,約50%にすぎない.このことから,左右に関係のない記憶でイメージを確認することができることが示唆される.対象物の心象はその対象物をどの方向から観察したかどうかに関係なく形成されるのか,あるいは対象物を右から見たか左から見たかということも心象として記憶されるのであろうか.観察した方向に関係なく認識しているのであれば,実像と鏡面像(左右が逆)の区別 [アルファベットのdとbの区別や,数学の記号の小なり(<)と大なり(>)の区別など] はいったいどうやってなされているのであろうか.モナリザが右向きであろうと左向きであろうとモナリザであることに変わりはないが,dとbは右向きか左向きかで完全に違うものとして区別される.最近のある論文は,頭頂葉の両側性の障害を持つ患者は右向きのモナリザと左向きのモナリザ(左右の鏡面像)を区別することができない(まったく同じものと認識する)ことを報告している.その患者は他の能力は全て正常でその絵がモナリザであることも十分に認識しており,興味深いことに倒立像(上下の鏡面像)の区別も可能である.彼はHOTとTOHを区別することは可能で,LEFTとTFELも区別できRIGHTとその完全な左右鏡面像も区別できた.従って,文字以外の対象物の左右の鏡面像の区別だけが障害されていた.報告者らは記憶された心象を自分の体に照らし合せてみるプロセスが存在し,その障害がこのような症状に関連していると考察している.つまり,自分の右手がどちらかはわかっていてもモナリザの右手がどちらかはわからないのである.また,上下方向の鏡面像の区別だけができない別の症例も報告されている.

3ケ月の子供はVと<を区別することはできるがdとbの区別はできない.また4歳から9歳の子供でも上下方向の鏡面像よりも左右方向の鏡面像の区別が困難であることが知られている.


(解説)自閉症者と多くの歴史上の天才たちは,失読症や会話の障害に加え,鏡文字の読み書きができる場合が多いことが知られています.また視野の全体をむらのないひとつの情報として捕えるビジュアルシンカーが多いことも自閉症者と歴史上の天才たちとのの共通の傾向です.鏡文字の能力や通常の逆方向に文字を書いたりできることが何を意味するのか結論はでていません.自閉症者の鏡文字についての基礎的な情報のひとつとしてこの論文を取り上げてみました.

鏡面像との区別を必要とする対象物の認識と(dとb),必要としない対象物の認識(モナリザ)があるようです.視覚的な記憶の形態をまとめますと.

  1. 鏡面像を区別する視覚的な記憶
    • 左右方向(dとbの区別)
    • 上下方向(bとpの区別)
  2. 鏡面像を区別しない視覚的な記憶(右向きであろうと左向きであろうとモナリザを認識する)

    これとは別の次元で,文字でない視覚的な情報の実像と左右の鏡面像を区別する能力だけが欠如した症例があったということですので,空間の中での左右方向の鏡面像の特異性なども含め議論されていますが,全てが説明されたというわけではないようです.元来,左右方向の鏡面像は区別する必要のない情報であって,人間は学習によってむりやりそれを獲得しているのかもしれません.自閉症者の鏡文字についてはもっと複雑なプロセスを想定しなければなりません.


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