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脆弱X症候群患児に治療の可能性

Cohen IL, et al. Mosaicism for the FMR1 gene influences adaptive skills development in fragile X-affected males. American Journal of Medical Genetics 64: 365-369, 1996.
(概訳)脆弱X症候群患者の41%は,この疾患の原因となるFMR蛋白欠損に関してモザイク型である.つまり,これらのモザイク型の患者の場合,母親から受け継いだX染色体上の染色性脆弱部のFMR1遺伝子の異常(CGGリピートの延長)は,体中の全ての細胞で蛋白異常につながるFMR1遺伝子のメチル化を誘導してはいないため,一部の細胞はFMR蛋白を産生している.FMR蛋白が完全に欠如している患者(完全変異型)とこのモザイク型での症状における差異はこれまで報告されていなかったが,コミュニケーションの発達,自立生,社会化,そして運動能力に関し,20歳以下の46名の脆弱X症候群患者において検討した結果,適応能力の発達率はモザイク型が完全変異型の2倍から4倍高いことが判明した.この結果は,この疾患における有効な遺伝子治療や蛋白置換療法の可能性を示唆するものである.


(解説)脆弱X症候群は,患者の20%が小児期には自閉症と診断され,80%が注意欠陥/多動性障害(ADHD)と診断されている遺伝性疾患です(文献1).遺伝性の精神遅滞の中では最もよく知られており,その遺伝子異常も蛋白異常(FMR蛋白の非発現)も同定されている唯一の自閉症関連疾患と言えます.1000人から2000人の男性に一人の割合で患者がおり,原因となる遺伝子異常は300人から700人の女性に一人の割合で保有されていることが言われています.点変異例などの一部の例外を除き,この疾患では,配列の異常(CGGリピートの延長)が遺伝子のメチル化を誘導し,その遺伝子がコードする蛋白質(FMR蛋白)が発現できないことが患者の症状に直接関連していることが明らかにされています.FMR蛋白の機能は細胞の核の中でのRNA移送に関与していることが示唆されていますが(文献2),FMR蛋白が欠如することがどのようにして精神遅滞を含むいろいろな臨床症状につながっているのかは今後の研究課題になっています.この論文は,FMR蛋白の発現を抑制してしまう「遺伝子のメチル化」は,脆弱X遺伝子を持っているからといって必ずしも起こらず,患者の41%の例が部分的にFMR蛋白が発現しているモザイク型を呈するという事実から一歩進めて,モザイク型の方が予後が良い(FMR蛋白が少しでも発現すれば症状が軽い)ということを示した初めての報告のようです.FMR遺伝子の遺伝子治療やFMR蛋白置換療法については,出生後にFMR蛋白を補正しても既に遅い可能性も考察されていますが,何らかの形でFMR蛋白の補えば,症状が軽くなる可能性が示唆されています.また,胎盤の絨毛細胞の遺伝子のメチル化は不完全であることが知られており,出生前にモザイク型と完全変異型を区別することは不可能であろうと考察しています.他の論文で,Willemsenらは,12.5週以後であれば,胎盤の絨毛細胞の脆弱X遺伝子のメチル化は十分であるので,この時期以後なら胎盤の絨毛細胞のFMR蛋白の有無を検出することで,本症の出生前診断が可能と報告しています(文献3).12.5週以後にモザイク型の判定が可能なのかはまだ検討されていないようです.何れにしても,自閉症関連疾患で出生前診断・出生前遺伝子治療の可能性がでてきたという重要な報告です.


(文献)
1. Fragile X Syndrome: Diagnosis, Treatment, and Research (2nd Edition). Edited by RJ Hageman & A Cronister, Johns Hopkins University Press, Baltimore & London, 1996.
2. Fridell RA, et al.: A nuclear role for the Fragile X mental retardation protein. EMBO J 15: 5408-5414, 1996.
3. Willemsen R, et al.: Prenatal diagnosis of fragile X syndrome. Lancet 348: 967-968, 1996.


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