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自閉症児の脳におけるドーパミン

Ernst M, et al.: Low medial prefrontal dopaminergic activity in autistic children. Lancet 350: 638, 1997.
(概訳)神経伝達物質のひとつであるドーパミンを介する神経伝達の機能障害が,自閉症の病態に関連していることが示唆されている.また,自閉症では,他人の精神状態に対する配慮(心の理論)の欠如に社会性の障害の中心があることが知られており,Happeらは心の理論負荷をかけた自閉症者の脳において,正中前前頭皮質の活動性が変化していることを示した.我々は,14人の薬物投与を受けていない自閉症児において,標識したドーパミンの脳局所への集積の程度を,PET検査によって測定した.また,同じ検査を10人の健常児においても施行した.ドーパミン神経末端が集まる部位の中で,正中前前頭皮質は,自閉症児において39%ドーパミンの集積が少なく(有意),他の部位では健常児との有意差はなかった.ドーパミンの集積と自閉症児のIQとの関連は認められなかった.


(解説)神経系の情報伝達は,神経細胞の電気的な活動とそれに連携して神経細胞間の情報の受け渡しをする神経伝達物質の働きによって行われます.最近の自閉症に関する神経伝達物質の話題では,セロトニンが注目がされていますが,この論文はドーパミンに関するものです.ドーパミンは,運動神経活動,注意力,社会的行動,外界の認知など,自閉症で問題のみられる神経活動のほとんどの調整に関連していることが知られており,また,Happe先生らが指摘した正中前前頭皮質は,このドーパミンを伝達物質として使っている神経の神経末端が豊富な部位の一つです.従って,この論文の結果は「なるほど」という感じですが,このように形態的に検出できる変化が,自閉症の原因に密接に関連しているのか,あるいは,本質とは異なるただの結果なのかに結論を出すことは非常に難しいと思います.アルバートアインシュタイン大学のRapin先生は,セロトニンに関する議論の中で,「神経伝達物質や神経調節物質の複雑な相互作用についての研究は今後の課題の一つである(まだわからないことが多すぎる)」と述べておられます(1).


(文献)
1. Rapin I: autism. N Engl J Med 337: 1556-1557, 1997.

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