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テトラハイドロバイオプテリン
最後に追記(1998年1月14日)あり

Fernell E, et al. Possible effects of tetrahydrobiopterin treatment in six children with autism: clinical and positron emission tomography data: a pilot study. Developmental Medicine & Child Neurology 39: 313-318, 1997.
(概訳)髄液中のテトラハイドロバイオプテリンが比較的低下している6人の自閉症児に,3ヶ月間テトラハイドロバイオプテリンを経口投与.髄液中のテトラハイドロバイオプテリンは投与後増加し,6人全員で社会性と言語において何らかの改善がみられた.神経伝達物質のひとつであるドーパミンのD2受容体結合能を評価するためのPETスキャン検査では,尾状核と被殻において増加していた指標が10%正常化した.


(解説)この薬は,平成6年の6月25日のNHKプライムイレブン(自閉症への挑戦:心の窓を開け翔君)で40%の自閉症児で有効と報道されました(杏林大学成瀬先生).また,同年7月に,サンフランシスコでの国際児童青年精神医学会において,長崎大学の中根先生の発表で,「特に有意な効果は認められなかった」と述べられ,逆の結論が話題となった薬です.結局,平成8年に,この件について日本自閉症協会京都府支部長から日本児童青年精神医学会理事会宛に要望書(質問状)が出されましたが,その時点の回答は,「最終的な二重盲検法では有効性は証明されなかったけれども、成瀬先生も中根先生も投与量によっては有効性に確信を持っている(漸増法を推奨)」という内容で,「更なる検討が必要」とされていました.上に紹介しました論文では,成瀬先生の1987年の論文(文献1)と中根先生の1992年(平成4年)の著書(文献2)の内容を参照し,社会性とコミュニケーション能力において投与した自閉症児の半分が中等度から明らかな改善がみられた報告として紹介しています.しかし,不思議なことに,1994年の二重盲検法による中根先生の発表(有意な効果はない)は引用されておらず,この重要な臨床治験結果(ネガティブデータ)は国際的な医学雑誌には掲載されていないようです.

そもそも,テトラハイドロバイオプテリンは神経伝達物質であるカテコラミンやセロトニンの脳内での合成を促進することを理由に,自閉症児に対する投与が始められました(文献3).テトラハイドロバイオプテリンは,免疫系における役割も多彩ですが,神経伝達物質や窒素酸化物の合成過程における補因子としての機能を持ち,これとは別に神経伝達物質を直接あるいは間接的に放出させる機能も指摘されており,いろいろな臨床応用が想定されていました(文献4).しかし,自閉症に関する応用については,異論もあり,Etoらは,自閉症児で血液中および尿中のテトラハイドロバイオプテリンに異常がないことを報告し(ネオプテリンとmonapterinは低い),自閉症児への投与に対する疑問を指摘しています(文献5).一方,上記の論文の著者らは,1994年の論文で,自閉症児の髄液を検討し,脳内でのテトラハイドロバイオプテリンの減少を指摘し,本剤による治験の根拠のひとつとしています(文献6).この髄液のデータに関しても反論がありますが(文献7),オープントライアルでの効果は50%で有効と一致しております.

成瀬先生と中根先生も共著者になっているTakesadaらの著書(文献8)での投与量と上記の論文の投与量は同じで,3mg/kg/dayのようですので,中根先生が二重盲検法で「有意な効果はない」と結論した時の投与量と一部同じです(1mg/kg/day群と3mg/kg/day群で検討).二重盲検法での臨床評価法に客観性があったかという疑問も残りますが,自閉症を,テトラハイドロバイオプテリン内服が有効な自閉症と無効な自閉症に分類すべきなのかもしれません.いずれにしましても,テトラハイドロバイオプテリンは異型フェニルアラニン血症の特効薬としては入手できます(ビオプテン)が,日本では自閉症児に対しては投与することができませんので,結論は外国での再検討待ちということになります.


(文献)
1. Naruse H, et al. A multicenter double-blind trial of pimozide (Orap), haloperidol and placebo in children with behavioural disorders, using crossover design. Acta Paedopsychiatrica 48: 173-184, 1982.
2. Nakane Y, et al. Clinical effect of R-THBP on infantile autism. In: Naruse H and Ornitx EM, editors. Neurobiology of Infantile Autism. Amsterdam, Elsevier Science Publishers, pp. 337-349, 1992.
3. Naruse H, et al. Metabolic changes in aromatic amino acids and monoamines in infantile autism and development of new treatment related to the finding. No To Hattatsu (脳と発達)21: 181-189, 1989.
4. Miwa S, et al. A novel function of tetrahydrobiopterin. Nippon Yakurigaku Zasshi (日本薬理学雑誌)100: 367-381, 1992.
5. Eto I, et al. Plasma and urinary levels of biopterin, neopterin, and related pterins and plasma levels of folate in infantile autism. J Autism Dev Disord 22: 295-308, 1992.
6. Tani Y, et al. Decrease in 6R-5,6,7,8-tetrahydrobiopterin content in cerebrospinal fluid of autistic patients. Neuroscience Letters 181: 169-172, 1994.
7 Komori H, et al. Cerebrospinal fluid biopterin and biogenic amine metabolites during oral R-THBP therapy for infantile autism. J Autism Dev Disord 25: 183-193, 1995.
8. Takesada M, et al. An open clinical study of apropterin hydrochloride (R-tetrahydrobiopterin, R-THBP) in infantile autism: clinical effects and long-term follow-up. In: Naruse H and Ornitz EM, editors. Neurobiology of Infantile Autism. Amsterdam, Elsevier, pp 355-357, 1992.


追記:サントリー株式会社(テトラハイドロバイオプテリンの製造元)の谷先生と末澤さんから,いろいろと貴重な情報を教えていただきました.中根先生が英語で書かれた総説のコピーも送っていただき,たいへん参考になりました.それによりますと,「プラセボ(偽薬)と比べて有意な効果がない」という結論になった治験は,222名の自閉症児を対象にした多施設治験で,プラセボ内服群と1mg/kg/day投与群と3mg/kg/day投与群の3群とも,30%で症状が改善し,プラセボ効果との有意差は見いだせなかったようです.この総説は,Korean J Pharmachol 6: 111-125, 1995です.


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