Rapin先生のコメント:治療についてなど

Rapin I. An 8-year-old boy with autism. JAMA 285: 1749-1757, 2001.

訳者コメント:

自閉症に関して,父親の見解が(少しですが)記載してある貴重な文献です.コメンテーターはRapin先生で,表2の「自閉症を示唆する言語発達異常」などは大変参考になります.おそらく早期の診断についてでしょうが,Rapin先生でさえも診断がはっきりせずに「自閉症スペクトルである可能性を考えますが,診断ははっきりしません」と言わざるを得ないケースがあることが紹介されています.当研究所(EGT研究所)の現時点の見解は,同年齢の他人との接触が実生活において始まる前に自閉症の診断を100%確定することは厳密には不可能と考えております(診断が重要なのではなく療育が重要).この論文の教育介入の項でも,「小学校入学前に未来の認知能力を予測することはできない」としており,5歳以下で発達障害が疑われたら全員早期介入を受けさせるというアメリカ政府の見解と,3歳以下の自閉症スペクトルは全員集中的公的サービスの適応としているニューヨーク州の方針が紹介してあります.診断よりも教育介入を優先させるこの姿勢が,日本で実現する日はいつになるのでしょうか?最後のところでは,ひとつの方法に偏らない療育方針を推奨しています.

(概訳)

Dr. Parker:Austinは8歳の男児で2歳半の時に自閉症と診断された.認知と会話においてはかなり発達したが,社会的な相互関係はなかなか発達できない.本年は公立学校の最初の年で同級生との学校生活も初めての体験であり,彼の両親は何が起こるか不安である.彼らはボストン郊外に住んでおり,Austinの医療は,保険(managed care insurance)によってカバーされる.

Austinは,誕生時の体重が3912.3gで,妊娠中および出産時の異常はなかった.意識清明で全ての点で正常にみえた.両親は早期発達は正常としているが,12ヶ月の時にAustinは,明らかな理由がない状態で騒音に耳を塞ぎ泣くようになった.友人や家族は両親に心配ないと語った.18ヶ月の時,Austinは2−3の単語だけ(ママ,パパ,ジュースなど)しかしゃべれず,しかもすぐにこれらの単語も消失してしまった.小児科医は心配している親を安心させようとし,Austinを彼の兄弟と比較しないようにアドバイスした.

デイケアプログラムの教師は,Austinが会話が少なく,うたた寝することがなく,フラストレーションがたまると他の子供やスタッフに噛みつくことを記録している.その後,2歳半の時,Austinは専門病院での一日評価に参加し,会話と言語は8ヶ月から15ヶ月のレベルと判定された.心理学的評価により,注意力の減少,一人遊びが多い,固執,社会的相互作用の制限などが明らかにされた.身体的診察では,異常なく自閉症と診断が成された.

Austinは会話の発達と感覚統合に注目した介入サービスを受けた.言語理解と言語表出の両方において改善がみられたが,反響言語は続いていた.会話の改善に伴い,打つ,蹴る,噛みつく行動は減少した.アイコンタクトは改善し,他の子供といっしょにいることを好んだが,相互的な遊びはできなかった.3歳4ヶ月時の2回目の評価の時,言語スキルは8ヶ月から15ヶ月レベルのままであった.心理士は彼が静かで,一般的に陽気な感情の時でも穏やかであると記載している.彼の注意は高度に散漫で落ち着きがなかった.鏡に映った自分に訳のわからない話をし,鼻歌,ブーブー,悲鳴,ビーなどのノイズを発した.3歳半の時,Austinはmethylphenidate hydrochloride(リタリン)の投与を受けたが,かえって攻撃的な行動が悪化して投与中止になった.

5歳時,Austinは広汎性発達障害児のためのスクールプログラムに参加した.彼は着実な改善を示し,7歳時の秋には,一人の補助員がついて公立学校のクラスに入った.彼はまた会話療法と行動専門家のコンサルテーションを受けた.

Austinは現在,読むことも書くこともでき,文章で話し,以前よりも他の子供たちと接する(相互関係)ようになっている.最近のビデオテープ記録では,間歇的でリズミカルで反復性の動きが頭と体全身にあり,両親はこの行動の意味について心配している.彼は最近ではfluvoxamin maleateを25mg一日に2回内服しており,社会的スキルの補助となっているようである.寝る前にtrazodone hydrochlorideを追加して内服し,睡眠と一般的集中力に良いようである.染色体検査は正常,脆弱X症候群の検査は陰性,睡眠時間を減らした後の脳波も正常.

8歳までに,多くの行動は良くなりつづけた.Austinは幸福そうに見え,しばしば笑っている.自転車に乗ったり,父親とボーリングをしたり,母親と遊んだりしてエンジョイしている.彼の両親は自閉症の症候に何か新しい効果的な治療がないか,そしてなんとか自閉症が治らないものかと考えている.


Austinの父親(D氏)の見解

18ヶ月頃に彼は,獲得していたいくつかの言葉をしゃべらなくなった.彼は(その時)何も言わなくなった.彼はのどが渇いたら冷蔵庫のところへ行った.おもちゃが欲しくなったらおもちゃのところへ行き,(手が届かなければ)ただそこに立っていた.指差そうとさえしなかった.周りのものは彼の心を読まなければならなかった.

私は,彼が何か違っていると判っていた.妻と私は,専門病院での評価に彼を連れて行くことに非常にナーバスになっていた.もし尋ねられても,自閉症と医師から言われた後にその医師が言った内容は思い出したくもない.今から10年後20年後はどうなっているのであろう.自閉症であることは,これから先どういう意味を持つのか?今の問題ではない.彼はいったい,バイクに乗ることができるのか?学校に行けるようになるのか?結婚できるのか?自動車を運転することができるのか?

以前は(私にとって)難しいことであったが,今では私は「息子は(他の子)とは違うんです」と言うことができる.しかし,彼は私の息子であり,この点において,私は彼が自閉症でなかったらよかったのにと思っている.なぜなら彼は非常にスマートであり,もし自閉症でない人生を彼がおくれるのであれば何も言うことはない.しかし,これまでのところ彼は自閉症であり,私がまさかできないだろうと思っていたことがたくさんできるようになっている.だから我々はたいへんラッキーである.

学校でのプログラムは大変すばらしいと思う.子供達はたいへん友好的である.しかし,Austinが自分が他の子と違うんだと気づく日がくるのが心配である.


Rapin先生への質問と返答

(質問)自閉症と広汎性発達障害とは何なのか?またその原因は?自閉症児はどのようにして,社会性や言語,遊び,行動,睡眠,認知,そして創造性における異常をきたすのか?自閉症スペクトルの適切な診断評価は?治療は?この群の状態の理解および治療に関する最前線の話題は;

(Rapin先生の返答)DSM-IV-TRおよびICD-10によると,広汎性発達障害つまり「自閉症スペクトル」とか,もっとシンプルには「自閉症」と呼ばれるものは,子供において行動学的に定義される5つの状態のことである.重症度とその他の関連する障害は,多彩でいろいろな場合がある.この一生涯続く状態に共通するのは,社会的スキルにおける障害,言語性および非言語性コミュニケーションの障害と想像的遊びができないこと,そして狭小化し,柔軟性がなくなった反復性興味および行動である.DSM-IVもICD-10もこれら3つのドメインのそれぞれに,4つの行動記述があり,これが広汎性発達障害のサブタイプ化の基本となっている.

自閉症スペクトルの多くは認知障害を持っているが,知性のレベルは自閉症スペクトルの診断基準には含まれていない.広汎性発達障害に関する診断名をとりまくかなりの混乱がみられる.自閉性障害の全スペクトルに使われている広汎性発達障害という用語は,軽症の自閉症という意味ではなく,また自閉症が除外されたという意味ではない.

自閉性障害は,クラッシックタイプで,1943年にKannerによって記載された早期小児サブタイプのことである.自閉性障害の中には頭がよく(bright),早期の集中的で適切な介入により非常に改善し大人になって独立できるケースもあるが,多くの場合はそうではない.アスペルガー障害の子供は,会話の遅れがなく,IQは70を超え,天才に分類される場合もあるが,社会的には融通がきかない.彼らはしばしば柔軟性がなく,学者ぶっており,興味の巾が狭く,そして不器用なものもいる.特定不能の広汎性発達障害(PDD-NOS)という診断は,PDDの他のサブタイプの基準を満たさない自閉症スペクトルの場合に使われる.4つ目のサブタイプは幸いにも他のサブタイプに比べ非常にまれで,崩壊性障害と呼ばれる.2歳から10歳の間のある時に,文章を使って会話でき,完全に正常の発達をして,社会的知能を有していた子供が,重度の退行をきたす.この退行は,社会性,認知,言語,自己援助スキル,行動に及び,重度の精神遅滞を呈し,通常は回復することはない.原因は不明でおそらく単一ではなく,あとで述べる自閉症性の退行現象との関係は不明である.5番目のサブタイプはレット症候群で,X染色体上の遺伝子欠損が同定されている特異な病態である.ほとんど女児のみに起こり,出生後の脳の成長がおかしくなり,重度の精神発達遅滞をきたす.一般的にはしゃべらなくなり歩けなくなる.手の姿勢固執(ステレオタイピー)が優位で,てんかんや他の障害が起こり,崩壊性障害のケースと同じような結果となり,完全に依存的生活になる.PDDのサブタイプ化は行動学的症候学の十分な記述を基盤としているが,最近になってやっとその生物学的基盤に関する学際的研究がその原因や病態や,医学的治療,そして早期教育的/行動学的介入の効果についてのエビデンスに基づく情報を供給している.

オンセットと症候

Austinの病歴は自閉症にみられる典型的なもので,幼児期あるいはヨチヨチ歩きの頃に表出し,定義上は3歳前に表面化する.親の訴えは普通は,不適切な言語で,質問してみるとあいさつや抱擁に対する反応のような社会的スキルが既に幼児期から無愛想になっていることがわかる.難聴のようにふるまうこともあり,特定の音に対して耳を塞いだり叫び声をあげたりする.孤立と友達関係ができないことは改善するかもしれないが持続する.よちよち歩きのころには,指差しすることで他人の行動をコントロールできることがわからないために,ほしいもののところへ大人の手を持っていく(クレーン現象).年長児は自分の行動が他人に与えるインパクトを想像できず,他人が何を考えているかを予想できない.これは「心の理論」の障害と呼ばれている.貧窮化した遊びと単調なことに対する耐性があり,おもちゃの自動車を回転させることを繰り返したり,イメージを膨らませておもちゃで遊ぶのではなくただ並べるだけのことがある.針金(string)のような支え(prop)をつかむこと(clutching)を強要したり,食べるものが非常に限られていたり,特定のシャツだけを着たがったり,寝床に入る時の儀式や学校への道順に変更を許さないことなどが,柔軟性がないことの例である.変更やルーチンを変えることで,かんしゃくを起こし,そのために両親は屈してしまい,その結果自閉症児は暴君になり家族の行動の決定者となることがある.

自閉症と同様,重度の精神発達遅滞を伴わない多くの児は,明らかな身体的異常を持たない.例外的には平均よりも頭囲が大きい一群(少数派)では,多くが顕著なステレオタイピーなどの運動兆候を有している.これらの反復性の目的のない動きは,烙印を押され落胆の原因となる「癖」のレベルから,そうすることで自分を刺激して心地よくなるための方法であるとかの説明がなされている.最も共通しているステレオタイピーは,手の羽ばたき運動であるが,体をゆすったり,うろうろ歩いたり,ジャンプしたり,指をひねったり,ひもを振ったりなど他の多くの動きがよくみられる.Austinの場合と同様に,自閉症のステレオタイピーはTourette症候群のチックと区別することが困難な場合がある.Tourette症候群は最近では強い遺伝的影響を背景とした基底核の変化に由来する運動疾患と考えられている.チックのように,自閉症性のステレオタイピーはストレスや興奮により増強し,年齢と共に動きがより小さくまた目立たなくなる.この年齢による改善はより障害の軽いケースでみられやすいが,完全に消失することはまれである.他の運動サインでは,つま先歩行は幼児期にはないがしばしば自閉症では永続的である.また,筋緊張低下や間接の柔軟性などもみられる.筋力低下は自閉症の症候ではないが,不器用性,特に複雑な運動行動をプログラムしたりまねたりすることの障害である失行(apraxia)はみられる.

感覚障害の中では,明らかな難聴と音に対する不耐性の両者が合併した場合は診断が難しくなる.眼のコーナーから(目標を)見る横目(squinting)や,見られることを嫌ったり,波打つ指の影をじっと見ていたり(staring at),食べ物や人のにおいをかいだり,チョコレートプディングを口いっぱいにつめこんだり,プレッツェルをほしがったり,などがその他の奇異な感覚反応である.彼らをあなたが抱きしめようとした時,体を硬くして背中を丸めている幼児が触覚過敏や社会的な関係に対する嫌悪を表しているのかどうかは不明である.

Austinの病歴は,小児科医の見落とし易いポイントを示している.そのポイントとは,その後のトラブルの前兆的で決定的なサインとしての言語の退行現象である.よちよち歩きの頃はまさしく自閉症で,年長児になると臨床的あるいは潜在性のてんかんに関連して,会話を始めることや会話を理解することができなくなるてんかん性失語(Landau-Kleffner症候群)という疾患もある.Austinの両親はそれまでしゃべっていた3単語が18ヶ月の時に消失したと報告している.この時期にはほとんどの子供は少なくとも12個の単語を使っている(表2).親に質問すると,自閉症児の3分の1の親は平均21ヶ月で言語および行動の退行現象があったと答える.この時期は完全な文章が使えるようになる前の時期である.このことは,なぜ臨床家が退行現象を把握し難いかの説明になる.崩壊性障害やLandau-Kleffner症候群では完全にしゃべれる状態での退行のために言語消失に気づき易い.自閉症性の退行現象は,脳の変性性疾患の存在をほぼ意味しない.なぜなら通常は長い横ばい状態(数週間から数ヶ月)の後に場合によっては変動を伴いながら改善していく.完全に回復することはほとんどない.私の経験では,言語の退行現象はよちよち歩きの子供ではその90%が自閉症の前兆である.年長児での退行現象は脳波所見を伴った臨床的あるいは潜在性のてんかんに関連している場合がより多い.

表2 自閉症を示唆する言語発達異常
全ての年齢で
  • 言語の退行またはコミュニケーションとしてのジェスチャーの退行
  • 会話への順応の減少,名前を呼ばれた時の反応の減少
  • 言語理解に関する懸念
  • 持続性の緘黙症でまれに突然はっきりとした単語や文章を発する

よちよち歩きの頃

  • 1歳までに指差しがない;クレーン現象(大人を目的物の所へ引っ張っていく)
  • 12-14ヶ月までに単語が使えない
  • 18ヶ月までに使える単語が12単語より少ない
  • 2歳までに2単語フレーズが使えない,または3歳までに文が使えない
  • no/yesを示すための首振りやうなずきが非常に遅かったり,なかったり

小学校入学前および年長児

  • 質問に答えられないまたはポイントの外れた反応
  • 言語を会話として使用できない,コミュニケーションをとるため(要求,示すなど)というよりは「話すために話す」
  • 頻回で永続的なエコラリア
  • 永続的な名詞の逆転(あなたと私が逆など),自分のことを名前で表現
  • 独創的表現というよりも熟知した全く同じ表現を繰り返す(遅発型エコラリア,ワンパターンスピーチ)
  • あったことを詳しく説明することができない,首尾一貫したストーリーを話せない
  • 好きなトピックへのこだわり
  • 学者ぶった言葉や表現を多様
  • かんだかい声でしゃべったり,歌うようにしゃべったり,抑揚のないロボットのようなしゃべり方

認知能力は,自閉症スペクトルにおいては非常に巾があり,多くの場合は中等度に障害されている.このような児のほとんどは,でこぼこの認知プロフィールを持っており,単純記憶などは優れ,理由付けやプランニングや常識などは劣る.自閉症児で小学校入学前に,過剰に語彙を取得しているケースがあり,読むために学ぶ文字に執着しており,つまり書かれた言語をほとんど理解していなかったり全く理解していなくても解読している.文字や数字に対する早期の執着は必ずしも才能を予期するものではないが,重度の精神発達遅滞ではないことを示す.細かいことへのこだわりやワンパターンへの耐性はある種の職業には役に立つ場合がある.

有病率と原因

自閉性障害が増加しているのか,あるいはより軽いケースが同定される場合が増えているのかという問題は主な議論のひとつである.以前は,有病率を10000人あたり4人としていたが,最近では疫学的研究結果は1000人に1人から1.3人と報告しており,もし軽いケースを含むと500人に1人から2人まで増加していることになる.

臨床医は,遺伝素因と環境因子の両者に配慮しなければならないが,現在検査でそのような原因が明らかになるのは20%のケースだけである.1964年の風疹の流行は,重症の聴力障害や視力障害に加えその後たくさんの自閉症児の発生につながった.フォローアップ研究ではより軽度のケースはかなり経過が良いことを報告している.サイトメガロウイルス感染は単発例のいくつかの原因として報告されている.単純ヘルペスウイルス感染症や酸素欠乏あるいは虚血による両側正中側頭葉の早期の障害は,精神発達障害を伴った重度の自閉症の原因になる可能性がある.胎生20から24日の間のサリドマイドへの暴露は,脳発達のどの時期にサリドマイド暴露があったかを示すことになるおもな奇形の原因であり同時に,自閉症の原因になる可能性が指摘されている.出生時の極度の低体重も2−3の例の原因として報告されており,特に未熟児網膜症があるケースにみられる.多くの親が我が子の自閉症の原因を,後天的なイベントに求める.そのようなイベントには,周産期仮死,外傷,脳炎,その他のたくさんの疑わしい出生後外傷などである.しかし,時期的関係がそれらしくても,その他の脳ダメージの証拠がない場合,そのようなイベントが原因である証拠は弱い.

現在明らかなことは,遺伝子が主な病因的役割をはたしているということである.男児が女児の約4倍と多いことが遺伝素因の重要性を示しているが,遺伝素因の証明には双生児研究が必要である.既知の原因を伴わない一卵性双生児間では自閉症スペクトルの一致率は90%以上であり,重症度の一致率はより低い.これらことは遺伝的影響と同様に非遺伝的影響が存在することを示している.同性二卵性双生児でも重症度の一致率は低く,また診断に関する一致率は10%以下で兄弟間の一致率と同様であり,このことは単一の遺伝子の欠失が原因であることが非常に少ないことを示している.原因不明の自閉症児の親には,次の子供が自閉症スペクトルである率が低い(<10%)けれども,あり得ることを告げなければならない.

自閉症に関係する可能性のある状態には,遺伝的なもの,染色体検査上の異常,症候学的状態などたくさんある.比較的よく知られている遺伝的異常のひとつは結節性硬化症であり,特に幼児期の幼児スパスムが伴う場合に両者は合併している場合が多い.現在はまれであるが,未治療のフェニルケトン尿症も典型的には自閉症を伴った重度の精神発達遅滞の原因となる.自閉症と関連する染色体異常で最もよく知られているのは,脆弱X症候群で,男児の精神発達遅滞として多い疾患である.しかし,脆弱X症候群のほとんどが自閉症的とういわけではなく,また脆弱X症候群は自閉症スペクトル者の1%から2.5%を占めるに過ぎない.Angelman症候群やde Lange症候群,他の染色体微小欠損,転座,逆位,なども自閉症の一部のケースにみられる.

これらの医学的状態は統計的には自閉症に関連しているが,患者の全てが自閉症的というわけではなく,複雑な背景が示唆される.家系内における表現形質上の多様性は多遺伝子性の相互作用を示唆している.このような家系内多様性には,言語障害,学習障害,強迫性障害,躁鬱病などが知られている.通常は無害な環境因子に対する抵抗性の低下が遺伝している可能性もある.遺伝的原因,免疫学的原因,環境素因などが自閉症に関して盛んに研究されている.ワクチンに含まれる微量な水銀防腐剤のようなたくさんの疑わしい因子,消化管の酵母感染,グルテンやカゼインに対するアレルギー,その他いろいろな因子が,説得力のある科学的証拠を伴わないまま広くまた無批判に受け入れられている.

1970年代に,自閉症においてはてんかん発作の有病率が高いことが報告され,自閉症が不器用な子育てへの児の情緒的反応であると一般に信じられていたが,この誤解を払拭するのに役立った.自閉症児約300人のレトロスペクティブな研究において,Tuchmanらは青年期までに3分の1のケースが少なくとも2回の誘引のない痙攣発作を経験していることを明らかにした.彼らはまた,脳のダメージを示す運動機能および認知能力における証拠を伴っているケースでは,より癲癇のリスクが高いことを報告した.対照的に,Austinのように知能や運動機能が正常か正常に近い場合は,年長児になった時の痙攣のリスクは低い.癲癇が自閉症や重度の言語障害の原因になるのかどうか,あるいは何らかの潜在する脳機能障害が自閉症と言語障害の両者の原因となっているのかどうかについては結論が出ていない.小学校入学前にコミュニケーション可能な言語が出現すれば予後の良いサインである.

診断と評価

Austinの場合のようによちよち歩きの頃または小学校入学前における広汎性発達障害の診断のヒントは,会話の遅れ(特に言語理解の遅れ,言語の退行または沈滞),頻回に起こる手の羽ばたき様運動や指遊びなどのステレオタイピー,社会的なコンタクトに対する無関心や拒絶,一人遊びや繰り返し遊び,他人によって誘導された活動への注意欠如,癇癪,誘引のない攻撃性などである.早期診断早期評価が重要であるとする,エビデンスに基づくコンセンサスは,それぞれ独立してアメリカ小児青年精神学会とニューヨーク州早期介入ガイドライン,アメリカ神経学会および小児神経学会の共同アルゴリズムの3者で得られている.熟練した臨床家の間での自閉症スペクトルの診断一致率は高いが,臨床のためのパラメーター(より良い臨床のためのエビデンスに基づくガイドライン)は特に研究のためには統一性を高めるために質問紙評価と観察スケジュールを使うことを推薦している.第三次ケアセンターにおける学際的評価は望ましいが,もし適切な診断依頼や評価依頼を決断することのできる熟練した臨床家にとって診断が明らかであるのであれば必ずしも必要ではない.早期の心理学的テストや言語テストを正当化できる目的は,予後の判定ではなく,それぞれの児の教育プランニングである.

要約すると,神経学的実践パラメーターでは,完全な病歴聴取(家族歴を含む),身体検査の実施,そしてはっきりとじょうずにしゃべることができない児全員での聴力検査の実施を推奨している.さらなる生物学的検査を行うかどうかは,全ての児に適切な総括的なアプローチがないので,予備的な所見から何が判るかに基づく.脆弱X症候群の検査は精神発達遅滞を伴った未診断の家族メンバーが家系内にいる場合に推奨される.異食のあるケースでは血中鉛レベルが検査される.もし行われているはずのフェニルケトン尿症の検査結果が不明な場合はこの尿検査が行われる.言語の消失や言語障害の病歴がある児の場合は特に,深睡眠時の脳波モニタリングが行われる.例え頭が中等度に大きいとしても,脳の画像検査は神経学的適応がなければ必要ない.代謝状態の異常を示唆するヒントがなければ代謝検査の適応はない.自閉症の原因に関する研究のためには生物学的テストをより厳密に行うことが必要であるが,研究プロトコールに入っていない検査は浪費的で,高価で,自閉症児と家族にとってはストレスフルである.

早期の介入を行うために,自閉症スペクトルを即座に診断することが重要である.両親は,予後がほぼ不明確であって,Austinの場合のようにかなりの改善もあり得るということを早い段階で知る必要がある.両親を傷つけないようにと,やぶの周りばかりをつつくのは,間違いであって彼らを混乱させるだけである.もし私にとって診断がはっきりしない場合は,私は親に「診断は不確かですが自閉症スペクトルの可能性を考慮しているところです」と告げる.涙を流したり,怒ったりする親もいるが,彼らの子供を援助するために何をすべきかを示したロードマップを彼らに提供することで多くの親は感謝してくれる.

教育的介入

自閉症が治ることはないが,かなりの証拠(コントロール研究ではないが)が早期の集中的な個別教育が,全ての児の(例え重度の精神発達遅滞を伴っていても)最終結果を変えることを示唆している.残念ながら未来の認知能力を小学校入学前の段階で予想することはできない.アメリカ政府は発達障害を持っていることが疑われる5歳以下の児全員が早期介入を受けるよう指示している.また,ニューヨーク州は全ての関連論文をレビューし,3歳以下で(自閉症)スペクトルに含まれる児のサブタイプを決めても当てにならないと結論しており,発達障害児全員が集中的(公的)サービスを受ける資格があるとしている.このような(自閉症スペクトルの)幼児には,他の発達障害の場合よりもさらに多い一週間に20時間に及ぶ個別介入が推奨されており,集中的早期介入が鍵であることを象徴している.総括すると,早期介入の効果に関する証拠は,応用行動解析(ABA)に限られている.この方法は会話を含む必要な課題に応じることができるようになるために包括的にほめるトレイナーによって導入され,活動に子供を参加させるために極めて効果的である.オリジナルの一対一古典的条件(Lovaasバージョン)は,一週間に40時間家庭で応用された.これはトレーナーにより行われ19人の児を対象とした.そのうち9人(47%)はその後普通学校に通っている.より集中的でなく,また融通の利かない条件でも効果があることが示されており,より多方面にわたる修正アプローチを供給する学校での療育で広く使われている.

自閉症児のための介入プログラムで最近のものは全て,高度の構造および予測性を共有しており,またそれぞれの児の特異的言語需要と行動需要への集中的個別アプローチを含んでいる.TEACCH法は,ノースカロライナ州で導入され,その有効性から広く同州で実践されている.学校を基盤としているが,家族全員のニーズに対応したものである.効果的な行動療法についての親のトレーニングは,しばしば自閉症児の教育プログラムでは欠如している.その他の選択肢としては,自閉症児をグループ活動に参加させることのできる,よく構造化された療育施設もある.より年長の,比較的高機能の知能レベルの児の場合,Austinが7歳時に到達したように,そのゴールは部分的なあるいは終日の普通クラスでのメインストリーム教育である.これは,児が課題に集中できるようにするために,しばしば個別補助スタッフや共有補助スタッフを必要とする.ティーンエイジャーは,ますます必要になる複雑な社会性により効果的に対処できるように援助してくれる社会性スキルトレーニンググループから利益を得るであろう.自閉症介入における共通する基準は,それぞれの子供の変容するニーズに鋭敏にかつしっかりと対応する継続個別教育である.

教育的アプローチの選択と強度は,ひとつの教育的決定であって医学的決定ではない.ゆえに,医師がプログラムの詳細を指示することは不適切であるが,親がアドバイスを求めているのが確かな場合は医師はその希望を知る必要がある.しゃべることのできない児にとって,会話を補足するためのジェスチャーや絵や読むことを使うことに焦点を置いた言語療法は重要である.統合運動障害(dyspraxia)や不器用さに伴う問題に対応した作業療法は,過敏状態を有する児のために用意された感覚脱感作が可能であるため価値がある.しかし,自閉症スペクトルの全ての児が作業療法や理学療法を必要としているわけではない.

医学的介入およびその他の介入

内服療法は問題となる行動を軽減するかもしれないが,背景にある状態を治癒に導くというわけではない.まったく内服治療を必要としない児もいるし,一方自傷や攻撃性などの非常に問題のある行動を有するケースでは行動マネージメントと内服治療のコンビネーションで最もうまくコントロールできるかもしれない.Austinの状態はSSRIやその他の抗うつ剤(trazodone)に反応している.自閉症においてはほとんどコントロール研究が報告されていないが,向精神薬もまた広く使われている.Weinbergと共同研究者は,このような薬に関する包括的なレビューを供給しており,薬の使い方のアルゴリズムをも報告している.適切な内服治療を選択するためには,しばしば体系的な治療トライアルが必要とされる.一剤を使うのか,多剤で調節すべきなのかには議論が存在する.多くの医師は特異的な行動ドメインに有効な数多くの薬について熟知しているわけではないため,精神薬理学を専門とする小児精神科医に相談することが補助となる.

抗痙攣薬は気分を安定させる目的で精神科医が処方したり,癲癇をコントロールする目的で神経科医が処方する.痙攣発作の既往はないが明らかに癲癇型の脳波所見を有する児にすべきことについては結論が出ていない.少数での報告であるが,癲癇型の脳波所見を伴うことが多い言語退行を伴う児において,逸話的な報告がコルチコトロピン,プレドニゾン,バルプロ酸,カルバマゼピンなどの効果を示唆している.今のところ,信頼できるガイドラインは存在せず,臨床医が提供できるのは,親と相談の上で個別治療方針を設定すること以外にない.

親はしばしば,食事制限や他の食事療法,ビタミン療法,また自閉症を改善させると逸話的報告がなされたことのあるたくさんの未証明の治療法について質問する.親がその治療法が補助的であると考えている場合は,私はそのような非特異的治療法を受けてもかまわなですよと返答する.しかし私自身は,その効果については納得していないのでそのような治療法を勧めることはない.

社会的および家族的問題

Austinの両親は運良く比較的早期にはっきりとした診断と適切な継続的サービスを受けている.兄弟もまた率直な説明を必要としている.なぜなら親は自閉症児にかかりきりにならざるを得ず,他の兄弟への親の注意はより少ないものになってしまうからである.兄弟はしばしば効果的な支持者であり擁護者である.また,自閉症児より下の兄弟は不動の遊び相手になり得る.しかし,親にとっては自閉症児の兄弟を代理保護者にしてしまいがちである.このような状況は,親と兄弟両者のために生き抜きを提供するためのアレンジメントが重要な時期である小児期には避けるべきである.両親が高齢になった場合,その自閉症成人が自立していなければ両親以外の後見人をみつける必要がでてくる.いくつかの点で,Austinは彼の診断を知る必要があり,彼に彼が他の人と違うのは彼のせいでないことを教えるべきである.このことは一般的には自尊心を援助し,介入を受け入れることを助長する.青年期にはセックスや避妊に関する情報を教えるべきである.何も知らずに社会的に受け入れられない行動に巻き込まれるかもしれない子供や青年は,MediAlert(ホモセクシャリティーに関するメディア)の対象とならないようにする必要がある.

自閉症児の家族依存度は非常に高い.家族は大変融通の利かないスケジュールを強いられる.親は行動マネージメント技術についての訓練を,時々かつ集中的に必要とする.保育園は親や保護者が児といっしょに通園することを必要とし,問題行動に効果的に対処するにはどうするかを学ぶために児と家族の両者を訓練する.このモデルはより広く普及されることが望ましい.重度の障害がある児は永続的な管理を必要とする.破壊的で,攻撃的で,果てしなく依存性で,予測できないようなケースもある.結果として,親は大変なストレスを受けるので,強い支援関係を持っていない親は療育問題や離婚問題を抱える.明らかに,全ての家族が支援サービスやカウンセリングや家庭での援助や息抜きケアーを必要としている.重症例の親は,その児が小児であっても青年であっても成人であっても在宅アレンジメントが受けられるための援助を必要とする場合がある.大人としての自立を獲得するために,自閉症スペクトル上で知的到達点を向上させるものは(Austinの場合のように),社会的スキルの妥当性であり,そのためには年齢相応のトレーニングを繰り返すことが必要である.これにより,自閉症児は普通学校や,彼らの認知能力や好みに応じた他の教育機関での教育を受けることが可能になるかもしれない.洞察眼の鋭い職業カウンセリングは,自閉症児の奇抜さが彼らの評価を下げないで,彼らの特異な強さを利用することができるようなユニークな職業を同定するために必要であろう.自閉症成人はほとんど結婚しないが,意義ある生活を得て,満足し,支持してくれる家族や興味を共有できる友人と共に強力で誠実なきずなを維持できる場合もある.

今後の研究の行方

自閉症の原因を明らかにすることは,出生前診断,遺伝子カウンセリング,環境性トリッガーの排除などの助けとなるかもしれない.自閉症の病態生理がもっと理解されれば,もっと特異的な薬理学的介入に拍車をかけるであろう.1つのあるいは複数の自閉症遺伝子が同定されても,自閉症の治癒にはつながらないであろう.神経科学的証拠は,多くのケースにおいて,脳発達の変化は非常に早期に起こって一生続くことを示唆しているのである.一方,自閉症を集中的に研究することが,アルツハイマー病や他の痴呆の研究にとっても価値があると言われだして10年に過ぎない.

自閉症の研究にとって至急必要なことは,(病理)組織の提供と,たくさんの薬理学的治療や教育的治療の厳格な評価である.現在自閉症者に行われている治療法には,その効果の決定的な証拠が得られていないものもある.保険でカバーされていない治療の費用を払わなければならない社会や家族にとっては,自閉症はたいへんお金がかかる.おそらく,必要なものは供給されているたくさんのサービスの一部に過ぎないであろう.また,もし早期に集中的サービスが成されれば,もっと多くの自閉症児が普通学校に通えるようになるであろう.仕事に就けず,自立できず,貧しい成人期の生活を送らなくてすむケースがもっと増えるかもしれない.それだけでも膨大な節約となり,ましてや家族の一生続く心の痛みをも軽減できるかもしれない.

疑問と議論

Mr D(Austinの父親):親として,息子は何か神経学的テストを受けるべきでしょうか?

Rapin先生:神経画像検査は全てのケースに必要ではない.NIHで行われた研究では,健常コントロール1000人にMRI検査を行い,15%に予測していなかった異常が発見された.その中でわずかに3%だけが(精査のための)紹介を必要とした.至急の追加検査が必要なケースはなかった.このようなことは自閉症にもよくみられる.たとえ頭が大きい傾向の自閉症児がいても,神経学的症候がなければMRIの必要はない.現時点で,8歳の場合,癲癇がなく,しゃべることができれば脳波検査も重要ではない.(代謝性疾患を示す)症候がなければ,治療可能な疾患が見つかる可能性はわずかであり,代謝異常に関する精密検査の必要もないと考える.

ある臨床医:特に応用行動解析に関して,自閉症児の行動学的アプローチのより効果的なものについてコメントいただけますか?

Rapin先生:現時点で自閉症において,流行っている治療は応用行動解析で,ABAとかLovaasとして知られている.基本的にはスキナー式のトレーニングで,言語により指示に従うことができない若年児のアプローチとして有益と考える.TEACCHアプローチは,それほど厳密でない方法で,これまでうまくいっているものの一つである.我々は,半日親が学校に出てくることを求めている保育園を持っている.そして親は行動マネージメント技術について勉強するようになっている.このプログラムは,認知障害が重症でない児に非常に効果がある.Greenspan先生は「フロア法(floor method)」について議論している.この方法では,子供に接する時は「児の顔の中で(視野の中で?)」接し,何もせずにぼんやりする時間をなくすようにする.その他には,「絵交換」があり,この方法では児が自分の要求を表現することを援助するために物の視覚的プレゼンテーションを使う.治療はかたよらずに,それぞれの児の特異的な需要に適したものでがよいと考える.また,自閉症児本人と同様に家族もまた援助を必要としている.ひとつの方法が全ての自閉症児に効くとは思わない.

 


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