一本の第15染色体上の15q11-13 | もう一本の第15染色体上の15q11-13 | |
PWS(70%) | 母親由来(メチル化+) | 父親由来(欠損) |
PWS(25%) | 母親由来(メチル化+) | 母親由来(メチル化+) |
PWS(<5%) | 母親由来(メチル化+) | 父親由来(メチル化+) |
AS(70%) | 母親由来(欠損) | 父親由来 |
AS(20〜30%) | 母親由来(メチル化+or−) | 父親由来 |
AS(<5%) | 父親由来 | 父親由来 |
上記の15q11-13欠損が,二つの疾患に共通していますが,PWSでは欠損を伴う場合の第15染色体は父親由来で,ASでは逆に欠損を伴う場合の第15染色体は母親由来になっています.表をみていただければわかりますが,PWSでは父親由来の15q11-13と母親由来の15q11-13の両方が存在しないか失活しています.ASでは父親由来の15q11-13は存在しますが,母親由来の15q11-13は欠損しているか失活しています.つまり,この二つの疾患の違いは,父親由来の15q11-13の有無だけです.このように同じ遺伝情報が,母親から受け継ぐか父親から受け継ぐかで発現型が異なる(活性化したり不活性化する)状況がインプリンティングです.
紹介しました論文は,この15q11-13の部分的重複異常が一部の自閉症児で報告されていることを研究のきっかけにしており,この遺伝子部分を集中的に検討した結果です.指摘された遺伝子部位にコードされているγ-アミノブチル酸(GABA)A受容体のβ3サブユニットはその働きからも自閉症に関連する可能性が考えられているようで,ストーリーとしては興味深い結果になっています.この受容体の刺激物質であるベンゾジアゼピンは,てんかん発作や不安障害の治療薬として知られており,自閉症家族に不安障害が多いという話もあります.GABAA受容体は,脳機能の分化の過程で重要な機能を有しており,出生前に大脳皮質,海馬,視床などに強く発現し,その後発現量が場所によって変化します.結論的な論文ではなく,可能性のひとつということのようです.他の論文では,この部分を検討しても有意な連鎖が検出されていません(文献2).それと,Angelman症候群については,スウェーデンからの報告で,6歳〜13歳の母集団から4人のAngelman症候群を診断し,4人とも自閉症の診断基準を満たしたと報告しています(文献3).