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第15染色体長腕(15q11-13)と自閉症

Cook E.H.Jr et al. Linkage-disequilibrium mapping of autistic disorder, with 15q11-13 markers. Am J Hum Genet 62: 1077-1083, 1998.
(概訳)Prader-Willi症候群とAngelman症候群の原因遺伝子部位である第15染色体長腕(15q11-13)の部分的重複(duplication)が,一部の自閉症児において報告されている.この場合臨床型は典型的な自閉症であることがあるため,この遺伝子領域における遺伝子マーカーを使った連鎖-不均衡研究により,関連遺伝子の有無を検討した.自閉症児の家族140家系を対象とし,同時複数部位のPCR法を使って遺伝子型を調べた.第15染色体に重複がある2人の自閉症児は対象から除外した.15q11-13部分の9つの遺伝子座位をMTDT法(multiallelic transmission-disequilibrium test)により検討した結果,γ-アミノブチル酸(γ-aminobutyric acid)受容体サブユニット遺伝子であるGABRB3 155CA-2と自閉症の間に連鎖不均衡が存在した.インプリンティング現象(parent-of origin effects)の証拠はなかった.自閉症におけるGABRB3あるいはこの近傍の遺伝子の役割をさらに検討する必要がある.


(解説)Prader-Willi症候群(PWS)とAngelman症候群(AS)は古くから記載されている病気ですが,最近では特異な遺伝現象であるインプリンティング(genomic imprinting)の例として知られています.Prader-Willi症候群は出生児の筋緊張低下,過食/肥満,精神遅滞,性腺発育不全などを呈し,Angelman症候群の子どもの症状は“happy puppet syndrome”とも呼ばれ,重度精神遅滞,唖,てんかん発作,運動失調などに加え周囲の環境に関係なく笑うという特徴があります.この両疾患で報告されている染色体異常を以下にまとめてみます(文献1より).各染色体は,母親から受け継いだものと父親から受け継いだものの2本(相同染色体)がありますが,これらの疾患ではダイソミー(uniparental disomy)といって,片親から同じ染色体を2本受け継いでいる特殊な場合があります.

一本の第15染色体上の15q11-13もう一本の第15染色体上の15q11-13
PWS(70%)母親由来(メチル化+)父親由来(欠損)
PWS(25%)母親由来(メチル化+)母親由来(メチル化+)
PWS(<5%)母親由来(メチル化+)父親由来(メチル化+)
AS(70%)母親由来(欠損)父親由来
AS(20〜30%)母親由来(メチル化+or−)父親由来
AS(<5%)父親由来父親由来
メチル化は,その部分の遺伝情報の不活化を意味します.

上記の15q11-13欠損が,二つの疾患に共通していますが,PWSでは欠損を伴う場合の第15染色体は父親由来で,ASでは逆に欠損を伴う場合の第15染色体は母親由来になっています.表をみていただければわかりますが,PWSでは父親由来の15q11-13と母親由来の15q11-13の両方が存在しないか失活しています.ASでは父親由来の15q11-13は存在しますが,母親由来の15q11-13は欠損しているか失活しています.つまり,この二つの疾患の違いは,父親由来の15q11-13の有無だけです.このように同じ遺伝情報が,母親から受け継ぐか父親から受け継ぐかで発現型が異なる(活性化したり不活性化する)状況がインプリンティングです.

紹介しました論文は,この15q11-13の部分的重複異常が一部の自閉症児で報告されていることを研究のきっかけにしており,この遺伝子部分を集中的に検討した結果です.指摘された遺伝子部位にコードされているγ-アミノブチル酸(GABA)A受容体のβ3サブユニットはその働きからも自閉症に関連する可能性が考えられているようで,ストーリーとしては興味深い結果になっています.この受容体の刺激物質であるベンゾジアゼピンは,てんかん発作や不安障害の治療薬として知られており,自閉症家族に不安障害が多いという話もあります.GABAA受容体は,脳機能の分化の過程で重要な機能を有しており,出生前に大脳皮質,海馬,視床などに強く発現し,その後発現量が場所によって変化します.結論的な論文ではなく,可能性のひとつということのようです.他の論文では,この部分を検討しても有意な連鎖が検出されていません(文献2).それと,Angelman症候群については,スウェーデンからの報告で,6歳〜13歳の母集団から4人のAngelman症候群を診断し,4人とも自閉症の診断基準を満たしたと報告しています(文献3).


(文献)
1. Gelehrter T.D. et al. Principles of Medical Genetics (2nd Ed.). Williams & Wilkins. Baltimore. 1998.
2. International Molecular Genetic Study of Autism Consortium. A full genome screen for autism with evidence for linkage to a region on chromosome 7q. Hum Mol Genet 7: 571-578, 1998.
3. Steffenburg S. et al. Autism in Angelman syndrome: a population-based study. Pediatr Neurol 14: 131-136, 1996.

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