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「トランポリンを使った指導法を!」

1997年1月、関西大学社会学部 川勝奈穂(投稿意見, 1996年12月受理)

(意見)「私は3年ほど前から、養護学校で自閉症の子供などと一緒に遊んだりするボランティアをしています。そのとき気がついたのですが,普段はみんなと同じ遊びなど全然できない自閉の子供が,トランポリンで遊ぶと,喜んでみんなと一緒に跳ぶのです。トランポリンというのは現在、どういった形で自閉症児の教育に取り入れられているのでしょうか?また、治療効果などは医学的に証明されているのでしょうか?トランポリンで他の子供たちといっしょに遊ぶ経験や、トランポリンを使ったゲームや課題など、自閉症の指導法に応用してはどうでしょう。」


(感想)伊地知信二/奈緒美
自閉症者であるダナ・ウィリアムズの家には、ブランコとトランポリンが設置されているのが、NHKの特番の中で映っていましたが、自閉症者は大人になってもトランポリンが好きなようです。自閉症児を含む障害児が集まるところにはたいていトランポリンがおいてあるように思います。ご指摘のように、トランポリンを使った指導は、一般的には、はっきりとした目的や到達点が設定されていない場合が多いようで、実際は、自閉症児を観察する時の手段や自閉症児がどこか他の場所へ行ってしまわないようにするための道具として置いてあることが多いように感じます。

トランポリンと自閉症児との関係については、小児心理学や精神科の本から得られる情報は少ないように思います。自閉症児がトランポリン遊びを大好きな背景を以下に考えてみました。

1)日常生活では経験できない感覚あるいは他動的に加えられる物理的な刺激に対する嗜好性:トランポリンでの重力(G)の強さの変化や、ブランコや遊園地の乗り物での重力の方向の変化、あるいは、体表にかかる圧迫感(自閉症者であるテンプル・グランディンのしめつけ器)などを好む傾向を自閉症児(者)は健常者より強く持っているようです。それにより精神的安定感が得られるようで、テンプル・グランディンの考えに同意する先生方は、実際に自閉症者にしめつけ器を使っているようです。しかし、自閉症児は、場合によっては好ましい刺激から逃避したり、好ましい刺激により非常に興奮してしまうこともありますので、このような刺激に対して、外見的には同じように行動しない場合がでてきます。つまり、ただ好きだからということだけでは、自閉症児は、トランポリンから逃避してしまう場合もでてくる訳で、自閉症児がほとんどの場合トランポリンに熱中するという事実を説明できません。

2)部分的に自分でコントロールできない動作への嗜好性:その中に入ってしまうと、そこから抜け出さない限り、連続的に刺激が加えられるものを好むようにも思えます。トランポリンではね続けるためには、姿勢と動作のタイミングが適切でないと、倒れたり、止ってしまいますので、半強制的な運動を伴っているということができます。テンプル・グランディンのしめつけ器についても、そこから抜け出せることの保証や自分にあった強さの刺激が得られることの保証があること(強制的な環境と絶対的な強制ではないことの保証)が、効果を得るための条件と考えられているようです。内容に適切なタイミングやバランスを強いられる運動としては、玉乗り、自転車、一輪車、アイススケート、ローラーブレードなどがあります。通常の運動能力測定では、仮に気が向いて受けたとしても低い点数になってしまうじゃじゃ丸自閉症研究所の所長(寛くん)に、このような運動をやらせてみると、他の健常児と同じぐらい、あるいは健常児よりも早く上達する場合があり(アイススケートなど、最近は機会がありません)、「やめなさい」と言われるまで熱中してしまいます。

3)上記の二つは、全ての子供たち(と一部の大人)が持っている傾向でもありますので(メリーゴーランドが好き、ブランコが好き、おしいれの布団やこたつの中にもぐりこむのが好き、など)、自閉症児(者)はまわりの状況を無視してでも、自分の好きな遊びに熱中する傾向を持っているということでも、ある程度の説明は可能のように思えます。

4) 常同的な反復運動を好む傾向:これは、最も安易な説明と思われますが、これだけでは説明できないと思います。

5)緩衝作用としての持続性の物理的刺激:自閉症児は、普通の刺激を強烈に感じたり、もともとの刺激とは異なる感覚としてとらえたり、普通のひとは見過ごしたり無視している環境を敏感に感じとったりしているようです。従って、音や味や視覚刺激に対して、非常に興奮したり、逃避したりする場合があり、自閉症児の学習障害や社会適応障害の背景のひとつになっています。そういう異質な感覚や外からの強烈な刺激がこだわりの対象となっている場合もあるようです。環境の違いや変化をわからなくする持続性の刺激(例えばBGMや騒音)があれば、自閉症児は精神的におちついたり、一見普通のコミュニケーションができる可能性を持っています。トランポリンでの持続性の重力の変化やバランスに対する集中が、いっしょにトランポリンをしている子供との接触や視覚的な刺激に緩衝作用として働いている(バランスをとることに注意を強いられ、他の環境の変化が気にならなくなったり、気にしていたことを無視できるようになる)と考えると、川勝さんがご指摘の「喜んでみんなと一緒に跳ぶ」ようになると考えることもできます。

自閉症児が、有益な体験を積むための方法として、トランポリンを応用できる可能性は大きいと思います(トランポリンをしながらの会話やゲームなど)。また、既にトランポリンを取り入れた指導法を実践していらっしゃる先生方がおられましたら、是非、ご感想をお寄せください。


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