Abstract Update

英国南Thamesでの自閉症児(全体の1%)


Gaird G, et al. Prevalence of disorders of the autism spectrum in a population cohort of children in South Thames : the Special Needs and Autism Project (SNAP). Lancet 368: 210-5.

Kurita H. Disorders of the autism spectrum. Lancet 368:179-81, 2006.


背景:最近の報告は,自閉症スペクトルの率がこれまでの認識に比べかなり高くなっていることを示唆してきた.我々は,英国,南Thamesの小児における自閉症スペクトルの率を検討した.方法:全ての住民の中で年齢が9歳から10歳までの56946人の中で,自閉症スペクトルと診断されている255人と,可能性がある1515人においてスクリーニングを行った.階層化サブサンプル(255人)は,標準臨床観察に加え,自閉症の特徴・言語・IQを含む包括的診断評価を受けた.自閉症スペクトルの診断に関しては臨床コンセンサスを得た.率を推計するためにサンプル重視法を使った.所見:自閉症は1万人当たり38.9人で,その他の自閉症スペクトルについては1万人当たり77.2人であり,総計1万人当たり116.1人であった.臨床コンセンサスと病歴・現症によるクライテリアの両者を用いた自閉症の狭義解釈では,1万人当たり24.8人であった.親の教育が低いほど,地域での同定率が低かった.解釈:自閉症スペクトルの率は,これまでの認識に比べかなり高い.この増加が,自閉症が認知されるようになったためなのか,診断基準があまくなったためなのか,または実際に発生が増えているためなのかは不明である.健康,教育,そして社会的ケアにおけるサービスが,小児人口の1%をなす自閉症スペクトル児のニーズを認識する必要があるであろう.

Gairdらの論文に関するコメント(by Kurita H.)

Lancet誌同号において,Gillian Bairdらは自閉症スペクトルの率が1万人当たり116.1であったと報告している.この結果はこれまで考えられていた率に比べ非常に高い.この研究者たちは,英国の最南Thames12の地域に住む9歳から10歳の小児56946人を総人口ココホートとして検討している.基準はICD-10を使用.サブタイプでは,自閉症は1万人当たり38.9人,その他のPDDは1万人当たり77.2人としている.全体でPDDの約60%が非典型的自閉症で,PDDの半分がDSM-IVNOSタイプであるとする最近の英国やスエーデンの報告と一致している.Rett症候群と小児崩壊性障害のケースはなく,Bairdらは他の3タイプ(Rett症候群,小児崩壊性障害,アスペルガー症候群)の率に言及していない.彼らは,アスペルガー症候群の基準に合う7例を同定しているが,この7例はまた小児自閉症の基準も満たしているため,自閉症として扱っている.1980年代の終わりまで,幼児自閉症の率は1万人当たり4から5人と報告されていた.1980年代後半に,日本における3つの疫学研究が1万人当たり13.0から15.5人とする高い率を報告した.こららの率は1990年代の終わりからヨーロッパやアメリカの研究者によって報告された高い率の前兆であった.これらの研究はPDDが高率であることに人種差がないことを明らかにした.Bairdらは,大規模な調査と確実な方法で,PDDとそのサブタイプの率が増加していうることを示した.過去10年間において報告されたPDDの高い率の原因は何なのであろうか.二つの主な説明がある.一つはPDDの発生率が増加しているとする説明である.Rett症候群を除いて関連遺伝子が同定されていないにもかかわらず,自閉症スペクトルの原因において遺伝素因が最も重要な部分を占めているわけであるが,これまでのところこの観点からPDDが増加する原因を明らかにしていない.代わりに,いくつかの研究は,PDDといくつかの環境因子の因果関係を示唆している.これらの中では,MMRワクチンと水銀含有ワクチンの防腐剤であるthimerosalが主な容疑者であった.しかし,多くの強引なエビデンスの中で,日本の 横浜市 においてMMRワクチンが中止された後もPDDの増加が続いていることや,デンマークにおいてthimerosal含有ワクチンの中止後もPDDが増加し続けていることで,このような環境要因説は完璧に論破される.その他の説明として,ICD-10DSM-IVの自閉症スペクトル診断基準が1990年代初めに世界的に導入された結果,PDDの症例確認に取りこぼしがなくなったとする説がある.これらのいくぶん広義解釈の基準は自閉症とその他のPDDの概念をさらに明らかにした.これらの基準は専門家がPDDサブタイプをより信頼性を持って診断する補助となり,早期同定のシステム擁立を刺激し,そして,一般の人が自閉症者の存在に気づくようになった.PDDの発生率が増加したことを示すエビデンスは依然としてないが,自閉症の率の最近の高まりを,同定率の向上に帰するのは合理的である.そのような進歩は,自閉症症候がより軽度のため,精神発達遅滞を伴った自閉症者よりも同定が困難である高機能PDDIQ70以上)を多数同定することにつながったようであり,高機能PDDの増加が過去10年間のPDD率の増加に寄与している.Bairdらはまた,自閉症および他のPDDの診断方法について重要な道筋を示している.彼らは,小児自閉症を同定するが他のPDDサブタイプは同定しない自閉症診断インタビュー改訂版(ADI-R)を行う前に,全ての入手可能な情報を基に経験を積んだ臨床家によるコンセンサスICD-10診断を行った.この診断手順は,ADI-Rの翻訳バージョンを事実上使用できない非英語圏の研究者には有益である.Bairdらの研究がPDD者へのサービスシステムの確立を刺激することを期待する.


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