心の健康


21世紀に向けて
 20世紀は「戦争の時代」とか「物質の時代」と呼ばれ国家,民族,人種,宗教,イデオロギ ーなどの相違で戦争をし,科学技術の発達も加 わって物質を追い求める時代でした。
21世紀は人間としてのいかなる相違も受容し,ともに支え合って生きる「共生の時代」「心の時代」が待望されています。昨今の少年犯罪をみても,どんなに物質が豊かでも,心までは豊かになれません。物や金に価値をおく,これまでの生き方から解放されなければなりません。

心の健康とは

1946年のWHO憲章によると
「健康とは身体的にも精神的にも社会的にも良い状態を意味するものであって,ただ単に病気や虚弱でないというだけではない」としています。
 ここで社会的責任にまで踏み込んで定義したことは画期的なことでありました。ところがさ らに1990年のWHO執行理事会では 「a dynamic state of spiritual well−beingスピリチュアル(魂・霊的)にも良い状態」を 追加することが提唱されました。この背景には, 全く病気でない状態を健康というのではなく, たとえ病気や障害があっても自己実現に向けて 前向きに生きる状態を健康とする新しい考え方 が基盤をなしています。

ストレス社会

 現代社会では複雑なストレスに複合的にさらされることが多く,最近では古典的な精袖医学 の槻念に納まり切れない疾病や障害が増加して きました。
これも社会構造や家族構造などの急速な変化によるもので,その中でもストレスによる持続的な身体的反応,心理的反応,社会的 (行動的)反応は現代人の心の健康を保持・増進するうえで最も注目しておかなければなりません。
ストレスが強い時,私たちは過食したり,つい飲酒量が増えたり,タバコが多くなったり,睡眠不足や運動不足,過労なども加わって糖尿病や脳血管障害,心臓疾患などの「生活習慣病」にかかりやすくなります。厚生省は,この21世紀における国民健康づくり運動として2010年を目途として「健康日本21」を定め,鹿児島県も 同様の「健康かごしま21」の運動を展開するこ とになりました。

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ストレス解消
(1)現実的問題解決  
ストレス解消の根本的対応はストレスになっ ている問題に直面して現実的に解決することであります。
しかし,一般的には解決することが困難なためにストレスが蓄積されてしまうのが現実です。それでは問題が解決されないままにどう対処すればよいかを考えなければなりません。

(2)回避反応  
分りやすく言えば一種の「逃げ」ですが,精神的破綻をまねかないためには必要な方法です。
第一に適切な回避反応としては職場などで 配置転換や転職,家庭では転居,別居,離船な ど,
第二に問題からの逃避として一時的にアルコールやパチンコなどの娯楽,出社拒否や不登校などもありますが,これが常習的,長期的になると依存症の問題や社会復帰困難となって,新 たな問題が発生してきますので注意を要します。

(3)ストレスの発散        
私たちは日常的に脳の知的領域のみを酷使していますから,そこを休ませてリフレッシュすることです。人間の野性的(原始的)領域を活発化するために非日常的行動を起こすことです。運動,スポーツ,音楽,美術などの芸術や 演劇,映画,性的刺激や営み,うっぷん(怒りや不満)を晴らすような雑談(おしゃべり), ショッピングや外食など。

(4)気分転換  
ストレス状態では同じ問題や悩みが優格観念 となって堂々巡りしながら頭に浮かんできますから,頭の切り替え,心の切り替えが必要にな ります。知的領域の中でも問題や悩みの部分とは別な部分を刺激することです。これも非日常的な行動を起こすことになります。旅行やドライブ,ハイキングや趣味など無我夢中で我を忘 れるようなものが効果的です。ワンパターンの日常生活様式を少し変えてみるだけでも効果的です。たとえば出勤や帰宅の道順を少し変えるだけでも非日常的な刺激になります。

(5)ソーシャル・サポート  
自分一人ではよい考えが浮かばなかったり,支え切れないこともありますから,友人や上司, 家族などに相談して支援を受けることをためらってはいけません。複雑な問題は,その分野の専門家に相談してみる必要もあります。もっと広く行政やボランティアの相談窓口や支援などもあります。

(6)くつろぎの手段  
脳の知的領域を休ませるには,身体的くつろぎから精神的くつろぎに導く方法が一般的に行われています。リラクゼーション,自律訓練法, ヨガ,気功などがありますが,静かな場所にぼんやりと身を横たえる程度のものでも効果的です。十分な睡眠や休養が必要です。

(7)精神安定剤・抗うつ剤  
ストレス状態では,よほど訓練しておかなければ心身を安らげることは困難なことです。ストレス状態で不眠,食欲不振,緊張感,不安感, 焦燥感,集中力低下,うつ気分,意欲低下,全身倦怠感などがある時は自分のカでは何とも仕難いものです。そんな時は精神安定剤や抗うつ剤などによって少しでも状態を改善させることも忘れてはいけません。精神薬を極端に嫌う人もいますが,うつ気分の時などは自殺の危険が 高まります。精神科専門医の指導を受けることが大切です。

(8)カウンセリング・精神療法

相談とカウンセリングは同じものと考えても 間違いではありませんが,心理専門家による面接のことで,ストレスになっている問題や悩みの本質に気づき,新しい対応の仕方を習得してストレスを克服しようとするものです。ひとりよがりな思い込みや誤解などが特に対人関係の ストレスでは多く,人間の本質や人生の本質を見失ったところで苦しんでいる人が多いものです。それまでの対人関係とか社会に対する見方 (認知)や価値観を転換させて新しい人生の生 き方を身につけることが大切になります。


出典:財団法人鹿児島県民総合センター
  『健やかかごしま』vol.29 2001.3月
    「心の健康」 竹元隆洋 著