内観

自分の心の内を観る

全自己を否定し切って、新しい自己を再構成する

内観所の写真

1 ストレス社会の中で

 このせわしい現代社会において,静かに自己を振りかえり瞑想にふけることは現代人の日ごろから求め憧れている境地ではないでしょうか。 日本には古来,山や寺にこもるという精神修養の方法がありましたが,一般の人にはほど遠い世界として受けとめられていたようです。内観は誰にでも無理なく,そのような目的を達成できるように,見事に工夫された心理療法のひとつです。1週間という短期間に目をみはるような成果も期待できます。
2 内観とは

 内観とは「自分の心の内側を観る」という意味です。古代ギリシア哲学には「汝自身を知れ」という言葉があり,己れを知ることの大切さが強調されています。自分の過去を振り返り自分の本当の姿を深くみつめることによって,今後の生き方に大切な指標を見いだすことができます。そして生活の仕方や態度にも大きな変化が現われます。また「病は気から」と言われるように心因性の病気の治療にも多くの効果が認められています。 人間はなぜ生きるのか,如何に生きるのかという人生の大きな課題にも解決の糸ロが見いだせるでしょう。それは,人間にとって大きな喜びです。一度しかない人生を生き甲斐のある充実した―日一日にしたいものです。
3 内観の目的・適応

心身ともに健康な人でも迷いや悩みは絶えることがありません。内観の目的は

  1. 真の自己発見、自己啓発として精神修養や自己修練のために行われる場合もあり
  2. 迷いや悩みの解消と悪習,悪癖,非行などの問題行動の改善のために利用される場合もあります。
  3. さらに心身の病気の治療として心理療法、精神療法として活用され,有効な成果が認められています。

すでにヨ−ロッパやアメリカでも広く実践されており,真面目に内観に取り組めば,誰にでもその目的を達成することが可能です。 当病院の内観指導は1975年(昭和50年)10月から開始され,内観研修所は1976年(昭和51年)に設立されたものです。現在までに数多くの内観体験者が新しい人生を踏み出して社会の第一線で,伸び伸びと活躍しておられます。
4 内観の技法

1)時間や場所の条件
基本の技法では午前6時より午後9時まで1日15時間で期間は1週間ですが、当研修所では午前6時30分起床,7時より午後8時まで1日13時間としています。入院患者さんの場合は午前8時より午後7時までに1日11時間です。静かな和室の隅にびょうぶを立てて,その中に自由な姿勢で座ります。人目につかない場所で気特ちは落ち着き,安らぎがうまれます。この1週間は内観にのみ取り組みますから新聞,雑誌,ラジオ,テレビ,筆記用具などは精神集中の邪魔になりますので,持ち込まないようにします。
2)内観の仕方
指導者の指示に従って,自分の過去の態度や行動を調べます。まず最初は母親(あるいは母親代わりであった人)に対して小学1年生から3年生までの3年間に,つぎの3つのテーマを調べます。
  1. してもらったこと
  2. して返したこと
  3. 迷惑をかけたこと
約1時間30分ほどで指導者が面接に来ます。内観者はテーマに沿って調べた内容を指導者に報告します。次は小学4年生から6年生までの3年間について同じように3つのテーマを調べます。このようにして現在まで、あるいは母親が生きていた時までをくり返し調べます。母親に対する内観が終ると次は父親や兄弟,配偶者や子供,職場の上司や同僚,学校の先生や友人など,自分と人間関係が密接であった人を1人ずつ選んで3つのテーマを調べます。

5 内観の経過

 内観は日常とちがった生活を1週間続けますので,最初の1日か2日は少し馴れませんが3日目ともなると心身ともにすっかり馴れてきて、内観は順調に進むようになります。そして,徐々に本当の自分が見えてくるのです。さらに,周囲の人々が自分に大きな愛の恵みを注いでくれていたことにも気付くようになります。 今までの自己イメージや父母のイメージは,いかに自己中心的で自分勝手な思い込みであったかも分かるようになります。もし.内観をしなければ,自分や他人の見方を錯覚したまま死ぬまで本当の自分に気付くこともなく,生きる意味も分からないまま終ったかもしれません。内観の5日目か6日目ともなると多くの人が徐々に反省と洞察(悟り)に到達して深い感謝の心と同時に前向きな信念や向上心,エネルギーに満ちた活動力や理想に燃えた行動の変化が認められるようになってきます。心の奥底から,よし,頑張ろうという意欲が目然にあふれてきます。それは,無理のないすがすがしい,素直な心に生まれ変わることができたからです。この段階に達すると多くの迷いや苦悩が解消され、長年の悪習や悪癖,非行からも開放され,心因性の多くの病気(心身症,ノイロ−ゼ ,うつ病など)やアルコール症,シンナー乱用などの薬物依存症も非常に高い確率で回復することが認められています。
6 内観の効果

A よりよく生きるために

  1. 人間形成のために性格を変え人格を高める
  2. 精神統一,注意集中による能率アップ,仕事や学業成績の向上
  3. イメ−ジトレーニングや無我の心境でスポーツや芸術活動、作業能力を高める
  4. トラブルのない人間関係を生み出す
  5. 愛の確認と生きる喜びを体得する
  6. 深い罪悪感を体得して行動が修正され、生活の姿勢がより改善される
  7. 天地一切に対する感謝の心が湧きおこる
  8. 自己の探求と白己啓発
  9. 人生の目的,生き甲斐の探求

 B 悩みの解消と問題行動の改善

  1. 家庭,学校,職場などの人間関係の不和を解消
  2. さまざまなトラブルやストレス状態の改善
  3. 悩みとなっている問題への対応の変化によってスムーズな問題解決
  4. 悪習,悪癖,非行,犯罪などの問題行動の改善

 C 病気の冶療

  1. 不登校や思春期不適応(家庭内暴力や無気カ症候群など)の改善
  2. シンナー乱用などの薬物依存症やアルコール依存症などの回復
  3. 自律神経失調症や更年期障害などの症状改善
  4. 心身症(冑・十二指腸潰瘍,高血圧症,喘息など)の心因性身体疾患の治療
  5. 不眠,イライラ,不安,緊張などの神経症(ノイローゼ)の治療
  6. うつ病や心因性精神病の治療
  7. その他の精神障害の症状改善

7 内観への準備

  1. まず,電話か外来を受診して内観希望の相談あるいは予約をして下さい。
  2. 当内観研修所は内科,精神料,神経料.理学療法科を専門とする指宿竹元病院(226床)の敷地内にありますので,さまざまな身体疾患や精神障害の人もその検査や治療の期間中に内観を行うことができます。
  3. 本人に内観をする意志がなかったり,問題があまりにも複雑すぎる場合や病状が重篤な場合には,当病院の内科病棟あるいは精神科病棟にしばらく入院して,状態(病状)が落ち着いてから適当な時期を選んで内観に導入することもあります。
  4. 小学生,中学生あるいは高校生くらいの年令では,本人と同時に両親のいずれか(多くは母親)が一緒に内観することを勧めます。当然ながら親にも内観が必要だからです。親が一緒だと子供は落ち着いて内観ができますし,子供が内観を中断しそうになった時も,励まして何とか継続させることができます。また親が内観による精神的変化を知ることができて,内観後の生活によりよい理解や指標ができますので,内観の効果が上がりやすく,効果が持続します。
  5. 内観の1週間は精神集中のため電話や外出などは原則として許可しませんのでこの間の用件は整理して,落ちついて内観に取り組める準備を整えて下さい。
  6. 準備するもの  洗面道具,時計,突発的な病気に備えて健康保険証。洗濯をする必要のないように1週間分の肌着を準備して下さい。内観中の服装はジャージやゆったりしたズボンなどが最適。雑誌やラジオ,筆記用具などは不要です。不必要なものはできるだけ持ち込まないようにします。
  7. 内観指導料は食事,入浴,冷暖房,寝具代などをすべて含めて,7日間で5万6000円です。途中で内観を中断された場合は、1日を8000円として日割り計算させていただきます。特例として,時間のない人のために最初から3日間とか4日間の指導もあります。

8 いよいよ内観体験のスタート

  1. まず,病院受付にて内観希望者であることを申し出て内観者力−ドに住所,氏名などをご記入下さい。
  2. 内観担当者が,内観希望の動機や病状(問題など)をうかがいます。
  3. 必要な場合にはその場で心理テストをしたり、アンケート用紙に記入していただくこともあります。その後に内観研修所にご案内します。
  4. 研修所の応接室で内観の仕方を説明いたします。説明は録音テープを聞いていただく場合もあります。さらに内観中の注意事項や生活の仕方についても説明します。
  5. それが終りますと,直ちに指定された部屋の隅にびょうぶを立てて,その中に自由な姿勢で座ります。そしてすぐに,小学1年生から3年間の母に対して、(1)してもらったこと(2)して返したこと(3)迷惑をかけたことのテーマに沿って過去の事実を調べる作業に取り組んで下ださい。未成年の人は年代区分を小学1年生から1年間ずつとして調べて下さい。1時間30分〜2時間ほどで指導者がびょうぶを開いて面接に来ます。お互いにお辞儀をして,指導者の指示した通りの順番で答えて下さい。「この時間は小学□年生から□年生まで(あるいは口歳から□歳まで)の「母」に対して(1)してもらうたことは「・・・」(2)して返したことは「・・・」(3)迷惑をかけたことは「・・・このようなことがありました」という具合です。この形式で1週間続けることになります。
  6. 1時間30分〜2時間ほどで指導者がびょうぶを開いて面接に来ます。お互いにお辞儀をして,指導者の指示した通りの順番で答えて下さい。「この時間は小学□年生から□年生まで(あるいは口歳から□歳まで)の「母」に対して(1)してもらうたことは「・・・」(2)して返したことは「・・・」(3)迷惑をかけたことは「・・・このようなことがありました」という具合です。この形式で1週間続けることになります。
  7. 入浴は1日1回指導者が指定した時間に入浴して下さい。当内観研修所は温泉になっています。
  8. 起床は午前6時30分にスピーカーで合図をしますので心配はいりません。
  9. 食事はびょうぶの前まで指導者が持っていきます。びょうぶの中で食べてください。食事が終わったら食器はびょうぶの外に置いてください。
  10. その外,分からないことがありましたら,指導者に何でも質問してください。
  11. 最初の1日か2日は馴れませんが,3日目ごろからは生活も内観も順調に進みますから安心して,指導者の指示に従って頑張って下さい。
  12. 1週間の内観中に指導者はほとんど毎日替わりますが,引継ぎがなされておりますから新しい指導者に前日報告した内容を説明する必要はありません。
  13. 1週間の内観が終りましたら、当病院の院長(竹元隆洋)が内観後の面接指導を致します。必要に応じて心理テストやアンケートに答えていただく場合もあります。
  14. こうして集中内観の体験が終りますと,これから先は自宅で日常内観(毎日短時間ずつ自分1人で内観をすること)を続けることが最も大切なことであります。日常内観を続けることで、内観の効果は確実に持続しますし,さらに内観が深まって日常生活や行動が少なからず変化するようになります。


出典:「内観療法の手引き」(1992年11月3日)