『共依存とアダルトチルドレン』


 アルコール依存症の急激な増加とともに、その基礎的な研究や治療に関する研究はめざましく発展してきた。
特に1970年代になり家族システム論が展開されるようになってアルコール依存症の家族の病理が明らかにされてきた。
家族システムは家族の崩壊を防衛する機能をもっており、家族を崩壊させないために家族のメンバーの中から病気になる人(identified Patient:IP)が現れることによってバランスをとり、家族間の相互作用の安定が維持されるようになることもある。
 こうして、ひとりの患者が出現すると、その患者の役割や責任を他の家族メンバーが代りに果たすような機能が働いて家族システムを維持するように家族ホメオスターシスが作用してくる。
こうなると、患者は現在の役割を果たすことができないことを家族に示しながら家族メンバーとの関係をコントロールする力を持つようになる。
アルコール依存症の家族では問題飲酒が家族システムの防衛的効果をもたらして飲酒行動を持続させるようなアルコール依存症の維持(Steinglass et al 1976)や家族システムの維持が主に夫婦間や親子間で成立していることが多い。
 IPが病的状態を長期にわたって続けることができるのは、その人を支え続ける「支え手enabler」の存在がある。
IPとenablerの関係を共依存Co-dependency(Friel.J)と呼んでいる。
 共依存とは、相手の世話やきをしてenablingしながら相手をコントロール(支配)する一方では相手(依存症者)に依存して生きている人間と、相手に依存してコントロールされながら相手を振り回してコントロールする病人(依存症者)との相互依存関係である。
このような共依存という人間関係の嗜癖が1次的嗜癖となって、アルコール依存症やその他の嗜癖行動が2次的に発生してくるとの考え方をSchaef,A.W(1987)が示してその後日本でもこのような考え方が定着しつつある。
 こうしてアルコール依存症者と家族メンバーは支配したり支配されたりしながら、常に緊張し続けることになる。
このような雰囲気の中で育てられる子供たち(Children of Alcoholics=COA)には情緒的・社会的に問題行動の多い傾向が指摘された。
さらにこのCOAは、幼児期から刷り込まれた望ましくない対人関係パターンの影響のために日常生活の中で“生きづらさ”を抱え、悩み続けながらおとなになってしまう。
こうして、おとなになったCOAをAdult Children of Alcoholics=ACOAと呼ぶ。
ACOAは、その生きづらさのためと親の世代の生き方をコピーしているために見事に共依存症になったり、アルコール依存症やその他の嗜癖行動異常になる確率がきわめて高く、このような現象を対人関係パターンの世代間伝達と呼んでいる。
アルコール依存症者の再発防止のためにも、何より家族が共依存症から回復しなければならない。
そのために演者は「家族教室」を開いて家族の自覚を促し、回復のためのグループミーティングを行っている。
また、アルコール依存症のハイリスクグループであるACのために一般市民を対象とした「AC講演会&ミーティング」を月1回開催して、ACの人たちをクローズドACミーティングに案内する作業をしている。
さらに、共依存症やACからの回復のために内観療法を適用して見るべき成果が得られているので、それらの体験をもとに家族の問題を討論したい。

出典:第十回九州アルコール関連問題学会鹿児島大会シンポジウム
   「アルコール依存症の家族が抱える問題」の抄録