アルコール依存症の精神療法
内観療法

Summary

 アルコール依存症の個人精神療法として内観療法は注目されている。その治療技法と条件はかなリ拘束性が強く,過去の事実をさらけ出す作業なので,様々な抵抗も生じやすい。そのために十分な動機づけが必要である。
 しかし,それでも本療法は本症患者に受け入れやすい側面をもっている。その原因は治療構造や指導技法や内観の内容などに深くかかわっている問題である。
 内観療法の治療的な基本原理は本症患者の人間的な回復と密接な関連性をもっているので,最もよい適応症となり得る。本療法のアルコール依存症に対する有効性を要約すると,病識の確立,個の確立,自由な自己変革,対人関係の再構築,断酒の決意,断酒の継続などに有効に作用しているようである。
 本療法に対する断酒者の意識調査では,その治療的な基本原理の中核をなす効果がはっきりと意識されており性格・人格の変化や断酒の決意や断酒の継続などに大きな影響を与えていることが分かる。
 本療法の効果について,予後調査の結果からは諸家の報告(20%程度)に比較して39.9〜48.2%でかなり高率である。しかし断酒率だけで効果を論ずるのは危険である。内観前後の心理テストの差異を検討する必要がある。Y‐G性格検査,エゴグラム,ロールシャッハ・テスト,風景構成法などで検討してみると,かなり大きな差異が認められる。それだけ内観療法はアルコール依存症の個人精神療法として効果的な治療法であると言える

 はじめに

 アルコール依存症の治療の根幹が精神的治療であることに異論はないが,従来行われてきた治療方法は,欧米をはじめ我が国でも集団精神療法的な手法が主流であった。一方,断酒会やAAなどの自助グループも集団療法的な活動を展開している。
 しかしながら集団精神療法もその短所が示されるように,個としての対応は深化しにくい。そこで個人精神療法を加えることによってアルコール依存症の精神療法がより充実されるはずである。ところが本症患者には既存の個人精神療法では対応が困難であったことが指摘されよう。本症患者は身体的な治療には比較的に積極的な姿勢を示しても,精神的な治療は,その必要性を認めないばかりか拒絶的である。患者が精神的治療の必要を認めるようになるためには,十分な病識をもたなければならない。
 内観療法は過去における自分の生活態度をふりかえることによって,病識をもつことの基礎を作り、患者に精神的な治療の必要性をも自覚させながら進展していくものである。
 そして最近ではアルコール依存症の個人精神療法としてその有効性が認められでおり、多くのアルコール医療機関で実践されているばかりでなく,今や欧米をはじめとして世界9カ国に普及して注目されている。

 1.内観療法の条件と技法

 内観療法は一定の条件のもとで1週間を基本として行われる「集中内観」と日常生活のなかで継続的に短時間ずつ行う「日常内観」とからなっている。
 集中内観の基本的な技法は和室の隅をびょうぶで仕切り,そこに自由な姿勢で座る。午前6時より午後9時まで1日15時間,内観だけに集中して7日間を1クールとする。指導者の面接は1〜2時間おきに1回で,1回の面接時間は3〜5分間程度である。指導法は小学生時代よリ現在に至るまでを3年ずつ区分して,まず最初に母親を対象人物として,次の3点について調べる。
1.してもらったこと
2.して返したこと
3.迷惑をかけたこと
  について具体的事実を想起するように指導する。対象人物は現在までの生活で人間関係が密接であった人を次々に選んで内観する。このように隔離,保護された非日常的環境のなかで1日長時間自力的に内観を進めることによって,自我の強化が推し進められ個としての確立に役立つ。また最近ではその条件や技法に様々なヴァリエーションが数多くみられるようになってきた。

 2.内観療法への導入

 アルコール依存症者を内観に導入するためには,少なくとも離脱期を経過して一定の心身の安定が得られた時期を選ぶ。
 治療プログラムの中期に位置づけて,内観後のフォローや行動変容の強化をはかり、日常内観の習慣づけを行う。
 本療法は比較的に拘束性が強く,過去の事実をさらけ出す作業なので,様々な抵抗も生じやすい。
      治療条件への抵抗
ざんげへの抵抗
想起困難
あやまった宗教性・道徳性・倫理性
効果に対する疑問
感謝への抵抗
自己探求への抵抗
自己変革への抵抗
指導者への抵抗
指導者の評価への抵抗
 など様々である。
 これらの抵抗は導入段階で解消されることが望ましい。そのために筆者らが行っている動機づけは
   内観テープ(面接時の内観音の報告を録音したもの)を貸出したり放送したりする
内観に関する書籍を貸出す
医師・看護者などが個別に説得する
院内断酒会で内観体験者が感想を発表する
内観体験者と未体験者との座談会で動機づけの強化をはかる
入院期間中に毎日1時間の日常内観を行う
内観療法の心理学的・医学的な解説を繰り返す
 以上のような動機づけによって,入院患者のほとんど全員が自発的に内観を希望し,拒絶するものは極めてまれである。

 3.内観療法を受け入れやすい側面

 アルコール依存症者は一般に精神療法的な治療に対しては拒絶的であリ、また一方治療者側からみても一対一の個人精神療法ではその依存性の強さや否認,攻撃性などにはばまれて,その実施がかなり困難視されてきた。しかしながら,内観療法に対しては,思ったほど拒絶は少なく,比較的に受け入れやすい側面をもっている。内観の過程では依存や攻撃性も表面化せず,むしろ能動的,自力的に取り組みながら治療は終結するようである。その原因には内観療法の治療構造と指導者の態度や技法,さらに内観内容に関する種々の要因がある。

治療構造に関して 1週間という短期間なら何とか頑張り通せると思う
他の患者も同時に,同じ部屋でするので安心である
治療者の面接時間が短い(3〜5分間)ので緊張が持続しない
びょうぶで仕切られて見られず保護されているので安心であり、精神集中しやすい
行動の制限はあるが静かで落ち着ける
指導者の態度や指導技法に関して 導入段階で患者は受身的に内観を強制されるようなことはなく,自発的な意欲にまかされている
指導者の丁重なおじぎや合掌によって内観者は最大限に尊重される一方で内観に対する真剣さや熱意を鼓舞される
指導者の受容的・支持的態度によって,それまで非難や叱責だけを受けてきた多くの患者は自主的・自力的に期待に応えようとする
内観内容については詮索されないので,内観者は言いたい事だけ報告すればよい。言いたくないところには触れられない
内観内容は評価されない。評価は内観者自身にまかされでいる
AAや断酒会と同じように,言いっぱなし,聞きっばなしで記録などはされず,秘密が守られる
指導者は日常生活や病棟生活の行動面について指示・命令などは一切しない
内観内容に関して 心の内面の間題を対象とせず,過去の具体的「事実」だけを対象にすればよい。特にどう思うか,どう考えるかなどは問題にされない
内観のスタートで,まず小学校時代の遠い過去を対象とするので,現在に多くの問題を抱える患者にも受け入れやすい。すなわち,現実逃避して現実直視のできない患者にも取り組みやすい
現実を否認する患者にとって現実の飲酒問題をことさら問題にしないので受け入れやすくプライドが傷つけられない

 4.内観療法の治療的な基本原理

 治療は型どおりの指導技法で開始される。すなわち「小学1年生から小学3年生までのお母さんに対して
 1.してもらったこと
 2.して返したこと
 3.迷惑をかけたことを具体的に思い出してください」という具合である。
 このように限定された思考様式で自己を見つめることを求めているが,決して道徳的・倫理的な固定観念を押しつけようとするものではない。あくまでも対人関係が密接であった母や父などの対象者を通して,客観的な立場から自己を観察ずるための技法であり,人間関係における貸借対照表の意味をなしている。

 「してもらったこと」について内観をすると
今まで自分一人の力で生きてきたつもりでいても,いかに多くのことをしてもらってきたかに気づかされる。それは内観者の対人関係において,大切に育てられ支えられてきた愛情体験の発見につながり、改めて自己の尊厳さを見出すことになる。しかし一方では他者にしてもらうことばかりの連続で自己の依存性の強さや未熱さを自己像として認識させられる.それは同時に他者中心の知覚となり他者像の認知も大きく変化して共感性をもって受けとめられるようになり、他者を肯定的に見ることができるようになる。その時,他者に対して感謝と償いの気持をいだかせるまでにいたる。
 「して返したこと」を調べると
「してもらったこと」の多さに比較して、何ひとつお返ししていないことに気づかされる。その時,自己の役割の未熟さや相互交流の未熟さと同時に自己中心性や依存性の強さを一種の驚きをもって認識させられる。
 「迷惑をかけたこと」に最も重点をおいて調べるように指導する。
このテーマによる想起体験は,他者からの十分な愛情体験をもちながらも,それに対する裏切りとしての迷惑行為の多さが,ほとんどの内観者にそれまでの自己イメージの崩壊をおこさせ,自己否定による真の自己発見につながる。ここでは自責的思考様式で徹底的に罪責感が強化され,救われ難い苦痛な局面を迎えるが,内観ではそこに宗教的な救いを求めてはいない。

 日常生活のなかに存在する身近な他者による愛情体験の発見が,この限界状況から破綻をまねくことなく逆に支持する作用をもっている。ここに内観の愛と罪責感の相乗効果が生み出されており、このニつが内観療法の中核をなしている。この罪責感は愛情体験と表裏一体の組み合わせで感得されているもので,日常的な罪悪感やうつ病などの病的な罪悪感とは異質なものである。このような気づきは,指導者の説得や説明によるものではなく,繰り返し自分の過去を調べることによって自力的に発見されたものであるだけに自由で力強い。多くの内観者が「これではいけない,何とかしなければ」という自覚をもつようになる。それは生かされてきた愛の恵みに対する感謝とよろこびと同時に今までの白己中心性や未熟さを脱却して杜会的おとなへの自己変容と自己実現を意味している。そして自由で自発的で積極的な行動を引き起こすようになる。

 5.内観療法の有効性

 アルコール依存症者が回復に向かうための内面的変化と断酒を継続していく過程で内観療法が有効に作用している因子について筆者の考えをまとめてみた。

病識の確立 繰り返し,過去の体験を想起することによって自己否定と同時にアルコールと自分の関係が病的で異常であったことを認められるようになり病識が確立する。
個の確立 拘束住の強い内観療法の条件と指導技法は個としての自覚を促し自我の強化に役立っている。また愛情体験の発見は自己の尊厳さを見出し,経時的に自己を調べることは自我同性の確立に役立っている。
自由な自己変革 内観の想起内容は自由に選択され,非難や評価を受けない。自由な意味づけや発見があり、内観者の望ましいと思う人間像が期待されるようになる。
対人関係の再構築 対人関係が崩壊してきたことを認めることと同時に自己否定や役割の欠落を認め,望ましい対人関係の再構築に大きなエネルギーが生み出される。
断酒の決意 アルコールによる身体的・精神的・社会的障害を認め病識が確立して、自己否定と同時に自己の再構築,個の確立がおしすすめられると回復への意欲は高まり断酒の決意は確立してくる。
断酒の継続 断酒が継続されるためには酒に替わるより価値あるものへの志向が高まってこなければならない。愛情体験の発見と罪責感は―体となって感謝と償いの気持を回復させ,断酒の継続が幸福な生活の基盤となってくる。また断酒の継続には日常内観の継続が有効に作用している。

 6.断酒者と内観のかかわり

 内観療法を体験して1年以上断酒している断酒会員50人の内観に対する意識調査の結果を検討してみた。

表1.集中内観前の心境          人数
一所懸命やろう 30 60
治療だから仕方がない 11 22
内観して何になるのか不安 10
その他
やりたくない
−−− 計 −−− 50 100

集中内観前の心境(表1)については,さすがに断酒者では積極的なものが60%を占めた。

表2.苦しかったこと         人数
過去の罪悪感 25 26.0
報告がうまくできない 23 24.0
長く座ること 15 15.6
雑念がわき集中困難 11 11.6
効果に対する疑問 6.3
自責感を感じない 4.2
狭い場所 4.2
孤独感 3.1
その他 2.0
苦しくなかった 2.0
退屈なこと 1.0
−−− 計 −−− 96 100.0

苦しかったこと(表2)については,罪悪感の自覚をあげたものが多く,内観の効果がよく現れていると言えよう。一方,報告がうまくできないことや長く座り続けること,雑念がわき集中困難であることの苦しさは一般内観者でも類似していると思われる。


表3.集中内観直後の心境 人数
自分の醜さを知り反省心が生じた 21 22.3
断酒への意欲がわいてきた 12 12.8
生かされている自分を発見 11 11.7
精神的に安定した 10 10.6
すがすがしい気分 9.6
もう少し真剣にやればよかった 8.5
愛を自覚 感謝の気持ちがわいてきた 7.4
思いやりの心がわいてきた 6.4
人に寛大になれた 3.2
心境の変化はなし 2.1
人を信頼できるようになった 2.1
自信を失い苦痛であった 1.1
自信を取り戻す事ができた 1.1
その他 1.1
−−− 計 −−− 94 100.0

 集中内観直後の心境(表3)は自分の醜さを知り反省心が生まれたというものが最も多かった。これは罪責感や自己否定的な自己発見から新しい自己を再構築する準備段階の心境である。次に断酒への意欲がわいてきたとするものが多く新しい自己の構築とアルコール依存症からの回復への意欲がわいてきている。次に生かされている自分の発見は対人関係と愛情体験の発見を意味しており、これらは内観療法の中核をなす効果がはっきりと示されているようである。

表4.内観が人格変化に与える影響 人数
大きく影響している 28 57.1
少なからず影響している 19 38.8
あまり影響していない 4.1
−−− 計 −−− 49 100.0

 表4は「内観が自分の人格・性格の変化にいくらかでも影響を与えていると思うか」という質問であるが,大きく影響していると意識しているものが57,1%,少なからず影響しているというものが38.8%で両者をあわせると95.9%にも及ぶ。内観を体験したものにとっては個の確立や自己変革,対人関係の確立などの変化がはっきりと自覚され退院後も断酒を継続しながら,日々人間的成長の努力を続けていることが推察される。

表5.何が人格・性格に影響を与えたか 人数
内観 25 39.0
入院治療全体 12 18.8
保護室での生活 11 17.2
集団生活(同病者とのふれあい) 12.5
院内断酒会 12.5
−−− 計 −−− 64 100.0

そこで「何が人格・性格の変化に影響を与えたか」と質問してみると(表5)やはり内観が39%でトップを占め「入院治療全体」や「保護室での生活」「集団生活」などの要因を大きくひきはなしている。

表6.断酒決意のきっかけ    人数
集中内観 21 24.4
院内断酒会 17 19.8
家族とのかかわリ 14 16.3
断酒会 13 15.0
日常内観 10.5
病棟生活 9.3
その他 4.7
−−− 計 −−− 86 100.0

次に表6は断酒を決意するきっかけとなったものをあげているが,やはり集中内観が24.4%でトップを占め日常内観をあげたものも10.5%あって,この両者をあわせると34.9%となり内観の及ぼす影響は大きいことがわかる。

 表7.断酒継続できる理由 人数
断酒会 29 36.3
家族の思いやりや理解 16 19.9
集中内観の経験 16 19.9
仕事 10.0
日常内観 8.8
その他 3.8
無回答 1.3
−−− 計 −−− 80 100.0

さらに断酒の継続ができている理由(表7)については,断酒会員を対象とした調査だけに,断酒会や家族の思いやりをあげたものが多かったが集中内観と日常内観をあわせると28,7%でやはり内観も大きな影響を与えていることを示している。

 7.内観療法の効果

 (1)予後調査

表8.予後調査
症例 断酒期間 断酒者 飲酒者 断酒率(%)
52 1年〜1年6ヶ月 14 27 34.9
94 1年6ヶ月〜2年3ヶ月 28 30 48.2
106 1年〜2年3ヶ月 42 57 42.4

 内観療法を体験して退院後1年以上2年3カ月を経過したアルコール依存症者146例を対象として予後調査を行った。予後が判明したのは1O6例(72.6%)であった(表8)断酒者42例,飲酒者57例で断酒率42.4%であった。これを退院後の経過期間によって2区分して検討してみた。退院後1年以上1年6ヵ月経過している52例の群では再入院患者が多く,病棟の治療的な雰囲気があまり好ましいものではなかったことなどが原因で断酒率は34.9%であったのに対して,退院後1年6ヵ月以上2年3ヵ月経過している94例では断酒率は48.2%であった。諸家の断酒率の報告では20%程度であることと比較すると内観療法を体験したアルコール依存症者の断酒率はかなり高率であるといえそうだ。
 しかしながら内観療法の効果をその断酒率だけで示すことには様々な問題がある。アルコール依存症者の回復にはあまりにも多くの因子が複合的に作用しているからである。出来るだけ純粋に内観療法の効果を知るために内観前後の心理テストの差異を検討してみる必要がある。


 (2)Y−G性格検査

図1.Y−G性格検査プロフィール

 63症例で内観前と内観後の平均を算出し,そのプロフィールを比較してみた(図1)
有意に(1%水準)減少したものは劣等感,神経質,主観的の3項目
有意に増加したものは活動的,支配性,社会的外向の3項目で
内観療法が性格的変化に大きな影響を与えていることが示された。


また性格類型の変化(図2)では内観後にD型,A型が増加し,E型,C型が減少しているのが目立ち,内観療法によってより望ましい性格傾向を示すような変化が認められた。

図2.性格類型の推移

 (3)エゴグラム

図3.内観前後のエゴグラム

 交流分析の観点から内観前後の変化をエゴグラムで表してみると(図3)32症例では母性的なPとAにおいて有意に(1%水準)上昇が認められた。
 これは対人関係においてよりおとなとしての自覚が確立されてきたことを示している。



 (4)ロールシャッハ・テスト

 アルコール依存症者のロールシャッハ・テストでは一般的な特徴として,反応数が少ない,反応拒否が多い,全体反応のW%が高い,人間運動反応Mが少ないなどがあげられている。そこで15症例で内観前後を比較してみると,人間運動反応が比較的に増加していることと全体反応が減少しており,アルコール依存症者の特徴がいくらかでも改善されている傾向が認められた。その他の項目では内観前後の変化は少なかった。

 (5)バウム・テスト

 50症例の内観前後におけるバウム・テストの変化について検討してみると
 ・樹本のサイズが大きくなる,小さくなったとしても豊かな樹木になる
 ・地平線が出現する傾向がある
 ・幹は太くなる傾向がある
 ・枝の開放型が消失する
 ・枝の数や枝分かれがふえる
 ・葉や実もふえ,減ったとしても大きなものになる。
 全体的傾向としては,内観後は情緒が安定し,空想するよりも現実の活動に満足を求め,社会適応や自己拡大の欲求が現れてきたものと解釈できる。

 (6)風景構成法

 46症例の内観前後の変化は各アイテムにおいて30〜60%の範囲で認められた。構成は内観後にまとまりを見せ,彩色部分が増加する。川は蛇行が弱くなり、山は曲線的となり色が明るくなる。田には何もない状態から苗や稲のある状態に,道は直線的に,道の数は複数に,人は女性から男性に,石は加工石から自然石に,石の数は少なくなり複数に変化する。季節の変化が約60%に認められた。全体的には,まとまりがあり、明るく,やわらかく,より自然な感じで親しみのわく描画に変化するようである。
 このような内観前後の心理テストの結果からみても、内観療法はアルコール依存症者の人間的な回復にかなりの効果を示しているようである。

 おわりに

 アルコール依存症の個人精神療法として内観療法が注目されている。その条件や指導技法は比較的に拘束性が強いが,本症患者に受け入れやすい側面を持っていることを指摘した。内観療法の治療的な基本原理は本症患者の人間的な回復と密接な関連性をもっているので最もよい適応症になり得る。断酒者の意識調査でも,その有効性がはっきりと示されている。内観療法を体験した患者の断酒率はかなり高く,内観前後の心理テストを検討してみても、かなり大きな差異を認めている。今後アルコール依存症の個人精神療法として内観療法の有効性がさらに注目されるであろう。


出典:精神科MOOK30アルコール依存症の治療(1994年5月)
   「アルコール依存症の精神療法 内観療法」