パワプロと夏休み


世間的には夏休みもまっさかりというか、
お盆も終わってもう終わりそうなところだ。

それでもまだ2週間もある(これを書き始めたときの話)。
それだけでも超長期休暇ではないか。
休めるものは休んだおいたほうがいいよと言いたい。
ついでに、たのしいうちに
たのしんどいたほうがいいよとも言いたい。

夏の思い出となると『ズームイン朝』を最後まで見たとか、
お昼の番組、『笑っていいとも』や『ごきげんよう』見たとかなる。
べつにどこそこ旅行に行ったりホームステイをしたりとか、
そういうだいそれたことをした記憶はないので、
このあたりに落ち着くことになる。

それでいまとなってはべつにめずらしくもないんだけど、
『ごきげんよう』を見ていると怖い話特集のようなものをやっていた。
この時期はお盆も手伝ってか、なぜか怖い話がよく出てくる。

ボクは自分自身ではそういう恐怖体験というのはしたことがない。
もっぱら見たり聞いたりする側に回っている。

学校にまつわる怖い話というのはかなりある。
人体模型が走っただとか、銅像が踊っただとか、
その手の話は枚挙にいとまがない。

小学生のころ学校にわすれものをして6時かそのぐらいに
のこのこ学校に行ったことがあるんだけど、
いつも人が大勢いる分、だれもいないと
異様に暗くて静かでこわかった。

それで足音を立てるとまずいような気がしたので、
ひとりでひたひたと廊下を歩いていると、
後ろからもうひとつの足音が聞こえてきて、
「おおおおおっ!」とめちゃくちゃびびって、
しかしやはりそこは普段から
「廊下は走っちゃダメよ」と言われていたし、
騒いで静けさを破るとなにかありそうな錯覚がしてたので、
心臓をばくばくさせながらその場で動けなくなった。

そしたら教頭先生だった。
「泥棒かと思った」と相手もびくびくしていたらしい。

そのあとは教頭先生から許可をもらった形で、
廊下を走って教室まで行った。
そのころ夜中の黒板に人の顔が浮かぶとか話があったから、
見たらいけないものを見ないように、
よそ見をしながら自分の机まで小走りしたのだった。

いまにして思えば実にあほらしいけど、
むかしはいちいちそんなのが怖かったのだ。
しかも怖がるくせに怖い話を聞きたがったりしていた。

けれども、やっぱり年を取ってくるとそういうのは信じなくなるし、
しゃれじゃなくて生きてる人間に遭遇するほうが嫌な汗をかいたりする。

このあいだ夜遅くに建物から出ようとしてて、
「こんなアホな時間にだれもいないだろう」と思って
変なかけ声と共に変なポーズで軽快に階段を飛び降りたら、
着地点の暗くてよく見えないところにちょうど人がいて、
その人のほんの目の前に着地してしまって、
「おかあさん、なんだかあたまのおかしいひとがいるよ」
とでも言いたげな顔をされた。
全身の毛穴が開くような気がして体がちくちくしてきた。

あと鼻歌と変な振りつきで暗くなった廊下を歩いていたら、
いきなり人が対面から現れたときも焦る。
どこかをかかじってたふりとか、
体をほぐしてたふりをするハメになる。

どんどん話が怖くなくなってきたのでもうやめたくなってきた。
階段でかけて終わらせようとも思ったけどそれもどうかと思った。



主人公「夏休みって言ってもさぁ」

矢部君「なんでやんすか」

主人公「なんかむかしほどたのしくないんだよねぇ」

矢部君「なんでやんすか主人公君。そんなことじゃダメでやんすよ」

主人公「だいたい休みなのに昼間っから何もしないで
    部室でしゃべってるだけだし」

矢部君「この部屋はクーラーが効いてるでやんすからね」

主人公「自分の部屋だと昼近くになるといられなくなるからね」

矢部君「何かもっとこう、夏をたのしもうでやんすよ」

主人公「そうは言っても暑いしだるいしねぇ」

矢部君「だからでやんすね、むしろその暑さをたのしむんでやんすよ」

主人公「プールとかアイスとか?」

矢部君「クーラーをガンガンかけて部屋でゲームとかいいでやんすねぇ」

主人公「いや、それいつでもできるだろ」

矢部君「でも冬にクーラーはかけないでやんすから」

主人公「それ、へりくつだろ」

矢部君「望むところでやんすね」

主人公「そんなの望まないで欲しいけどさあ、
    なんかこう、盛り上がるようなことはないの?」

矢部君「まあ、打ち込めるような趣味がある人はいいでやんすよね」

主人公「海とか山とか行くんだろうね」

矢部君「おいらもそういう趣味ではりきって、
    熱中症なんかになりたいでやんすね」

主人公「それはひとりでがんばってね」

矢部君「海水浴場なんかすごいでやんすからね」

主人公「そういや近くにあったよね」

矢部君「このあいだ近くを通りかかったんでやんすけどね、
    とにかくもう人、人、人でやんすよ」

主人公「そんなにすごかったの?」

矢部君「全部でその3人ぐらい」

主人公「いや、数えきるなよ!」

矢部君「しかもよく見たら『入』とかも紛れ込んでたし」

主人公「どんなやつだよ!」

矢部君「片桐はいり似?」

主人公「それ絶対ちがうだろ!」

矢部君「まあその片桐はいりさん似とでやんすね、
    あと2人が盛り上がってたんでやんすよ」

主人公「まあ盛り上がっていたと」

矢部君「遠くからだったでやんすから
    よくわからなかったんでやんすけど、
    なんだかわいわいやってたでやんすよ」

主人公「ふーん」

矢部君「『聞いてよ、うちのYがさぁ』『ああ、Yでしょ』」

主人公「イ、イニシャルトークかよ!わざわざ海まで来て」

矢部君「そういうふうに『YがYが』ってやってたんでやんすよ」

主人公「だいたいそのYってだれなんだよ」

矢部君「うん、それでやんすけどね、よく聞いてみたら『うちの嫁が』って」

主人公「嫁って言いたくないほど嫌いなのかよ!
    だいたいそいつら年いくつだよ」

矢部君「それでまあ、そのまま話が盛り上がってでやんすね、
    いつのまにかHなトークになっていくのが自然でやんすね」

主人公「って、中学生ぐらいかよ!」

矢部君「いや、わい談ってことらしいでやんす」

主人公「キミも引っ張るよね」

矢部君「それを聞いてオイラも『いやいやいや』なんて参加してでやんすね」

主人公「するなよ」

矢部君「ついでに片桐はいりさん似の人からサインもらったでやんすよ」

主人公「うれしいかあ?それ」

矢部君「まさにこれぞ夏って感じでやんすね」

主人公「ぜんぜん、ちっとも、これっぽっちも」

矢部君「まあでもあれでやんすよね、
    せっかくだし何かしたいでやんすよね」

主人公「まあね」

江崎「先輩たちまたこんなところにいたんスか」

主人公「江崎もね」

矢部君「バイト終わったんでやんすか?」

江崎「ええ、まあ」

主人公「手土産とかあるの?」

江崎「てきとうに冷たい物でもと思ってもらってきたッスよ」

主人公「なんか前にも似たようなことがあったし、いいよ」

矢部君「やっぱ、夏はサロンパスに限るでやんすね」

主人公「ほら」

江崎「ま、それはそれとして、何かやってたんスか?」

主人公「せっかくだから夏休みになんかしたいなぁって」

矢部君「主人公君とパネルディスカッションしてたところでやんすよ」

主人公「してません」

江崎「どっか旅行とかどうッスかね」

主人公「ああ、いまデフレかなんかっていろいろ安くなってるよね」

矢部君「あれなんかガルベスでやんすからね」

主人公「はぁ?」

江崎「マクドナルドの59円のことッスね」

主人公「なんでわかるの?」

江崎「あれ、どうしてあんなに安いんスかね」

主人公「いろいろ変な噂があるよね」

矢部君「えっ、アルモンテ?」

主人公「言ってません」

江崎「たしかきょうの折り込みちらしにもあったッスよね(ごそごそ…)、
   ほら、これなんかイクラが食べ放題らしいッスよ」

主人公「このごろそういうふうな、ご飯にも比重があるのがあるよね」

矢部君「えっ、アルモンテ?」

主人公「ええっと…」

江崎「主人公さん、矢部さんはきっと疲れてるんスよ、
   かわいそうなんスよ」

主人公「そうだね。そうだよね。いいよいいよ、気にしないから」

矢部君「オイラなぜか泣きたくなってきたでやんすよ」

江崎「ほら、これなんかウニが食べ放題みたいッスよ」

主人公「でもそういうのって高いんでしょ?」

江崎「ええっと…ああ、結構するみたいッスね」

主人公「やっぱ予算との兼ね合いがあるもんねぇ」

矢部君「えっ、ア、ア、アル、…ぐはははーっ!」

主人公「きのう嫌なことでもあったんだろうね」

江崎「そうなんでしょうね」

矢部君「いまあったでやんすよ」

江崎「じゃあもっと同情しましょうか」

矢部君「あっ、これなんかマグロが食べ放題らしいでやんす」

主人公「うーん、やっぱ高いんじゃないの?」

矢部君「いや、お金のことなら大丈夫みたいでやんすよ」

江崎「それどんなのなんスか?」

矢部君「うん、船長と行くインド洋6ヶ月の旅でやんす」

主人公「漁船かよ!」

江崎「これで資金はばっちりッスね」

主人公「夏休みもばっちり終わってるけどね」

江崎「あ、ここは安いみたいッスよ」

主人公「なになに、自然に囲まれた情緒溢れるって、
    早い話がオンボロ旅館だったりするんじゃないの?」

江崎「いや、そういうのがいま密かなブームなんスよ」

矢部君「そうそう、実力派旅館って言うんでやんすか」

主人公「まあ、ものは言いようだと」

江崎「それに季節がらそういうとこのほうが
   何か出そうでいいじゃないスか」

主人公「オレはあんまりそういうの好きじゃないんだけどね」

矢部君「主人公君は情けないでやんすね、
    オイラなんてしょっちゅう見るから慣れたでやんすよ」

主人公「矢部君って霊感とか強いほうだったの?」

矢部君「もうすごいでやんすよ。きのうも出たでやんすからね」

主人公「それってどんなのなの?」

矢部君「部屋でクーラーつけながら、ついうとうとしてたらでやんすね、
    なんとなく気配を感じたんでやんすよ」

江崎「それでどうなったんスか?」

矢部君「はっ!って気付いたら体の上に覆い被さるように乗ってたんでやんすよ」

主人公「ど、どんなのが!?」

矢部君「毛布が」

主人公「ああ、カゼひくからねって、いいやつかよ!」

矢部君「でもよく見たら白っぽいもやのようなものが見えるんでやんすよ」

江崎「やっぱり何かいたんスか?」

矢部君「それでよく耳をすませたら『ア、アルモンテ…』って、
    うわごとのように繰り返すんでやんすよ」

主人公「またそれかよ!どんな霊だよ!」

矢部君「いや、言ってるのはオイラだったんでやんすけどね」

主人公「自分かよ!」

矢部君「そしたらその白っぽいのが『出たーっ!』って」

江崎「幽霊にもあきれられるなんてすごいッスね」

主人公「なんかもっとましなのないの?」

江崎「そうッスねぇ、この学校にまつわる話があるッスけどね」

矢部君「あ、それオイラも聞いたことがあるでやんす。たしかA棟の4階のトイレの」

江崎「そう、それッスよ。新しく改築したやつの」

矢部君「水洗になってたでやんすよね」

主人公「どんな話?」

矢部君「このあいだ江崎といっしょに真相をたしかめに行ったんでやんすけどね」

江崎「そこのトイレの一番奥の個室をノックすると、だれもいないのに返事がするんスよ」

主人公「ふんふん」

矢部君「オイラ鍵がかかってる個室を、
    『(コンコン)だれが入ってるでやんすか?』ってノックしたんでやんすよ」

江崎「そしたら『いや、入ってませんよ』って」

矢部君「だ、だれも入ってないのに声が!」

主人公「それ、だれか入ってるだけだろ!」

矢部君「いや、でもでやんすね、もう1度聞いてみたんでやんすよ」

江崎「『入ってますか?』って」

主人公「そしたら?」

矢部君「くぐもった声で『びみょー』って」

主人公「いや、どっちかわかるだろ!」

江崎「ええ、オレたちもそう思ったんスよ」

矢部君「だからもう少し聞いてみたら『半分だけ入ってる』って」

主人公「も、もしかして体がちぎれて上半身だけだったとか!?」

江崎「で、『どういうことですか?』って聞いたんスよ」

矢部君「そしたら『ほら、いま話題の半身浴ってやつですよ』って」

江崎「心臓への負担が軽いんスよね」

主人公「いや、そいつどこに入ってるんだよ!」

江崎「そしたら『え?シャワーもあるのに?』って」

主人公「それで体洗っちゃダメだって!」

矢部君「これがユニットバスってやつでしょ?」

主人公「惜しいけど、それつなげすぎ!」

江崎「じゃあ風呂トイレ共同ってやつ?」

主人公「それも意味まちがってるって!」

矢部君「でまあ、思い切ってドアをこじ開けてみたんでやんすよ」

江崎「そしたらだれも入ってなくて」

主人公「それよりも、オレはキミたちが怖いよ」

矢部君「あれはなんだったでやんすかねえって思ったんでやんすけど、
    まあ気のせいだろうって話になって」

江崎「トイレの精だったんだろうって」

主人公「そんなのでいいの!?」

矢部君「そしたらオイラがちょうど大きいほうをやりたくなったでやんす」

江崎「そう、そうだったんスよ」

主人公「まだ何かあったの?」

矢部君「もうびっくりでやんすよ。終わらせて流すでやんすよね、
    そしたらトイレの水がコポコポコポって泡立ってきたんでやんすよ」

江崎「びっくりしてたら『わしはトイレの神様じゃ』って」

主人公「ホントに?」

矢部君「そうそう、『さっきは遊びにつきあってくれてありがとう』って」

江崎「『何かお礼をしなければならんな』って言ってきたんスよ」

主人公「それでどうしたの?」

矢部君「そしたら神様が『お前の流したのは、この金のモノか?銀のモノか?』って」

主人公「どっちもいらねー!」


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