黒沢愛


サクセスの人物がきちんと登場するのはひさしぶりです。

黒沢愛さんは、あえて「さん付け」で呼ばせていただきますが、
仏契大学の野球部マネージャーで主人公の1つ下です。

ただし、青春ラブコメのようなマネージャーの対極にいるような風貌、性格でして、
外見は金髪、というかレディースという言葉を連想させるもので、
性格は日本語を最大限に解釈すれば豪快、
素直に言えば凶暴、乱暴、粗暴と暴の字が3つぐらいは簡単に並びます。

仏契大学の生徒っぽいと言えばそれまでですが、
よく考えてみると仏契にも千秋とか冬美とかふつうの女生徒はいるので
やはり愛さんが特殊なのかもしれません。

しかも所属している学部が軍学部と、
話題にこそなれ絶対誰もすすんで入るとは思えません。
仏契大学事態がネタにしかならないという説もありますが、
前述のようにまともな人もいるので全体としては
それなりにふつうの学校のはずです。

そこで彼女の身辺をいま一度洗い直してみましょう。

愛さんのイベントで特筆すべきなものは
お見合いイベントでまちがいありません。
そもそもほかにろくなイベントはありませんが、
この際目をつぶっておきます。

お相手は誰かと言うと官僚大学出身である大倉先輩です。

言うまでもなく、官僚大学を卒業すればエリートの道が約束されています。
主人公が官僚大学に在学していれば彼は自分の道を進みますが、
この場合主人公は仏契大学に在学しているので、
やはり大倉さんはエリートになると考えられます。

さらに大倉さんのお父上は政治とかそっち方面に発言力を持っていて、
そうなれば当然大倉さんもかなりの影響力をゆくゆくは持つでしょう。

そんなエリート中のエリートと片想いやひとめぼれならともかく、
親同士で決めたであろうお見合いとはいったいどうしたことでしょうか。

そもそも大学生がお見合いというのはちとせかしすぎのような気がします。
こういう場合は、たいがい裏でなんらかの思惑がうずまいています。

すなわち政略結婚にまちがいありません。

つまり愛さんの家庭は裏社会に発言力を持つ家柄で、
そこの子供である愛さんは軍学を通して
将来のための帝王学を学んでいたのです。

幸いにしてこのお見合いは破談となり、
日本社会を裏表から牛耳られることはありませんでした。

そこには主人公をはじめとする、
多くの野球部員の活躍があったに違いありません。

ここに男気ある仏契大学野球部員の功績を記したい。



主人公「あれ、愛さん。写真なんかぼーっと見てどうしたの?」

愛「(遠くを見るような目で)うーん」

矢部君「主人公君。そう言えば愛さんにお見合いの話がきてたそうでやんすよ」

主人公「じゃあその相手の写真か。それにしてもさっきから視点が変だな。
    そんなにかっこいい相手なのかな。ちょっとのぞいてみよう」

愛「なかなか浮き上がってこないねぇ・・・」

主人公「いまどきステレオグラムですか!」

愛「んなわけないでしょ。見合いの写真だよ」

主人公「なんだそうなの。じゃあ浮き上がってこないっていうのは?」

愛「先方は写真をステレオグラムで送ってきたみたいだから」

主人公「そんなやつとは断った方がいいって!」

愛「うるさいねぇ。ちょっと黙っといてよ。お、なんとなく見えてきた」

主人公「で、どうなの?」

愛「なんだか妙にごちゃごちゃしてるけど・・・」

矢部君「あ、主人公君。ここになんか書いてあるでやんす」

主人公「えーと、なになに。『見合い相手を探せ』って、しかもウォーリーですか!」

愛「なんか気分が悪くなってきた」

矢部君「この人を探すらしいでやんす」

主人公「どれどれって、よく考えたらここに顔が載ってるよ!」

愛「あ、見つかった!」

主人公「ま、まあ見つかったみたいだしいいか」

愛「ええっと、経歴は・・・」

矢部君「官僚大学出身でやんす!」

主人公「ええっ!あのエリートで有名な!?」

愛「しかもメガネ!」

主人公「そんな無理にびっくりしなくてもいいから」

愛「その上ブリーフ派!」

主人公「いや、そんなことはどこにも書いてないから」

愛「まあそんなことはどうでもいいけど、
  この見合いはなんとしても成功させないと」

主人公「こんなチャンスそうそうないもんね」

愛「ところでこういう見合いの席ってどんなふうに振る舞えばいいの?
  そこらへんはよくわからないんだけど」

主人公「とりあえず無難に会話を合わせればいいんじゃないの」

愛「ちょっと練習してみるか」

主人公「じゃあ、えーっと・・・休みの日はどんなことを」

愛「ほとんど集会を開いています」

主人公「それはちょっと・・・」

愛「じゃあどうすれば」

主人公「読書とか料理とかが無難だと思うけど」

愛「そんなことやってないからボロが出るんじゃないの」

矢部君「じゃあ当日においらたちが裏から指示を出すでやんすよ」

愛「それを信じるけど大丈夫なの?」

主人公「(たぶんダメなんだろうなぁ・・・)」

・・・

主人公「矢部君。あんなこと言って大丈夫なの?」

矢部君「大丈夫でやんす。話をしたら豆山と江崎も協力してくれるそうでやんす」

主人公「でも2人とも来てないじゃない」

矢部君「豆山はお金をくれたら協力してくれるそうでやんす。
    それから江崎は快く返事をしてくれたでやんすけど、
    きょうはバイトで来られないそうでやんす」

主人公「それは協力してるとは言わないよ。まあ2人で十分でしょ。
    それでどういう作戦でいくの?」

矢部君「場所はそこの高級料亭だそうでやんす。
    おいらがそこの従業員の制服を用意したそうでやんす」

主人公「それで潜入するわけか。でも、顔とかでバレないの?」

矢部君「その点も、あそこはやたらと人を雇ってるからまず心配ないでやんす」

主人公「これがその制服?ふーん、和服なんだね」

矢部君「これを手に入れるのは苦労したでやんすよ。
    なにしろマニアの間ではかなりのレアの部類に入るでやんすから」

主人公「マニア?・・・って、これ女性用だよ!」

矢部君「おいらのコレクションの一部でやんす」

主人公「君の趣味はどうでもいいよ!というか着るなよ!」

矢部君「バレないって言ったじゃないでやんすか」

主人公「(やっぱこいつダメだ・・・)」

矢部君「一応それが失敗したときのために無線と盗聴器を用意しといたでやんす」

主人公「無線はともかく、盗聴器を簡単に用意できるところがすごいよね」

矢部君「そしておいらがこの格好で誘惑するということでやんすね!」

主人公「(無視して)それで話を聞きながらこちらから無線で指示を出すんだね」

矢部君「(セルフつっこみをしてから)あ、愛さんが来たでやんす」

主人公「うわぁ、さすがにきちんと正装してる・・・
    って、そのどハデなししゅうが入った服はなに!?」

愛「正式な場ではこの服を着るのがしきたりになってるから」

主人公「ならいいんじゃないの(もうヤケクソ)」

矢部君「そうこうしてるうちに相手もついたようでやんす」

主人公「いよいよ始まるみたいだね」

・・・

主人公「これって部屋の会話がよく聞こえるね」

矢部君「そりゃもう高かったでやんすから」

主人公「さっきからずうっと親同士の会話だなぁ」

矢部君「おもしろくないから巻いてもらうように頼むでやんす」

主人公「バカ、そんなこと頼めるか」

愛「じゃあそろそろ若いものだけで話をしますから」

主人公「本当に言っちゃったよ。しかもそれはこっちが言うセリフじゃないよ」

矢部君「あ、でも苦笑いしながら部屋を出たみたいでやんすよ」

主人公「ここで会話がなくなると間が悪くなるから、
    すばやく次の話題に移った方がいいんじゃないの?」

矢部君「どんな話をするんでやんすか?」

主人公「まずはあたりさわりのない話から入ろうか」

愛「あれらしいね。藤子A藤雄さんはタケノコが好物だそうですね」

主人公「それはあたりさわりがないじゃなくてどうでもいい話だよ!」

矢部君「もっと相手が返せるような話題を振るでやんす」

愛「しりとりでもしますか」

主人公「するなって!」

愛「じゃあ始めますか。『根性焼き』。『き』ですよ」

主人公「しかもどんな始め方だよ!」

矢部君「相手の人があきれて絶句してるでやんす」

主人公「わ、話題を変えよう。休みの日はどんなことをしてるかとか」

愛「休みの日はどんなことをしてますか」

矢部君「テレビとか読書だそうでやんす」

主人公「無難に王道をついてくるなぁ」

矢部君「NHKをよく見てるそうでやんす」

主人公「そんな感じだよね」

矢部君「最近は『プロジェクトX』とかいう番組をよく見るそうでやんす」

主人公「何それ。矢部君知ってる?」

矢部君「確かジャッキーチェンの映画だったと思うでやんす」

主人公「うーん、なんかそんなのがあったよね」

江崎「先輩たちまだやってたんスか」

主人公「あれ、お前バイト終わったの?」

江崎「ええ。さっきやっと終わったっスよ」

主人公「いきなりだけどさぁ、ジャッキーチェンのプロジェクトXって知らない?」

矢部君「主人公君、会話が進んでるでやんすよ。
    愛さんは休みの日は何をしてるか聞かれてるでやんすよ」

江崎「なんスかそれ?スパルタンXかプロジェクトAじゃないんスか?
   それかどっかのマニア向けに勝手に続編でも作ったんじゃないんスか?」

主人公「インディーズでの続編みたいなのかぁ」

愛「レディースで族みたいなのですね」

矢部君「主人公君、愛さんがわけのわからないことを口走ったでやんすよ」

主人公「ええっ!?いまの会話から指示が出たと思ったの!?」

矢部君「いつもやってることだから言おうかどうか迷ってるときに、
    主人公君が言ったから言っていいものだと思ったみたいでやんす!」

江崎「どうしたんスか?なんかやばいことでも?」

主人公「う、うまく場をとりつぐらないと・・・」

矢部君「近頃それ関連の話題が出てるからやばいでやんす」

愛「いや、その、別に普通の集まりなんですよ」

江崎「お、オレちょっと用事を思い出したっス・・・」

主人公「江崎、いまさら逃げても共犯だぞ!」

矢部君「相手が『それってやっぱり脱会するときに・・・』とか核心をついてきたでやんす!」

江崎「いや、ちょっとバイト先の戸締りが心配で・・・」

主人公「ちゃんと出るときに閉めなかったの?」

愛「いえ、出るときはきちんとシメますね」

主人公「って、あんたには言ってないよ!」

矢部君「相手の人はトイレとか言いながら、身の回りの品を持って部屋を出ようとしてるでやんす!」

主人公「と、とにかく引き留めないと・・・」

愛「ちょ、ちょっと待ってよ」

江崎「引き留めたのはいいんスけど、なぜかマウントを取ってるっス!
   しかも手が思いっきりグーになってるっス!」

愛「はっ、いつものクセで!」

主人公「と、とりあえず逃げられなかったけど、これからどうしよう・・・」

矢部君「なんとかして誤解を解いてもらうでやんす」

主人公「なんとかおしとやかな女性を演じるんだ」

愛「あの、わたしは常々やはり女性は男性を
  サポートする役でなければならないと思ってまして」

主人公「こんなんで大丈夫かなぁ」

愛「内助の功とか、縁の下の力持ちとか、そういう形が男女の理想形と・・・」

矢部君「相手が『それはわかったからどいて欲しい』と訴えてるでやんす」

主人公「まだマウントをはずしてなかったのかよ!」

江崎「やっとどいたみたいっスね。おや、相手の人がなにか言ってるみたいっス」

矢部君「『ちょっと目をつぶってて欲しい』って言ってるでやんす」

主人公「ええっ!?も、もしかして!?」

愛「(えっ、そんないきなり!?)」

矢部君「・・・そのあいだに走って逃げたみたいでやんす」

主人公「・・・オレたちも逃げようか」


戻る