潰瘍性大腸炎の治療方法(1)
(内科的治療)


 潰瘍性大腸炎はいまだにはっきりした原因が不明ですので、手術で大腸全部を摘出してしまう以外に完全に治してしまう治療方法がないのが現状ですが、医療機関に通い医療関係者と相談しながら、患者自体が潰瘍性大腸炎をよく知り、そして患者自身の病状をはっきり把握することによって、病状を沈静化し、それを維持し、上手につきあっていく事が可能な病気です。
 具体的には軽症と中等症の方に対しては外来にて薬物療法による内科的な治療を行ない、重症の方に対しては、入院のうえで全身管理をすすめながら、薬物療法を行ないます。劇症の方に対しては内科と外科の両面からの治療を行ない、手術の必要性を短期間で決定します。


1.内科的治療(基本は薬物療法)
1.薬物療法(1)
・炎症を鎮めて、下痢や粘血便などの症状を緩和して症状をコントロールする。
 (活動状態から緩解状態に改善し、緩解期をできるだけ長く保つ。)
・基本は5−アミノサリチル酸製剤ステロイド薬
 ・軽症から中等症の患者
 通院しながら、5−アミノサリチル酸製剤中心の治療を行う。
 ・中等症の患者
 基本的に通院しながら、場合によっては入院して、5−アミノサリチル酸製剤ステロイド薬を使用する。
 ・重症の患者
 入院のうえでステロイド薬を使用する。
 
5-アミノサリチル酸製剤=(サラゾフルファピリジンとメソラジンがある。)
サラゾスルファピリジン=サラゾピリン錠(SALAZOPYRIN)
開 発
    1940年に慢性関節リウマチの薬として開発される。
1942年に潰瘍性大腸炎に対し偶然効果が認められ、使用開始。
   潰瘍性大腸炎のほかにクローン病の治療にも使用される薬剤。
大腸で腸内細菌により、5−ASAとスルファピリジンに分解される。
有効成分は5−ASAでスルファピリジンは副作用を出現させる。
構 造
     5-アミノサリチル酸(アスピリンの仲間)とスルファピリジン(抗菌薬サルファ剤の仲間)をアゾ結合により化学反応させた化合物。
効果が出る過程
サラゾスルファピリジンの飲用
アゾ結合のため胃や小腸では吸収されず、大腸に到達
 
大腸の腸内細菌により分解
副作用を出現させる 有効成分
+
スルファピリジンは大腸から吸収される。 5−アミノサリチル酸のほとんどが大腸から吸収されずに炎症の起こっている粘膜に対して直接効果をあらわす。
※副作用(5〜10%の患者におこり、ほとんどが分解されてできたスルファピリジンによるもの。)
皮膚症状(発疹やかゆみ)
消化器症状(食欲不振、むかつき、嘔吐)
発熱 ・頭痛 ・めまい ・肝機能障害
血液障害(溶血、貧血、無顆粒球細胞症、白血球減少症)
男性不妊(精子数減少及び精子運動低下、形態異常他)⇒服用中止後3ヶ月で元に戻ります。
尿黄色着色※サラゾスルファピリジンは元々染色物質のため、高い頻度で尿、精液がオレンジ色に着色します。
メソラジン(5−ASA)=ペンタサ錠(PENTASA)
開 発
1986年、サラゾスルファピリジンの副作用を解消するために開発された。
構 造
5−アミノサリチル酸のみを含む。
5−アミノサリチル酸を顆粒状にして、その周囲を水に不溶性のエチルセルロースの膜で包んだもの。
有効成分
効果が出る過程
服用後、胃では溶けずに小腸から大腸にわたって徐々に溶けて効果を発揮する。
※腸管内に5−ASAが存在することで効果発現。
※小腸にも効果があり、クローン病の治療にも用いられる。
副作用(6〜7%)
皮膚症状(発疹やかゆみなど)
消化器症状(食欲不振、むかつき、吐き気、嘔吐など)
発熱 ・頭痛 ・腹痛 ・下痢
ステロイド薬(副腎皮質ホルモン)=プルドニゾロン(プレドニン)など
1952年に効果が初めて認められる。
重症の潰瘍性大腸炎や軽症、中等症の潰瘍性大腸炎でも、5−アミノサリチル酸製剤で効果が現れにくい場合に使用する。
(※軽症、中等症の場合は5−アミノサリチル酸製剤と併用する。)
ステロイド剤の作用
強い抗炎作用と免疫抑制作用をもつ。
腸の粘膜で起こっている炎症が抑えられ、発熱や腹痛、下痢などの症状が改善する。
全身に効果があり、前進合併症も軽減させる。
ステロイド剤の使用原則と危険性
細心の注意を払いながら、期間を定めて(活動期に短期間だけ使用)必要十分な量を使用し漠然と使用せず、症状が改善した後は徐々に減量し、最終的には中止する。
一般に治療開始後、ステロイド薬をプレドニゾロンに換算して、1000mgを超えたときは、それ以上投与せずに手術を考える。
ステロイド薬を長期間使用している場合、使用量を急激に減らしたり、突然中止すると、リバウンド現象が起こり、炎症悪化やショック状態に陥る可能性がある。
ステロイド薬の種類
座  薬
   軽症で炎症範囲が直腸に限られている場合に限られている時、使用されます。直腸内で溶け、粘膜の炎症に直接効果を発揮する。
薬の届く範囲は直腸から、S状結腸まで。副作用は少なくてすむ。
注腸薬
  軽症から中等症で、左側大腸炎型や全大腸炎型の時、使用されます。
使い捨て容器に溶解されたステロイド薬を直腸内に注入。
直腸から下行結腸あたりまで届き、腸粘膜に作用します。
経口薬
  中等症で炎症の強い場合やステロイド注腸薬では効果が現れない場合および全大腸炎型の場合使用します。
重症の場合は大量投与します。
注射薬
  重症の場合に使用します。
点滴静脈や、静脈注射、動脈注射で投与します。
薬の成分を直接血液の中に入れるため、効き目が速やかに現れます。
ステロイド薬の副作用
長期にわたり大量に使うほど、副作用が出やすくなる。
一般的副作用
胃部不快感、吐き気、嘔吐、高血圧、気分変調、感染症を起こしやすくなる、ムーンフェイス(満月様の顔のむくみ)、ニキビ、食欲亢進(増進)、体重増加、多毛、不眠
長期間大量使用時の副作用
傷が治りにくくなる、痔ろうなどが悪化しやすくなる、筋力低下、線状の皮膚病変、毛が濃くなる、月経異常、精神神経症状(イライラ、不眠、軽い興奮、鬱)、骨粗鬆症、大腿骨頭壊死、筋力低下、感染症を起こしやすくなる、消化性潰瘍、白内障、緑内障、高血圧、糖尿病(血糖値の上昇)、耐糖異常
※長期短期とも出る副作用があり、その部分は一部重複。
免疫抑制剤(調整剤)=アザチオプリン(イムラン)、6−MP(ロイケリン)、シクロスポンなど
ステロイドを使用したときの副作用が出た場合やステロイドの減量、離脱を必要とする場合、他の薬剤が無効な難治例、ろう孔を形成した患者に投与される。
※副作用=骨髄抑制、骨髄抑制による顆粒球の減少他
※劇症の場合はシクロスポリンの静脈投与が行われる。
 炎症を強力に抑え、即効性がある。ステロイドの効かない重症患者に対して手術を避ける手段として使用される。シクロスポンの副作用は、腎障害、多毛、高血圧、肝機能障害、感染症にかかりやすくなるなど。
補助的薬物
粘膜保護薬、胃酸抑制薬
上部消化管(胃・十二指腸)におこる合併症に使用される。
※胃潰瘍や十二指腸潰瘍。
精神安定剤
長期の下痢や血便、再発のストレスによる精神不安を解消させる。
整腸剤(乳酸菌やビフィズス菌など腸内細菌を粉末乾燥したもの)
漢方薬
2.薬物療法(注腸療法(局所療法)
潰瘍性大腸炎では直腸などの下部大腸に炎症があるため、それが頻回の下痢や血便のひとつの原因なっています。そこで、その炎症がある部分の炎症を鎮めたり、再燃を予防するために、注入腸剤や座薬などを肛門から直接注入する局所的な治療が行われます。
現在以下の局所製剤を使用した治療が行われています。
5−ASA局所製剤= サラゾピリン坐薬、ペンタサ坐薬
副腎皮質ステロイド局所製剤= リンデロン坐薬(ベタメタゾン)
プレドネマ注腸(リン酸プレドニゾロンナトリウム)
ステロネマ(リン酸ベタメタゾンナトリウム)
手 順
(1) 事前に排便を済ましておくほうがよい。
(2) 注腸剤を体温程度に暖めておく。
(3) 注腸剤のノズル部分に潤滑剤を塗っておく(ワセリン、キシロカインゼリーなど)(ノズルを肛門にスムーズに入れるため)
(4) 身体の左側を下にした体位にします。
(5) 注腸剤をゆっくりと慎重に挿入します。
(6) 必要に応じて、体位変換をします。
(7) 便意をできるだけ長時間がまんし、もし全量を入れてすぐ排出してしまった時は、再度、入れられるだけ入れます。
※それでも出した場合は無理に入れる必要はありません。
3.白血球除去療法(GCAP),(LCAP)
目 的
病変部で炎症を起こす白血球を減少させ、白血球が過剰に働く機能を抑制すると同時に、白血球のサイトカインの産生を低下させて、腸管病変の改善を狙う。
※サイトカイン=免疫の反応に必要な情報を免疫にかかわる細胞に伝達するための物質。
※難治性の潰瘍性大腸炎に対しては健康保険適応されている。
方 法
静脈血を体外に出して、白血球の一部を除去する器械に通してから、再び体内に戻す。
GAPCとLCAPの違いについて
GCAP(顆粒球除去療法)= 微細な顆粒状の粒がカラム(フィルター)の中に充てんされている。
血小板やリンパ球はほとんど吸着されない。
白血球を選択的に除去するため、赤血球や血小板などへの影響はほとんどない。
最初に保険適用となった。
LCAP(白血球除去療法)= ポリエステルの繊維(不織布)がカラム(フィルター)の中に充てんされている。
血小板やリンパ球も吸着除去できる。
GAPCの1年後に保険適用となった。
潰瘍性大腸炎の治療(2)(外科的治療へ)