クローン病の人の食事


食事療法
・食事療法の原則=低脂肪食・低残渣食・高カロリー(高エネルギー)食
 段階的食事療法を行う。

  < 基礎代謝量や生活活動量の高い若い人に発症。 >  
腸管の炎症により、必要エネルギーは増加する。
食事だけでは腸管への負担が過剰となり、再燃しやすくなる。
高エネルギー食が必要となる。

(成分栄養剤との組み合わせをおこなう。)=段階的食事療法
腸管の安静を保持しなければならない。
低脂肪・低残渣

  • 食事の60〜70%を主食(炭水化物)で摂るのが理想的。
  • 主食の炭水化物(ご飯、粥、餅、麺、パン)は食事性抗原になりにくく、効率よくエネルギーを摂取できる。
  • パンは製造する際に使用する酵母がクローン病の病態と関連している疑いがあり、腹部症状が落ち着いているときに摂ったほうがよい。

日常の食事
・低脂肪低残渣食で消化吸収のよいものを食べましょう。
  • 刺激物、香辛料や薬味、炭酸飲料水、特にアルコールは避けたほうがいいです。
  • 各個人個人で食べられるもの食べられないものの個人差がありますので、食べて症状が悪くなった食品は避け、症状が悪化しないものは食べるという風にして、食べられるもの食品を増やしたほうがいいと思います。
  • 体重を常にチェックしていたほうがいいです。できれば一週間一度。

食事する上での注意点
脂肪の制限(低脂肪=脂肪の多い食品は避け、脂肪の質にも注意)
脂肪は消化時間が長く、クローン病では脂肪の吸収障害があり、制限が必要。
脂肪は腸管のぜん動を刺激。
脂肪の消化吸収のために胆嚢から十二指腸に胆汁酸が分泌される。
※健康人の体内では胆汁酸が回腸末端部から再吸収されるが、クローン病患者の場合、胆汁酸の再吸収が行われず腸管に刺激を与え、下痢や腹痛の原因となる。
腸管の安静を保つためには、脂肪の量を制限する必要がある。
  • 一日の脂肪摂取量30gを超えると再燃率が高まる。そのために脂肪摂取量は一日30g未満に抑えるべきである。
脂肪(油)の質(※脂肪酸とは)
飽和脂肪酸やn-6系脂肪酸を減らし、n-3系脂肪酸を増やすべきである。
動物性脂肪やn-6系脂肪酸(リノール酸等)の摂取
リノール酸
アラキドン酸生成
エイコサノイド(生理活性物質)生成
(プロスタグランジン、ロイコトルエン)
腸管粘膜の炎症悪化
ロイコトルエンB4
活性酸素の活性を高め、有害な酵素を出す。
これらのしくみをおさえる。
n-3系の脂肪酸
α-リノレン酸
EPA(エイコサペンタエン酸)
DHA(ドコサヘキサエン酸)
炎症を抑える作用がある。

減らすべき(避けたほうがよい)脂肪の含む食品
飽和脂肪酸が多いもの  
肉類の脂(ラード等)、バター、卵黄)
  • 肉類は脂肪の少ない、柔らかい部分を選ぶ
n−6系脂肪酸が多いもの
{ ゴマ油、マーガリン、コーン油、胡麻、大豆油、ピーナツなどの種実類、マヨネーズ、ドレッシング・・・リノール酸
積極的に摂るべきもの(炎症を抑える成分の多い脂肪を含む食品)
n−3系脂肪酸(α-リノレン酸等、EPA,DHA)
{ 魚類(青魚、魚卵)
シソ油、エゴマ油⇒揚げ物には向かない。(熱に弱く酸化しやすいため)
  • 最近ではn-3/n-6=0.4がよいと言われる。
  • 魚油も摂り過ぎると腸管に負担がかかり、下痢や腹痛の原因になる。
  • 体調がすぐれないときには、脂肪の少ない白身魚がよい。
必要に応じて摂ってよいもの
オレイン酸(熱に強く炎症に悪影響を及ぼさない)
オリーブオイル=一日大さじ一杯程度なら可、炒め物に最適。菜種油も同様。
エコナ油(ジアシルグリセロール含有率80%)
胃や腸に負担をかけにくい。体脂肪として蓄積されるため、摂りすぎに注意
MCTオイル
胃や腸に負担をかけにくい。摂りすぎに注意

●タンパク質の制限
主なたんぱく源⇒肉、魚介、卵、大豆、大豆製品、乳、乳製品
クローン病患者の体内では、タンパク質を異物と間違って認識されている可能性がある。
●通常の人の体内

タンパク質
アミノ酸、ペプチドまで消化
腸管の網目(ふるい)を通して
吸収
消化されていないものや、有害なものは吸収しない。
  
●クローン病患者の体内(過剰な免疫反応が起こっている)


タンパク質

アミノ酸、ペプチドまで消化


破れた網目(ふるい)


未消化なタンパク質
未消化のタンパク質まで吸収してしまう。
免疫システムが腸管を抗原と誤認
異物が入ってきたと認識し、異常な抗原抗体反応を起こす。
免疫システム(白血球・リンパ球等)
サイトカイン
(炎症性物質)
白血球の攻撃命令書
白血球 B細胞
T細胞
腸管を攻撃して炎症が発生

肉類は炎症を亢進させる場合あり制限が必要。

●食物繊維の制限
食物繊維は腸の活動を活発にし、腸管に刺激を与えるので再燃時は避けて制限。
特に狭窄がある場合は避けたほうがよい。
ただし、緩解期においては症状が悪化しない限り、摂ったほうがよい。
不溶性食物繊維が多いもの=高残渣の食品
(狭窄がある場合や、症状悪化(再燃)時は禁止)
腸管に与える刺激が大きく、下痢や腹痛の原因になりやすい。狭窄のある人の場合、腸閉塞を起こす危険性が大きい。
  • 生野菜、生果物、さつまいも、海藻、きのこ、繊維が多い野菜、香りの強い野菜
  • ごぼうは狭窄時は禁止だが、狭窄がない時はオリゴ糖を含むので調理法を工夫して摂る。
水溶性食物繊維を多く含むもの(積極的にとる。)
便中の水分を吸収し、下痢を軽くし、胆汁酸を吸収し、便を有形化する。腸内細菌の発酵による発酵産物は腸粘膜のエネルギー源となる。腸管粘膜への刺激が少ない。適量を摂ったほうがよい。
  • ペクチン=リンゴ、バナナ、桃
  • アルギン酸=海藻のぬるぬるした部分
  • レジスタントスターチ=炭水化物に含まれる難消化性でんぷん。
 

●刺激物は避ける(腸を刺激し下痢しやすくなるもの)
香辛料(からし、わさび、カレー粉も含む)、アルコール、炭酸飲料、カフェインなど

●善玉菌を増やす食事(腸内細菌叢を整えるためには)
乳酸菌やビフィズス菌(善玉菌)
効果
  • 腸管内でビタミンB群やビタミンKを合成する。消化促進。
  • 腸内で酢酸、酪酸などの短鎖脂肪酸を大量に生成し、腸のエネルギー源になる。
  • 腸内のPHを低下させて、酸性にし、病原菌や有害菌の増殖を抑制し、腸内細菌叢を整える。腸内細菌叢を整えると、ガスや腹部膨満感を抑えることができる。
  • 下痢や便秘の予防。緩解期の維持、ガスのにおいの改善。
ヨーグルト類、ヤクルト
  • 善玉菌増加
オリゴ糖
  • 消化酵素によって分解されずに、消化管の下部まで到達。善玉菌の栄養となり、善玉菌を増やし、有害菌を減らす。
  • 一度に大量に摂取すると下痢をすることがあり、量の加減が必要。

●カルシウム・ビタミンD不足解消のためには?
カルシウム・ビタミンD不足⇒骨粗鬆症が起こりやすい。
カルシウム
小魚、大豆製品、海藻類、卵の殻・貝の殻、機能性食品
乳製品
  • 乳糖を分解すつ酵素(ラクターゼ)が不足しているとき、腹部膨満感、下痢、腹痛が起こる。
    • 乳糖が分解された発酵食品(ヨーグルト)
  • 脂肪の消化吸収機能が低下し、腹部症状が起こるとき
    • 低脂肪の乳製品(スキムミルク、ローファット牛乳)
ビタミンD
イワシ、カツオ、アジ、干ししいたけ(狭窄ない場合)
日光浴(日光にあたることにより皮膚下に合成)

カルシウム吸収を抑制するもの(避けたほうがよいもの)
リン(ポリリン酸)
  • カルシウムの吸収を抑制し、カルシウムを骨から引き出す。
  • 食品添加物(変色防止剤、鮮度保持剤、風味改良剤)の入った食品。インスタント食品や清涼飲料水に多い。

●鉄分(一日の必要量10mg以上)
  • 特に女性や貧血、出血がある人は多めに摂る必要がある。
  • ビタミンCと共に摂取すると、吸収がよくなる。
  • 植物性の非ヘム鉄よりも動物性のヘム鉄のほうが吸収がよい。
    • 赤身の肉、魚、緑黄色野菜、レバー、(ヘム鉄のサプリメントでも可)
    • レバー(肝臓)はその動物の解毒器官でもあり、資料に含まれている薬物の残留問題があるので、調理の際に、流水で30〜40分血抜きをして一度下ゆでしてから料理したほうがよい。

●亜鉛(核酸やタンパク質の合成に必須)
  • 炎症や潰瘍があると亜鉛の吸収が悪くなり、不足しやすい。
  • 亜鉛欠乏により、成長障害、皮疹、創傷治癒遅延、味覚障害、免疫機能低下をきたすことがある。
  • 所要量は男性10〜12mg以上、女性9〜10mg以上
  • 牡蠣、大豆製品、魚類、卵、レバーに多く含まれる。

●セレン(体の酸化を抑える重要な抗酸化物質)
  • 魚介類、動物の内臓、卵、穀類等幅広く含まれるため食事では通常不足しない。
  • 静脈栄養剤、成分栄養剤にはほとんど含まれない。
  • 不足すると、筋肉痛、筋力低下、心筋障害が起こることがある。
  • 所要量は男性55〜60μg、女性40〜45μg

●甘いもの、冷たいものの摂りすぎは避ける。
●味付けは薄味に・・・
●食べ過ぎない(1日の食べる量を守ろう)
●外食はできるだけ控えめにしよう(1日1回以内)
  外食するときの注意
  1. 炎症あり、下痢もあるときは外食すべきでない
  2. 外食及びスーパーなどの惣菜品は一般に油が多いので選ぶ料理に気をつける。
  3. 揚げ物料理はなるべき選ばない、もし入っていたら衣の部分は残す。
  4. マヨネーズやドレッシングはかけない。
  5. 自分が食べてよい食品や食べてはいけない食品をよくしっておくこと。食べられる料理しか食べない。
  6. 一度にたくさん食べないこと
  7. 規則正しい食事を心がける。